MUDDY WALKERS 

リトル・ダンサー BILLY ELLIOT

リトル・ダンサー 2000年 イギリス 111分

監督スティーブン・ダルドリー
脚本リー・ホール

出演
ジェイミー・ベル
ゲアリー・ルイス
ジュリー・ウォルターズ

スト−リ−

 1984年のイングランド。北東部にあるダーラムという炭鉱の町では、激しい労使闘争が続き、炭鉱労働者たちが大規模なストライキを繰り広げていた。11歳の少年ビリー(ジェイミー・ベル)は、炭鉱労働者の父と兄、そして呆けかけたおばあちゃんと4人暮らし。母親は死んだばかりで、とても寂しい家庭だ。父と兄はスト破りをする炭鉱労働者に向かって罵声を浴びせるほかに、することもない。ビリーは、祖父の代からの伝統で、ボクシングを習っているが、ある日、練習場に間借りしてきたバレエ教室の様子を見て、なぜか引きつけられてしまう。そんなビリーを、ウィルキンソン先生はなかば強引にバレエ教室に引き込むが、ボクシングに行かせているつもりがバレエを習っていると知った頑固オヤジは大激怒! どうする、ビリー?!

レビュー

 1984年といえば、やれデュラン・デュランだ、カルチャークラブだとイギリス発のビジュアル系ポップスターにキャーキャー言っていた時代。映画の背景となっている当時のイングラントはとても暗く重苦しいが、まったく異質に思える当時のイングランドの2つの側面を、さらりと一つにまとめていて、秀逸だ。
 ビリーの家は下流階級で、母親が大切にしていたピアノを燃やして暖を取らなければならないほど貧しい。それでも、頑固オヤジは父親から受け継いだ炭鉱労働者という職業を誇りに思い、ビリーも当然それを継いでいくものだと決めつけている。なけなしのお金でボクシングを習わせているのも、代々男子に受け疲れてきた伝統だ。しかし、ビリーはそんな父親に「ノー」という。もっとも彼は、反抗しようとしてそうしたのではなく、ただ、ボクシングよりも自分にあったものを見つけたのだ。
 バレエに思わず引き込まれ、戸惑いながらも引きつけられていくビリーを演じるジェイミー・ベルが、素晴らしい。ビリーはどちらかというと引っ込み思案な性格で、年の離れた兄から邪険に扱われながらも、感情を表に出さず飄々と生きている。父のようになりたくないと心の中で思っていたとしても、それを言葉や態度で表すことはしない少年だ。もしそれができるなら、彼にバレエは必要なかっただろう。心の中にある、言葉にできない思いや、高ぶった感情を表現するのが、ビリーにとってはバレエだったのだ。父親の前で初めて踊って見せるシーンから、炭鉱、父に反発する息子、バレエという一見バラバラに思える要素が一気に結合し、昇華していった。頑固な父親が一瞬にして自分の信念を変えてしまうほどの説得力が、このダンスシーンにはあった。
 父親役のゲアリー・ルイスの演技が、単なる少年のサクセスストーリーに終わらない深みを与えた。息子の夢を叶えるため、スト破りをして炭鉱に出かけていく姿は、涙なしに見ることができない。本物の才能はただの自己実現に終わらず、家族を、そして多くの観衆を幸せにする光になるのだ。
 背景には重いものを掲げながらも、さわやかな感動とところどころに笑いのある、愛すべき小品。

評点 ★★★★★

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 MUDDY WALKERS◇