■今そこにある危機　Clear and Present Danger　

1997年　アメリカ　150分 監督■フィリップ・ノイス 脚本■ ジョン・ミリアス スティーブン・ザイリアン 原作■トム・クランシー「いま、そこにある危機」 出演■ ハリソン・フォード アン・アーチャー ウィレム・デフォー ヨアキム・デ・アルメイダ ヘンリー・ツェーニー ハリス・ユーリン ドナルド・モファット ジェームズ・アール・ジョーンズ

スト−リ−

　ベネット大統領（ドナルド・モファット）の親しい友人一家が船内で惨殺されるという事件が発生。逮捕された容疑者はコロンビアの麻薬組織の人間だった。麻薬撲滅を公約に掲げる大統領は「麻薬カルテルこそアメリカにとって“今そこにある危機”だとして、ただちに対処するよう命じる。ＣＩＡ情報分析官のジャック・ライアン（ハリソン・フォード）はガンを患ったグーリア提督の依頼でＣＩＡ副長官代行を引き受け、予算編成をしている議会（※アメリカでは、予算編成は政府ではなく議会が行う）に対して、麻薬カルテル撲滅のために行うのはコロンビア政府への資金援助であって軍隊の派遣ではないことを証言する。しかし大統領補佐官（ハリス・ユーリン）はＣＩＡ作戦担当副長官のリター（ヘンリー・ツェーニー）に命じて、密かに軍隊派遣の準備を進めていた。リターは潜入している諜報員クラーク（ウィレム・デフォー）に秘密作戦の指揮を要請。ジャック・ライアンの知らないところで、陰謀が進行していた…。

レビュー

　ジャック・ライアンシリーズ第三作で、前作に引き続き、ジャック・ライアンをハリソン・フォードが演じる。前作「パトリオット・ゲーム」ではジャック・ライアン自身が危機的状況に巻き込まれる中でＣＩＡという組織を動かしていったが、今回はむしろ大統領がいう「今そこにある危機」から距離を置いた立ち位置から、徐々にその危機に関わらざるを得なくなってゆくという流れがあり、非常に登場人物、関わる組織が多く複雑なストーリーながら、割にすんなり入っていくことが出来た。恐らく原作はもっと複雑な話なのだろうと思うが、映画としてよく再構成されていると思う。

　大統領との繋がりによって、密かに軍事行動を計画する補佐官とリターのチームが一方にいて、もう一方に、大統領の友人の惨殺事件と麻薬カルテルとの関わりを追うジャック・ライアンとＦＢＩのチームがいる。この両方に関わることになる諜報員のクラークの存在が、ストーリーへの興味をぐっと引きつける役目を果たしている。グーリア提督はライアンにクラークを現地諜報員で役に立つ人物として紹介するが、観客は同時進行で動いている補佐官の軍事行動計画に彼が関わっていることを知っているので、一体敵か味方か、どういうふうにライアンと絡んでくるのか、クラークの正体がはっきりしてくると俄然ハラハラ度が増してくる。

　前作に比べて、アメリカ国内の政治にも絡んだ話がメインでジャック・ライアンのアクションシーンは減っているが、むしろ、ライアンらしくなったというべきであろう。プリンターに紙がない！という状況でさえもハラハラ、ドキドキさせてくれるシチュエーションには、背後に、議会で予算について説明したジャック・ライアンの正義と、今そこにある危機に迅速に対処しようと政治的ルールから逸脱した方法でことを進める大統領側の正義とのぶつかり合いがある。そこが、このシリーズの醍醐味ではないだろうか。

　ラストで、敵とのアクション対決肉弾戦になるのはある意味お約束だが、むしろこの映画で盛り上がるのは、グリーア提督の葬送の場面だろう。弔辞が読み上げられる中、一方で秘密裏にコロンビアに送り込まれた兵士たちが見捨てられ、麻薬組織からの猛攻を受ける。何か、この場面は象徴的で、メッセージが込められていそうに思ったのだが、どちらかというと、監督の演出よりもハリソン・フォードやウィレム・デフォーの熱演によってその辺りが補われているといった印象。ラストで証言するライアンのその後が気になる。ハリソン・フォードのライアン二作目で、役にはまってきただけに、これが最後なのは残念だった。

評点　★★★★

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