MUDDY WALKERS 

イン・ザ・ヒーロー  

イン・ザ・ヒーロー機 2014年 日本 124分

監督武正晴
脚本水野敬也/李鳳宇

出演
唐沢寿明/福士蒼汰/黒谷友香
寺島進/和久井映見 ほか

スト−リ−

 下落合ヒーローアクションクラブの社長にして、その道25年のスーツアクターである本城渉(唐沢寿明)。夢は顔出し出演で、ついにヒーロー番組の劇場版作品でそれが実現するかと思いきや、一ノ瀬リョウ(福士蒼汰)という人気若手俳優に役を取られ、中の人だけの出演となってしまう。一方のリョウは日本だけにとどまらず、ハリウッド映画への出演を夢見て、日本で撮影が行われる大作のオーディションを受けていた。内心複雑な思いを抱えながらも本城はリョウを応援し、ある出来事をきっかけに、クラブにリョウを招いて一緒にトレーニングをすることになる。そしてリョウは見事オーディションに合格するが、肝心のハリウッド映画はクライマックスのアクションシーンの撮影に恐れをなして俳優が降板。撮影現場は大混乱となる。そこでベテランの本城に白羽の矢が立つが・・・。

レビュー

 特撮ヒーローものの「中の人」を演じるスーツアクターを題材にした作品で、これは面白そう、と手に取った。唐沢寿明は下積み時代、スーツアクターをやっていたということもあり、今までにない一面が見られるかもしれないと思ったのだ。特撮戦隊ものの撮影の舞台裏がのぞける、という期待もあった。  そんな期待に応えるように、映画は「神竜戦士ドラゴンフォー」のオープニング映像からはじまる。本作の主役で戦隊リーダーのレッドのスーツアクターを務めるのが、唐沢寿明演じる本城渉。ブルーが大芝美咲(黒谷友香)、グリーンが森田真澄(日向丈)、そしてピンクが海野吾郎(寺島進)。撮影を終えて仮面を 脱ぐところで、男性役のブルーを女性が、女性役のピンクを男性が演じていることがわかる、という出だしで興味を引きつける。
 本作は、このようにTVの中では活躍しながらも決して顔を知られることのない特撮リーダーに、思いがけない大きなオファーが舞い込み、最終的に「いつか顔出し出演をしたい」という夢をかなえる、というシンプルなストーリーなのだが、そこにいろんなドラマを盛り込みすぎたおかげで、クライマックスに向けて加速するどころか失速し、夢に向かって墜落するような結果となってしまった。

 盛り込みすぎたのは本城の周辺の人々のドラマである。一つ目は、本城がやるはずだった「ブラック」役に抜擢された一ノ瀬リョウのドラマ。鼻持ちならない若手俳優が本城と特撮を通して関わる中でアクションに目覚め、成長していくという話はあっていいと思うが、そこに実は家出した母親がわりに幼い弟妹の面倒を見ている、という彼個人の人生模様が盛り込まれることで、本城との関係が薄められてしまった。
 二つ目は、本城の別れた妻とその娘との間にあるドラマである。なぜ別れてしまったのか、別れた妻や娘は本城の仕事のことをどう思っているのか、というのは大事なことだ。しかしそこではなく、別れた妻の再婚に話が枝分かれし、焦点がずれてゆく。やはり、そこで本城との関係性が語られずに終わってしまった。
 三つ目は、下落合ヒーローアクションクラブのメンバーのドラマである。同じ戦隊仲間の俳優との関係は、本城のスーツアクターという仕事を知るうえでは非常に重要なものだ。しかし撮影中に一ノ瀬と息が合わずに怪我をしたブルー、志半ばで「やっていけない」と辞めてしまうグリーンなど、「その後の撮影はどうなった?!」とこっちが心配になるようなエピソードが入るだけで、本城のアクション俳優の元締としての重圧や責任感が伝わるものになっていない。

 その結果、肝心のアクション俳優としての本城の人生の歩みがほとんど見えてこないまま、ただ、本城が身体に古傷を抱えているという事実が明らかにされただけで話が本城へのハリウッド映画出演のオファー、という後半へとなだれ込んでしまう。だからハリウッド映画のクライマックスを飾るアクションを頼む、と言われても、見ている立場からは、本城がとてもそんなアクションが出来るような俳優に見えず、気持ちが全く盛り上がらないのだ。 

 さらに、肝心のクライマックスの場面設定もいただけない。本城が代役を頼まれたのは、高さ8.5メートルのところからマットなし、ワイヤーなし、CGなしで落下して、そのあと火だるまになりながら数十人との殺陣を演じるという、掛け値なしの決死の大立ち回りで、監督はそれを「長回し」で撮影することに固執したために、元々決まっていた俳優が恐れをなして本国に帰ってしまったというのだ。そんな撮影はあまりにも非常識で、リアリティが皆無である。
 そのうえ、いざ実際の撮影の場面となると、落下前後の殺陣に何カットも使っていてまったく「長回し」になっておらず、あれだけ監督がこだわった「長回し、命がけの撮影」って何だったの? と狐につままれた気分になった。

 キャスティングも、見終わってみれば微妙な感じだった。先に紹介したように主役の本城を演じる唐沢寿明は下積み時代にスーツアクターの経験があり、一ノ 瀬演じる福士蒼汰に至っては「仮面ライダーフォーゼ」で主役を務めるなど、どちらも特撮に浅からぬ縁がある。そのことがあって起用されたのだろうが、やはり脚本に本城自身のアクション俳優としての人生が表現されていなければ、役者は役になりきれないのだ。かえって自分と役柄との境界線があいまいになり、二人とも、どこか戸惑いながら演じているように見えてしまった。

 唐沢寿明にはアクション俳優というイメージはまったくなかったが、50歳を過ぎてスタントなしのアクションと大立ち回りをやり切ったのは、素晴らしい。 それだけに、彼の役にかける努力や思い入れが反映されて、感動につながるような映画に仕上げてもらいたかった。面白い題材を、つまらない脚本でだめにして しまったのが本当に悔やまれる。

評点 ★★

<<BACK  NEXT>>

 MUDDY WALKERS◇