MUDDY WALKERS 

ブレイブハート BRAVEHEART 

ブレイブハート 1995年 アメリカ 178分

監督メル・ギブソン
脚本ランダル・ウォレス

出演
メル・ギブソン
ソフィー・マルソー
パトリック・マクグーハン
キャサリン・マコーミック
ブレンダン・グリーソン
アンガス・マクファーデン

スト−リ−

 1200年代後半から1300年初頭のスコットランド。伝説の英雄ウィリアム・ウォレスを描く。英国軍がこの地を支配し、農民たちは武器を持つことも許されず、圧政のもとで苦しんでいた。「スコットランドには、スコットランド人が多すぎる」という理由で、エドワード一世(パトリック・マクグーハン)は領主の初夜権を復活させる。イングランド人の領主が孕ませた子はイングランド人だからだ。そんな中、幼なじみのミューロン(キャサリン・マコーミック)を慕うウィリアム・ウォレス(メル・ギブソン)は秘密の結婚式を挙げる。しかし村にやってきた英国軍の兵士に陵辱されそうになり、抵抗したことから、ミューロンは死刑に。新婦を殺されたウォレスは村人たちとともに、英国軍兵士たちに襲いかかった。そして彼らは祖国を守り、自由を獲得するために英国軍と戦うことを決意する。しかし、次期スコットランド王のロバート・ブルース伯爵(アンガス・マクファーデン)やスコットランド貴族たちは、必ずしもウォレスたちを快く思っていなかった…。

レビュー

 何回か英国を旅行したことのある母は、こう言った。「イギリス名物って、スコットランドのもんばっかりやで。タータンチェックも、カシミヤも、バグパイプも、ウイスキーも、・・・ゴルフも! ほんま、イギリスってひどい国やわ」。英国に行ったことのないものにはなかなか分からないが、あの国はイングランド、スコットランド、ウェールズ、アイルランドの4つの民族の闘争によって出来上がった。今もスコットランド人はスコットランド人、ウェールズ人はウェールズ人である。そのことが、実によく分かるのがこの映画である。そんな不屈の魂を抱いた民族の叫びを、メル・ギブソンは監督として、主演男優として見事に具象化した。

 スコットランドの伝説的英雄、ウィリアム・ウォレスは幼少の頃、イングランドとの戦いで父と兄を失う。二人が埋葬された場所で呆然とたたずむ少年に、少女が野アザミを手折ってそっと手渡す。この少年と少女との運命を感じさせる美しい場面である。野アザミはスコットランドの国花でもある。ただこの少年と少女とが結ばれるというだけではない、もっと大きなものが少年の手に渡されたのだ。
 おじに引き取られ村を離れた彼は、成長した姿で村に戻ってくる。成長したといってもメル・ギブソンでは正直老けすぎでちょっとずっこけてしまうが、のちの熱演を観れば、これは彼でないと…と納得させられる。村の娘ミューロンを誘い出したウォレスは彼女にプロポーズする。別れ際、差し出した布には、あのときの野アザミが挟まれていた。ここで「あ、あの女の子が彼女なわけね」と確認できる、心憎い演出である。ちなみに韓国映画「スキャンダル」のラストは、これのパクリではなかろうか。あれはあれで、うまい演出だったが。
 こうして野アザミはミューロンの手に戻ってくるが、今度は二人が秘密の結婚式を挙げたあと、彼女は野アザミを刺繍したハンカチ(のようなもの)をウォレスに与える。しかし幸せもつかの間、ミューロンは村にやってきたイングランドの兵士にレイプされかけ、激しく抵抗。「王の兵士を傷つけたのは、国王を傷つけたのと同じ」として、処刑されてしまう。このとき彼女の血を吸ったハンカチが、ウォレスの手に握られる。最初にイングランドに抵抗したミューロンの魂が、こうして受け継がれていくのである。

 映画の一番の見どころは、ダイナミックな戦闘シーンであろう。農民からなるスコットランド軍は武器の携行が許されていないため、武装したイングランド軍と一体どんなふうに戦うのか、ウォレスの戦略にわくわくさせられる。それだけでなく、タータンチェックのスカートをまくってみんなで尻を見せ、イングランド軍を挑発したりと、緊張の高まる戦闘前に思わぬ笑いがあるのもいい。
 上空に矢が放たれるシーン、そして歩兵どうしの肉弾戦。「おや、このシーンはどこかで?!」という場面も数多く登場する。「ロード・オブ・ザ・リング」「ラスト・サムライ」「キング・アーサー」など後発の多くの映画はここから影響を受けたものと思われる。人が斬られたり撃たれたりといった場面は映画に数限りなく登場するが、痛みを感じさせる映像づくりはメル・ギブソンの真骨頂かもしれない。それはのちにキリストの受難を描いた映画「パッション」で遺憾なく発揮されるところだ。

 メル・ギブソンは監督・主演とまさに快刀乱麻の活躍を見せる(その意味で、これはメル・ギブソンの俺様映画という一面もなきにしもあらずだが)が、イングランド王エドワード一世を演じたパトリック・マクグーハン、ミューロン役のキャサリン・マコーミック、そして次期スコットランド王のブルース伯爵役、アンガス・マクファーデンもすばらしかった。みんな名字に「Mc」がついているが、スコットランド系の人だろうか。特にウォレスに共感しながらも、父王と貴族たちの謀略に従わざるを得ず、板挟みになるブルース伯爵はその苦悩がひしひしと伝わってきた。そんな彼が最後に甲冑から引っ張り出すのは…。言葉をつかわずに観客を納得させるうまい演出。大スペクタクルに巧みな小物づかいで、大感動!

評点 ★★★★★

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