MUDDY WALKERS 

ブロンコ・ビリー BRONCO BILLY 

ブロンコ・ビリー 1980年 アメリカ 117分

監督クリント・イーストウッド
脚本デニス・ハッキン

出演
クリント・イーストウッド
ソンドラ・ロック
ジェフリー・ルイス

スト−リ−

 ブロンコ・ビリー(クリント・イーストウッド)は、カウボーイとインディアンの大道芸を見せる「ワイルド・ウエスト・ショー」の花形スター。ボスとして、時には厳しく時には温かく、一座のメンバーとは父親と家族といった関係を続けている。中でもブロンコ・ビリーは馬の曲乗りや拳銃の早撃ちで大人気。ところがアシスタントの女性には逃げられてばかり。いつも巡業先で現地調達しなければなかった。ある日、この一座に、結婚相手のジョン(ジェフリー・ルイス)に逃げられた資産家の令嬢、アントワネット・リリー(ソンドラ・ロック)が紛れ込んでくる。令嬢といっても年はもう30、美人だが高慢な性格のとってもイヤなタイプ。結婚相手は彼女の資産が目当てだったのだ。ブロンコ・ビリーはリリーをアシスタントに器用するが、なんせ性格が悪い上、なぜか彼女が一座に加わってから災難つづき。一座のメンバーは彼女を「疫病神」と疎ましく思うようになる…。

レビュー

 今はすっかり巨匠となったイーストウッドが、こんなに軽くてほんわかした映画を撮っているとは思わなかった。都会のお金持ちだが愛のない生活をしてきた30女がカウボーイ一座にまぎれこむという、ハーレクイン・ロマンスのような話。だがこれをクリント・イーストウッドがやると、不思議にそれ以上の深い映画になるから、すごいと思う。

 イーストウッド演じるブロンコ・ビリーは、「ワイルド・ウエスト・ショー」で馬の曲乗りや拳銃の早撃ちを演じる花形カウボーイ。子供たちのあこがれの的だが、大人の目からみれば、ショーはどこか古くさくてうらぶれた感じがする。ただ時代錯誤というだけではない。テント小屋の中で馬を乗り回し、拳銃を撃つビリーの姿には何か感じるものがあるのだ。まるでクリント・イーストウッドのセルフ・パロディ?みたいな雰囲気といったら、悪いだろうか。西部開拓時代はすっかり過去のもの。そんな空気だ。

 そんな中に、現代の女がまぎれこんでくる。リリーは性格が悪いだけでなく、資産家の娘であり、男の手を借りなくても生きていける財産を持っている。アットホームというだけでなく、ビリーが厳格な父親のように権威を持ってふるまう一座の中で、リリーは明らかに「浮いた」存在。しかも彼女が加わってから一座には不運が続き、疫病神と言われるようになる。

 騒動続きの中でリリーはやがてビリーとその仲間達の正体を知ることになる。疑似家族といってもいいその関係の中に、結婚した夫や母親との間にはなかったものを知るのである。都会的な女性が野性的で男らしい男性に反発しながらも惹かれていくという物語はいかにもありがちだが、「ワイルド・ウエスト・ショー」一座の一人ひとりが実は…ということがわかってくると「なるほどな〜」と頷いてしまう。それはこの映画が作られた当時のアメリカが失っていたものの象徴かもしれない。一座の中には、実は脱走兵というキャラが登場するが、正確にいうとベトナム戦争の徴兵拒否者(あるいは徴兵逃れ)ではないかと思う。映画のもつメッセージを明確にするための重要な設定と思ったが、字幕にきちんと表現されていなかったような気がする。

 映画を通して感じるのは、クリント・イーストウッドの「負け犬」への温かい視線である。ほのぼのとしたハッピーエンドの中に、アメリカという国はこうあるべきではないかという彼の主張が、映像としてしっかりと表現されていて、軽いのに深いという、味わいのあるウエスタン・コメディとなった。

評点 ★★★★

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