盲目将軍・陶金節作
ガンダムSEED・FINALWAR 第9章

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彦達邸 
彦達はその夜、自分の部屋に客人を招いていた。
その客人は、白い髪を後ろに束ね、顎から生えている真っ白な髭を紐で結んだ老人であった。
彦達は老人に言った。

「祝家荘の主、祝朝奉殿。私の邸へよく来てくださいました」
「ふむ、して、彦達よ。今日ここへわしを呼んだのは、どういう理由かな?」

祝朝奉は彦達に訊いた。

「はい。私は今、中国で反乱を起こしている世界3大レジスタンスの1つ、梁山泊と戦っているのですが・・・」
「ふむ」
「私の配下であった秦明と黄信は梁山泊に寝返り、オーブから派遣されたワルキューレ27楽奏の者達にSWH−A、カメレオンの胡車児も敗退・・・。このままでは私の面目が丸潰れでございまして・・・」
「それで、わし達祝家荘の力を借りたいと・・・?」
「はい。祝朝奉殿の言う通りでございます。祝朝奉殿の所には、李家荘、そして扈家荘という屈強の精鋭達を従えております。だから私はあなた方と共に梁山泊の者達を捕らえようと思ったのであります。どうか私に力をお貸しくださいませんでしょうか?」

彦達の話を聴いた祝朝奉は、白い髭を触りながら考えた。
もし、彦達と共に梁山泊の面々を潰すことができれば、自分達祝家荘の名が上がる。
そうすれば高?から多大な報奨が与えられるやも知れない。
ここは彦達と手を組んだ方がよさそうだ。
祝朝奉はにこやかな顔で彦達に言った。

「いいでしょう。我々の力をお貸ししましょう。彦達殿、我々の力で梁山泊の者達を抹殺しましょう!」
「・・・真にありがたい!!」

彦達と祝朝奉はお互いの手を握り、同盟を結んだ。
その光景を陰から見ていた者がいた。

(クククク・・・、これはいい情報を掴んだでやんす!急いで頭領に知らせるでやんす!!)

男は素早く祝家荘を出て、梁山泊へ向かった。


梁山泊
パウロ達に壊された梁山泊の修築はまだ続いていた。
マヤ達はヨウラン、ヴィーノ、アビー達と共に陶宗旺、ダンベール、ジェシカ、マッドの支持の下、せっせと作業を行っていた。

「おーい、そこの奴とそこの奴をセメントでくっ付けろ、おい!」
「はーい、分かりました!!」
「こらあ、健太、カン!ぼさっとサボってるんじゃない!!さっさと作業を再開しろ!!」
「すいません!!」
「ヨウラン、ヴィーノ!!そこの木材を持ってきて!」
「はい!!」
「アビー、ついでに釘も取ってくれ!!」
「分かりました!」

マヤ達が懸命に作業を続けたおかげか、修築は早く終わらせることができた。
マヤ達はやっと作業が終わったのを知ると、つい座り込んでしまった。

「はぁ、やっと終わった・・・」
「ああ、昨日の夕方からずっとだもんな・・・」
「疲れた・・・、本当に疲れた・・・、疲れたとしか言いようが無いよ・・・」

カンの言うとおり、昨日から作業を続けていたせいで、肩は凝り、足は軋み、頭はズキズキとする。
作業を続けることができたのは、佐助を始めとした、白勝、那托、レッテ、張青、劉唐などの梁山泊のメンバー、そして十二神将の者達が励ましてくれたり、頭領である劉備も会議が終わった後、作業を手伝ってくれたおかげであった。
本当に梁山泊の人達に感謝しなくてはと、マヤ達は思った。
と、そこへ佐助が飲み物を持ってきてやってきた。

「よお、修築作業ご苦労さん!冷たい水を持ってきたから飲むといいぜ!」
「ああ、ありがとうございます、佐助さん」
「本当にありがとうございます・・・」
「どうもありがとうございます・・・」

マヤ達は佐助にお礼を言った。

「いやいや、いいってことよ!水を飲んだら機体のチューンナップの作業も忘れるなよ!」
「はい!」

マヤ達は返事をすると、コップに入った水をごくごくと飲み、機体開発研究所へ向かった。
佐助は研究所へ向かうマヤ達を見て、マヤ達も見違えたなと思った。
楊志のダンナ達と共にマヤ達を連れ去った頃は、自分や張飛のダンナに噛み付いていたが、段々と梁山泊の空気に慣れてきたのだろうか、活き活きとした顔をしている。
もしマヤ達が統一連合軍に所属されていたら、あんな顔を見せないで、戦場で戦って、紙くずのように散っていただろう。
マヤ達、いや、マヤ達のような軍学校に行っている子供達には、梁山泊のような明るい環境が必要なのだろう。
その環境は、統一連合やワルキューレには無い。
そう断言できるだろう。
と、佐助が思っていたその時、欧鵬と楊春が声をかけてきた。

「佐助、作業がやっと終わったんだ。久しぶりに手合わせをしよう」
「佐助さんは僕達と違って全く修練をしていませんよね?手合わせしましょうよ!」

佐助はどうしようかと思った。
手合わせするのは構わないのだが、自分は忍の立場だ。
忍は戦っている相手に、絶対手加減をしてはならない。
そう師匠から教えてもらっている。
だから、こういう時は・・・。

「逃げる!!」

佐助は門の外へ逃げ出した。

「ああ、逃げた!」
「待ってください!!」

欧鵬と楊春は逃走した佐助を追いかけていった。

「待て!!猿飛佐助!!」
「待たない!」
「あなたは全然修練していません。だから今日こそは手合わせをお願いします!」
「断る!!」
「断るな!手合わせしろ!!」
「手合わせしない!!」

3人がこう言いながら追いかけっこしていたその時、佐助にものすごい速さで何かがぶつかってきた。

「いてぇ!」
「ぎゃばあ!」

佐助が倒れたのを見た2人は、どうしたんだと思い、近寄ってみた。
すると、佐助と一緒に倒れている出っ歯の禿頭の男を見つけた。
欧鵬と楊春はこの出っ歯の禿頭の名前を知っている。
欧鵬は出っ歯の禿頭の名前を呼んだ。

「時遷!鼓上蚤・時遷!!」
「う〜ん・・・、あれ?欧鵬さんに楊春さん、何でこんな所にいるでやんすか?」
「いるでやんすかって・・・、あなたは僕達が修築作業をしている時に、どこかへふらついていたというわけですか!」
「許せん!」

欧鵬と楊春は時遷を殴ろうとした。
時遷は「待ってください」と2人に言った。

「待ってください、待ってください!!ふらついていたのは事実でやんすが、俺はふらついている時に重大な情報を手に入れたんでやんすよ!」
「そんな話、信じられるか!」
「信じてくださいでやんすよ!実は慕容彦達の奴が、祝・李・扈家荘の連中を引き連れて、梁山泊を潰しに行こうとしているでやんすよ!!」
「なんだって!?」

欧鵬と楊春、そして時遷の言葉を聴いて飛び起きた佐助は驚いた。
佐助は時遷に言う。

「時遷、その話を味とで頭領達に聴かせてくれないか!」
「もちろんでやんすよ!俺はそのために舞い戻って来たでやんすから!」
「よし、急いでアジトへ戻ろう!」

4人は急いで梁山泊へ戻った。
時遷達4人は急いで梁山泊に戻った。
時遷は門を抜けるとすぐに食堂へ入り、ロイ達に訊いた。

「なあ、ロイ!頭領達はどこにいるか知らないでやんすか?」
「えっ?頭領さん達なら司令室にいるけど?」
「ありがとうでやんす、ロイ!」
「えっ、ちょっと、一体何があったんだよ!!」

時遷達は早足で司令室に向かった。
司令室の前に着くと、時遷はドアを開けた。
劉備は副頭領の宋江と共に何か作戦を練っていたようだ。
宋江は驚いた顔で時遷に言った。

「時遷、どうしたのだ!そんなに息を切らして!?」
「ゼェゼェ、いや、ちょっと、ある情報を掴んだんで、報告しに来たんでやんすよ、ゼェゼェ」
「で、その情報とは一体なんだ?」

劉備は時遷に訊いた。
時遷は息を落ち着かせてから言った。

「実は、悪名高い慕容彦達の奴が祝家荘の連中と手を組んで、ここに攻めてこようとたくらんでいるんでやんすよ」
「何だって!?」

司令室にいた者達は驚いた。
やっと梁山泊も修復することができたのに、また攻めてくるというのか!
林冲の言った通り、統一連合も本格的に潰しにかかってきたかと劉備は感じた。
劉備は時遷達4人に言った。

「時遷達よ。梁山泊にいる十二神将を呼んできてくれ。緊急会議を始める!」
「はい!分かりました!!」

時遷達は急いで梁山泊にいる十二神将達を呼びに行った。


さて、彦達邸は大勢の統一連合兵士達で溢れていた。
庭、食堂、風呂場、MS格納庫、その他の部屋部屋・・・。
パウロ達は一体何事だと思った。

「おいおいおいおい、一体何事だよ!!パーティーでも始めるつもりかよ!?」
「確かにこの兵士の数は尋常ではありませんね・・・」
「彦達の奴、何のパーティーを始めるつもりなの?おかげでお昼ご飯食べられなかったじゃないの!」

リンがこう文句を言っている所へ、エチカが淡々とした口調でリンに言った。

<慕容彦達は梁山泊を一気に潰すため、祝家荘の者達と手を組んだようです>
「えっ、・・・ということは今ここへ来ている兵士達は全部、祝家荘の兵士ってこと!?」
<祝家荘の兵士だけではありません。祝家荘は李家荘、扈家荘という一族を従えています。ですから、ここには祝家荘の兵士だけでなく、李家荘と扈家荘の兵士もいるのです>
「へえ、それでその祝、李、扈の三家荘で有名な兵士はいないの?」

リンはエチカに訊いた。
エチカはリンの問いに、淡々とした口調で答えた。

<祝家荘には主の祝朝奉に祝竜、祝虎、祝彪の三兄弟と、棒の達人欒廷玉が。李家荘には主の飛刀の達人の撲天G・李応と鬼瞼児・杜興が。そして扈家荘には主の扈大公に、軍で天才剣士と言われている扈成、そして、一丈青・扈三娘という名の女性剣士がいるとのことです。話によれば扈三娘は、祝家の三兄弟の三男である祝彪の結婚相手とのことです>
「げげっ、そんなにいるの!?彦達の奴、どうやってでも梁山泊を潰したいみたいね。その根性だけは認めてやるわ・・・」
「成程、祝家荘に一丈青・扈三娘ねえ・・・」

パウロは頭を掻きながら考えた。
彦達が呼んだ祝、李、扈の三家荘の連中はどんな奴らなのか見てみる価値はありそうだ。
ならば、話は早い。
リン達と一緒に見に行くとするか。
パウロはエチカに訊いた。

「なあ、エチカ。その名のある連中はどこにいるんだ?」
<彦達の部屋にいると思われます>
「成程、よし、リン、フェイ、胡車児、エチカ。皆でそいつ等を見に行こうぜ!」
「ええっ!?彦達の部屋へ今から行くの!?」
「そんな無茶な・・・って、おい!?本当に行くのかよ!!ちょっと待つぎゃ!!」

パウロ達は彦達の部屋へ向かった。
パウロ達は彦達の部屋の前に着いた。
彦達の部屋のドアは、もちろん閉まっている。
パウロはにやりと笑みを浮かべながら、懐から5つのサングラスのようなものを取り出し、そのうちの4つをリン達に手渡した。
胡車児はパウロに訊いた。

「おい、パウロ!これをかけてどうするつもりだぎゃ?まさか、これをつけると部屋の中が丸見えになるとか言うんじゃあるまいな?」
「その通り!」
「おい、パウロ。こんなサングラスをつけて見えるわけが無いだろう!」
「見えるかどうかは付けて見ればわかるさ」
「嘘臭いぎゃ・・・」

胡車児達は疑りながらサングラスをかけて、彦達の部屋のドアを見た。
すると、本当に彦達の部屋の中が見えた。

「おお!本当に見えたぎゃ!!」
「すごい!パウロ、このサングラス、どこで手に入れたの!?」

リンがパウロに訊いた。

「へへへ、このサングラスは27楽奏のメンバーのティアにもらった代物でな。一応試作品だから、試しといてくれって言われたんだよ」
「それで今回試しに使ったというわけですね。それにしても・・・」

フェイは彦達の部屋にいる者達の顔をじっくりと見ていた。
彦達の向かい側のソファーに座っている老人とその3兄弟はおそらくエチカの言っていた祝家荘の者達だろう。
それにしても3兄弟の者達は、末弟である青年以外の兄達の顔は、いかにも悪人面である。
そのまま指名手配書に載せてもいいくらいな顔だ。
そして、白い髭を生やした老人も、名誉と権力にまみれた顔立ちである。

「あの祝家荘の者達らしい方々は、顔からして真面目な人生を送っていないような気がしますね・・・」
「そりゃそうだ。軍や政界の上層部の連中なんて、ほとんどが金と権力欲にまみれたクズ共だ。あんな連中のような奴は世界中にたくさんいるぜ」

フェイの言葉にパウロが答えたその時、リンが何かを見つけたような声で言った。

「姉さん、パウロ、胡車児、エチカ!あのジジイ共の後ろに立っている人達は、多分、扈家荘と李家荘の人達じゃない?」
「ああ。多分じゃなくて、絶対そうだ。それにしても、この二家荘の主らしい人達は本当に真面目そうな人達だよな」

パウロの言うとおり、二家荘の主らしき2人は、祝家荘の者達とは違い、この世を憂えているような顔つきをしている。
胡車児は、あっと声を上げて驚いた。

「あっ!俺と同じ奴を見つけたぎゃ!あの李家荘の主らしい奴の隣にいる奴だぎゃ!!」

パウロ達は胡車児の声を聴くと、李家荘の主らしきものの隣にいる小男を見た。
確かに胡車児の仲間らしい者がいる。
顔の肌は赤く、目は鋭く、髪は縮れていて上の歯茎から八重歯が出ている。
これはまるで鬼の顔だ。
パウロ達がそう思っていると、エチカが口を開いた。

<彼は李家荘の主の李応の付き人である、鬼瞼児・杜興といいます。彼は生まれつきあのような顔であったため、人々から鬼と呼ばれていました>
「確かにあの顔じゃ鬼と呼ばれても仕方が無いわね・・・」
「成程、あいつも俺と同じ差別を受けていたのか・・・」

胡車児は深いため息をついた。
胡車児もカメレオンのような姿をしているため、人々からカメレオンと呼ばれていたのだ。
しかし彼はカメレオンの姿と自分の特殊能力を活かし、ワルキューレの隊員となったのである。
パウロは暗くなった胡車児を励ました。

「お、おい!そんなに暗くなるなよ胡車児!お前はその姿をバネにしてワルキューレに入ったんだろうが!そう落ち込むなっての!!・・・ほら!あそこに綺麗な女がいるぞ!!」
「えっ?綺麗な女はどこだぎゃ、パウロ?」
「ほら、あそこだって!」

パウロは扈家荘の主らしい老人の隣に立つ女性を指差した。
その女性の長い黒髪は光沢がかかり、肌は雪のように白い。
腰は柳の枝のように細く、唇は薔薇のように紅く染まっている。
胡車児とリンはその女性の姿を見て、ぽかんと口を開けた。

「き、綺麗な人だぎゃ・・・」
「かっこいい・・・」
「な、綺麗だろ!フェイ、エチカ!お前等も見たか・・・って」

パウロはフェイとエチカの方を向いた。
そこにはフェイとエチカ以外に、眉のつながった猿顔の男と、刀を腰に下げた青年剣士の姿があった。
剣士はパウロ達に言った。

「お前達、そこで何をしている?」

剣士の声に気付いたリン達もはっとした。
パウロ達は慌てて言い訳を考えた。

「い、いや、あのですね。俺達はその、ドアがなんかおかしいなと思いまして・・・」
「そ、そうですよ!だから私達はドアの調子をちょっと調べていたんですよ」
「そ、そうだぎゃ!!なにもしていないぎゃ!!」
「な、なんでもありませんよ、ふふふふ・・・!!」
<・・・・・・・>

エチカは黙ったまま、青年と猿顔の男を見つめている。
青年は、ふぅとため息をついて言った。

「・・・知ってるよ。彦達の部屋を覗いていたんだろ?」
「へ?どうして知ってるんだ?」

パウロは青年に訊いた。
それに答えたのは、猿顔の男であった。

「扈成殿は人の心を読む力を持っているのだ。だから、あなた方が言っていた嘘も見抜かれたと言うわけです」

フェイは扈成という名を聴いて驚いた。

「扈成って・・・、じゃああなたは天才剣士の!」
「そう、扈家荘が長男、天才剣士・扈成さ。全く、天才剣士天才剣士って皆言うから、自分でもついつい言っちゃうじゃないか。ったく、誰だよ、僕を天才剣士って言ったのは。だいたい天才なんてものは存在しないんだよ。かのトーマス・アルバ・エジソンや、アルバート・アインシュタインだって、最初から天才だったんじゃないんだぞ!天才という言葉を考えた奴らはどういう神経をしているんだ。1度そいつ等の顔を拝んでみたいよ。というよりも、天才と言う言葉が生まれたから・・・」

扈成はグチグチと愚痴をぶつぶつとこぼし続けている。
パウロ達には全く目を向いていない。
猿顔の男はパウロ達に言った。

「す、すいません!扈成殿は時間があれば、こうグチグチと愚痴をこぼしてしまうのです・・・」
「へえ、変わった天才だな。で、お前は?」
「申し遅れました。俺は扈家荘で働く裁縫役の、通臂猿・候健といいます!」
「へえ、候健か、よろしくな!・・・ところで、お前達は何で彦達の部屋に入っていないんだ?」
「それは、扈成殿が祝家荘の者達を嫌っているからなのです。特に祝家3兄弟の3男である祝彪様は、扈成殿の妹君であらせられる扈三娘様の許婚でありまして、『僕の可愛い妹を、あんな強欲な奴らに渡してたまるか!』と申しておりまして・・・」
「そうか・・・、そういう理由なら彦達の部屋に入りたくない理由も分かるなぁ」
「だろう!君達も僕の気持ちが分かるだろう!?」

と、扈成が話に割り込んできた。

「ちょっと、扈成さん!?あなたさっき愚痴をこぼしていたんじゃなかったの!?」
「愚痴は言い終わったんだ。それよりも、そこの君!これで分かったろう、僕が祝家荘の連中を嫌う理由が!!」
「ま、まあ、なんとなく・・・」

パウロは戸惑いながら扈成に言った。
扈成はさらに喜んだ。

「いやあ、嬉しいよ!!僕の考えをわかってくれる人がいて!!
君の名前はなんていうんだい?」
「俺はパウロ・カーディアン。ワルキューレ27楽奏の1人だ」
「ワルキューレ!いやあ、ますますいいねえ!!統一連合のクズ共は僕の考えに賛同してくれなくて、イライラしていたところなんだよ!!だけど君のようなワルキューレ兵がいて・・・」
「はははは・・・・」

パウロは舞い上がっている扈成に振り回されてしまっていた。
リン達は2人からすっかり置いてけぼりにされてしまっている。

「パウロも大変ね。扈家荘の長男さんに振り回されて・・・」
「顔が引きつっているぎゃ」
<パウロの不快感度、87・321%上昇中です>
「パウロはいい友達を持ちましたね・・・」

フェイはパウロの姿を見て微笑んでいた。
候健はフェイの言葉を聴いて、果たしてそうか?と思った。
結局パウロは、この後扈成に4時間も付きあわされ、体はぼろぼろになってしまっていた。
リン達は候健と共に、食事を取ったりなどをして、それぞれの時間を過ごした。
梁山泊・会議室

劉備と宋江、参謀の呉用と太公望、そして、現在梁山泊にいる十二神将達は、時遷の報告を聴いていた。
時遷は彦達邸で自分が見聞きした事を、劉備達に話した。

「・・・では、時遷よ。彦達と祝家荘の者達が手を組んで、梁山泊を攻め落とそうと考えているのだな?」
「はい!俺は何1つ嘘はついちゃいないでやんすよ!!」
「成程、秦明と黄信が梁山泊に寝返り、かつ、ワルキューレの部隊もやられたから、今度は他人の力を借りて、ここを責め潰そうというわけか・・・」

花栄は腕を組みながら言うと、楊志が花栄の後に言った。

「しかも、祝家荘といえば李家荘、扈家荘の者達を従えていることで有名な連中で、特に祝家荘の3兄弟と李家荘の主の李応、扈家荘の扈三娘は俺も軍人時代に聴いたことがある」
「扈三娘って、確か一丈青の渾名を持つ女剣士だったよな?」

陣八が林冲に訊いた。

「ああ。俺も軍人の時に同僚から聴いた。2本の刀を操り、両腕の袖から青い鉤縄を出し、敵を捕らえる女戦士、と。話によれば祝家荘3兄弟の末弟、祝彪とは許婚の関係だとか・・・」
「へん、そんなことはどうでもいいぜ!!敵の情報はもうこっちにあるんだ!だったらさっさとそいつ等をぶっ潰しに行こうぜ!!」

張飛は戦意高揚しているためなのか椅子から立ち上がって唸り声を上げた。
興奮している張飛を関羽と楊志が諫めた。

「待て、翼徳。策も無しに感情を噴き出して戦うと、痛い目に遭うぞ」
「関羽殿の言うとおりだ。感情の赴くままに戦うとどうなるか、お前も分かるだろう。そのせいで1年前に前頭領を失ったことを忘れたのか?」

張飛は関羽と楊志の言葉に反論できなかった。

楊志の言うとおり、1年前、張飛は極悪非道と悪名高い曽頭市の者達と戦った時、張飛の部隊は後先を考えずに敵陣に突っ込んでいった。
その結果、張飛の部隊は敵の罠にかかり、張飛達を救出しようとした前頭領の托塔天王・晁蓋は、敵の武将の放った毒矢に当たり、治療の甲斐なく帰らぬ人となったのである。
その後、新頭領は張飛の兄貴分である劉備がその地位に付いた。

張飛は黙って椅子に座り、

「すまねえ・・・、つい興奮しちまって・・・」

と言った。
聞仲はそんな張飛を見て、劉備に言った。

「頭領。とりあえずここは偵察部隊を派遣して、彦達・祝家荘混成軍の様子を見てから、作戦を考えた方が得策かと思われます。敵のMS部隊や歩兵部隊も気になりましたので」
「だが、偵察部隊を派遣するって言ったって、誰を派遣するのだ、聞仲?」

太公望が聞仲に訊いた。
聞仲はすぐに答えた。

「偵察部隊には、ここにいる時遷と、俺の部隊の高友乾、そして関羽殿の部隊の楊雄と石秀がいいでしょう。丁度時遷は祝家荘の場所を知っているはずなので、時遷に道案内をさせたほうが良いでしょう」
「成程。では頭領に副頭領。偵察部隊を派遣するという方向でいきましょうか」

呉用は劉備と宋江に言った。

「うむ。敵の戦力を知るためにも、偵察部隊を派遣した方がいいだろう」
「私も同感です。たしか時遷は梁山泊の修復作業を怠っていましたからね。その罰ということで、彼にはもう1回、祝家荘に行ってもらいましょう!」

時遷は宋江の言葉にぎくっと体を硬直させた。
まさか、自分がサボっていたことが知られていたなんて。
絶対に見つからないと思っていたのに・・・。
宋江は時遷を見つめながら言う。

「いいな、時遷」
「は、はい。分かったでやんす・・・」

時遷は渋々返事をした。
劉備は会議室にいる者達に言った。

「では、時遷率いる偵察部隊を派遣することに異議は無いな?」

会議室にいる者達の返事はもちろん、無しであった。


聞仲と関羽は会議が終わった後、お互いの部隊の部屋に行き、偵察部隊に選ばれた者を呼びに行った。
聞仲は部屋のドアを開けた。
部屋には、高友乾と王魔だけしかいなかった。

「高友乾。部屋にはお前と王魔2人だけか?」
「ええ、そうですが?」
「元帥、またどっかの奴らとドンパチやるんですか?」

王魔は笑いながら聞仲に言った。
聞仲は王魔の勘の鋭さに驚きながらも、その気持ちを抑えて2人に言った。

「ああ。そのために敵の戦力を調べたいので、高友乾を偵察部隊に派遣することが決まった。高友乾よ、なにか用事があれば、代わりに王魔を派遣するが・・・」
「いえ、特に用事はありません。偵察に行ってまいります」

高友乾は淡々と聞仲に言った。
王魔は身を乗り出して聞仲に言う。

「偵察に行くんですか!?いいなぁ、俺も行かせてくださいよ!!」
「駄目だ。偵察部隊は人数が多いと敵に見つかる。それに、時遷と楊雄と石秀と高友乾を行かせると、もう会議で決まったんだ」
「ちぇー、つまんねーの。俺も高友乾と行きたかったなー」

こう文句を言う王魔に、高友乾は優しく言った。

「王魔、ここは我慢しなさい。戦いになればいくらでも走り回れるんだから」
「・・・なるへそ。分かった。俺は留守番してるぜ!」

王魔は高友乾の言葉に納得した。
聞仲はその光景を見て、この2人は家族みたいだなと思った。
いや、この梁山泊そのものが家族に近いものか・・・。
聞仲はふふっと微笑んだ。

偵察部隊が出発したのは、夕方頃であった。
時遷達4人は早めに食事を済ませ、祝家荘へと向かった。
マヤはダンベール達と見送りをした。

「時遷さん達、大丈夫かなあ・・・、敵に捕まらなきゃいいけど・・・」
「すぐに敵に捕まったりして・・・」
「おい、カン!そんな冗談は言うな!」

健太はカンに注意をした。

「いやあ、ごめんごめん。ちょっとふざけてみただけさ」
「この世には言っていいおふざけと、悪いおふざけがあるんだからな!」
「うむ。だが、そのおふざけが現実にならなければいいんだが・・・」
「そうですね・・・」

ダンベールとジェシカも時遷達を心配した。
そんな5人の不安を消し飛ばすかのように、佐助はからからと笑った。

「はははは、大丈夫だって!あの4人はそうそう捕まらないって!仮にもし捕まったとしても、あいつが助けに行ってくれるさ!」
「・・・あいつって?」

マヤは佐助に訊いた。
佐助は人差し指を唇にあてて言った。

「それは秘密♪」

マヤは佐助の言っている「あいつ」とは一体誰なのかが気になって、余計に心の中がもやもやとした。
扈三娘は自分の指定された部屋に戻ると、身に纏う服を脱いで、浴室でシャワーを浴びた。
シャワーから溢れる湯が扈三娘の白い肌を弾いた。
もうすぐだ。
もうすぐ世界3大レジスタンスの1つである、梁山泊一味と戦う。
そのために今日は十分な睡眠をとり、明日に備えなくてはならない。
扈三娘はシャワーの蛇口を閉めて、浴衣を纏って浴室から出ると、すぐにベッドに横になった。
それにしてもワルキューレのドム・トルーパーの3人と『惨朴眼』のドナテロ・フェルビラブドを倒し、さらにワルキューレ27楽奏の3人と互角に闘った梁山泊の者達は一体何者なんだろう?
これまで梁山泊に4人のワルキューレ兵が倒された。
さらに、27楽奏の1人であるリン・マーシャオは重傷を負い、しかも、彦達の配下であった鎮三山・黄信と霹靂火・秦明は統一連合を裏切った。
あの2人を投降させるとは、一体どのような者がいるのだろうか?
そしてどれほどの強さを持っているのか、明日確かめてやる!
扈三娘はそう思うと、瞼を閉じて眠ろうとした。
と、その時、コンコンとドアを叩く音がした。

「・・・誰?成兄さん?」
「扈三娘、僕だよ。入っていいかな?」
「いいわよ。どうぞ入って」

扈三娘は部屋のドアを開けた。
ドアを開けると、そこにはまだ幼い顔立ちをした少年が立っていた。
祝家荘・三男、祝彪である。
祝彪は微笑を浮かべると、扈三娘に言った。

「いよいよ明日は梁山泊と戦うことになるね」
「そうね。どういう連中がいるのか、少々楽しみだけど」
「楽しみだなんて・・・。僕は兄さん達のように戦いは好きじゃないから、出来れば話し合いで解決できればいいと思ってるんだけど・・・」
「話し合いで解決できる状況じゃないでしょ。そもそも、統一連合の上層部の馬鹿な奴等が調子に乗って民を苦しめるような政治を行ったから、3年前に黄巾の乱が起こってその後に各地でレジスタンスが現れるようになったのよ。今更話し合いましょうとレジスタンスに言っても、簡単に信用はしてくれないわよ」
「それはそうだけど・・・」

祝彪は下を向きながら口ごもった。
扈三娘はさらにキツイ言葉を祝彪にぶつけた。

「そういうウジウジとした性格、いい加減に治したらどうなの?そんな性格のままだと、真っ先に敵に討ち取られることになるわよ?」
「そんなことはないよ!梁山泊はほとんどがMSに乗らない者達で統一されてると聴いている!だから、MSに乗っていれば大丈夫さ!」
「あら、強気に言うわね。けど、梁山泊のメンバーは素手でMSを破壊し、手に持つ剣でMSを切り裂くと聴いたわよ?それでも大丈夫なんて言っていられるのかしら?」
「そ、それは・・・」

祝彪はまだ黙りこくった。
扈三娘はそんな祝彪を見て、クスリと笑った。

「ふふっ、冗談よ。やっぱり貴方をからかうのは楽しいわ」
「えっ?じゃあさっきの話は嘘?」
「いいえ。梁山泊の話は本当よ。けど、相手が生身で戦うのだったら、MSで踏み潰すことも可能でしょ?」
「あっ、そうか・・・」
「貴方はそんな事にも気づかないのね。ちゃんとしなさいよ、祝彪。貴方は私の結婚相手なんだから」
「う、うん。分かった・・・」

祝彪はこくりと首を縦に振った。

さて、扈三娘の部屋を上から覗き込んでいた2人組がいた。
2人組の片方は、扈三娘を見ながら、眼を血走らせていた。

「あ、あの女・・・、かなりの上玉でやんす!」

時遷はもっと扈三娘を見ようとして首を出そうと、覗き穴をノコギリで広げようとした。
それをもう片方の男、弃命三郎・石秀が止めようとした。

「おい、やめろ時遷!そんなことをすれば敵にばれっちまうだろうが!」
「うるさいでやんす!もっとじっくりあの女の胸の谷間を見たいでやんす!!」
「一時の欲望に身を委ねるな!!」
「ああもう!邪魔をするなでやんす!!」

時遷と石秀はそのまま口喧嘩から、次第に本当の喧嘩を始めた。
扈三娘は天井裏から聴こえてくる、ドタンバタンという音に反応した。
ドタンバタンという音だけではなく、なにやら二人の男性らしき声も聴こえてくる。

「・・・どうやら大きいネズミが天井裏にいるみたいね」
「えっ、大きいネズミ?」

扈三娘は2本の刀を持ち出すと、

「何奴!!」

と叫び、天井裏を四角に切り裂いた。
すると天井裏から禿頭の出っ歯の男と、黒い編笠を被った男が落ちてきた。

「ば、バレたでやんす・・・!」
「ほら、言わんこっちゃ無い・・・」

石秀は時遷を担ぐと、

「では、これにて失礼します!」

と言って部屋から出て、一目散に駆け出した。

「あの男2人を逃がすな!祝彪、負うぞ!」
「は、はい!!」

扈三娘と祝彪は逃げようとする2人の男を追いかけた。


高友乾と楊雄はメカニックに変装してMS格納庫に忍び込み、敵のMSの情報を集めていた。

「すごいMSの数・・・。さすが黄巾の乱で活躍した祝家荘なだけあるわね・・・」

高友乾は祝家荘のMSを見て驚きの色を隠せなかった。
祝家荘の所有するMSは、バクゥ、ラゴゥ、ダガーなど、元地球連合や元ザフト軍が所有していたMSばかりである。
おそらく、あらゆるジャンク屋組合のメンバーからMSのパーツを大量にもらって組み直したか、あるいは元地球連合や元ザフトの士官達からMSを横流しして手に入れたのだろう。
これほどまでのMSを手に入れた祝家荘の者達に、ある意味脱帽すると思っていた時、2人の眼にあるMSが映った。
これは7年前にザフト軍が連合軍から奪取されたとされている、『GATX−102デュエル』ではないか!?
しかも、全身の塗装は蒼く塗られている。
統一連合はいつの間にこんな過去のMSを再開発したのだ!?

「楊雄、これは頭領に報告しなくてはならないわね」
「ああ・・・」

病関索・楊雄は蒼く染まったデュエルを見ながら返事をした。
と、その時、遠くから2人の男の声が聴こえた。
その声の持ち主は、時遷と石秀であった。

「ひゃあああ!逃げるでやんす!!」
「だから俺はばれるような事はするなと言ったんだ、この禿出っ歯ぁ!!」

時遷と石秀の後ろには浴衣を着た長い黒髪の女性と、あどけない表情の少年が2人の後を追っていた。
黒髪の女性が声高々に叫ぶ。

「待て!お前達はどこの組織の者だ、答えろ!!」
「そんなことを言われても答えられないでやんす!!」
「自分のいる組織を答えろと言われて、はいそうですかと答える奴がいると思ってんのかぁ!!」

時遷と石秀は逃げながら、黒髪の女性に怒鳴った。
パウロ達は追いかけっこをしている3人の声を聴くと、一体何事だとMS頭部から下を覗いた。

「おいおい、一体何が起こっているんだ?」
「どうしたの〜?」

パウロとリンの声に、祝彪は上を向いて答えた。

「扈三娘を天井裏から覗き見していた不埒な輩が逃げようとしているんです!!しかも扈三娘はその時風呂上りで・・・」

祝彪が先を言おうとすると、扈三娘が祝彪を思い切りぶん殴った。

「余計なことは言うな!さっさと追うぞ!!」
「は、はい・・・」

2人は時遷と石秀を再び追いかけた。
祝彪の言葉を訊いたパウロ達は、『何だと!』と声を上げた。

「俺がまだここへ来てやろうとしていたことを先にやりやがるとは、許せん!!」
「女の風呂場を覗き見するなんて、脱走ホモよりも許せないわ!!」
「最低な男達ですね・・・!」
「天井裏からではなく隠しカメラを使えばよかったものを!同じ男として、俺が葬ってやるぎゃ!」
<侵入者を排除します>

もちろん妹の部屋が覗かれたと聴いて、彼女の兄である扈成が黙っているわけがなかった。

「おのれぇ!!俺の可愛い妹の部屋を覗き見するとは、何たる下衆な奴らだ!!覗き見をした男共は、この俺が叩き斬ってくれるわぁ!!」

パウロ達は扈三娘達と共に、時遷と石秀を追いかけた。
他の兵士達も2人を捕まえようと追いかけはじめ、とうとう2人の後ろには、多くの兵士達がいた。

「うわああ!数が増えたでやんす!!」
「がああああ!高友乾、楊雄!!早く助けてくれ!!」

高友乾と楊雄は2人のの悲鳴を聴くと、助けないわけにはいかないなと思った。

「仕方がありません。2人を助けた後、ここから脱出するといたしましょう」
「ああ、全くだ・・・」

高友乾と楊雄はメカニックの変装を解くと、すぐさま時遷と石秀を担ぎ上げた。
パウロが高友乾の顔を見て驚く。

「ああ!お前等は梁山泊の!!」
「ええ、私達は梁山泊の者です」
「この男達の仲間だ・・・」

時遷達を追っていた者達は動揺した。
まさか梁山泊のメンバーが侵入していたとは!!
楊雄は統一連合の兵士達に言った。

「お前達の軍の情報はある程度手に入ったのでな。退却させてもらうぞ・・・、高友乾!」
「はい!」

高友乾は翼を広げると、楊雄をを背中に乗せ、2人を両腕に掴ませて、そのまま大空へと飛び去った。

「おい!奴らが逃げるぞ!!」
「絶対に逃がすな!!」

祝竜と祝虎は兵士達に言うと、弓矢を持って高友乾達を仕留めようとした。
他の兵士達も矢を放った。
高友乾はその矢を何とか交わそうと、右左と飛んだ。
時遷、石秀も矢が高友乾に刺さらぬように、時遷は剣を、石秀は両手に十手を持ち、飛んでくる矢を振り払った。
楊雄は鋭い目つきで、長い爪が伸びたような鉤爪を両手にはめて、矢を瞬時に切り裂いた。

「ええい、なかなか打ち落とせぬ!」
「このままでは、逃げられてしまう!」

祝虎と祝彪がこう言うと、リンが叫んだ。

「逃がして、たまるもんかぁ!!」

リンは手に集中した気の弾を、高友乾に飛ばした。
気の弾は高友乾の片翼に命中した。

「きゃあ!」
「高友乾!?」

3人は高友乾の名前を叫んだ。
しかし、高友乾はそのまま失速し、そのまま大地へと不時着した。

「よし!そのまま奴等を縛り上げろ!!」

祝竜は兵士達に命令した。
兵士達は縄を持ち、4人の落ちた場所へ走っていった。

「よし!リン、フェイ、エチカ、胡車児、俺達もいくぞ!!」
「ええ!!あの時の恨みを存分に晴らしてやるわ!!」
「リン、余り興奮しないようにね」
<侵入者を捕縛します>
「よっしゃ、縛り上げて覗き見の感想を吐かせてやるぎゃ!!」

5人も兵士達の後を追っていった。

3人はよろよろと立ち上がり、高友乾の状態を調べようとした。

「どうだ、高友乾の様子は?」

楊雄は石秀に訊いた。

「・・・駄目だ。完全に気絶しちまってる」
「うう、どれもこれも俺が一時の欲望に身を焦がそうとしたからでやんす・・・」

時遷は首をうなだれて泣き言を言った。
楊雄はそんな時遷に言った。

「弱音を吐くな・・・。一時の性欲に溺れることは誰にでもある。・・・王英がそのいい例だ。それに、今はそんな泣き言をいっている場合ではない」

楊雄は手袋状の鉤爪をかちゃかちゃと動かしながら、刃を光らせた。
楊雄達の周りには、いつの間にか統一連合の兵士達が囲んでいた。

「うわっはっはっはっは、梁山泊の下衆共!!お前達もここまでだな!!」
「統一連合に逆らった罪、貴様等の命で償ってもらうぞ!!ほっほっほっほ!!」

祝虎と祝竜は高らかに笑いながら楊雄達に言った。
相変わらず下卑た笑いだ、とパウロ達は心中思った。
楊雄は鋭い目つきで祝家の兄弟2人を睨みつけて言った。

「・・・罪か。貧しい民のために戦っている俺達と、その貧しい民を平気で苦しめている貴様等、どっちが罪深い存在かな・・・?」
「な、何だと!?」
「どういうことだ!!」

祝竜は楊雄に訊いた。
楊雄は鼻で笑って答えた。

「そうではないか。戦う術無き貧しき民に重い税金を払わせ、その税金で豪華な宮殿を建て、毎夜毎夜宴を開き、我が世の春を楽しむ・・・。お前達や高?にカガリ・ユラ・アスハ、そしてラクス・クラインのような私服を肥やした豚共を、悪党と呼ばずして何と呼ぶ!?」

楊雄の言葉に、扈三娘は成程と思った。
統一連合やワルキューレの上層部のほとんどは、どいつもこいつも己の保身のみを考えた二流三流のカスばかりだ。
貧しい民を虐めるような法律を制定し、重い税金を払わせて、か弱い婦女子を自分の慰み物とする。
そのせいでどれほどの者達が苦しめられていることか。
特に統一連合初代主席のカガリ・ユラ・アスハとワルキューレ総帥のラクス・クラインは、かつて世界中をテロ行為で混乱に陥れ、さらにオーブのセイラン家、プラント議長のデュランダルをクーデターで制圧し、見事オーブ元首兼統一連合主席にプラント議長兼ワルキューレ総帥の地位に上り詰めた。
しかも、テロを起こした理由が『平和を脅かすと思ったから』という馬鹿げた理由だ。
まさにこれは一種のコメディか漫才であろう。
別にセイラン家やデュランダルを支持するわけではない。
しかし、あの2人はそれなりに世界の平和を考えて行動していた。
しかし、カガリとラクスは今の世界の現状と、自分達が多くの人々から恨まれていることを全然知らない、否、知ろうともしていないのだ。
これではカガリとラクスを含めた、統一連合やワルキューレの上層部の連中は、皆地獄行きの長距離レースをしているようなものではないか。
そう、祝彪の兄であるこいつ等のように。

「ぬぬう・・・、我々を豚呼ばわりをするとは・・・、許せん!!」
「お前等!!こいつ等をぶっ殺して、挽き肉にしちまえ!!ついでにそこの翼が生えた女は羽を引き剥がし、服をブリブリに破いて辱めてしまえ!!」

祝竜と祝虎は兵士達に命令すると、兵士達はいっせいに楊雄達に襲い掛かった。

「時遷、石秀。高友乾を守りながら戦え」
「分かっているぜ、楊雄の旦那!」
「了解でやんす!!」

楊雄達は高友乾を守る陣形で兵士達に立ち向かおうとした。
その時であった。
兵士達は一瞬にして打ちのめされ、地面に倒れた。

「な、何と!!」
「何事だ!!」

祝家の2兄弟が驚いていると、楊雄達の前には、行者の姿をした男が立っていた。
男は自分の名を大きな声で名乗った。

「行者・武松、只今参上!!」
「武松!!」
「武松でやんす!!」

石秀と時遷は武松の登場に驚いた。
楊雄は平然とした顔で武松に言った。

「ふっ・・・、佐助がお前をよこしたのか?」
「まあな。だが、俺だけじゃねえぜ」

武松が顎で右を指すと、そこには素早い拳打を繰り出して、パウロとリンの2人に互角に闘っている者がいた。

「うおお!!2対1でここまでやるとは!!」
「あの時梁山泊にはいなかった奴ね!あんたは一体何者!?」

リンの問いに男は答えた。

「俺の名は神行太保・戴宗。梁山泊十二神将・壊し屋陣八の配下の1人だ!!」

戴宗はそう叫ぶと、両方の拳に気を集中し、それをリンとパウロに拳ごとぶつけた。
パウロとリンは何とか受身をとって危機を逃れた。
だが、パウロとリンは驚きを隠せない。
この男は自分達の特殊能力である『瞬』と『気』の両方を使いこなしているのだ。
特殊能力を持っている者は、ワルキューレの中にもそう多くはいない。
1人の人間が持つ特殊能力は大抵1つであるのだが、中には特殊能力を2つ持つ者がいる。
それが梁山泊の中にいるというのか!?

「ちぃっ!これは手ごわい強敵が現れたもんだぜ!」

パウロはチッと舌打ちをした。
戴宗はへっと笑うと、武松に言った。

「おい、武松!お空の上で雷震子が待っている!さっさと引き上げようぜ!」
「おう、そうだな!!」

武松はそう言うと、倒れている高友乾の耳元で、

「起きろぉ!!」

と怒鳴り声を上げた。
高友乾はびくっと起き上がり、眼を覚ました。

「はあ、びっくりした・・・。って武松さん!?」
「よお、助けにきたぜ!!」

にかっと笑う武松の顔を見て、高友乾は深いため息をついた。

「はあぁ・・・、あなた達が来ているということは、佐助さんがよこしたのね。全くあの人は・・・」
「まあそんなことは言うなよ。さあ、早くここから撤退するとしようぜ。雷震子も空をクルクル飛んで待っているんだ」
「そうですね・・・。楊雄、石秀、時遷、撤退しますよ!」

3人は高友乾の声に気付いた。

「起きたか・・・」
「ふう、やっと撤退ができるぜ!!」
「よかったでやんす!!」

高友乾は3人の姿を見てほっとすると、翼を広げて、楊雄を背中に、石秀と時遷を両手に掴ませて、再び大空へ羽ばたいた。
武松と戴宗は高友乾が空へ羽ばたいたのを見ると、同時に声を上げて、雷震子の名を呼んだ。

『雷震子!!!』

すると大空から蜜柑色の翼を広げた少年が現れた。
しかしその少年の口には嘴がついていて、まるで本物の鳥のようだ。

「うわあ!!」
「化け物だぁ!!」

兵士達は蜜柑色の鳥人間に腰を抜かしてしまった。
武松と戴宗はその鳥人間の両手に掴まって、大声で笑いながら統一連合の者達に言った。

「はははははは!!やーい、俺達梁山泊に殺られたくなかったら、さっさと足を洗いやがれぇ!!」
「さっさと民達に謝ったほうが身のためだぜ!はっはっはっはっは!!」

夜空を飛び去っていく2人の鳥人間に、祝竜と祝虎は地団太を踏んだ。

「おのれおのれい梁山泊め!!我輩達をここまでコケにするとは
!!」
「絶対にぶっ殺してやる!!!」

そんな2人を尻目に祝彪と扈三娘は、あれが梁山泊のメンバーなのかと、自分達のアジトへと去っていく梁山泊のメンバーを見つめていた。

「何!?敵のスパイに逃げられただと!?」
「はい。彦達邸に侵入した者達に、見事逃げられてしまいました」

彦達は報告に来たパウロ、リン、フェイの3人の言葉を聴いて驚愕した。
まさか自分の屋敷に梁山泊の連中が忍び込むとは思ってもいなかった。
彦達はパウロに怒鳴った。

「ワルキューレともあろう者が、どうして侵入者を捕まえられなかったのだ!?」
「はい、侵入者を捕らえるところまでいったのですが、丁度侵入者の仲間が現れて・・・」
「何、仲間だと?」

パウロの言葉に祝朝奉は反応した。

「その侵入者の仲間とは一体誰だ?」

その問いに答えたのは、リンとフェイであった。

「はい。侵入者の仲間は全員で3人いまして、1人は武松という名の破戒僧でした」
「もう1人は神行太保・戴宗という名の男で、パウロと互角に闘う事のできる敵でした」
「そしてもう1人が雷震子という名で、あの姿は人というよりも鳥そのものでした」
「その者は蜜柑色の翼を持ち、顔には鳥の嘴を持っていました。侵入者の中にはその鳥人間と同じく、白い翼を持った女がいましたが、鳥の嘴は付いていませんでした」

祝朝奉はフェイの言葉を聴いて、

「成程・・・、鳥人か」

とつぶやいた。

「鳥人・・・ですか?」
「聴いた事の無い種族ですが・・・どのような種族なのですか?」

パウロとリンは祝朝奉に訊いた。

「鳥人とは、過去の歴史にも存在していたとされる種族でな、男の鳥人は鳥の頭と翼を持ち、逆に女の鳥人は鳥の翼しか持っていない。西洋で言われている『天使』と呼ばれるものはその種族ではないかという研究家もおる。遺伝子操作が可能となった今の時代、奇形嗜好の夫婦がコーディネイターの鳥人を生み出すことも少なくなかったのだよ。
しかし、鳥が二足歩行になった人間を見て友好関係を持とうとする者はおらんだろう?だから過去の歴史ではそういった鳥人を捕まえる輩がおってな、捕獲された鳥人は加工されて扇子や剥製にされたり、女の鳥人は歪んだ欲望の持った男供の愛玩物にされたりもした。
そのため、今でも鳥人は人間を蔑視して、その人間共も鳥人を下等種族扱いしている。ある意味、ナチュラルとコーディネイターの差別よりも遥かに上の問題かも知れぬな・・・」

パウロ達は祝朝奉の話を聴いて、鳥人は人間として全く扱われていないじゃないか、と思った。
ナチュラルとコーディネイターの確執なんて目じゃない。
鳥人だってれっきとした人間なんだ。
それを捕まえて剥製にしたり、下衆共のオモチャにしただって?
非人道の域を超えているぞ!
そう考えているパウロ達をよそに、黄文炳は怪しい目をしながらぐふぐふと笑っていた。

「ぐふふふふ・・・、女の鳥人ですかよん。梁山泊にもこんな人間がいたとは〜。もし、梁山泊を倒してその女の鳥人を捕まえて、わたくしの愛人にすれば、あんなことやこんなことも・・・。さらに、あっ、あぁん!あんなことまでよ〜ん!あ〜ん!!」

黄文炳は女の鳥人と淫らな事をしている自分を妄想して、身を悶えていた。
パウロ達は今すぐにでもこいつをぶん殴りたいと思った。
しかし、こいつは自分達の上司。
殴っては27楽奏の恥となる。
それに、他のワルキューレ兵にも迷惑がかかる。
我慢だ我慢、と自分達を自制していた。
彦達はパウロ達に言った。

「パウロ、リン、フェイ。明日お前達は祝家荘の軍と共に行動し、梁山泊を叩き潰せ!そしてその鳥人とやらを捕らえ、我々の下へ連れて来い!」

「は、はい!了解しました!!」

3人はそう返事をして彦達の部屋から出て行った。
3人が部屋から出た後、彦達はほくそ笑みを浮かべた。

「ふふふふふ・・・、梁山泊を倒し、鳥人を高?様に献上すれば、さぞやお喜びになるだろう。そうすれば私の昇格も間違いななし。ふふふふふ・・・」


「ああ〜!本当に腹が立つわ、あのデカ眉毛!!」
「本当ね。人間のクズとはまさにあの人のことを言いますね」
「ああ、全くだ」

パウロ達は廊下を歩きながら、黄文炳に対する怒りをぶちまけていた。

「あいつの頭を本当にぶん殴ってやりたいわ!」
「でも、そんなことをすればたちまち統一連合上層部に知れ渡り、私達の首と胴体が分かれてしまうから・・・」
「あんな奴に嫌々従わなくてはならないのも大変だな・・・。裏切る気は無いけどな、はっはっは」
「笑ってる場合!?」
「いやあ、今はあいつらに従うしかねえだろ、あははははは!」

パウロは無理に笑いながら、エチカもあんな奴に従って大変だなと思った。



梁山泊の会議室では、命からがら戻ってきた、楊雄、石秀、高友乾、時遷の4人の報告が行われていた。
会議室にはKONRON社のメンバーである太乙真人と黄竜真人も出席していた。
黄竜は褐色の肌をして、黒い長髪を後ろに束ねている。

「へえ、元地球連合のデュエルがあるとはねえ、驚きだよ」
「他のMSも調べてもらいたかったのだがな・・・」

黄竜はそう言いながら時遷の方に目を向けた。
時遷は身を小さくしながらうつむいて言った。

「も、申し訳ないでやんす・・・、俺が敵の女兵士に目を奪われていたから・・・」
「いや、誤らなくていいよ。今回の失敗は戦いの時に挽回してくれればいいからさ」

太乙は笑いながら言った。

「はい!ありがたき幸せでやんす!」

時遷は頭を下げて太乙に言った。
柴進は楊雄に訊いた。

「それよりも、敵のパイロットの方が気になりますね・・・。敵について調べてはいないのですか?」
「はっ。敵のパイロットは、先日梁山泊に攻め込んだ5人のワルキューレ兵と、祝家荘の3兄弟。そして、扈家荘の女戦士、一丈青・扈三娘が手強いかと思われます」
「成程。この間梁山泊に攻め込んだワルキューレ兵5人のMSの性能が気になるな」

花栄はこう言いながら、楊雄の報告書を眺めていた。
花栄は扈三娘の載っているページを開いていた。

「それにしても一丈青か・・・。噂には聞いていたがなあ。予測だけれどスリーサイズまで書いてやがる。時遷が書いたのか?
それにしても綺麗だなぁ・・・」
「花栄、見とれている場合かっての!」

横から張飛が注意をした。

「ああ、すまない。余計だったな」
「分かればいいって」

張飛はそう言うと、劉備に訊いた。

「兄貴。ここは俺から提案だが、このまま敵が梁山泊に来るのを待つのは面倒だ。だから今度は俺達が敵の本拠地に攻め込むのがいいと思うんだが?」
「敵の本拠地に攻め込む?」
「ああ!!敵の本拠地に攻め込んで、相手の浮き足を立たせるんだ!敵もまさか相手がこっちに来ることはないだろうと考えているわけがないからな!」

張飛がこう言っているところへ、関羽が口を挟んだ。

「待て張飛。お前の言ったとおり、もし敵が油断していたとしよう。だが、もし敵が我々が来ることを予測していたらどうする?全滅も免れんぞ!」

関羽に続いて楊志も言った。

「関羽殿の言うとおりだ。敵も時遷達が侵入してきたから、警備や防衛もしなければならないと用心していると思うぞ?」
「け、けどよ・・・、敵に攻め込まれる前にこっちから攻めた方がいいじゃねえか!」

張飛の言葉に楊志が答えた。

「張飛。先日梁山泊へ来たワルキューレ27楽奏の者達と2人のワルキューレ兵が敵の本拠地にいるということは、その者達も警備にあたっているかも知れない。お前の言うことも分かるが、今は梁山泊の軍を整えてから出陣した方がいい。もう少し冷静になれ」

楊志の言葉に張飛は反論することができなかった。
せっかく梁山泊のことを思って意見したのに、まさか反論できないほどに楊志に否定されてしまった。
軍を整えてから出陣した方がいいだって?
それじゃあいつまでたってもこの国は悪党共に支配されたままじゃねえか!
張飛はそう言いたそうな顔をして俯いていた。
そんな張飛を見た呉用は、劉備に言った。

「頭領。ここは張飛の作戦に賭けてみませんか?」
「何だって!?」

楊志は驚きながら呉用に反論した。

「呉用参謀、正気ですか!?ついさっき時遷達が敵にばれて命からがら帰ってきたんですよ!?また敵の本拠地に行けば、全滅させられる可能性が非常に高いです!」
「確かに直接的の本拠地に攻め込めば、全滅します。しかし、間接的に攻め込めばどうでしょうか?」
「間接的に・・・?」
「どういうことか、説明してもらおうか、呉用?」

会議室にいる者達は、呉用のほうに耳を傾けた。

「では、説明させていただきましょう・・・・・・・」


「・・・・と、いう作戦ですがいかがでしょう?」
「成程、そうすれば全滅は免れるな・・・」
「いい作戦じゃねえか、呉用さんよ?」

林冲、陣八、そして他の者達も呉用の言った作戦に納得がいった。
しかし、楊志だけは不機嫌な顔をしていた。

「確かに納得はいく・・・。しかし参謀、もし敵に仲間が捕らえられたらどうする?」
「それならご安心を。既に対策は打っておりますので」
「なら、いいがな・・・」

楊志はそう言うと、眼を閉じて黙りこくった。
呉用は微笑みながら劉備に言った。

「では、私の提案した作戦でいいですね?」
「・・・よし、いいだろう。では皆、今回は呉用の指示に従って行動してもらいたい!みんなの健闘を祈るぞ!」
「おう!!」

会議室の者達は声を上げて叫んだ。
「なんか、慌しくなってきたね・・・」
「そうだな・・・」

マヤ達は慌しくなっている梁山泊のアジトを見ながら会話をしていた。
梁山泊のメンバーは武器を持ったり、MS格納庫へ行ったりと、戦闘の準備を行っていた。

「また戦いが始まるのかな・・・?」

カンは体を震わせながら言っていると、佐助が向こうからやってきた。

「おーい、マヤ、健太、カン!もうすぐ出陣するぞ!!」
「やっぱり・・・」

カンはガックリと首を下げた。
佐助はカンを見て首をかしげた。

「・・・どうした、カン。元気がないぞ?」
「元気が無いのも当然ですよ」

マヤが佐助に言った。

「今日は梁山泊のアジトの修復で体をいっぱい使ったんです。だからやっと寝られるかと思ったのに・・・」
「・・・それで、今度はどんな敵なんです?」

健太が佐助に訊いた。

「ああ、敵は祝家荘という連中だ。軍学校でも習っただろう?」

佐助がこう訊くと、健太は苦そうな顔をした。
マヤは不思議そうに健太の顔を見た。

「どうしたの、健太君?なんか顔が悪いよ?」
「いや、顔が悪いのなんのって、祝家荘といえば黄巾の乱で多くの手柄を立てたとされた軍で、かつ李、扈家荘の2つの軍を従えている連中だぞ!?祝家3兄弟と棒術の達人・欒廷玉、そして李家荘の撲天G・李応に、扈家荘の女剣士・一丈青・扈三娘!教科書にも載っているぞ!!」

健太はマヤに大声で怒鳴った。
マヤは数秒経ってから驚いた。

「・・・ええええ!?そんなに凄い人達なの!?」
「そうだよ!並みのレジスタンスじゃ絶対に敵わない!!曽頭市と互角に渡り合えるとされているんだ!」

健太に続いて佐助も言った。

「そう、そんでその祝家荘の連中が、前に攻めてきた慕容彦達の軍と手を組み、ここを潰しに来ようとしているわけ。だから今回は俺達が攻めに行ってやろうじゃないかという作戦なんだ」
「攻めに行こうって・・・、下手したら捕まってしまいますよ?」
「一体どういう作戦で攻めるんですか?」

健太とマヤは佐助に訊いた。
佐助は笑いながら答えた。

「ヒヒヒヒ・・・。それはな・・・」


秦明と黄信は鎧を装着し、戦の準備を整えた。
そう、全ては忌まわしき彦達の首を取るためである。
我らの妻と子を無惨に殺した憎き輩。
絶対に地獄へ落としてくれる!!

「慕容彦達・・・、今に見ていろ!」
「奴の首を叩き斬り、妻とこの仇を取る・・・!!」

怒りに震える2人の姿は、紅き明王の姿のようであった。


梁山泊修練場には、6機のMSと1機の戦闘機、そして梁山泊のメンバー達が揃っていた。
今回出陣するメンバーは、
・智多星・呉用
・豹子頭・林冲
・霹靂火・秦明
・鎮三山・黄信
・火眼?猊・ケ飛
・青面獣・楊志
・赤髪鬼・劉唐
・矮脚虎・王英
・菜園子・張青
・猿飛佐助
・鼓上蚤・時遷
・錦豹子・楊林
・神行太保・戴宗
・雷震子
・高友乾
・行者・武松
そして、パイロットは、
・マヤ・テンム
・大江戸健太
・カン・トンメン
・ダンベール・タンベール
・ジェシカ・エッセンス
・那托
・レッテ・ラッテン
の6人であった。
出陣のメンバーのリーダーである呉用が叫ぶ。

「今回の戦いは敵に捕縛される可能性が高いので、今回の作戦は私の指示に従ってもらいます!いいですね!?」
「おう!!」

梁山泊のメンバーは甲高い叫び声を挙げた。

「よろしいです!では、出陣!!」

「右良し、左良し!」
「彦達邸の周り、異常無し!」

彦達邸の兵士2人は、外を回って警備を行っていた。
特に敵はいないようだ。
片方の兵士はあくびをしながら、護身用の槍を振り回す。

「ふわああ、彦達様の邸宅に敵が侵入して、その後敵が来ないか警備をしろって言われたから、邸宅の周りを見回しているけど、全然敵は来ないな」
「梁山泊の連中も、たいしたこと無いな。こりゃ案外俺たちでも倒せるんじゃねえのか?」

もう1人の兵士がへらへらとした顔で話す。

「はっはっはっは、違いねぇや!!」
「わっはっはっはっはっはっは!!」

2人は大笑いしながら正面を見る。
すると正面には巨大な大砲の弾が、ゴォッと音を立てて向かっていた。
2人の兵士の体は大砲の弾に、邸宅の壁ごと木っ端微塵に吹き飛ばされた。
壁が吹き飛ぶ音に彦達、祝朝奉、李応、扈大公の4人の主は心臓が飛び出るほどに驚いた。

「い、一体何事だ!?」

彦達が思わず声を上げると、廊下から兵士が慌てて駆け込んで来た。

「た、大変です!敵の襲来です!!」
「何だと!?」
「一体どういうことだ!?」

祝朝奉が兵士に訊く。
兵士は動揺している心を抑えて言った。

「はい・・・!彦達邸の向こう側から、突然、大砲の弾が飛んできて、弾は彦達邸の壁を破壊・・・、しかも、大砲の弾だけでなく、空から爆弾が次々と降ってきて・・・!!」

兵士の言うとおり、大砲の弾は次々と彦達邸を破壊し、さらに空からは無数の爆弾やライフル弾が雨のように降ってきている。
彦達邸には未だ直接被害はでていないが、邸宅の周りは火の海の状態であった。
彦達はなんてことだ、と歯軋りをした。

「まさか、梁山泊の連中が向こうから攻めてくるとは・・・。予想にもしていなかった・・・!!」
「ええい、貴様!わしの誇る3兄弟と全ての兵士に連絡しろ!!MS部隊を総動員させろ!!応戦するのだとな!!」
「それとわしの子供達にも出動を要請するのだ!!今すぐにソードカラミティと105ダガーを出撃させろと言うんだ!!」

祝朝奉と扈大公は焦りながら兵士に命令をした。
李応は祝朝奉達が兵士に命ずる前に、自分の部下である杜興と候健を呼んだ。

「戦でございますね、李応様?」

杜興が李応に訊く。

「ああ、すぐに梁山泊を迎え撃つぞ!」
「・・・御意!!」

3人は彦達の部屋から一瞬で抜け出した。
一方、彦達と黄文炳は部屋の中をうろうろと歩いていた。

「ひゃあああ!!どうするんですか〜よ〜ん!彦達様ぁ〜!!」
「ええい!私に訊くな!私もどうするかを考えている所だ!」

2人がそう口論していると、どこからともなく、パウロ達ワルキューレ5人組が現れた。
パウロが彦達に怒鳴る。

「うろたえてんじゃねえよ、彦達!!お前等はいち大将だろ!?大将は大将らしくどっしりと構えてろ!!」
「き、貴様!偉そうな口をきくな!そ、それにお前達は出撃してないじゃないか!?自分達のMSはどうしたあ!?」

恐怖の震えにしどろもどろになる彦達に、リンとフェイは腹に蹴りをお見舞いした。

「ごお・・・!?」
「あたし達も出撃するに決まってるでしょ?このスケベ親父!」
「上に立つ者ならいつも落ち着いていませんとね・・・」

リンとフェイの気迫に、黄文炳は怯えている。
エチカと胡車児はパウロ達に言った。

<パウロ、リン、フェイ。早く出撃しましょう>
「エチカの言うとおりだぎゃ!俺達も迎え撃ちに行くぎゃ!!」
「ああ、その通りだな。よし、出撃するぞ!!」
「了解!!」


健太の搭乗するジンキャノンとダンベールの乗るジンアックスは、ショルダーキャノン砲とバズーカ砲で彦達邸を攻撃していた。
ジンキャノンとジンアックスは装甲中に黒いマントを纏っている。
他の梁山泊メンバーも黒いマントを纏い、彦達邸が破壊されていく様を見つめていた。

「はははは!!さすが呉用先生だぜ!こうやって黒いマントを纏って、夜の闇を保護色代わりにして敵を遠くから攻撃するという戦法!敵も今頃飛び起きている頃だろうなぁ!」

健太は呉用の考えた策に思わず笑いがこみ上げていた。
それを通信で聴いていたダンベールは健太を叱り飛ばす。

「こらぁ、健太!!戦闘中に笑っているとは何事だ!!敵がいつ砲弾を飛ばしてくるか分からないんだ!もっと気を引き締めろ!!」
「す、すみません、先生・・・」

健太も流石に調子に乗るとまずいと思い、気を引き締めなおした。
と、その時、バート・ハイムが敵部隊を発見した。

「敵部隊が出現しました!!」
「・・・敵戦艦とMSは?」

落ち着いた口調で呉用はバートに訊いた。

「敵戦艦はレセップス大型陸上戦艦2隻、MS部隊は5つ、隊長機はラゴゥ3機、ソードカラミティ、105ダガー、それぞれ1機づつ!それぞれの部隊のMSは、バクゥ15機とストライクダガー10機!それと、あっ!?」
「どうしました、バート?」
「見たことも無いMSが3機・・・、それと、緑色のディンレイヴンと青色のデュエルがそれぞれ1機が現れました!!」

バートの報告を聴いて、ワルキューレのMSかと呉用は考えた。
それにしても、自分達の持っている戦力を総動員して戦いに挑むとは、自分からしてみれば実に愚かな作戦だ。
もし部隊が全滅すれば自分たちにどのような損害を生み出すのか、まるで分かっていないようだ。
部隊を少しづつ出撃させて、敵の戦力を削ぐのが兵法だろうに。
呉用はトランシーバーで、全てのメンバーに連絡した。

「皆さん、敵は総動員で我々に挑むつもりです!兵法の何たるやを知らぬ統一連合に、我々梁山泊の力を思い知らしめるのです!
健太さんとダンベールさん、そして別部隊のカンさんとマヤさんはそのまま弾を補充しながら敵部隊と彦達邸を攻撃、楊志と林冲の部隊は共に向かってくるMS部隊を迎撃、時遷と楊林と戴宗は秦明さんと黄信さんと共に彦達邸へ潜入し、空撃部隊と共に彦達邸を徹底的に破壊してください!」
「おう!!」

梁山泊のメンバーは雄叫びを上げて、彦達・祝・李・扈家荘連合軍を攻撃した。


レセップス級陸上戦艦・タイザンの艦長を務める祝朝奉は、突如襲撃してきた敵に動揺していた。

「くそお、レジスタンスのゴミ共め!今に目にものを見せてやるぞ!!祝竜、祝虎、祝彪!お前達の力を見せてやれ!!」

祝朝奉の通信を聴いて、祝竜と祝虎は獣のような叫び声を揚げた。

「おおおお!!わかっておるぞ、父上!!」
「ぐおおお!!逆賊共に目に物を見せてくれるわぁ!!」

2人がこう言っている中、祝彪はラゴゥのコクピットの中でため息をついた。
祝彪の乗っているラゴゥを見て、欒廷玉は祝彪に訊いた。

「どうした、祝彪殿?」
「いやあね、また戦いが始まるんだなぁと思ってさ・・・、僕は扈三娘と平和に暮らしたいだけなのに、どうして戦いはそんなささやかな願いすら奪うんだって思って・・・」
「・・・甘ったれるのではないぞ、祝彪殿!」
「えっ・・・?」
「戦わなければその願いは叶わない。ならば戦うしか無いであろう!うじうじと悩む暇があれば、まずは己の武器で戦うのみであろう!!」

欒廷玉の言葉に祝彪は勇気付けられた。
そうだ、ここでうじうじしていては、また扈三娘に笑われる!
もっとしっかりしなくては!!

「ありがとうございます、欒廷玉さん!僕、頑張ります!!」
「分かればよろしい」

2人がこう話していると、祝虎が叫んだ。

「おらあ!行くぞぉ野郎共!!!」

祝家荘の部隊は、敵がいるであろう所に向かっていった。


「いいか、三娘?敵はおそらく、後方で攻撃を行っているはずだ。だから俺達はそいつらが攻撃を行っている場所へ突撃を行う!いいな!!」

扈成は扈三娘にこう言った。
扈三娘はため息をついて扈成の乗る105ダガーに通信を入れる。

「兄さん・・・、そんな事は私も分かっているから。早く行きましょう。さっきから3回も聴いているわよ?」
「いや、念には念を入れてだよ、三娘!あはははは・・・」
「・・・はいはい。それじゃあ、いくわよ!!!」

扈家荘の部隊は扈三娘の掛け声と共に出撃した。
祝家の3兄弟の部隊が梁山泊の陣に向かって突進していると、祝竜の部隊の副隊長・シューマイが祝竜の乗るラゴゥに通信を入れた。

『祝竜様!正面に敵の陣が見えました!!』
「よし!そのまま突撃するぞ!手柄は我輩達がいただくぞ!逆賊共にミサイルの雨をお見舞いしてやれ!!」

祝竜の掛け声と共に、祝竜隊は攻撃を開始した。
バクゥが敵陣に向けて、大量のミサイルを発射する。
祝虎も負けていられるかと、兵士達に激を入れた。

「野郎共!祝竜の部隊の奴らに先を越されるな!!手柄は俺達のもんだ!!」

祝虎の部隊も手柄を先に越されてたまるかとばかりに、ミサイルの長距離攻撃を始めた。
祝彪も兵士達に命令した。

「えっと・・・、僕達も攻撃を開始します!全機、ミサイルを発射してください!それとミサイルは全部発射しないで下さいね!」

祝彪の部隊はミサイルを少なめに発射した。

「前方からミサイルが接近!」

マリク・ヤードバーズが呉用に報告した。
呉用は扇を仰ぎながら薄く微笑んだ。
成程、ミサイルを大量に発射してここを破壊するつもりか。
敵を殲滅させることにしか興味が無い連中の考えそうなことだ。
呉用は楊志の部隊に命令した。

「楊志部隊!前方に接近しているミサイルを迎撃してください!!」

楊志は呉用の命令を聴くと、兵士達に命令した。

「よし!楊志部隊、出撃するぞ!!」
「おーーーーーー!!」

楊志部隊は馬に乗って、ミサイルが飛んでくる方向へと走り出した。
楊志達は剣を抜くと、ミサイルに向かってカマイタチを繰り出す。

「うりゃああ!!」

剣から繰り出されたカマイタチはミサイルを真っ二つに切り裂いた。
両断されたミサイルは空中で爆散した。

「な、何!?」
「ミサイルが・・・全滅!?」
「そ、そんな!!」

祝家の3兄弟は想像を超えた出来事に驚愕した。
欒廷玉はこの光景を見て、敵の中にかなりの強者がいるようだと思わず武者震いをした。
呉用は続いて林冲に命令する。

「続いて林冲部隊、出撃してください!!」
「よし、全員突撃!敵の首を取れ!!」
「おーーーー!!」

楊志部隊に続いて林冲の部隊も出撃した。
楊志部隊もミサイルを全て打ち落とすと、敵のバクゥ部隊に向かって進撃する。

「今だ!全員進撃せよ!!」

2つの部隊は目の前にいるバクゥ、ラゴゥ部隊に向かって前進した。
祝家3兄弟は予想外の出来事に動揺したが、すぐに気を取り直すと兵士達に命令した。

「ええい!相手はMSも持たぬ只の人間だ!恐れることは無い!!」
「そうだ!!人間がMSに敵うはずが無い!踏み潰してペシャンコにしてやれ!!」

祝竜、祝虎の通信を聴いた兵士達は動揺する気持ちを抑えた。
そうだ、ミサイルを何らかの方法で打ち落としても所詮敵は人間。
MSに敵うはずが無いのだ!
バクゥの軍勢は楊志、林冲部隊に向かって攻撃した。
だが、ミサイルは全て発射してしまったので、レールガンを使って対応するしかない。
しかし、ミサイルを発射するバクゥも存在した。
祝彪の部隊である。
祝彪の部隊はミサイルを全て発射しなかったので、ミサイル切れを起こした2人の兄の部隊とは違い、祝彪の部隊はミサイルを発射することが出来たのである。
楊志、林冲の部隊はレールガンとミサイルの雨を掻い潜りながら、敵のMSに攻撃をする。
劉唐と王英は敵の攻撃を回避しながら、レールガンとミサイルポッドさえ破壊できれば、敵の戦力を落とせると考えた。

「よし、王英!敵の砲身を破壊するぞ!」
「よっしゃあ!!任せとけ!!」

王英はバクゥの背に乗り、ミサイルポッドを粉微塵に切り裂いた。

『そんな!ミサイルポッドが破壊されるなんて!』

シューマイはコックピットの中で驚いた。
まさか人間にMSを破壊することができるなんて!
シューマイは驚きながら、ミサイルポッドを破壊することができるということは、MSを一刀両断することも可能だろう。
このままではこの人間にやられる!!

『両断されてたまるか!!』

シューマイは王英を振り落とそうと、バクゥを右左と走らせた。
王英は一瞬バランスを崩すが、なんとかバクゥの背に掴まることに成功した。

「しかし、このままじゃいずれは振り落とされるな。さて、どうするか・・・」

王英がこう考えていると、劉唐が声を上げた。

「王英!その鉄犬MSから降りろ!そいつは俺が倒す!!」
「おう!ありがてぇ!!」

王英は劉唐の声を聴くと、すぐにシューマイの乗るバクゥから飛び降りた。
王英が飛び降りたことにシューマイはまだ気付いていない。

「落ちろ落ちろぉ!!!」

シューマイは劉唐が側にいることすら気付いていない。
劉唐は朴刀を振り上げると、そのまま一気に振り下ろした。

「えいやあぁ!!」

シューマイのバクゥはコックピットごと真っ二つに切り裂かれ、パイロットのシューマイの身体も縦一閃に2つに分かれた。

「よし!この調子でいくぜ、王英!」
「よっしゃあ!!燃えてきたぜ!!」

劉唐と王英は次々と向かってくるバクゥを絶妙なコンビプレーで撃墜していった。

楊志は祝竜の乗るラゴゥと戦っていた。
祝竜のラゴゥが2連ビームキャノンを発射すれば、楊志はそれをひらりとかわす。

「ええい!なぜ我輩が人間ごときに苦戦するのだ!こっちはMSだぞ、MS!!」

祝竜はラゴゥを空中に飛び上がらせ、楊志にクローの連打をお見舞いしようと襲い掛かった。

「人間如きにMSに敵うはずが無いんだよぉ!!」

祝竜は偽りの顔を剥がし、楊志に襲い掛かる。
が、着地した場所には楊志はいない。
祝竜は楊志がMSに潰されたと思った。
そうだ、所詮人間がMSに敵いはしないのだ!

「あひゃはははは!勝った、勝ったぞ!!所詮人間がMSに勝とうなど無謀なのだ!あひゃはははははははは!!」

祝竜は下卑た声で笑った。
その時、MSの上に何かが落ちる音が聞こえた。
一体なんだと祝竜が思っていると、機体に衝撃が走った。

「な、何だ!?一体何が起こったのだ!!」

祝竜が激しく動揺していると、機体がバランスを崩しその場に倒れた。

「ど、どうなっているのだ!?」

祝竜は操縦レバーを押したり引いたりするが、全くといっていいほど動かない。

「ま、まさか・・・、あの男が生きていたというのか・・・?」

祝竜はとてつもない恐怖に襲われた。
このままでは自分が殺される。
嫌だ、自分はまだ死にたくない!!
祝竜は急いでコックピットを空けようとしたが、うつ伏せになってMSが倒れているのか、全く開かない。
まずい、非常にまずい。
このまま自分は機体に閉じ込められたまま死ぬのか?
それも嫌だ!
敵に殺されるのも嫌だが、こんな惨めな死に方も嫌だ!

「誰かぁ!ここから出してくれ!!誰でもいい!!ここから我輩を救出してくれ!!」

祝竜は涙目になりながら助けを呼んだ。
と、その時、MSのコックピットが開いた。
助かった。
きっと自分の部隊が助けに来てくれたのだろう。
祝竜は気を取り直して、コックピットから出ようとした。

「いやあ我輩を助けてくれてありが、と・・・!?」

祝竜は唇が固まった。
コックピットの外には、自分が仕留めようとしたあの青痣の男がいるではないか!!

「ふっ・・・。誰でもいいから助けに来てくれとお前が言っていたので、助けに来たぞ?」

楊志は鼻で笑うと、吹毛剣を抜いて、その刃を祝竜に向けた。
祝竜は震える声で楊志に訊いた。

「き、貴様は一体なぜ無事でいるのだ!?だ、大体ラゴゥが地上に着いたときには、お前はそこにいなかったではないか!?」
「フン。貴様のMSが地上に降りる瞬間に、俺も空中に跳びあがり、お前のMSの背を取ったのだ。そして、MSのビームキャノン砲と口のビームサーベルと四肢を切り裂いて、戦闘不能にしたのだ。そうすれば貴様を簡単に引きずり出せるからな」

楊志は静かな口調でスラスラと祝竜に答えた。
祝竜は顔を真っ赤にして怒りながら、腰に下げた剣を引き抜く。

「ち、畜生!この我輩に恥をかかせるとは!!・・・良かろう!我輩の剣の切れ味を見せてやる!!!」

祝竜は剣を振り回し、楊志に斬りかかった。
楊志は祝竜の太刀筋を受け流しながら対応した。
祝竜は高笑いをしながら剣を振り回す。

「ははははははは!!どうだどうだどうだ!!!我輩の剣捌きは!?我輩は宇宙統一連合・祝家荘が長な・・・」

祝竜がその続きを言おうとしたが、祝竜は一瞬にしてその身を剣ごと切り刻まれ、あっという間に肉塊と化した。

「吹毛剣に斬れぬものなし・・・。その続きは地獄の鬼共にでも言っていろ・・・」

祝家荘長男 祝竜 死亡
祝虎と祝彪は長男の祝竜が死んだことを感じ取った。

「祝竜兄さん・・・、無茶をするからこうなったんだよ・・・」

祝彪は祝竜の死に対して眉をひそめたが、祝虎は何も感じることはなかった。
祝虎にとって戦いとは勝つか負けるか、只それだけ。
負けた奴なんかに同情もしないし、涙も流さない。
負けた奴が1番悪いのだ!!

「フン、馬鹿な兄貴だぜ!普段から我輩などと気取ってるから悪いんだ!」

祝虎はそう呟くと、健太とダンベールの乗るMSの方へと、2,3機のバクゥと共に向かっていった。

「いくぞ!レバー、ニラ!!あの2機のMSをぶっ潰すぞ!!」
「了解!」
「了解!」

祝虎の配下であるレバーとニラはバクゥを走らせながら返事をした。
彦達邸に向かって撃っていた健太とダンベールも、3機のMSが自分達の方へ向かってくることに気付いた。

「ま、まずい!」
「いかん!健太、急いで奴らを仕留めるぞ!!」

ダンベールはジンアックスを動かし、向かってくる犬型MS3機にバズーカ砲を撃ち込んだ。
健太もダンベールの言葉を聴いて、両肩のキャノン砲を祝虎のラゴゥに向けた。

「不意打ちなんてされてたまるかよ!!」

健太はそう言って、ショルダーキャノン砲を発射した。
3つの砲弾は祝虎の部隊に襲い掛かった。
しかし、3機はそれをバクゥとラゴゥの持つ機動性で回避した。

「そんなへなちょこ砲弾が、バクゥに敵うかよ!」

レバーの乗るバクゥはジンキャノンに向かってタックルを仕掛け、ジンキャノンを大きくよろけさせた。

「ぐわあ!?」
「健太!大丈夫か!!」

ダンベールが健太に呼びかけるが、

「余所見はいけないぜ!」

と、祝虎とニラがジンアックスに襲い掛かった。
祝虎のラゴゥはクローでジンアックスのコクピット目掛けて突き刺そうとするが、ジンアックスはそれをシールドで受け止めるが、ニラの乗るバクゥの飛び掛り突進攻撃により、ジンアックスは後ろにのけぞり倒れてしまった。

「祝虎様!今がチャンスです!」

ニラが祝虎を呼ぶと、祝虎は虎のような声で笑って仰向けに倒れたジンアックスをラゴゥで踏みつけた。
祝虎のラゴゥは今にでも獲物の生命を絶とうとする野獣の姿を彷彿としていた。

「ぐわっはっはっは!これが俺達祝虎部隊の力だ!さあて、お前のコクピットをラゴゥのクローでぐちゃぐちゃに掻き回して、パイロットを肉汁たっぷりのシチューにしてやる!!」

ラゴゥのクローが不気味に輝く。
レバーの操るバクゥと戦っている健太は、ラゴゥに踏みつけられているジンアックスを見て、先生を救わなくてはと思った。
そのためには、この邪魔な敵を倒さなくてはならない!
健太がそう思っていると、レバーの乗るバクゥは一時後退し、そして助走をつけて突進してきた。

「おりゃあ!かっこよくてめえをぶち壊してやらぁ!!はははははははははははははははは!!!!!」

レバーは戦う者としての血が騒ぐのか、高笑いをしながらジンキャノンに襲い掛かった。
健太はコクピットの中で叫び声をあげた。

「てめえは邪魔だぁ!失せやがれぇ!!!」

ジンキャノンはショルダーキャノン砲を数発バクゥに撃ち込んだ。
バクゥはそれをまたひらりと交わした。

「ふん!そんなものは避けられると・・・、!?」

レバーは驚愕した。
ジンキャノンの撃った砲弾は、祝虎のラゴゥとニラのバクゥに向かっていた。
砲弾の1つはラゴゥのビームキャノンに当たり、もう1つはバクゥのコクピットに直撃した。
ラゴゥは大きくバランスを崩し、よろけて倒れたが、バクゥは直撃を受けたために木っ端微塵に爆発した。
コクピットにいたニラもぐしゃぐしゃの挽き肉となり、MSの破片と共に、ニラの残骸が飛び散った。
まさか、こいつはバクゥが避けると計算して、自分の方へキャノン砲を撃ったのか!?
しかも、その先に祝虎様とニラがいることを知っていて!?
レバーがそう考えていると、自分の目の前にジンキャノンが迫っている。

「ひっ!?」

レバーは自分が死ぬと一瞬思ったが、やがてそれを考えるのをやめた。
レバーのバクゥは頭部をジンキャノンに蹴飛ばされて仰向けにひっくり返り、腹部にあるコクピットをそのまま踏み潰され、レバーの体はせんべいのようにぺしゃんこに押し潰されたからである。

「ちっ!レバーとニラがやられたか!とことん役に立たない奴らだぜ!」

ラゴゥを起き上がらせながら、祝虎は舌打ちをした。
祝虎は自分の部下の死にも涙を流さなかった。
この男の心にあるのは、敵を戦って殺すという単純な思考のみ。
その他のことには一切興味を持ちはしない。
家族も部下もいらない。
全ては己の力のみ!
祝虎は昔からこういう非情な男なのである。
ダンベールはジンアックスを起き上がらせた。
ジンアックスを起こすと、健太の乗るジンキャノンがやってきた。

「先生!助けに来ました!!」
「おお、健太か!すまないな!」
「いえ、それほどでもありませんよ。それよりも、あのラゴゥを倒すんですよね?加勢しますか?」

健太はダンベールに訊いた。
ダンベールは笑いながら言った。

「ははは、心配はいらん!俺はお前達の先生だぞ?あんな奴に負けるわけが無いだろう?」
「だ、だけど先生、あいつは強いぜ!2機でなきゃ勝てないって!」
「大丈夫だ!個人曰く『人とあっては人を斬り、獣とあっては獣を斬れ」と。すなわち、あの獣は俺の敵というわけだ!お前の手出しは無用だ!」

ダンベールはそう言うと、ジンアックスをラゴゥに向かって走らせた。

「あっ!先生!!」

健太はダンベールを引き止めるが、ジンアックスとラゴゥは戦ってしまった。
こうなったら仕方が無い。
せめて他の敵MSを倒しておこう。

「先生!余り無茶しないで下さいよ!!」

健太はジンアックスに向かって言うと、バクゥ部隊をショルダーキャノン砲で迎撃した。

ジンアックスのヒートアックスと、ラゴゥのクローが火花を散らし、すさまじい格闘戦を行っていた。

「ぐう!・・・さすがは元ザフト軍のMS!機能性においても素晴らしいな!」

ダンベールは素早い動きで相手を撹乱させ、鋭い爪で敵を斬るというラゴゥの戦法にただただ脱帽していた。
祝虎は虎の如き雄叫びを上げて、ジンアックスを襲う。

「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

ラゴゥは虎のような動きで走り、ビームサーベルを出して、ジンアックスの脚部を切り裂こうとした。
だが、ダンベールもその戦法を知っていた。
ダンベールは北京軍学校の教師であったが故に、ラゴゥがどういう戦い方をするのかを、すでに操縦訓練などで覚えていた。

「バクゥとラゴゥのビームサーベルは横の方向にしか広がらない。しかも、走行中は頭部を動かせない仕組みになっている。・・・・ならば!!!」

ジンアックスは向かってくるラゴゥのビームサーベルの上を跳び、脚部を切断されるのを防いだ。
ラゴゥはそのまま真っ直ぐに走り過ぎてしまった。

「何だと!?」

祝虎は驚いて、急いで方向転換をしようとするが、既にジンアックスがバズーカ砲を構えているのを、本能で察知した。

「ぐおお、いかん!!」

祝虎は急いでコクピットから脱出した。
ジンアックスはバズーカ砲のトリガーを引いた。
バズーカの砲弾は獰猛な虎を粉々に粉砕した。

祝虎は息を切らしながら、彦達邸へ戻ろうとしていた。
このままでは自分はやられる!!
そう本能が察知している!!
ここはひとまず退散だ!!
祝虎はそう思いながら走っていた。
すると目の前に白い獅子の鬣を蓄え、両眼が血のように赤い男が立ちはだかっていた。
白い鬣の男は異様な目つきで祝虎を見る。

「な、なんだお前は!?」

祝虎は男に名を訊くが、男は、

「ぐるるるるる・・・・」

と、唸っているだけだ。

「この野郎!名を名乗りやがれい!!」

祝虎は男を殴ろうとするが、殴ろうとした右腕は、いつの間にか無くなっていた。
それも一瞬のうちに。

「ひ、ひゃああああああああああああああああ!!!!!???」

祝虎は片腕で右腕を抑えようとするが、その片腕も一瞬にして消えた。

「うぐおおおおおおおおおおおお!!!!」

祝虎は声にもならぬ悲鳴を上げてその場をのた打ち回る。
白い鬣の男はゆっくりと祝虎に近づいた。
まずい!!
このままでは俺はこの男に殺される!!
そう、本能が言っている!
いや、本能がどうとかいう問題じゃない!!
これはスプラッター映画や小説などでも良くあるパターンだ!!
祝虎は座ったまま後ずさりをして距離を離そうとするが、その両足も無くなった。

「ひ、ひいあああああああああああああ!!!」

両手両足の無くなった祝虎は、まるで達磨のようである。
白い鬣の男は無様な姿の祝虎を見て、にぃっと牙を剥いて笑って言った。

「・・・・いだだぎまぁず・・・・」


「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」

祝虎の体は梁山泊メンバーの1人である『火眼?猊・ケ飛』によって喰われ、その体は頭蓋骨だけを残して消滅した。

祝家荘次男・祝虎 死亡
林冲と欒廷玉は蛇矛と鉄棒を振り回しながら戦っていた。
2人の掛け声が戦場に響く。

「てえええええい!!」
「せりゃあああああ!!」

蛇矛と鉄棒が激しくぶつかりあい、火花が飛び散る。

「さすがは祝家荘の棒術指南、欒廷玉殿!見事な棒術の腕前だ!」
「林冲殿も、なかなかの腕ですな!梁山泊に入らなければ、その腕は世界中に轟いたものを!」
「世界中に自分の名を轟かせるほど、俺は力を持ってはいない!梁山泊には俺よりも強い連中がたくさんいる!そいつらと統一連合を倒して、力なき民を救いたいのだ!!」
「そうですか・・・、しかし、反乱を起こすことは統一連合だけでなく、この国にも仇名す事!ならば今、某が目の前にいる逆賊を倒す!!」

欒廷玉はそう言うと、鉄棒をぶんぶんと振り回し、林冲似向かって突進していった。
林冲はそれを蛇矛で防ぐ。
蛇矛を握っている腕は、鉄棒が当たる衝撃でじんじんと震える。
このままではいつかやられると林冲は思った。
と、その時、ラゴゥに乗った祝彪が欒廷玉に言った。

「欒廷玉さん!兄2人がやられました!3つの部隊も全滅寸前です!ここは一時撤退し、彦達邸の防衛に向かいましょう!!」
「し、祝彪殿、撤退ですと!?しかし、今ここで敵を倒さなければ・・・!」
「彦達様が倒されては敵を倒したって意味が無いでしょう!だから今は退くんです!!」

欒廷玉は鉄棒を下ろして言った。

「・・・分かりました。撤退しましょう」

欒廷玉は林冲の方を向いて叫んだ。

「逆賊共よ、今は退こう!だが忘れるな!国に背くことは即ち、統一連合に背くことになることを!!」

祝家荘の部隊は彦達邸のほうへと撤退していった。

「撤退してくれましたか・・・」

呉用は扇子を仰ぎながら次の指示を出した。

「では、健太さんとダンベールさんは引き続き彦達邸を攻撃してください。彦達邸の近くにMSがあれば撃破しても構いません。楊志も兵を進め、彦達・祝・李・扈家荘の軍勢を蹴散らしてください。林冲の部隊は別部隊の支援を、後方から一回りし、別部隊の方へ向かってください」
「おーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」

楊志と林冲の部隊は呉用の指示通りに動いた。
健太とダンベールはショルダーキャノン砲とバズーカ砲を彦達邸に向けて、弾を発射した。

「よし、健太!彦達邸にありったけの弾を撃ち込め!」
「先生!弾はちゃんと補充できますって!!」

健太は笑いながらダンベールに言った。


別部隊のレッテ隊は、パウロ達ワルキューレ部隊のMSと、扈家荘の軍のMS部隊と戦っていた。
レッテの部隊のMSと2人の鳥人間の動きにストライクダガー部隊は苦戦していた。

「あっはっはっは、どうしたどうした!?全然当たって無いじゃないか!!」

レッテは笑いながらホーミングミサイルを発射する。
ミサイルは不規則な動きで襲い掛かり、ストライクダガー3機を大破させた。

『ひゃあああ〜!』
『た、隊長ー!!』
「山寧!!、キヨカド!!」

扈成は自分の部下の名を思わず叫んだ。
が、すぐに冷静さを取り戻した。
ここで気を取り乱しては自分の部隊の士気が下がる。
ここで部下を不安にさせるようなことをしてはならない!
扈成は声を落ち着かせると、部下2人の心を読んだ。
どうやら2人も気を取り乱しているようだ。
扈成は2人の機体に通信を入れた。

「彩香、ハン・ペン。気を取り乱すな。取り乱せばそれこそ敵の思うつぼだ!ハン・ペンは彩香と共に地上にいるMS2機を倒せ!俺は空中にいるMSと戦闘機を撃つ!いいな!!」
扈成の配下であるハン・ペンと女性兵士の彩香は、

「了解しました!」
「ラ、ラジャー!」

と返事をして、マヤのジンソードとカンのガトリング・ジンに向かって、ビームライフルを発射した。

「き、来た!」

マヤとカンは二筋の光線をとっさに交わした。
カンが怯えた声でマヤに訊く。

「ど・・・、どうするマヤ?呉用さんは彦達邸を攻撃しろって言ってたけど・・・」
「でも、あのストライクダガー2機を倒さないと、わたし達が攻撃されちゃうよ!それに・・・」

マヤは一瞬の速さで、上空から飛び掛るピンク色の機体をさっとかわしながら言った。
ピンクの機体は鎧を来た古代中国の武将を髣髴とさせる外装で、両手に何も装備していない。

「・・・敵もドンドン増えてるし、彦達邸を攻撃している場合じゃないよ・・・」
「その通り!」

と、佐助がジンソードの頭部に立ちながら言った。

「指揮官の命令に従ってばかりいるのは所詮二流のやることだ!
様々な状況に対応し、自分で行動できることこそ、戦場では役に立つ!よく覚えとけ、2人とも!!」

佐助はそう言うと、とおっ、と掛け声を叫び、ピンク色の機体に向かってとび蹴りを喰らわそうとした。

「くらえ、徒手空拳術・彗星脚!!」

しかし、佐助はピンクの機体の掌ではじかれた。
佐助はすぐに空中で受身をとり、その場に着地した。
梁山泊の人達はMSとかなくても、十分に統一連合と戦えるのではないのか?
MSに弾き飛ばされても、肉体があんなに丈夫なワケなんだし。
マヤ達は一瞬そんなことを考えたが、それを考えているよりも、今は敵を倒す方が先決だ!
マヤはビームソードを抜き、カンはガトリングガンを装備した。

「カン君!わたしはあのピンクの機体をやるよ!」
「よし!僕はあのストライクダガー2機を倒す!!」

2人はそれぞれの標的に向かって行った。
佐助は、

「やれやれ・・・、マヤ達も頑張ってるなあ・・・」

と言い、頭をぼりぼりと掻いた。
そして後ろを振り向くと、

「そんじゃまあ、俺はこの二首狼と二刀流とデュエルを相手とするか!」

と、目つきを鋭くしながら、紫色の二頭犬型のMSと、藍色のソードカラミティと、青色のデュエルを睨んだ。

「ほほう・・・、フォルテとエチカのデュエル、そして扈家荘のソードカラミティを生身で相手しようとはねぇ・・・」

紫色の二頭犬型のMS・フォルテのコックピットの中で、パウロは呟いていると、エチカと扈三娘が通信を入れた。

<パウロ、指示をお願いします>
『パウロさん、貴方の腕前を見させてもらいます』
「ああ、わーった、わーった。それじゃ、3人であの忍者かぶれを倒しましょ!」

パウロはエチカと扈三娘にへらへらと笑いながら言った。

武松は自分の目の前にそびえ立つ、中国武将のような外装をした、青色のMSを見上げていた。
青色のMSは、右手に大刀、左手に丸い盾を持っている。

「う〜ん・・・。こいつは驚きと言うか何と言うか・・・、統一連合とワルキューレの奴らはこんなMSを開発していやがったのか・・・、それにしても、まんまの鎧を纏った将軍様だぜこりゃ」

武松がそう言ってると、青色の機体は大刀の刃の先を武松の顔に向けて言った。

『何をぶつぶつと言っているんですか?こないなら私からいきますよ?』

どうやら青色の機体に乗っているのは女性らしい。
武松は戒刀を抜きながら言った。

「まあ、そうせかすなっての。俺はこう見えて結構、短気な性格でね。あんたのような貧しい民から奪った金で作られたMSを見ていると、非常にぶっ壊したくなるのよ!!」

空中でジン・ブルースカイに乗って戦っているジェシカは、突如背後から襲い掛かる怪しげな影を感じた。

「怪しい奴・・・、何者!?」

ジン・ブルースカイは両手に持つビームガンを後方に発射した。
怪しい影はそれを瞬時に回避し、ジン・ブルースカイの腹部に蹴りを入れた。

「きゃあ!」
「ぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ!命中だぎゃ!!」

怪しい影に乗る者はトカゲのように笑うと、自分の機体の姿を現した。
怪しい影の正体は、トカゲのような皮膚のカラーリングをしたディンレイヴンであった。
ジェシカは黄緑色に染まるディンレイヴンを見て、

「悪趣味なMSね・・・」

と呟いた。
ディンレイヴンのパイロットの胡車児はぎゃぎゃぎゃぎゃと不快な声でジェシカのジン・ブルースカイに通信を入れた。

「ぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ!!どうだ、この俺のディンレイヴンの性能は!」
「成程・・・、ディンレイヴンね。ディンに地球連合の開発したミラージュコロイドシステムを付けた、隠密性に長けたMS。・・・で、それに乗っているあなたの名前は?」
「ぎゃぎゃぎゃぎゃ!俺の名を知りたいか?俺は特殊部隊・ワルキューレ所属、カメレオンの胡車児だ!冥土の土産に良く覚えておくぎゃ!!」
「あっそ、私はまだこの若さで冥土に行きたくないの。冥土にはあなたが行きなさいよ」

ジェシカはジン・ブルースカイを動かし、胡車児のディンレイヴンに向かって行った。
「さあて、梁山泊!この間は不覚を取ったけど、今日はそうはいかないわよ!!ワルキューレの力はあんなもんじゃないんだから!!」

リンはセレモニーを動かすと、瞬時にマヤのジンソードに近づいた。

「き、来た!!」

マヤはとっさにビームソードを振るうが、セレモニーはそれをひらりと避けた。

「フン!遅いわよ!」

リンのセレモニーはジンソードに拳の乱打を繰り出した。
ジンソードはシールドで防御したが、シールドの表面はでこぼこに凹んだ。
セレモニーは拳の乱打を終えた後、ジンソードのシールドを蹴り飛ばした。

「ああ!シールドがっ!!」
「隙ありぃ!」

リンのセレモニーはジンソードの左腕を掴むと、そのままぐいっと捻った。

「あの時の屈辱、今晴らぁす!!」

リンが叫んだ瞬間、ジンソードの左腕は力づくに捻りちぎられた。
しまった!とマヤは心の中で叫んだ。
左腕が捻りちぎられては、射撃武器が使えない。
と、なればやはりジンソードという名前どおり、ビームソードで戦うしか方法は無い。
運良く、敵のMSは、格闘戦を主な戦闘スタイルとしている。
つまり、この戦いは剣と拳の白兵戦となる!
これぞ一か八かの一騎討ち!絶対に負けるわけにはいかない!

「もしここで負けたら、わたしは確実に死ぬことになる・・・。いや、もしかしなくても100%絶対にそうだ!ここで負けるわけにはいかない・・・、わたしはまだやりたいことがたくさんあるのよ!!」

マヤのジンソードはビームソードを握り締め、リンのセレモニーに突っ込んだ。

「うわああああ!!」

ジンソードは片手でビームソードをセレモニーに向けて振りまくる。
セレモニーは体全体を動かしビームソードを回避する。

「梁山泊のMSのパイロット、なかなかやるわね・・・、けど!」

リンはそう呟くと、セレモニーはジンソードの持つビームソードをキックで蹴り落とすと、そのままジンソードに急接近し、ジンソードの頭部に頭突きを入れた。
ジンソードのセンサーが破損する。

「センサーが壊れちゃった!?」
「これでフィニッシュ!」

セレモニーはジンソードの体を片手で持ち上げると、そのまま背中に背負って投げ倒した。

「きゃああ!!」

「これぞ必殺一本背負い!!これがワルキューレの力よ!!」

マヤはジンソードの倒れた衝撃で気絶してしまった。

「マヤ!!」

カンはジンソードが倒れたのに気付き、マヤの名を呼ぶが、それを扈成の乗る105ダガーに阻まれた。

「仲間の心配をしている暇は無いと思うよ。君の相手はこの僕だ」
「くっ!やるしかないか・・・!!」

ガトリング・ジンは両手のガトリングガンを、目の前の105ダガーに向けた。



リンは前回の汚名返上が出来たことに喜んでいるのか、上機嫌でジンソードのコクピットに近づいた。

「さてと、梁山泊のMSの顔は、どうなって、い・る・の・か・なぁ〜♪」

リンは素手でジンソードのコクピットを開けると、ジンソードのパイロットを外に引きずりだした。

「は〜い、敵パイロットさん、ご対面〜♪」

リンは敵のパイロットのヘルメットを外した。
敵のパイロットは、まだ幼顔の黒髪の少女であった。
リンはその黒髪の少女の顔を見て、あれ?と思った。

「あれれ?この顔はどこかで・・・」

リンは頭の中にある記憶の断片を探っていた。
するとリンは、はっ、と思い出した。
そうだ、こいつはあの時、あたしの腕を捻って、さらにあたしの妖気功波を跳ね返した奴だ!!
あたしに敗北という名の泥を塗った女だ!!
リンが屈辱の敗戦を思い出して怒りに震えている時に、マヤは眼を開けて起き上がった。

「・・・う〜ん、いたたた・・・、ジンソードが壊れちゃった・・・」

マヤはそう呟いていると、コクピットの所に、どこかで見たような、お団子頭の女の子がいた。

「・・・あれ?あの子はどこかで・・・、はっ!あの子は!!」

マヤがはっ、と気が付くと、リンはマヤを睨みながらゆっくりとした口調で話した。

「久しぶりねえ・・・、あたしの腕を捻った女・・・。ここで会ったが百年目って感じかしら・・・?」
「あ、あはは、あの時はどうもお世話になりました・・・、あははははは・・・」
「あははじゃあないわよ・・・。あたしがあの時負けたおかげで、ワルキューレ27楽奏の不敗伝説は崩壊して、姉さんはシスコン病(リン命名)を発症させちゃったのよ?そのせいで胡車児にはレズ姉妹と誤解されちゃった・・・。
姉さんがあたしが無事だとわかって、喜びのあまり抱きついてるのをあのカメレオンに見られた・・・。
いずれあのカメレオンがアドルにチクる日はそう遠く無い・・・。
そのせいであたしが『アスランをホモって言ってるくせに、その本人がレズなんて、人の事言えないね』と周りから言われる・・・。
そうなったらまさしく、お前のせいだ。
お前があたしを負かすからいけないんだ・・・」
「い、いやいやいや、それは貴方が負けるからいけないんじゃ、それに戦いの勝ち負けでレズと周りから呼ばれるというのは、飛躍しすぎなんじゃ・・・」
「シャーラップ!!・・・周りからレズ姉妹と呼ばれる前に、敗北の屈辱と共に貴様を滅却しなければならない・・・。気の毒だけど死んでもらうわよ!梁山泊のパイロット!ふふふふ・・・あはははははははははははは!!!」

まずい!
このままではあたしはこの人に殺される!
殺される前に何とか逃げなくては!!
マヤはジンソードに再び乗り、急いで逃げなくてはと考えた。
幸い、サブセンサーはまだ使える。
何とか逃げ切ることは可能だ。
ジンソードはむくりと起き上がると、そのまま走って逃げ出した。
しかし、リンのセレモニーが後から追ってくる。

「あはははははははははは!!I!need! kill! you!!!!」
「うわああ!追ってきた!!」

かくして、祝家荘との緊迫した戦いの中、ジンソードとセレモニーの追いかけっこが始まった。
「喰らいなさい!」

フェイのセレモニーはヒートナギナタを武松の頭上に振り下ろした。
武松は右手に持つ戒刀で、ヒートナギナタの刃を防いだ。
フェイは目を見開いて驚愕した。

「そ、そんな!?一本の刀でヒートナギナタの刃を防ぐなんて!?」
「どうした?お前のMSの実力はそんなもんか?」

武松はそう言うと、戒刀でヒートナギナタを上に押し上げた。
普通の人間では、こんな荒技は出来っこない。
しかし、梁山泊のメンバーの1人である武松はそれが出来る。
武松はかつてとある山奥にいた、バクゥ並みの大きさを誇った人食い虎2匹を、素手で打ち殺したことがある。
そのため彼は人々から『虎退治の武松』と呼ばれたのである。
MS並みの隊長を持つ巨大な虎を退治できるほどの力があるのだから、ヒートナギナタの刃を刀で防ぐことぐらい、どうということはない。
ヒートナギナタは武松の戒刀に押し切られてしまった。

「くっ!・・・流石は世界3大レジスタンスのメンバーのことはありますね・・・。ですが、私は負けるわけにはいかない!」

フェイがこう言ってセレモニーを動かすと、セレモニーはヒートナギナタを振り回しながら、武松に攻撃を仕掛けてきた。

「おっ、どうやら本気でかかってきたようだな?・・・そんじゃこっちも本気でいかせてもらうぜ!!」

武松も戒刀を振るい、青いセレモニーに攻撃を与えようとした。
しかし、フェイのセレモニーは左手に持つサークルシールドで武松の攻撃を防いだ。
フェイのセレモニーも負けてなるものかと、ヒートナギナタを縦横無尽に振り回す。
しかし、武松はその攻撃を難なくとかわす。
普通の戦闘ではありえないことなのであるが、今この戦場で、生身の人間とMSの熾烈な戦いが繰り広げられていた。

一方、佐助の方も、人間とMSの戦いが行われていた。
しかし、佐助の場合は武松とは違う。
佐助が相手をしているMSは3機。
しかも、その3機のMSは、デュエル、ソードカラミティ、二つ首のバクゥ系MSといった面々であった。
佐助は3機から繰り出される攻撃をかわしながら、梁山泊と祝家荘の戦いを見ていた。

「ふむふむ・・・、楊志の部隊は陣に向かっていたラゴゥ部隊を蹴散らした後、祝家荘への遠距離攻撃を継続、マヤはピンクのMSと交戦中、カンは105ダガーの部隊を撤退させ、マヤの元へ向かっている、ジェシカさんの部隊は緑色のディンレイヴンを撃墜した後、一時撤退、武松は青のMSと交戦中。そして俺はこの3機と交戦中ってわけだな・・・。戦局は梁山泊がやや優勢ってところだな。マヤ達も一生懸命戦っている。なら、俺も頑張らないとな!!」

佐助は両手に数十枚の手裏剣を持つと、それをエチカのデュエルに放った。

「喰らえ!甲賀流忍法・炸裂手裏剣!!」

エチカのデュエルは飛んでくる無数の手裏剣を左腕で防御した。
デュエルの左腕に、無数の手裏剣が突き刺さる。

<その程度の攻撃で、私を撃墜しようとしてるのですか?シールドを使わずとも防げます>

エチカは佐助にビームライフルを撃った。
佐助の体が、閃光の弾に呑まれた。

<敵一名、殲滅完了>

エチカがそういった瞬間、デュエルに衝撃が走る。
そう、佐助がデュエルの背部に蹴りを入れたのだ。
エチカのデュエルはうつぶせになって倒れる。
佐助はデュエルの背に乗ってエチカに言った。

「へへっ、かかったな!お前が撃ち落としたのは、俺の変わり身だ!・・・そして!!」

佐助は指をパチンと鳴らした。
すると、デュエルの左腕に電撃が走る。

<・・・・・・・・っ!>
「俺が放った炸裂手裏剣は、俺のタイミングに合わせて電撃が走るように細工してある。変わり身と入れ替わるために炸裂手裏剣で目暗ましをし、お前が油断して変わり身を打ち落とした所で、俺が後方から蹴りを入れる。そして、手裏剣に電撃を走らせるという寸法だったのさ。左腕じゃなくてシールドで防御しとけばよかったな。これで左腕は使えまい!」

佐助がエチカにこう言うと、エチカは淡々とした口調で佐助に言った。

<・・・そのようなブラフを仕組んでいたとは・・・。しかし、その程度の攻撃ならば、戦闘に支障はありません>

エチカはデュエルを立ち上がらせた。
デュエルは右腕で体を起こすと、膝をついて立ち上がった。
佐助は急いでデュエルの背から下りる。
佐助が地上に足をつけると、扈三娘のソードカラミティが佐助を踏み潰そうとした。
佐助は急いでその場を離れ、難を逃れた。
しかし、一難去ってまた一難。
今度はパウロのフォルテがレールガンを発射した。

「おらぁ!喰らいやがれ!!」

レールガンは真っ直ぐ佐助の方へと向かってくる。

「危ねえ!!」

佐助は変わり身の術で死ぬのを免れることが出来た。
パウロはコクピットの中でチッと舌打ちをした。

「チッ、また変わり身の術か・・・。猪口才な手を使っては俺達の攻撃をかわしやがって・・・」

パウロがこう言っていたその時、扈三娘のソードカラミティから通信が入った。

「ワルキューレ!私に案がある!お前のMSに私のソードカラミティを乗せてくれ!!」
「はあ?それのどこが案だよ?」
「いいから、乗せろ!」
「あ〜・・・、分かったよ。どんな案か知らないが・・・、見させてもらうぜ、その案とやらを!」

パウロのフォルテは扈三娘のソードカラミティを背に乗せ、そのまま佐助の方へと突進した。

「・・・何だ何だ?なんかの大道芸か?」

佐助はフォルテの突進を右に避けた。
と、次の瞬間、扈三娘のソードカラミティはフォルテの背から降り、佐助の頭上にレーザー対艦刀を振り下ろした。

「受けよ!梁山泊!!」
「げっまずい!!」

ソードカラミティの高熱の刃は、佐助の体を一刀両断した・・・かに見えた。
しかし、それも変わり身であった。
エチカのデュエルも扈三娘のソードカラミティの後に、ビームサーベルで攻撃を仕掛けるが、それも変わり身の術で回避された。
扈三娘はコクピットで声を荒げる。

「ええい!また変わり身の術か!!一体何回変わり身の術を使えるんだ、あのふざけた忍者は!?」
「ああ、全くだ。こう何回も変わり身で攻撃を防がれちゃあ、こっちもイライラとしてくる・・・、エチカ、お前はどうなんだ?お前もイラッときているか?それともモヤッときているか?」

パウロがエチカに訊くと、エチカは無表情で言った。

<いいえ。イラッとも、モヤッともきておりません。ただ、これ以上あの敵に時間を割くわけにはいきません>

エチカはそう言うと、佐助に訊いた。

<それよりもあなた、質問です。あなたはもう変わり身がありませんね?>

エチカの言葉に2人は驚いた。

「変わり身がないですって!?」
「エチカ、どういことだ!!」
<はい。今まで彼は、私がビームライフルを撃つまでは、変わり身の術は使っていませんでした。しかし、ビームライフルを変わり身の術で防いだ後、彼は連続で変わり身の術を使用しています。変わり身の術を使ったのは合計4回。しかし、とっさに使ったせいで、変わり身は無くなり、後は回避するしか攻撃を逃れる方法がなくなった・・・。そうですね?>

エチカがこう訊くと、佐助はニヤリと笑った。

「・・・そうさ。もう変わり身は無い!」
「なんと!」
「エチカの推理が当たった!」
<やはりそうでしたか・・・。とっさに何度も使ったのが仇となりましたね>

「・・・いいや、とっさに使ったからじゃない」

<?・・・どういうことですか>
「ふふふ・・・。実はな、俺が変わり身を使っていたのはな、こうするためさ」

佐助は右手から黒く鋭い石を取り出すと、それを地面に突き刺し、こう叫んだ。

「口寄せの術・黒影!!」

その瞬間、佐助が変わり身の術を使った場所から、正四角形の方向で黒い柱が出現した。
黒い柱は頂点から白い光の筋を放つ。
白い光の筋は中心で結びつき、やがて光の中から一匹の獣が現れた。
獣の瞳は赤く、爪は鋭く尖り、毛は黒く、まるで獣の王であるかのような姿であった。
佐助はその獣の背に乗ると、忍者刀を抜いて、その獣の背に突き刺し、

「黒影・機人変化!!」

と叫ぶ。
その瞬間、黒き獣はたちまち鋼鉄に包まれ、そして人型のMSに変形した。
その姿はかつてザフト軍で開発された、変形型MSのようであった。
パウロと扈三娘は目の前に起こった超常現象に、自分の目を疑っていた。

「そ、そんな・・・」
「召喚だと、馬鹿な・・・!?」
<・・・・・・・・>

エチカは黙ったままその漆黒のMSを見つめていた。
佐助は黒きMSのコクピットに乗ると、パウロ達にこう語った。

「これが俺の切り札、黒影さ。多勢に無勢なMS戦に備えていたんだが、ここで使うことになるとはな・・・。黒影を召喚するために、変わり身の中に『召喚石』を入れておいてよかったぜ。一応解説すると、『召喚』というのは忍者の中の頂点に立つ者や、よほどの力を持つ者でないと使えないといわれている、伝説の能力。己の血を塗りたくった物を媒介として、自分の使い魔・・・、というか召喚獣を呼び出す。そしてある者はその使い魔を機人に変化させることにより、MSと互角に闘えるというわけさ。これを使えるのは俺の知ってる所じゃ、半蔵に小太郎や才蔵といった隠密界三天皇や梁山泊十二神将の一清道人・公孫勝のじいさまぐらいだったかな〜」

パウロは佐助のおちゃらけた声を聴いていて思った。
召喚能力だって!?
ワルキューレ27楽奏の中にもこの能力を持った奴はコームの奴しかいないというのに、梁山泊には2人いるだと!?
やはり梁山泊は、ここで叩いておく必要がある!
パウロはエチカと扈三娘に言った。

「エチカ!扈三娘!早くこいつを仕留めるぞ!!こいつが動き出す前に一斉攻撃で打ち落とすんだ!!」
<了解しました>
「言われなくても、分かってる!!」

3機のMSは黒い機体に一斉攻撃を仕掛けた。
フォルテは背中に背負ったレールガンを、ソードカラミティはビームブーメランを、デュエルは右手に持ち替えたビームライフルを黒い機体にぶつけた。
黒い機体は灰色の煙に包まれ、その姿が見えなくなった。

「ふう・・・。これだけ喰らえばひとたまりも・・・」

パウロはこれで黒い機体もやられただろうと思った。
しかし、違った。
黒い機体は煙の中から突如現れ、エチカのデュエルを蹴飛ばした!

<うっ・・・>
「エチカ!!」

パウロがそう叫んだ瞬間、フォルテはその体を黒い機体に持ち上げられ、そのまま倒れているデュエルの方へ投げ飛ばされた。

「ぐわあ!!」

パウロはそう呻いて気を失った。

「そんな・・・ことが・・・」

扈三娘は歯をカチカチと震わせていた。
それは生物が生まれた時から持っている本能。
自分より強い者に出会ったときに感じる、恐怖であった。

怖い・・・。
怖い・・・。
怖い怖い・・・。
怖い怖い怖い・・・。
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い!!!!!!!!

「はあ・・・、ハアハアハアハアはあはあはあはあはあはあはあはあはあ・・・・・・・!!!!・・・お、落ち着け、落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け!!!!」

扈三娘はそう自分に言い聞かせようとするが、恐怖が体を支配してしまっている。

ありえない出来事、ありえない機体、ありえないあの強さ!!

今まで特殊能力を持つ者と戦ったことが無かった彼女にとって、召喚能力は未知の恐怖だった。
自然と瞳からは涙が流れ、口からは嗚咽が漏れる。
手足は震え、心臓は激しく動き、体中から汗が流れ落ちる。

「うう・・・、うう・・・、うああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

扈三娘はソードカラミティを操縦し、自分を覆う恐怖を払うかのように、2本のレーザー対艦刀を振るった。
しかし、佐助の乗る黒い機体は、そのレーザー対艦刀をさらりと避けた。
佐助は扈三娘が自分の召喚能力に恐怖しているのを、回避しながら感じた。

「やれやれ・・・。恐怖に縛られて戦ってんのか・・・。いけないなぁ、戦う前に恐怖を取り払わなきゃ!!」

黒い機体は腰に下げた剣を抜き、ソードカラミティの四肢を切り裂いた。
ソードカラミティは手も足もないだるま状態となり、その場に無様に倒れた。

「ふう、やっと決着をつけたぜ。ありがとうな、黒影」

佐助はそう言うと、黒影のコクピットから下りた。
と、同時に、黒陰の姿は霧が晴れるかのように、すうっと消えた。
佐助は早速忍者刀でソードカラミティのコクピットをこじ開けた。
コクピットの中にいたソードカラミティのパイロットは、涙を流しながら激しく息切れをしている。
見た所、まだ20歳にもなってない未成年の女性ではないか。
佐助はソードカラミティのパイロットに言った。

「よお!この機体のパイロットさんよ!!」
「・・・・・・・」

ソードカラミティのパイロットは口を閉じたままだ。

「・・・おいおい。何か喋ってくれよ?」
「・・・のよ・・・」
「・・・?」
「一体、あんた達はなんなのよ・・・!」

扈三娘は声を枯らしながら佐助に言った。

「わけのわからない能力を持っていて、そして世界中に反旗を翻して・・・、あんた達は一体何者なの!?・・・あんな能力を持ってるあんた達に、勝てるわけ無いじゃない・・・!!」
「・・・もしかして、召喚能力とか、そういった特殊能力を知らないの?俺はてっきりあのワルキューレの連中から特殊能力のことについて聴いていたのかなと思ったんだが・・・」
「そんなの、知ってるわけ無いじゃない・・・!大体、なんなのよ、その特殊能力って!!」
「ま、まあ、詳しいことはこれから俺達のところへ来れば分かるから、まあとりあえず、投降してくれよ」

扈三娘は佐助を睨みつけながら、

「言われなくても・・・、分かってるわよ・・・」

と、言った。







マヤとリンはお互いの機体を操ってしばらく戦っていたが、佐助が召喚能力を発動したがために、2人とも呆気に取られていた。

「う、嘘・・・」
「なんか、変なの出てきた・・・」

リンはマヤに訊いた。

「ちょ、ちょっと・・・、なんなのよあいつ・・・。あんな能力を持ってるなんて、あんた知ってたの・・・」
「い、いいえ・・・。知りません。あなたも見たことが無いんですか?」
「見たことあるって、見たことあるなら驚いてないわよ。パウロからああいう能力を持った奴がいるという話なら聴いたことがあるけれど・・・、流石に生で見たのはこれが初めてよ」
「はははは・・・、ああいう能力持ってるなら、別にわたしや健太君やカン君を連れさらわなくてもいいじゃないですか・・・」

マヤは佐助のことを少々恨みたくなった。
とその時、カンの乗るガトリング・ジンがマヤ達の下へ現れた。

「おーい、マヤ!助けに来たよ!・・・ってあれ?何で固まってるの?」
「カン君・・・。あれ見て、あれ・・・」
「あれって・・・、あれ?」

カンもマヤの言った通りに佐助の特殊能力を見た。
圧倒的な力で、次々と敵を蹴散らす黒い機体。

「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」

三人はしばらくの間固まっていたが、その静寂を切り裂いたのはリンであった。

「こんなことをしている場合じゃなかった!隙あり!!」

リンのセレモニーはマヤのジンソードに拳を繰り出そうとする。
しかし、それをガトリング・ジンがその拳を掌で受け止める。

「なっ!?」
「不意打ちとはずいぶんと卑怯だね!マヤ。今だ!!」
「やあああ!!」

マヤのジンソードは、セレモニーの頭部を右腕で掴むと、そのままガトリング・ジンとともに、フォルテの方へと投げ飛ばした。

「ま、また負けたの!?そんなあ!!」

リンのセレモニーはフォルテの上に覆いかぶさり、そのまま動かなくなった。

「やった・・・のか?」
「やったんだよ、カン君・・・」

マヤとカンがそう会話していると、佐助がやってきた。

「おーい、マヤ、カン!どうやら勝ったみたいだな!!」
「あ、佐助さん・・・」
「?・・・どうした2人とも、そんな顔して・・・」

マヤとカンは鋭い目つきで佐助を睨みつけている。
マヤが最初に口を開いた。

「あんな特殊能力を持っているなら、どうしてわたし達をさらったんです・・・?」
「あの能力があれば、充分に統一連合と戦えるじゃありませんか・・・」

マヤとカンに問い詰められると、佐助は笑いながら言った。

「あははは!何だそういうことか!いやね、特殊能力というもんは切り札として使うのが正しい使用法だし、それに宇宙で戦う時、召喚能力は空気がある場所でしか使えないじゃないか!だからあの時戦力を増やすためにマヤ達をさらったというわけだよ!
何も問題ないって、あっはっはっはっはっは・・・って駄目?」
「駄目に決まってるでしょ!!!!」

マヤとカンは同時に佐助に怒鳴った。

「うわっ!?・・・っとそんなに怒鳴ること無いじゃないか・・・。それよりも、さっさと祝家荘を攻めるのを続けた方がいいんじゃないか?これで梁山泊がだいぶ優勢になったんだし・・・」
「あ、そうでしたね。・・・でも、佐助さんが捕らえたあのパイロットはどうするんですか?」
「早々、それが気になってたんですよ!」

マヤとカンは佐助に訊いた。
佐助は笑いながら答える。

「ああ、あのパイロットなら俺の分身の片割れが呉用先生のところへ連れてってるから大丈夫大丈夫!」
「そ、それって要するに・・・」
「分身の術ですか・・・。当たり前といえば当たり前だけど・・・」
「まあ、気にするな!さて、戦うのを続けようとしようぜ!」
「は、はい!!」

マヤとカンは気を取り直し、祝家荘での戦いを続行した。