「・・・ちっ、なんて速さなんだ、あの船は!」
宙域・L1
特殊部隊・ワルキューレの軍は、地球に向かおうとしている戦艦を追っていた。
地球に向かっている戦艦は、かつて7つの海を渡っていた海賊船のようなデザインだ。
イザーク・ジュールは、グフ・イグナイテッドで海賊船を追いながら舌打ちをした。
「ここで逃がせば、奴らは地球に上陸してしまう・・・、ディアッカ、シホ!あの海賊船を絶対に逃がすな!!」
「おう!」
「了解!!」
色違いのグフ・イグナイテッドに乗るイザークの配下、ディアッカ・エルスマンとシホ・ハーネンフースは、イザークの言葉を聴くと全速力で海賊船を追いかけた。
ディアッカのグフ・イグナイテッドは緑色に染められ、ビームキャノン砲を背負っている。
シホのグフ・イグナイテッドは藍色のカラーリングをしており、両手にヒートロッドが装備されている。
他の隊員も3人に続き、海賊船を追いかけた。
イザーク達が追っている海賊の名は、「宇宙海賊・江東乃虎」
そう、世界3大レジスタンスの1つである。
「ほう、ワルキューレの部隊はまだ追ってくるか」
「はっ!敵も我々を捕らえるのに必死な模様です!」
海賊船のブリッジで江東乃虎のリーダーらしき男とその配下達が話をしていた。
男は黒い無精髭を生やし、赤い鎧を装着している。
男の隣には、彼の息子らしい者2人が立っていた。
左に立っている若者が男に訊いた。
「親父!俺の部隊がMSを使って奴らを撒くぜ!」
「孫策よ、行ってくれるのか・・・?」
「ああ!俺達江東乃虎を捕らえようとするとどうなるか、思い知らせてやるぜ!!」
孫策という名の若者は、意気揚々に語った。
すると、男の右に立つ若者が孫索に言った。
「兄上!余り無茶をしてはなりません!我々は今、宇宙統一連合の核であるオーブを叩くために地球に向かっているのです!もし兄上の部隊が地球にいけなかったらどうするのです!!」
「おいおい孫権、心配するなって!地球に無事つけるように戻ってくるからよ!」
孫策はそう言うと、すぐさまMS格納庫へ行ってしまった。
男は笑いながら孫権に言った。
「はははは!孫策は本当に無茶をする男だな、孫権」
「父上!笑っている場合ですか!?このままでは兄上の部隊は宇宙に取り残されてしまいます!父上もこの船で援護をしなくては!!」
「ああ、そうだったな」
男は孫権に言われると、ブリッジのクルーに命令した。
「本艦はこれより、孫策の部隊を援護しながら地球へ向かう!孫策の部隊を取り残さないようにしろよ!」
「おおおお!!」
クルー達はブリッジ全体に響くような大声を上げた。
この男の名は孫堅文台。
宇宙海賊・江東乃虎の首領である。
孫策は自分の部隊と共に格納庫へ来ると、メカニックのトップに言った。
「おう、レパルドのおっちゃん!!MSを出撃させるぜ!!」
レパルドは「ええ!?」と声を上げた。
「孫策!この戦艦は地球の近くまで来ているんだぞ!?もしお前の部隊が宇宙に取り残されたらどうするんだ!!」
「安心しなって!すぐ戻ってくるからよ!!」
「あ!待てって!!」
孫策達はレパルドの制止を振り切って、格納庫に搭載されたMSに搭乗した。
格納庫に搭載されてあるMSは、地球にいる虎が二足歩行になったようなデザインである。
両手両足には虎の爪を模したような武器が装備されている。
孫策は自分の部隊のメンバーに言った。
「周瑜、陳武、董襲、朱桓!!全員MSに乗ったか!?」
「ああ!」
「乗・りました!」
「おう!」
「いつでもオッケーやで!!」
メンバーは孫策に返事をした。
「おっしゃあ!!それじゃあ全員、宇宙海賊船・バーソロミュー号を守るんだ!!」
「おう!!」
メンバーが声を上げると、孫策は高らかな声で言った。
「よし!孫策部隊・キバ、出撃するぜ!!」
キバという名の五機のMSは、暗闇の宇宙へと出撃した。
事の発端は、宇宙海賊船・バーソロミュー号が、L1ポイントを進んでいた時のことである。
江東乃虎の首領・孫堅は、『宇宙統一連合を本格的に潰すには、地球にあるオーブを叩くのが一番だ』と思いついた。
バーソロミュー号は本来、ワルキューレの軍基地があるスペースコロニー『リンカーン』へと向かっていた。
しかし、ワルキューレの軍事力を減少させても、宇宙統一連合の勢力はかなり強大である。
だから先に統一連合を潰し、統一連合に支配されたコロニーの発言権を強くしなければならない。
江東乃虎は元々、地球圏にあるスペースコロニーを周っては、悪事を働く宇宙海賊を捕まえる『コロニーポリス』の一派であった。
しかし、宇宙統一連合が発足し、地球圏の全コロニーは統一連合やワルキューレに乗っ取られ、たちまち政治の発言権を取られてしまった。
もちろん、コロニーポリスも解散させられてしまった。
コロニーポリスで名を上げていた孫家の者達は、自ら宇宙海賊となり、コロニーポリスの仲間や統一連合に不満を持つコロニーの有力者達をかき集め、短い間に一大勢力を築き上げたのである。
全ては、スペースコロニーを統一連合の圧政から解放するためであった。
こういうわけでバーソロミュー号は、宇宙統一連合の核であるオーブを叩きに地球へと向かったのである。
そこへたまたまL1ポイントを巡回していた、イザーク率いるワルキューレ部隊に出会ってしまい、バーソロミュー号は、ワルキューレの軍に追われながら、地球へ向かうことになってしまったのである。
孫策の部隊は襲い掛かるワルキューレ部隊を迎え撃っていた。
5機のキバは向かってくるゲイツRをビームライフルを打ち落とし、バーソロミュー号は接近してくるシグーをミサイルで迎撃した。
「おらおら、どうした!?俺達を捕まえるんじゃなかったのかよ!?」
孫策のキバは右手の爪でゲイツRのコックピットを突き刺した。
キバの右手がコックピットから抜かれると、ゲイツRは爆発した。
「ブランク!!」
シホはゲイツRのパイロットの名を叫んだ。
その時、陳武の乗るキバが、シホのグフ・イグナイテッドに襲い掛かった。
「も・らった!!」
「くっ!?」
シホのグフ・イグナイテッドは、陳武のキバの爪をギリギリで避けると、ビームガンで陳武のキバの左足を打ち落とした。
「ぐ・おっ!?左足を撃たれるとは!!」
陳武は左足を失ったキバのバランスをすぐに建て直し、シホのグフ・イグナイテッドに頭部バルカンを発射した。
シホは歴戦の腕で頭部バルカンを回避した。
が、回避した場所に朱桓のキバが待ち構えていた。
「へへっ!もらったで!!」
「しまった!!」
朱桓のキバはシホのグフ・イグナイテッドを蹴飛ばした。
シホのグフは遠くへ飛ばされバランスを失った。
「これでわてらを追ってこれへんやろ!ざまあみろや!!」
朱桓はそう言うと、孫策達のいる場所へ向かって行った。
「くっ、すぐに機体のバランスを直さないと・・・!!」
シホは機体のバランスを直し、朱桓の後を追った。
朱桓は仲間と共にゲイツRと戦っていると、シホが自分を追っているのを感じた。
「なんや、また来たんかいな?しつこい奴やな、ったく!」
「どうする、俺も手伝うか?」
董襲が朱桓に訊いた。
「いんや、あの藍色のグフはわてがぶっ潰したるわ!」
「そうか、それじゃあ俺はあの緑グフをぶっ壊すとするか!!」
朱桓と董襲はそれぞれの狙う敵に向かっていった。
「こいや!!藍色のグフのパイロット!!この朱桓休穆があんさんをぶっ潰したるわ!!」
「宇宙海賊め!これ以上先に進ませないわ!!」
朱桓のキバとシホのグフ・イグナイテッドは一進一退の白兵戦を繰り広げた。
「さて、緑グフの奴!死ぬ前に俺の名を教えてやる。俺の名前は董襲元代だ!」
「俺が死ぬだって?それは何かの冗談か!!」
ディアッカのグフ・イグナイテッドはビームキャノン砲を董襲のキバに向けて撃った。
董襲のキバはビームキャノンをひらりと交わした。
「へん!冗談だったら、名前を教えるかよ!!」
董襲はディアッカのグフ・イグナイテッドに接近し、ビームキャノン砲を両手の爪で切り裂いた。
「ひゅうー!やるねえ!!だがな、俺は数々の戦いを潜り抜けてきたんだ。こんなところで死ねるかっての!」
ディアッカのグフ・イグナイテッドはヒートロッドを伸ばし、董襲のキバの右腕に絡め、高圧電流を流そうとした。
しかし、董襲はそう簡単に電流を流されてなるものかと、ヒートロッドを右手で引っ張りあげた。
「うわあ!!」
「こんなちゃちい手で俺を仕留めようなんざ、100億年早いんだっつーの!!」
董襲のキバはヒートロッドを絡ませたまま、ディアッカのグフ・イグナイテッドを振り回し、ゲイツRやシグーにぶつけまくった。
ゲイツRやシグーはバランスを失い、陳武のキバの餌食となり、ディアッカのグフ・イグナイテッドの装甲はデコボコにへこんだ。
「畜生・・・、グフのヒートロッドを逆に利用されるなんて・・・」
「これがアマチュアの軍人と、プロのコロニーポリスの差だぜ、ワルキューレさんよ?」
董襲はディアッカを見下すような眼で言った。
董襲のキバは左手の爪でヒートロッドを切った。
ディアッカは苦笑いをしながら言った。
「へへへっ、この俺がアマチュアねえ・・・。それじゃあ、アマチュアなりにあんたと戦うか!!」
ディアッカのグフ・イグナイテッドはビームソードで董襲に向かって行った。
「へん!だったらアマチュアらしく死ねよ!!」
董襲のキバもディアッカのグフ・イグナイテッドに向かって行った。
孫策と周瑜のキバはイザークのグフ・イグナイテッドと互角の戦いを繰り広げていた。
「この賊軍があ!!」
イザークのグフ・イグナイテッドはビームソードを振るいながら、孫策のキバを切り裂こうとした。
しかし、孫策はそれを交わし、キバの爪でグフ・イグナイテッドの左手を斬った。
「いやあ、やるなあ!あのグフ・イグナイテッドのパイロット!」
「感心してる場合か、孫策?」
周瑜は孫策をたしなめた。
「悪ぃ、だけどあまりの戦いっぷりを見てると、まさに天晴れって感じるからよ」
「ふっ、まあいいさ。だが、油断するなよ!」
「おう!分かってるぜ!!」
孫策のキバは、イザークのグフ・イグナイテッドに近づくと、そのまま蹴りの乱打を浴びせた。
イザークのグフ・イグナイテッドは防御する暇もなく、そのまま蹴りの雨を喰らい、遠くへ吹っ飛ばされた。
「ぐわあ!・・・くっ、やってくれる!!」
イザークは機体のバランスを整え、孫策のキバの方へと向かった。
「おお、まだ向かってくるとは!そんじゃ俺も本気を出させてもらうかな?」
孫策がそう思った瞬間、バーソロミューより通信が入った。
通信をつなげたのは、孫権であった。
『孫策部隊に通達!これより本艦は、大気圏に突入する!すぐに撤退せよ!!』
「おお、もう大気圏に入るのか!そんじゃあ、お楽しみは後でということで・・・」
孫策は戦っているメンバーに通信を入れた。
『おい皆!これからバーソロミューは大気圏に突入するぞ!すぐに船に戻るんだ!!』
「成程、もうそんな時間か!」
「わ・かった!すぐ戻る!」
「せっかく戦ってたのに・・・、まあいっか!」
「ほんじゃまあ、撤退するで!」
孫策の部隊はバーソロミューへと戻った。
バーソロミューが大気圏へ突入するのを察知したディアッカとシホはまずいと思った。
このままでは奴らが地球へ入ってしまう!
「おいおいイザーク!!こりゃまずいことになったぜ!!奴ら、地球へ降下する気だ!!」
「これからどうしますか隊長!あの船を追おうとしても、大気圏の熱で燃え尽きてしまいますが!?」
イザークは数分黙ってから、ディアッカとシホに言った。
「よし!俺達も地球へ降りるぞ!!」
「ええ!?無茶だぜイザーク!!」
「MSのまま大気圏に入れば、我々も燃え尽きてしまいます!!」
「馬鹿者!そのための対策を考えずに言うと思ったか!?確かにMSだけでは大気圏の熱で焼かれて消し炭になるのは必至。だから、デブリ帯の宇宙ゴミを使うんだよ!」
ディアッカとシホは、はっとした。
地球の周りにはデブリ帯という、長年の宇宙開発などで生まれた宇宙ゴミが漂う軌道がある。
そこに大気圏の熱を防げるような宇宙ゴミを拾って、それを使えばなんとか地球に降りることはできるはずだ。
「これから俺達は宇宙ゴミで大気圏の熱を防ぎ、地球へ降下する!いいな!」
「おう!」
「了解しました!!」
果たして、イザーク率いるワルキューレ部隊は、宇宙海賊・江東乃虎を捕まえるため、地球へ降下することになった。
バーソロミュー号は、地球の海へと着水した。
地球の海はどこまでも青く澄んでいた。
海の潮の香りが漂ってくる。
「ここが地球か・・・」
孫堅は、宇宙では見ることのできない地球の海を見て、これから始まる地球での戦いを見据えていた。
「へえ、『宇宙海賊・江東乃虎が、地球に降りる!』ねえ・・・」
梁山泊副頭領である宋江の弟、鉄扇子・宋清は、修練場で胡坐をかきながら新聞を見ていた。
新聞のトップには、海賊船のような戦艦が海に浮かんでいる写真が載ってあった。
「ついに江東乃虎も地球にやってきたか・・・、これで世界はまた大騒ぎになるぞ。これから色々と大変になるなあ・・・」
宋清は他の梁山泊のメンバーとは違い、どこかさえない顔をしている。
宋清はため息をついて頬杖をついた。
宋清の隣にいたマヤ、健太、カンの3人は、宋清に訊いた。
「宋清さん、確か江東乃虎って、世界3大レジスタンスの1人ですよね?」
「ああ、そうだけど?」
「確か江東乃虎って、宇宙のLポイントのコロニーにいる政治家を襲っている集団のはずです」
「それがなんで地球にやって来たんでしょうね?」
「さあね。僕にも分からないよ。何せ、他のレジスタンスのことについては情報源が余りにも不足してるんだよ」
「そうなんですか・・・」
「さすがに梁山泊の人でも、他のレジスタンスについては分からないんですね・・・」
「情報が多くあればなあ・・・」
マヤ達は宋清の話を聴いて、他のレジスタンスの人達と手を組むことが出来たらいいなと感じた。
色々なレジスタンスの人達が手を組んで、統一連合を倒すために力を合わせれば、どんなに素晴らしい事だろうか。
いつかそんな日が来るといいなと心の中で思った。
マヤ、健太、カンは気を取り直して、修練場の方を見ていた。
修練場では、楊志と張飛が自分の得物で戦っている。
健太は楊志と張飛の戦いを見ながら言った。
「それにしても、楊志さんと張飛さんって、結構仲が悪いよなあ」
「うん。僕達が梁山泊に来た時も喧嘩しようとしていたよね」
「あの2人って、仲が悪いんですか?」
マヤは宋清に訊いた。
「うん。楊志さんと張飛さんは、かなり仲が悪い。あの2人は性格が正反対と言うか何と言うか・・・。分かりやすく言うなら、楊志さんが静なら、張飛さんは動といった所かな」
成程、とマヤは宋清の話を聴いて思った。
確かに戦っている2人の言葉を聴けば、実に性格が正反対だと言うことがよく分かる。
「フッ、武器をぶるんぶるんと振り回し、雄叫びを上げるだけなら誰でもできるぞ、張飛?」
「てめえ!!またこの俺様を侮辱するようなことを言いやがったな、ぶっ殺してやる!!」
「やってみろ」
マヤは、あの二人が仲良くしてるところを見るのは、ある意味奇跡に近いなと思った。
慕容彦達邸
彦達の官邸は、先日黄信と秦明の手によってボロボロにされていた。
彦達はなんとか壊されずにすんだ椅子に座りながら、北京からやってきたワルキューレ27楽奏の2人とワルキューレ兵1人を見つめていた。
「成程・・・。そなた達がワルキューレ27楽奏の・・・」
「はっ!ワルキューレ27楽奏・パウロ・カーディアン中佐であります!」
「同じく、リン・マーシャオ大佐であります!」
「私はワルキューレ部隊所属・フェイ・マーシャオ少佐です」
パウロ達3人は彦達に向かって敬礼をした。
彦達は椅子から立ち上がり、パウロ達に近づきながら言った。
「ワルキューレの者達よ。わざわざこの彦達のために来てくれて、感謝するぞ」
「はっ眼に余る光栄であります!」
パウロは彦達に言った。
彦達はパウロの言葉に耳を傾けはしなかった。
彦達はパウロの両隣にいる、フェイとリンに興味津々であった。
その双子の姉妹の肌は陶器のように白く、団子状に纏められた髪は黒く・艶がかかっている。
そして、まだ成長の途中である胸の膨らみ。
少しいたずらをしてやろうか・・・。
彦達はフェイとリンを見つめている度、邪な心がむらむらとわきあがって来る。
彦達はリンの後ろへ周り、リンの首筋を一本の指で撫でた。
リンはぞわぞわとした感覚に襲われた。
「ちょ、ちょっと、何をしてるんですか!?」
リンは彦達に怒鳴り上げた。
彦達は含み笑いをしながらリンに言った。
「いや、失礼。手が滑ってしまったもので」
リンは今すぐにこいつを殺そうと思った。
あたしの首筋を撫でるとはいい度胸してるじゃないの。
女性に破廉恥行為をする男は、ホモの2番目に許せない。
殺す。
リンはそう思うと、彦達を裏拳で殺そうとした。
しかし、それをフェイが止めた。
リンはフェイに文句を言った。
「姉さん、何で!?せっかくこのエロ男を殺そうと思っていたのに!」
「リン、感情のままに動くのはやめなさい。感情のままで動けば、軍法会議にかけられますよ」
「・・・は、はい。分かりました」
リンは握り拳を解いた。
彦達は含み笑いをしながら椅子に座ると、パウロ達3人に言った。
「それでは3人には、特別に用意した部屋がありますので、そこでお休みになってください」
「はい!分かりました!」
3人は彦達に頭を下げた。
「あ〜〜〜〜〜〜!!イライラするう!!!」
リンは団子状に纏めた髪を乱しながら、部屋で声を張り上げていた。
フィはそんなリンを見て微笑みながら言った。
「あらあら、どうしたのリン?」
「どうしたのじゃないわよ!!ったく!!あたしはあの金持ちボンボンに首筋を触られたのよ!!あ〜!!なんたるこの屈辱!!」
リンは部屋のベッドにうずくまりながら、腹が立つ腹が立つと繰り返し言いながら暴れていた。
パウロはそんなリンをよそに、ある資料を見て呟いていた。
「SWH−A・・・か」
「どうしたんです?パウロさん」
フェイがパウロに訊いた。
パウロはおちゃらけた声で言った。
「いやね、彦達から手渡された資料をちょっと見ているんだよ」
「へえ、で、その資料にはなんて書いてあるんです?」
「確か、SWH−A・・・と書いてある」
パウロは資料に書いてある、蒼色の髪の少女の写真を見ながら言った。
SWH−A。正式名称、<seed・weapon・hyurman-archetype>
経歴、年齢、種族、全て不明。わかる事はワルキューレ部隊所属ということだけか・・・」
パウロは蒼い髪の少女の資料を見ながら、ある疑問を頭に浮かばせた。
この資料に書いてある少女は、写真を見る限り人間のはずだ。
しかし、なぜ人間であろう少女にこんな機械のような名称をつけるのだろうか?
この少女には本名がないのだろうか?
是非この少女に会って見たい・・・。
パウロはフェイに言った。
「フェイ。この資料に載っている少女に会いに行こうぜ」
「えっ?資料に書いてある女の子にですか?」
「ああ。どうもこの資料を見ていると、どうも臭うものを感じるんだよな。この資料は彦達の官邸に入る時に、彦達の部下から貰ったもんでな、もしかしたら彦達が知っている可能性が高いかなと思ってさ」
「だから彦達に直接、資料の少女の事を訊きだして、少女に会おうと言うわけですね」
「その通り!どうだ?リンも行くか?」
パウロはリンを誘った。
リンはベッドに横になりながら言った。
「あたしは行かない。あのセクハラ男に首筋を撫でられたくないもん」
パウロは納得した声で言った。
「そっか。分かった。じゃあ俺とフェイの2人で行くから、リンは部屋にいるんだぞ」
「くれぐれも、廊下から出ないでね、リン。誰かが部屋に来て、誰もいなかったらとても失礼ですからね」
パウロとフェイはリンにそう言うと、部屋のドアを開け、廊下に出て行った。
リンはベッドで横たわり、足をパタパタ動かしながら暇を潰していた。
「ああ〜。暇暇暇暇〜。なんか面白いことないかなぁ。ああ〜、あたしもパウロや姉さんと一緒に行けばよかった〜!」
リンは自分がパウロとフェイと一緒に行くのを断ったことに後悔した。
パウロとフェイは彦達の部屋の前に着いた。
パウロは部屋の中にいるであろう彦達に言った。
「彦達様!パウロ・カーディアンなのですが、1つ訊きたいことがあって参りました!ドアを開けてください!」
しかし、彦達の声は聴こえなかった。
「あの〜、彦達様ぁ?聴いてます?」
パウロは再度彦達を呼んだが、返事はしない。
「あのですね!!」
パウロが怒鳴ろうとした瞬間、フェイが彦達の部屋のドアノブを掴んだ。
ドアは簡単に開いた。
「あらあら、開いているようですね?」
「えっ、開いている?どういうことだ?」
パウロとフェイは不思議に思いながら、彦達の部屋の中へ入った。
彦達の部屋の中は、骨董品や宝石などの高価な品が山積みされていた。
おそらく、貧しい民の税金を搾り取って集めたのだろうと2人は思った。
「うわあ・・・、何という悪趣味だよこいつ・・・」
「おそらく、恵まれない人々からかき集めて買ったものなのでしょうね。レジスタンスが増える理由も納得いきますね」
パウロとフェイはそう考えると、彦達がいないことを確認し、部屋から出ようとした。
と、その時、廊下から、蒼い髪の少女が現れた。
パウロはその少女が、資料に書いてあった少女だと確認した。
少女はパウロとフェイに言った。
<あなた達はここで一体何をしているのですか?ここは慕容彦達専用の部屋ですが?>
「い、いやあ、俺達はだな、その彦達に合いに行こうと思って、ここへ来たんだよ、なぁ、フェイ」
「そ、そうです。けれどその彦達様がいなかったので、仕方ないので部屋から出ようと思ったんです」
パウロとフェイは自分達が泥棒と間違われないように、なんとか少女を納得させようとした。
少女は2人の言葉を聴くと、
<そうですか。わかりました。では・・・>
と言って、2人の元から去ろうとした。
と、パウロはこのチャンスを逃さなかった。
せっかく資料の少女が目の前にいるんだ。
色々と訊きださなくてはならない!
パウロは「ちょっと待って」と言って、少女を引き止めた。
<なんでしょうか?用件は手短に願います>
「いやあ、君に訊きたいことがあったんだ。君の名前はなんていうんだい?」
<・・・私は、対レジスタンス用戦闘生物兵器・SWH−A。正式名称・・・>
「いやいや、そうじゃなくて!君の本当の名前はなんていうんだいと訊いているんだよ」
<私はSWH−A。その他の名前は存在しません>
「えっ?」
パウロは少女の言葉に驚いた。
SWH−Aというのが本名?
まるでMSのような名前じゃないか!
いや、彼女の話している言葉自体、機械のような感じだ。
少女はパウロに言った。
<もう行ってもよろしいでしょうか?私は他にやるべきことがあります。これ以上の会話は、時間のロスです>
「あ、ああ、分かった。行ってもいいよ」
<感謝します>
少女はそう言うと、廊下をすたすたと歩いていった。
パウロはフェイに訊いた。
「なあ、フェイ。あの子についてどう思う?」
「・・・なんか、自分の意思がないというか、どうも生きてるという感じがしませんね」
「フェイもそう思ったか。実は俺もだ。あの子の喋っている言葉は、どうも淡々としていて、まるで機械と喋っているようだった」
「彼女は一体何者なのでしょうね?」
「さあな。知ってるのはおそらく、彦達のような統一連合の上層部、そしてワルキューレの上層部の者だろう。とにかくあの子に関しては詳しく調べる必要がありそうだ」
パウロは歩き去っていく蒼い髪の少女を見ながら、統一連合とワルキューレの思惑が何なのだろうと考えた。
梁山泊・開発研究所
「ほほう、これが我々の機体というわけですな、太乙真人さん」
「私達のワークスジンをここまで変えるなんて・・・」
ダンベールとジェシカは自分達の機体の変わり様に驚愕を覚えた。
ダンベールの機体は首から下のパーツがドム・トルーパーのパーツを取り付けられており、武装はドナテロのゲイツRの装備であるヒートアックスと、KONRON社製のバズーカ砲が装備されている。
カラーリングは深い青紫色一色であった。
ジェシカの機体は、背部の翼パーツが戦闘機の翼のようになっている。
そして装備は二丁のビームガンのみであった。
カラーリングは薄い水色である。
太乙真人は眼を輝かせながら言った。
「これが、ダンベールさんとジェシカさんの新MS、『ジンアックス』と『ジン・ブルースカイ』です。ジンアックスは首以外のパーツをドム・トルーパーのパーツに変えて、白兵戦用の武装をヒートアックスに、長距離戦用の武装をKONRON社製バズーカにしました。空を飛ぶことはできませんが、水上ホバーを脚部につけているため、水上での戦いで有利に戦えます。ジン・ブルースカイは空での戦いを考えて作られたMSです。背部の翼のパーツを、スカイグラスパーの翼を改良したパーツに変え、長距離戦用の武装を二丁のビームガンのみに絞り、中距離戦用の装備には、頭部に付属した120mmバルカンで対応。これからの空中での王者はジン・ブルースカイで決まりです!」
ダンベールとジェシカは太乙真人の話を聴いて、自分達のワークスジンがここまで進化できるのかと感心した。
「いやはや、回収したパーツがここまで使えることができるとは、統一連合もレジスタンスを見習わなければなりませんな」
「そうですね。多額の資金で新型MSを開発することに力を入れるなら、パーツの再利用という方法を考えればいいのに。そうすれば資金も高くならずにすむのに・・・」
ダンベールとジェシカの会話に、たまたま通りすがったヨウランとヴィーノがやってきた。
「ダンベールさん、ジェシカさん!どうですか?俺達が開発した新MSは!?」
「とてもかっこいいデザインでしょ!?」
「あ、ああ!そうだな、とてもいいカラーリングだな!」
「そ、そうね!特に青紫一色のカラーに、ジン・ブルースカイの名に相応しい水色のカラーリング!とても素晴らしいと思うわよ!」
「そうですか!!やったあ!徹夜で塗っといた甲斐があったぜ!」
「気に入ってもらえて光栄です!!」
飛び跳ねながら喜んでいる所へ、太乙とマッドが2人の目の前に立ってこう言った。
「2人とも、これは僕が考えたカラーリングだよ?自分達が考えたように言わないでくれるかなあ?」
「ヨウラン、ヴィーノ!こんな所で油売ってないで、早くジンソードの整備に向かわねえか!!」
「は、はい、すいません〜」
ヨウランとヴィーノは慌ててジンソードの搭載場所に走っていった。
「全く、すいません。あの2人はかなりのお調子者でありまして・・・」
「後で僕達が叱っておきますので・・・」
マッドと太乙はダンベールとジェシカに頭を下げた。
ジェシカはクスクスと笑いながらマッドに言った。
「いえいえ。私達は気にしていませんから。そんなに頭を下げなくてもいいですよ」
「そうですよお2人とも。お調子者であることは元気のある証拠です。そんなに気にしなくてもいいですよ」
「そ、そうですか・・・」
「それならばいいんですがね・・・、ははは」
4人はその場で笑いあった。
と、その時、梁山泊中に緊急事態発生を知らせる音が流れた。
その音と共に、アビーの声が入る。
『緊急事態発生!緊急事態発生!梁山泊内に敵4名が侵入!繰り返します!梁山泊内に・・・』
緊急事態の放送を聴いたジェシカは太乙に言った。
「太乙さん、私達はマヤ達のいる修練場へ向かいます!太乙さんは早く司令室へ!」
「ええ、僕はすぐに向かいます!3人もくれぐれも無茶しないで下さい!敵はどんな奴かわかりませんから!」
「はい!」
「了解しました!」
「くれぐれも無事で!」
ジェシカ達3人は修練場へ、太乙は司令室の方へ向かった。
「ど、どうする、ヨウラン?俺達はここで待機してるかい?」
ヴィーノはヨウランに訊いた。
ヨウランはヴィーノに言った。
「決まってるだろ!ここの研究所を死守するぞ!」
「あ、ああ・・・!!」
ヴィーノは未知の敵への恐怖に震える手を握り締めた。
梁山泊・門前
梁山泊のメンバー達はそれぞれの武器を持ち、4人の敵に向かっていった。
「ここは一歩も通さないぞ!!」
「くらいやがれえ!!」
メンバー達は、どかどかと重なりながら、4人の敵を抑えた。
しかし、一瞬にして吹き飛ばされ、湖へと落ちていった。
「ははははは、弱い弱い!世界3大レジスタンスの1つだと聴いていたんだが、まるっきし弱いじゃねえか!とんだ期待はずれだぜ!」
ワルキューレ27楽奏の1人、パウロ・カーディアンは笑いながら言った。
パウロがこう笑っていると、隣にいるリン・マーシャオはパウロを怒鳴った。
「ちょっと、パウロ!せっかくあたしが一気に敵をふっ飛ばしてやろうかなって考えていたのに、横取りしないでよ!!」
「いやあ、悪い悪い。つい足が出ちまった。はははは」
「はははは、じゃないでしょ!!」
「2人とも、今はそんなことをいっている場合じゃありませんよ」
口論をしているパウロとリンに、フェイ・マーシャオが言った。
「今の私達の任務は、梁山泊の頭領を捕らえることです。けんかをしている暇はありません」
<フェイの言うとおりです>
と言ったのは、SWH−Aと名乗る蒼い髪の少女であった。
<私達は慕容彦達の配下、黄文炳の命によりここへ来ているのです。無益な口喧嘩は時間のロスです>
そうだ、とパウロは思った。
今、自分達は彦達の配下である黄文炳の命令でここに来たのだ。
黄文炳は、
『命令を出すよん!パウロ、リン、フェイ、そしてSWH−Aは今から梁山泊のアジトへ向かい、梁山泊の頭領らしき男を捕まえるんだよん!』
と言っていた。
一応自分は軍人の立場であるから、命令は遂行しなければならないのは分かる。
だが、この蒼い髪の少女には言いたいことがある!
「なあ、SWH−A、だっけ?その機械みたいな口調はやめないか?どうもお前と話していると、ロボットと話しているみたいで
どうも落ち着かないんだよなあ」
<そうですか?私は普通に話しているつもりなのですが。・・・それよりも早く任務続行を>
「・・・ああ、分かった分かった。さっさと任務遂行させるよ」
パウロは半ば諦めたような口調で言った。
パウロがそう言うと、パウロの影の中から耳障りの悪い声が聴こえた。
「SWH−Aの言うとおりだぎゃ。さっさと任務を達成して、彦達の官邸へ帰るぎゃ」
その声の持ち主がパウロの影からぬるりと現れた。
声の主の姿は異様なものであった。
肌は黄緑色で、体中がトカゲのようにごつごつとしたイボがあり、背骨はぐにゃりと曲がっていて髪型はトカゲのひだの様にトゲトゲとしている。
さらに眼は絵に描いたような渦巻が回って、というよりも本当にくるくる回っていて、鼻の先端にはツンと尖った角が生え、口は耳まで裂けていて、とても人間とは思えない姿であった。
軍服が緑に染まっていることから、どうやらこの男はワルキューレの兵士のようである。
パウロは異形の男を見て、はっとした顔で言った。
「なんだ、『カメレオンの胡車児』か。どこかで聴いた様な声だと思ったらやっぱりお前かぁ。第二次地球圏大戦以来じゃねえか。よく全身整形をしないもんだなと感心するよ」
「フン、奇形嗜好である両親のせいでこんな姿になったとはいえ、せっかく俺をこの世に誕生させてくれたんだぎゃ。その親の精と魂が込められているこの体をそう簡単に変えてなるものかだぎゃ。偽ラクスのミーア・キャンベルじゃあるまいし」
「ん?お前もあの星ラクスが偽者だと気づいていたのか!」
「ああ。俺はあの偽ラクスの元を知っているからな元を。この俺の情報網があれば、本当の素顔を捜すことなど、みかんの皮を剥くことよりも簡単だぎゃ」
「全くお前の調査能力には感心するぜ、はっはっはっは!」
「ぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ!!」
パウロと胡車児が笑っていると、2人の首にリンとSWH−Aの手が締められた。
「パウロ、そしてカメレオン・・・。さっさと任務を始めたいんだけど、早くしてよ!」
<任務時間が15分ロスする可能性、88.8%。速やかに任務遂行を開始してください>
「いやあ、ちょっと世間話をしていただけだよ、リン・・・」
「そ、その通りだぎゃ。だから首を絞めるのはやめるぎゃ」
パウロと胡車児はそう言うと、梁山泊の門を同時に蹴飛ばした。
門は粉々に粉砕され、跡形もなくなった。
門の向こう側には、梁山泊のメンバーが武器を持って待ち構えていた。
「あらら。もう敵さんは準備万端ってわけね」
「そんなことはどうでもいいぎゃ。さっさと頭領を捕らえて、任務完了させるぎゃ!」
「カメレオンさんの言う通りです!速やかに敵陣を突破しましょう!」
「あたしはもうやる気満々よ!さっさと突撃突撃!!」
<敵人数、110名。敵殲滅推測時間、3分45秒21。任務の障害となる敵を排除します>
パウロ達5人は立ちふさがる梁山泊メンバーにまっすぐ向かっていった。
マヤ達は梁山泊のメンバーと共にいながら、門を壊してやって来た5人の敵を見た。
健太とカンは震えながら言った。
「あ、あの3人の顔は・・・、間違いない。ワルキューレ27楽奏だ!」
「そしてその隣にいる奇天烈な奴は、『カメレオンの胡車児』だ!」
「えっ、何?その27なんとかと、カメレオンって?」
何も分からないマヤに健太とカン、そして佐助が言った。
「知らないのか!?ワルキューレ27楽奏といえば、特殊部隊・ワルキューレの中で最も強い27人の総称だぞ!そしてあそこにいる3人は、『紫光の双犬・パウロ・カーディアン』、『即倒発気・リン・マーシャオ』、『蒼符術士・フェイ・マーシャオ』だ!」
「そしてその3人の隣にいるのは、ワルキューレ中屈指の暗殺者『カメレオンの胡車児』!まさか統一連合がこんな奴らを用意してくるなんて!!」
「健太とカンの言うとおりだ。あの3人と胡車児は世界中のレジスタンスもその名を知らない者はいない!だが、あの蒼い髪をした少女は一体誰だ?あの少女の顔は見たことないぞ?・・・とにかく、今までの戦いとは一味違うということは間違いないようだ!!」
「そんなに強い人達が来るなんて・・・。佐助さん、わたし達は本当に勝てるんでしょうか?」
マヤがそう訊くと、佐助は5人の敵を睨みながら言った。
「本当に勝てるのか?、じゃない!!必ず勝つんだ!!」
佐助がそう言った瞬間、楊志が叫んだ。
「来るぞ!!」
5人のワルキューレ兵が向かってくると、梁山泊のメンバーも5人に向かって走り出した。
パウロは常人とは思えない速さで梁山泊兵に接近した。
「は、速い!?」
パウロが近づいたと気付いた瞬間、兵士達はパウロのハイキックで吹っ飛ばされた。
「ヘン、遅い遅い!!」
パウロはそのまま敵兵を華麗なる蹴り技でなぎ倒していった。
「弱い弱い、もっと強い奴はいないのかよ?」
パウロがそうぼやきながら戦っていると、前方から5本の刀を持った男が接近してきた。
「へへへへ!強い奴ならここにいるぜ!!この操刀鬼・曹正という強い奴がな!」
曹正はそう言うと、5本の刀を投げて、
「操具!!」
と叫んだ。
5本の刀は曹正が叫んだと同時に空中に浮かび、曹正の周りに近づいた。
パウロは曹正の周りで浮かぶ5本の刀を見て、にやにやと笑った。
「成程、あらゆる武器を自在に操る能力『操具』・・・。直に見るのは初めてだぜ」
「ほお、俺の能力を知ってるのか?」
曹正はパウロに訊いた。
「まあな。俺だって伊達にワルキューレの仕事はやってないんだ。操具の能力は聴いたことがあったが、実際見るのはこれが初めてだ。どんな技を見せてくれるのか、楽しませてくれよ!」
「ああ!!俺のこの能力で永遠に楽しんでくれ!死体は解体して、孫二娘にくれてやっからよ!!」
曹正は5本の刀を念力で振り回し、パウロの体を切り裂こうとした。
しかし、パウロは瞬時に5本の刀を避けた。
「な、何!?この俺の刀が一瞬で避けられただと!?」
「一瞬・・・?なに言ってんだよ。俺はゆっくり避けただけだぜ。まあ、凡人の眼には一瞬に見えるけどな」
パウロは軽い口調でさらに曹正に言った。
「俺の能力は一瞬のスピードで動く高速の能力。その名も『瞬』あんた等の眼にはほんの一瞬に見えるが、俺にとっては普通の速さでしかない。つまり、普通の強さしか持ってないあんたには!!」
パウロはそう叫ぶと、曹正の周りを浮かんでいる刀を盗み、そのまま曹正の懐に飛び込み、下から曹正の下顎を蹴り上げた。
曹正は空中へ浮かび上がるが、なんとか受身をとって体制を取り戻した。
が、パウロは曹正が体制を取り戻した瞬間、何発もの蹴りを曹正の腹部に喰らわせた。
「がはあ!!」
曹正は地面に倒れかけるが、なんとかこらえた。
パウロは曹正に言った。
「・・・とまあこういうわけだ。おいおい、ちっとは楽しませてくれるかと思ったのに、全然期待外れじゃねえか。世界3大レジスタンスの名が泣くぜ?」
「お、俺の刀を返せ!!」
曹正は残り4本の刀をパウロに向かわせた。
だが、パウロは向かってくる4本の刀を蹴り1発で地面に叩き落した。
「この程度の能力なのかいあんたは?そろそろ本気を出させてもらいたいぜ・・・」
パウロが曹正に近づきながら余裕の表情で言っているその瞬間、何かがパウロの背中を切りつけた。
「何ぃ!?一体誰が!!」
パウロは後方を向くと、そこには地面に落とした4本の刀のうちの1本が浮かんでいた。
曹正はにやりと笑いながらパウロに言った。
「へへっ、例え高速で動ける能力の持ち主でも、こうも油断してては早く動くことができないだろう!」
「へ、やってくれる!!やはり戦いはこうでなくっちゃな!!ほれ、刀返すからもう少し本気を出してくれよ!!」
パウロは手に持っていた刀を曹正に返した。
曹正はへへへと笑うと、パウロに言った。
「いいだろう!俺ももう少し本気を出すとするぜ!!」
曹正は地面に落ちていた4本の刀を再び浮かばせた。
「俺も本気を出すからには手加減はしないぜ!いいな!?」
「ああ、その方がいいぜ!!」
パウロは高速の蹴り技を繰り出し、曹正は5本の刀を操りながら戦いを繰り広げた。
梁山泊メンバーはリンとフェイの双子の姉妹の力に押されていた。
リンは向かってくる相手を一撃で気絶させ、フェイは様々な札を使った術で相手を翻弄する。
「姉さん!この程度の相手なら楽勝よ!!」
「あんまり無茶してはなりませんよ。リン」
「分かってるわよ、姉さん。そんなに心配しないでって!」
リンとフェイは楽しげに会話しながら戦っていた。
その会話を聴いていた宋万と杜遷は激しい苛立ちを覚えた。
自分達がこう必死になって戦ってるのに、こいつらは余裕で戦ってやがる。
まるで必死に戦ってる連中を馬鹿にしてるようだ。
実に許せない!!
宋万、杜遷はリンとフェイに突進しながらこう叫んだ。
「貴様等!!こっちが必死になって戦ってるというのに、その余裕面は何だ!!」
「これだからワルキューレの悪党共は気に食わんのだ!!」
宋万は朴刀を横に振り、リンの胴を真っ二つにしようとした。
朴刀は横に振られた。
しかしそこにリンの死体は無い。
リンは宋万の朴刀の刀身に立っていたのだ。
「何!?俺の朴刀の上に!?」
「残念でした。ホイ!」
リンは宋万の顔にかかと落としを喰らわせた。
宋万はそのまま仰向けになって気絶した。
リンは宋万の朴刀を捨てて言った。
「別にあたし達は余裕で戦ってるわけじゃないわよ。只、戦ってる時の合間合間に話し合ってるだけよ」
「それを余裕をかましていると言うのだぁ!!小娘ぇ!!」
リンの後ろから杜遷が朴刀を振り下ろそうとした。
リンはニヤリと笑った。
その瞬間、杜遷に電気が走った。
「ぎゃああばばばばばばばばばぁ!!」
杜遷は突如自分の体に流れた電気によって気絶した。
杜遷に流れた電気の源は、杜遷の背中に貼ってある札であった。
この札の持ち主は、フェイであった。
「『陰陽符術其ノ一・雷電符』。ちゃんと後ろを見ましょうね」
「姉さん!やっぱり姉さんはとても強いわぁ」
「あなたも十分に強いですよ、リン。それよりも」
「うん!早く任務を達成しなきゃね!」
「その調子ですよ、リン。さあ、早く敵を一掃しましょう!」
「うん!!」
リンとフェイは会話を終えると、そのまま梁山泊のメンバーに向かって行った。
向かう先は、マヤ達がいる場所だ。
「き、来た!!」
「やって来る!!」
「うわわ、来るよ来るよ!!」
「マヤ、健太、カン!気を引き締めろ!」
「はい!!」
マヤ達は向かってくるリンとフェイを迎え撃とうと、佐助が持ってきた武器を持ちながら構えた。
3人の武器は棒である。
リンはマヤに向かって蹴りを喰らわせようとした。
マヤはとっさに棒で防ぎ、リンの蹴りをガードした。
「へえ、あたしの蹴りをガードするなんて・・・」
「そ、そんな。まぐれですよ。わたしは只・・・」
「まぐれも実力のうちよ。・・・でもね!!」
リンはそのままの体勢でマヤの持つ棒を無理やり取った。
「あっ!」
「顔からして、あんた新入りね。蹴り1発を防いだだけじゃまだまだね。あたしは黄巾の乱の時にワルキューレに入隊して、敵を何人も殺してきたの。だからまだ入ってほやほやのあんたと、最前線で戦ってきたあたしとじゃ格の差が違うのよ!!」
リンはそう叫ぶと、マヤの頬を力を入れて殴った。
「痛い!」
「戦場じゃそれが普通なのよ!」
リンはさらにマヤの腹部に膝蹴りを食らわし、よろけたところにまた腹部に蹴りを入れた。
「かはっ・・・!」
「どうしたの、もうお終い!?」
リンはマヤの顔に拳打を食らわし、マヤが倒れるとそのまま飛びついて、マウントパンチの雨を降らせた。
「これが!」
「うっ!」
「あたし達!!」
「ああっ!!」
「ワルキューレの!!」
「ぐうっ!」
「力よ!!」
「ああっ!!」
マヤの顔はリンの拳で赤く腫れ上がっていた。
「マヤ!!」
健太、カン、佐助はマヤの名を叫んだ。
しかし、3人はフェイと戦っていて、マヤを助けに行くことができない。
「くう、こいつと戦っていなければマヤを助けに行くことができるのに!」
「マヤぁ!!ごめんよ〜!!」
「ちいっ!!こいつを何とかすることができれば!!」
佐助は自分たちに組み付いているフェイを倒す方法を考えていた。
フェイはニコニコとした顔で3人を見つめている。
「どうしました?私達を倒すのではなかったのですか?」
「畜生・・・!こいつを速く何とかしなくては!!」
マヤは未だリンにマウントパンチを食らっていた。
マヤはリンに殴られ続けながら、この状況を打破する方法を考えなくてはと考えていた。
1番手っ取り早い方法としては、相手が油断している一瞬の隙を見計らう方法であった。
しかし、リンの攻撃は一瞬の隙が全く無い。
このまま殴られているしかないのか・・・。
マヤがそう考えていたその時であった。
リンのパンチの雨が突然止んだ。
リンは戦いに興奮していたのか、乱れた呼吸を整えながら言った。
「さてと、そろそろフィニッシュといかせてもらうわ!実力の差を味わいながら死になさい!」
リンは右手を強く握った。
すると、リンの右手は強く光り輝きだした。
リンはその右手をマヤの顔に思いっきり振り上げた。
「これで、終わり!!」
マヤはこの一瞬を逃さなかった。
マヤは振り下ろされるリンの右手を両手で掴んだ。
「つ、捕まえた!!」
「な、なんですって!?」
リンは予想にもしなかった展開に驚愕した。
あんなに顔が腫れるまで殴り続けたのに、まだ動ける余力があったなんて!!
マヤはリンの右手を両手でひねった。
右手をぐいっとひねられたリンは思わず悲鳴を上げた。
「い、痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!何するのよあんた!!」
「新入りだって、これぐらいのことはできるんです!!馬鹿にしたら、痛い目にあいますよ!!」
マヤはまた力強くリンの右手をひねった。
右手がひねられる度にリンは痛い痛いと悲鳴を上げた。
「いいい痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い、痛い、痛いよぉ!!お願い、ひねるのはやめて!!」
リンは泣きそうな声でマヤに言った。
しかしマヤはさらに力を入れてリンの右手をひねる。
「い、いいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいぃ!?」
「嫌です!あなたが撤退するまで、ひねるのをやめません!!」
リンの右手はマヤにひねられ、手の関節が壊れる寸前まで陥っていた。
そしてさらにひねられて、さらなる激痛がリンを襲う。
「いやああああああ!!痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いいいいいぃ!!お願い、もうやめて、もう止めて、もうやめてもう止めてもうやめてもう止めてもうやめてもう止めて、やめてとめてやめてとめてやめてとめてやめてとめてやめてぇ!!!」
リンは余りの痛さに絶えられず、遂に泣き出した。
リンの姉であるフェイが妹の泣き声に気付かないわけがなかった。
「リン!?」
フェイはリンの名を呼んだ。
そこにフェイの隙ができた。
佐助はその隙を見逃さなかった。
「健太、カン!今だ!!」
「はい!!」
健太とカンと佐助はフェイの腹部を蹴った。
「きゃあ!?」
フェイは3人の蹴りに思わず倒れた。
「よし!すぐにマヤを助けに行くぞ!!」
「はい!マヤ、今待ってろよ!!」
「マヤ、すぐに助けに行くからね!!」
3人はマヤの下へと向かった。
「ああ、待ちなさい!!」
フェイは3人の後を追おうとするが、そこをダンベールとジェシカ、そして楊志と張青に阻まれた。
「残念だったな、ワルキューレ」
「ここは一歩も通さねえぜ」
「・・・邪魔をしないで下さい。妹が痛いと悲鳴を上げて泣いているのです」
フェイは静かな、しかし怒りに満ちている声で、楊志と張青に言った。
楊志はフンと鼻で笑った。
「フン。痛い目にあう覚悟でここに来たんだろう?腕をひねられたくらいで泣いているようでは軍人とは言えんぞ?」
「最近の軍人はキラ・ヤマトのように軟弱になったのか?」
「・・・とにかくここを通すわけにはいかん」
「通りたかったら、俺たちを倒してからにしろ!」
張青はそう言うと、フェイに殴りかかった。
しかし、フェイはそれを避けると、一枚の札を取り出し、楊志に投げつけた。
「『陰陽符術其ノ二・烈火符!!』」
札は炎のように赤くなると、そのまま辺りを灼熱の炎で焼き尽くした。
フェイは楊志を睨みながら言った。
「あなた方が邪魔するというのなら、無理にでも押し通ります!!」
「フン、やれるものならやってみろ!!」
楊志は吹毛剣を抜いて構え、張青は再び構え直した。
フェイは楊志達二人に向かって走り出した。
「マヤ!待ってろ!今助けにいくぞ!!」
佐助達3人はマヤを助けに向かっていた。
あと少しでマヤのいる所へつく!
健太とカンはそう思っていた。
しかし佐助は、何かの気配を感じていた。
佐助は地面に手裏剣を投げた。
「・・・佐助さん?なんで手裏剣を投げたんですか?」
「今に分かるさ!」
佐助は健太の問いに答えた。
すると、地面に落ちていた手裏剣が飛んで戻ってきた。
佐助はその手裏剣をくないで打ち落とす。
佐助は人のいない場所に向かって言った。
「いるんだろワルキューレ!出てこいよ!!」
佐助の声に答えるかのように、敵は姿を現した。
その姿はまるで、二足歩行のカメレオンのようだ。
カメレオンの男、胡車児はぎゃぎゃぎゃぎゃと笑いながら言った。
「ぎゃぎゃぎゃぎゃ。俺の姿を見抜くとは、さすが甲賀流の猿飛佐助だぎゃ」
「へん、甲賀の忍をなめるなよ、カメレオンの胡車児!それよりも、さっさとここを通しやがれ!」
「それはできないぎゃ。なぜなら、お前達はここで俺に捕らえられるからだぎゃ!!」
胡車児は佐助達に向かって緑色の手裏剣を投げた。
佐助達はそれを紙一重で避けた。
「ひゅー、危ない危ない!!」
「死ぬかと思った・・・」
健太とカンは冷や汗をかいた。
佐助は健太とカンに言った。
「健太、カン。お前達2人は先に行け。こいつは俺が引き付けておく」
「えっ!?そんな!!」
「佐助さんはどうするんですか!!」
2人は佐助に言った。
佐助はへらへらと笑いながら言った。
「大丈夫だって!俺もこいつを片付けたらすぐ行く!さあ、行け!」
「・・・はい!分かりました!!」
「佐助さん、早く来てくださいよ!!」
健太とカンはマヤの下へと走っていった。
「こら!ここは通さんと言ったはずだぎゃ!!」
胡車児は健太とカンに向かって手裏剣を投げた。
しかし、手裏剣は佐助の手裏剣で相殺された。
「へへん!健太とカンには指1本触れさせないぜ!」
「おのれえ!!許さんぎゃ!!」
胡車児と佐助はくないを取り出して、目の前にいる敵に向かって
突進した。
蒼色の髪をなびかせながら、SWH−Aは梁山泊の兵士達を次々と薙ぎ払っていった。
華奢な体つきであるというのに、その力は兵士1万人の力に値する。
その姿はまるで、古代神話に登場する戦の女神を髣髴とさせる。
そんな彼女に一目惚れしたのか、王英は眼を輝かせて飛び出した。
「いい女じゃ〜!!」
SWH−Aは飛びかかろうとする王英の姿をいち早く察知し、王英の腹に拳を入れた。
「うぐぉ・・・!」
王英は口から泡を吹き、気絶した。
「おのれ!よくも王英を!!」
史進は王英が倒されるのを見ると、SWH−Aに向かっていき、SWH−Aの頭部に棒の一撃を喰らわせた。
蒼色のかみの少女の頭から、真っ赤な血が流れた。
史進はこれで倒れるはずだと思った。
しかし、SWH−Aは立ったまま史進を見つめていた。
しかも、痛くないかのように表情は平然としたままだ。
この娘は痛みというものを感じないのか!?
史進が心の中でそう思っていると、SWH−Aは史進の棒を奪い取った。
奪い取られた棒は、蒼色の髪の少女の手の中で変化し、一振りの剣と化した。
史進はその光景を見てさらに驚いた。
この娘は物質を変化させる能力を持っているというのか!?
史進はこのままではまずいと思い、自分が持っている剣を取り出し、SWH−Aに斬りかかった。
SWH−Aも史進に斬りかかろうとして、史進に向かって剣を振るい上げた。
2人の戦いは時間が経つにつれ、剣の打ち合いが速くなっていく。
この戦いを見かねた鄭天寿は、なんとかあの蒼色の髪の少女を何とかしなければと思い、史進に助太刀をした。
「史進、助太刀致します!!」
「おお、鄭天寿、すまない!!」
史進と鄭天寿の2人は素早い剣捌きでSWH−Aを追い詰めた・・・かに見えた。
SWH−Aは眉1つ動かさずに、手に持つ剣をバズーカ砲に変えた。
しかも、どんなMS兵器にもない。
とても、とても巨大な。
「まずい鄭天寿、避けろ!」
「は、はい!!」
<ハイメガキャノン砲、発射>
蒼色の髪の少女は巨大なキャノン砲を発射した。
史進と鄭天寿はなんとか避けることができたが、修練場の大半が破壊された。
兵士は破壊された場所にはいなかったから良かったものの、もしこれが当たったらひとたまりもないぞ!
史進と鄭天寿は目を見開いたままの少女を恐ろしく感じた。
マヤも蒼色の髪の少女の持つキャノン砲の威力にただただ驚いていた。
その驚きのせいで、うっかりリンの右腕を離してしまっていた。
これはチャンスだ!
そう思ったリンはマヤを再び寝倒した。
「ああ、しまった!」
「ふふふ・・・、よくもあたしの腕を捻ってくれたわね・・・。このお返しは、たっぷりと払ってもらうわ!!」
マヤはリンの顔を見た途端、得体の知れない恐怖感に襲われた。
これから自分は殺されてしまうのだろうか。
いやだ、まだ死にたくない。
「いや、まだ死にたくない・・・!」
「安心しなさい、殺しはしないから。ただ、ちょっと痛めつけるだけだけどね!!」
「!!」
リンがマヤに拳を振り上げようとしたその瞬間、
「マヤ〜!」
「今助けに来たよ!!」
「!?」
健太とカンがリンを蹴飛ばした。
リンは2人に蹴飛ばされ、横になって倒れた。
マヤは驚いて2人の名前を呼ぶ。
「健太君!カン君!」
「マヤ!無事だったか!?」
「顔が腫れてるじゃないか!後で消毒しないと!」
健太とカンは心配そうな目でマヤを見つめた。
マヤは健太とカンを心配させてはならないと思い、頬の痛さをこらえて笑った。
「だ、大丈夫だよ、2人とも」
「そ、そうか・・・?」
「無理してない、マヤ?」
「大丈夫だって〜!・・・そういえば佐助さんは?」
マヤは健太に訊いた。
「ああ、それなら今、カメレオンの胡車児と戦ってるよ」
健太は向こうを指差すと、そこには佐助と胡車児が手裏剣を飛ばしあい、殴り合いをしながら戦っていた。
2人の戦いは眼にも止まらない。
マヤは佐助の戦いを見て、驚きを隠せなかった。
「凄い・・・、これが佐助さんの力なのね・・・」
「ああ、俺達も見て凄いと感じるよ」
「本当だね〜、・・・はっ!」
「・・・?どうしたの、カン君?」
「あ、あの敵が立ち上がった・・・!」
カンは震えながら、異様な気を発しているリンを指差した。
リンは拳を震わせながら言った。
「・・・よくもあたしの腕を捻って、そして蹴飛ばしてくれたわね・・・。彦達から生きて捕らえろと命令されたけれど、気が変わったわ、お前等、全員殺す!!」
リンは両手に全体内の気を両手に集中させ、
「妖気効波!!」
と叫び、その気をマヤ達に飛ばした。
これはまずい!と思った3人は、棒でその気を防ごうとした。
気は棒で防がれたが、勢いは止まらない。
「くっそ〜!これをどうにかしてあの女に返さなければ〜!!」
「でも、どうやって返せばいいんだ?」
健太とカンは歯を食いしばりながら話をしていた。
敵であるリンとフェイのように余裕で話し合ったりはしていない。
マヤはふと、戦いが始まる前の佐助の言葉を思い出した。
『必ず勝つ!』
うろ覚えかもしれないけれど、今の状況を打破するにはこれが1番だ!
そう考えたマヤは、健太とカンに言った。
「健太君、カン君!こんな時は必ず勝つんだって心の中で念じればいいと思う!」
「念じる?」
「そう!きっとこれがこの気を返せる方法だと思う!」
「・・・なるほど!佐助さんの言葉か!早速やってみるぞ!」
「ええ!?・・・分かった!念じて砕けろ!」
3人は『必ず勝つ』と心の中で何度も念じた。
その念が届いたのか、リンの気が段々と押し返されていく。
「・・・な?あたしの気が押されていく!?」
一体どうして!?
あたしはこの技で何度も敵を葬ってきたのに!
なんであの3人には通じないの!?
どうして!?
リンはどうしてなんだと考えていた。
しかし、押し返された気が自分に襲い掛かり、リンは門前へと吹っ飛ばされた。
「きゃあああああああ!!!」
「リン!!」
フェイはマヤ達に吹き飛ばされたリンの名前を叫ぶと、門前へと走っていった。
「逃がすものか!!」
楊志達は門前に向かうフェイの後を追った。
パウロもリンが倒されたことに気付くと、
「まさかリンがやられるとはな・・・。となると、フェイがまた発作を起こす可能性が高い。仕方ない、門前の方へ行くとするか!」
と言い、リンの元へと向かった。
「へん、逃がすものか!」
曹正はパウロの後を追おうとしたが、SWH−Aがそれを阻んだ。
曹正は自分の前に立つ蒼い髪の少女に怒鳴る。
「おい、そこをどけよてめぇ!!今俺はあの男を追ってるんだよ!!」
<・・・・・・>
少女は口を開かない。
「おい!なんか言ったらどうなんだよ!!」
<・・・前方の男性を敵と判断。これより攻撃を開始します>
少女はキャノン砲を剣に変え、曹正に襲い掛かる。
曹正はそれを5本の剣で防いだ。
「ほほう・・・、俺を排除するってか?・・・面白ぇ!!アイツを仕留める前にちゃちゃっとこいつをぶっ殺すか!!」
曹正はニヤリと笑うと、5本の剣を振り回しながら蒼色の髪の少女に斬りかかった。
胡車児は佐助と戦いながら、リンが倒され、リンの様子を見るためにフェイとパウロが門前に向かったことを察知した。
まさかワルキューレ27楽奏の1人が吹っ飛ばされるとは・・・。
だが、おそらくリンは死んでないだろう。
27楽奏の1人であろう者がこの程度で死んだら、それこそワルキューレの恥さらしだ。
それに、もしここで自分もリンの様子を見に行ったら、敵を攻める側の者はSWH−Aだけになってしまう。
ここはパウロ達がリンの様子を見てから判断することにしよう。
胡車児はそんなことを考えながら拳の連打を繰り出していた。
「や・・・」
「やったのか・・・?」
「そう・・・みたいね・・・」
マヤ達は最初は呆然としながら、少しずつ敵を倒したことを実感した。
しかし、まだ油断はできない。
またあの敵が起き上がってくるかもしれないのだ。
ここで気を引き締めていかなければ・・・。
マヤ達はそう思うと棒を握り締めながら、佐助と戦っている胡車児の後ろへ回り込み、そのまま胡車児に飛び掛った。
「だぎゃ!?」
胡車児は後ろからやってくる気配を感じ取った。
どうやら後ろから来るのは3人らしい。
しかも頭上からとはよく考えたもんだ。
だが、このままでは後ろの3人に叩かれる。
胡車児は一瞬で佐助の側から離れた。
マヤ達が振り下ろした棒は、佐助の頭に当たった。
「いて!」
マヤ達は佐助の頭に棒が当たったことに気付いた。
佐助は頭を擦りながらマヤ達に言った。
「いてて・・・。マヤ、健太、カン!もうあの敵を倒したのか!?」
「あ、はい!」
「マヤを殴ってた敵は門前へとふっ飛ばしました」
「それで、僕達は佐助さんを援護しようとして・・・」
「敵の後ろを取ろうと思ったら・・・」
「敵は一瞬のうちに回避して・・・」
「マヤ達の持っていた棒は、そのまま俺の頭にゴツンというわけね・・・」
佐助は頭を擦るのをやめると、
「まあいいや。今はあのカメレオン忍者を倒すのが先決だ。マヤ、健太、カン。さっさとカメレオン忍者を倒すぞ!」
と言った。
マヤ達は佐助の言葉に
「はい!」
と返事をした。
胡車児はぎゃぎゃぎゃぎゃと笑った。
「ぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ!俺を倒すだと!?倒せるもんなら倒してみるぎゃ!!」
胡車児がそう叫んだ瞬間、胡車児の体はどこにも見当たらなくなった。
「なっ!?カメレオンの胡車児の姿が消えた!!」
「一体、一体どこにいるの!!」
健太とマヤが胡車児の姿を探していたその時、
「うわあ!」
カンが悲鳴を上げて倒れた。
「カン!」
「カン君!」
マヤと健太はカンに近寄ろうとしたが、突然2人の体を何かが襲った。
「ぐわあ!!」
「きゃあ!!」
「健太!マヤ!!・・・ぐっ!?」
佐助も腹部にダメージを受けた。
胡車児の笑い声が響いた。
「ぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ!!俺様の姿が見えないだろう!!俺様がどこだか分かるかなあ!?」
佐助は胡車児の声を聴きながら腹部の痛みを抑え、マヤ達を守った。
その間にも、佐助は姿を見せない胡車児に袋叩きにされていた。
胡車児はさらに笑う。
「ぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ!!どうだ、姿の見えない敵にボコボコにされる気分は!!」
マヤ達は佐助が袋叩きにあっているのを見て、どうにかして佐助を助けなければと思った。
しかし、肝心の敵が見えなければどうしようもない。
一体どうすればいいのだろうか・・・。
一方、佐助は未だ姿を見せない胡車児に殴られ続けていた。
「そらそら、どうしたぎゃ!?さっきから殴られっぱなしだぎゃ!?」
胡車児は余裕な口調で佐助を殴り続けていた。
佐助は何を考えているのか、ずっと黙ったままだ。
胡車児はそろそろトドメをさすかと思った。
と、その時、佐助がニヤリと笑った。
佐助は前方に赤い霧を噴出した。
赤い霧は胡車児の体にべっとりと付いて、胡車児の姿を現した。
胡車児は突然の出来事に驚く。
「な、なんと!!赤い霧が俺の姿を!!」
「へへ!!口の中に血を集めといて良かったぜ!」
「な、何!じゃあまさか、お前は俺の攻撃をわざと!!」
「そう、姿の見えないお前を引きずり出すためにわざとお前の攻撃を受けて、そのときに体内から口へ逆流した自分の血を溜めて、お前がトドメを刺そうとするタイミングを狙っていたのさ!」
マヤ達は佐助の発想にただ唖然としていた。
「まさか、わざと攻撃を受けていたなんて・・・」
「まさに肉を切って骨を絶つような発想だな・・・」
「佐助さんは一体なんなんだ・・・」
佐助はマヤ達に叫んだ。
「今だ!!マヤ、健太、カン!!胡車児をぼっこぼこにするぞ!!」
「はい!!」
マヤ達は佐助の言葉を聴くと、棒を握って胡車児に飛び掛かった。
「げえ!!」
胡車児はくないでマヤ達の棒を防ぐが、後ろから佐助に蹴飛ばされた。
「ぎゃばあ!!」
「お前を引きずり出そうとしてわざと攻撃を喰らっていたが、お前にさんざんボコボコにされたからなあ。覚悟はいいか、カメレオン?」
佐助はにやにやとしながら胡車児に近づく。
胡車児は地団太を踏みながら唸った。
「ぐううう!ちっくしょー!!俺の能力「隠身」が破られるなんて!!このままでは済まさんぞ、絶対に済まさんぞぉ!!」
胡車児はそう言うと佐助に向かって突進した。
佐助はにやにやと笑いながら、向かってくる胡車児の腹部に蹴りをいれた。
「ぐほお!!」
胡車児は口から紫色の血を吐く。
マヤ達は胡車児の後ろから棒を振り下ろした。
胡車児は白目を剥き、うつぶせに倒れて気絶した。
佐助は倒れている胡車児を見ながら、ふぅとため息をついた。
「ふぅ。紫の血を吐くとは、ますます人間じゃなく見えてくるぜ。姿からしてどこをどうみてもカメレオンだぜこりゃ」
佐助がそう言ってると、マヤ達が佐助に近づいてきた。
「佐助さん、大丈夫ですか!?」
「怪我はないですか!?」
「すいません。僕達、何もできなくて・・・」
「いやいや、大丈夫だって!こんな傷、数時間たてば治るって!
それに、このカメレオン忍者を最後に叩いたのはマヤ達だろう。
それに、カメレオン忍者の前はあのお団子頭の敵を門前に吹っ飛ばしたじゃないか。お前達はよくやったさ」
「佐助さん・・・」
「さあ、残りは3人だ、気を引き締めていくぜ!!」
「はい!」
佐助とマヤ達はパウロ達のいる門前へ向かった。
「リン!リン!眼を開けて!!」
フェイはリンにすがりつこうとしながら泣いていた。
フェイの瞳にはリンしか映っていない。
「やだぁ、リン!!私を1人にしないで!!死なないで!!」
フェイは錯乱しているかのようにリンの体に近づこうとした。
フェイとリンは同じ月、同じ日、同じ時間に生まれた双子の姉妹である。
双子は母親の胎内にいた頃から一緒にいる。
そのため、双子の中には依存症になってしまう者達も少なからずいるのだ。
フェイとリンもその双子のうちの1組なのである。
パウロはフェイを鎮めようと、羽交い絞めにした。
「フェイ、落ち着け!!リンはその程度で死ぬ奴じゃない!!心を鎮めろ!!」
「嫌ぁ!!放して!!リン、リン!!」
フェイは体をよじって暴れだした。
畜生・・・、これじゃ梁山泊メンバーを捕縛できない。
ここはひとまず退却した方がいいか・・・。
パウロは胡車児とSWH−Aに向かって叫んだ。
「おい2人とも!!リンとフェイが戦闘を続行することが不可能になった!!ひとまず彦達邸へ退却するぞ!!」
SWH−Aはパウロの言葉に反応すると、曹正との戦いを止め、門前へ向かった。
SWH−Aは向かう途中、うつぶせに倒れている胡車児を見つけた。
SWH−Aは胡車児を担ぐと、すぐ門前についた。
SWH−Aはパウロに言った。
<パウロ。胡車児も戦闘続行不可能になりました。このままでは私達も任務続行が不可能となります。ここは1度彦達邸へ退却することを要求します>
「ああ、要求されなくても退却するよ!」
パウロはリン、フェイ、胡車児の3人を五人乗り用スカイグラスパーの後部座席に乗せ、SWH−Aを前部座席に乗せた。
パウロも運転席に乗ると、すぐさまスカイグラスパーを発進させようとした。
佐助達はパウロ達の乗るスカイグラスパーを発見した。
「まずい!このままでは敵を逃がしてしまう!急ぐぞ!!」
「はい!!」
マヤ達は全力で走る。
他の梁山泊メンバーも佐助に遅れを取るなと、大勢で攻め寄せた。
「やばい!さっさと発進させないと!!」
パウロは急いでスカイグラスパーを発進させた。
スカイグラスパーは宙を浮かび反転した。
パウロはそのまま突っ切って、彦達邸へ退却しようとした。
と、その時、空から人が降り、スカイグラスパーの上に乗った。
降ってきた者は、黒い髪に黒い瞳のうら若き青年であった。
青年は名乗りを上げる。
「豹子頭・林冲、見参!!ワルキューレの悪党共よ、逃がさぬぞ!!」
「おお、林冲のだんな!帰ってきたか!!」
佐助は林冲の名を呼んだ。
梁山泊メンバーは林冲の軍が帰ってきたかと喜んだ。
と、その時、修練場に人がまた降ってきた。
今度は黒い学ランを着た、2本の木刀を持ったリーゼントの髪型の男だ。
「壊し屋陣八、只今参上!!皆、今帰ってきたぜ!!」
「おお、陣八!お前も帰ってきたか!!」
張飛は陣八が帰ってきたことに感涙した。
陣八はへらへらと笑いながら張飛に言った。
「泣かないでくれよ、張飛のダンナ。他の連中も帰ってきてるぜ!」
陣八が湖の向こうを指差すと、そこには林冲、陣八の軍が揃っていた。
林冲の軍から2人の若者の声が聴こえた。
2人の若者のうちの片方は赤い鎧を纏い、右手に方天戟を持ち、もう片方は白い鎧を纏い、赤い鎧をまとった若者と同じく方天戟を手に持っている。
「林冲の配下が1人、小温候・呂方!」
「同じく、林冲が配下、賽仁貴・郭盛、ここに参上!」
「人々を苦しめる悪党共、覚悟しろ!!」
と、呂方、郭盛は同時に言うと、湖の水面を走り、スカイグラスパーに飛びついた。
「ぐああ!!どかどかと機体の上に立つんじゃねえ!!」
パウロは3人に怒鳴り散らす。
呂方、郭盛は、
「黙れ悪党!!」
と同時に怒鳴る。
その時、向こうからまた声が聴こえた。
「行け、鷹達よ!悪党を逃がすな!!」
その声と同時に無数の鷹がスカイグラスパーに襲い掛かる。
声の持ち主はさらに名乗りを上げる。
「この摩雲金翅・欧鵬、悪党を逃がさん!観念しろ!!」
「観念してたまるか!!こっちにはな、気絶している奴2人と、錯乱状態になっている奴がいるんだよ!無理にでも退却させてもらうぜ!!」
パウロはそう叫ぶと、スカイグラスパーを発進させた。
スカイグラスパーは林冲達と鷹達を振り払い、そのまま空の彼方へと飛び去っていった。
「くそ、逃がしたか!!」
林冲はちっ、と舌打ちした。
そこへ佐助が近づいた。
「林冲のダンナ、逃がしちまったのは仕方がないぜ。今度は必ず仕留めましょうや。それよりも今は・・・」
「ああ、敵に破壊された修練場の修理と、頭領への報告だな」
林冲は湖にいるメンバーに湖を渡らせた。
梁山泊メンバーはすぐさま、パウロ達に破壊された修練場の修理に取り掛かった。
「いやぁ、こりゃひどく破壊されてるなあ、おい。敵さんもやり過ぎだってーの」
九尾亀・陶宗旺は破壊された箇所を見ながらぼやいた。
陶宗旺は巨大な亀に乗っていて、手に鍬を持っている。
「陶宗旺さん、直す事ができますか?」
マヤは陶宗旺に訊いた。
「直せないことはないんだがなぁ、だが直すのには相当な時間が必要になるぞ、おい」
「そんな・・・」
「ほら、どんよりしてないでさっさと作業に取り組め、おい!」
「は、はーい!!」
マヤは慌てて走りながら作業に取り組んだ。
健太とカンはヨウラン、ヴィーノと共に門の修復作業を行っていた。
4人はぼそぼそとぼやきながら作業をしている。
「はあ、なんで門を破壊したんだよ、あの5人の敵は・・・」
「修理するこっちの身にもなって世と言いたいよ!」
「まあ、敵はそんなことはお構いなしなのは分かるがな・・・」
「はあ、時間がドンドン過ぎていく・・・」
ヴィーノの言うとおり、時間は刻一刻と過ぎ、もう夕方になっていた。
4人はマッドやダンベールに怒られながら、門をセメントで接着していた。
梁山泊・会議室
「では、林冲よ。インドでの活動報告をしてもらおう」
劉備は林冲に言った。
林冲は劉備に報告をした。
「はい。私と陣八の軍はインドで反オーブ・クライン派の者達を束ねる南蛮王・孟獲殿の下へ行き、我々と連合を組むように言いました」
「して・・・、その結果は?」
劉備は林冲に訊いた。
「はい。孟獲殿は我々と連合を結ぶとのことです」
会議室にいる者達は余りの喜びにどよめいた。
「やったあ!これで統一連合の連中を追い詰めることができるぜ!!」
張飛は子供のように喜んだ。
それを関羽が諫めた。
「翼徳。まだ統一連合が完全に追い詰められたわけではないぞ。むやみに喜ばないほうがいい」
「し、しかし兄者。せっかくインドの反オーブ・クライン派の連中を仲間にできたんだぜ。少しくらい喜んだっていいじゃねえか!!」
「張飛殿、話は最後まで聴いてください」
林冲は張飛に言うと、張飛は話は途中だったと気付いて、すぐ大人しくなった。
林冲は話を続けた。
「孟獲殿はインドから自分の軍の部隊をこちらに派遣するとのことです。孟獲殿曰く、4日後に付く予定だということです。それと、孟獲殿から敵の情報を聞きました」
「敵の情報・・・?」
「はい。どうやら統一連合はワルキューレ27楽奏全員を地球に呼び出し、我々を含むレジスタンスの鎮圧に乗り出したとのことです」
「なんだって!?」
会議室にいた者達は驚いた。
まさか、ワルキューレの中でも強いとされる27人を全員呼び出すとは!
劉備はさらに林冲に訊いた。
「では、統一連合は・・・」
「はい。遂に本腰を上げてレジスタンスの掃討作戦を開始したということです。我々も各地に散らばっている梁山泊メンバーを集結させ、仲間を増やし、統一連合と本格的に戦わなくてはなりません!」
林冲の言葉を聴いた劉備達は、統一連合だけでなく、ワルキューレの者達と戦わなくてはならないのか。
これから苦難の連続となるだろうと、全員心の内で思った。
彦達邸
「なに!じゃあお前達はのこのこと退却したというわけか!?」
彦達は怒号を上げてパウロに言った。
「はい。リンと胡車児は気絶し、フェイは錯乱状態に陥り戦闘不能。このままでは敵に捕縛される可能性が高いと感じたので、撤退した限りであります」
「ふざけるなよん!だったら最後まで戦えばよかったんだよん!!」
黄文炳はパウロに蹴りをいれた。
パウロはその場に倒れこんだ。
黄文炳の怒りは収まらず、パウロにだけでなく、SWH−Aにも当たった。
「お前もお前で、なんでさっさと梁山泊のトップをさっさと捕まえることをしなかったんだよん!!本当に使えない奴だよん!!」
SWH−Aは黄文炳の攻撃を受けても平然としている。
パウロは黄文炳を止めようとした。
「やめてください!彼女は懸命に任務を行っていたのです!」
「うるさいよん!!」
「ぐわあ!!」
黄文炳はパウロの腹部に蹴りをいれた。
その蹴りが鳩尾に入ったため、パウロはその場で呻いた。
「うぐう・・・」
彦達はそんなパウロを見下したような目で見て、鼻で笑った。
「フン、まあいいでしょう。また梁山泊に攻め入ればいいことです。パウロ、これから私は祝家荘の者達に連絡します。あなた方はSWH−Aと行動を共にし、祝家荘の者達と梁山泊のメンバーを捕らえなさい。いいですね!」
「は、はい・・・。分かりました・・・・」
パウロは何とか声を振り絞って返事をした。
「すまねえな、俺の判断のせいでお前まで踏みつけられることになって・・・」
パウロはSWH−Aの瞳を見ながら謝った。
もし彦達や黄文炳の言ったように、3人が戦闘不能になっても梁山泊のメンバーを捕縛していたらこの国でのレジスタンス事件は早期解決に向かったであろう。
しかし、リンや胡車児がダメージを負って、かつ、フェイが錯乱しているのを見過ごすことができなかった。
これを他のワルキューレメンバーが聞いたら、大笑いするだろうな・・・。
パウロは乾いた笑いをすると、SWH−Aと共に治療室へ向かった。
治療室には、リンと胡車児、そして、うつろな瞳で天井を見ているフェイがベッドに横たわっていた。
リンと胡車児はどうやら眠っているようだが、フェイは未だ錯乱状態が続いている。
フェイは小さい声で「リン・・・リン・・・」とつぶやいている。
その姿がなんとも痛々しい。
パウロはベッドに横たわる3人に頭を下げた。
「リン、胡車児、フェイ。すまねえ。今度は俺も頑張るからよ。だから、3人とも。はやく復帰してくれよ」
頭の下げるパウロの姿を見て、SWH−Aは口を開いた。
<パウロ。失敗した任務はまたやり直せばいいことです。3人が回復したら、また任務を開始しましょう>
「・・・そうだな。そういや、お前には名前がなかったよな?」
<名前・・・ですか?私の正式名称は・・・>
「いやいや、正式名称とかそういうのじゃねえ。お前の名前さ。名前がなかったら、俺が今付けるよ。名前は・・・、そうだな。『エチカ』ってのはどうだ?」
<エチカ・・・>
「そう、エチカってのは『倫理学』って意味でさ。お前の顔を見てたら、なんとなく倫理学っぽいなあと思ってさ。どうかな?」
<・・・わかりました。ではそのエチカという名前をもう1つの通称名として使わせていただきます>
「ああ、よろしく頼むぜ。エチカ!」
パウロとSWH−Aもといエチカは固い握手をした後、治療室から出た。
リン達が自然と起きるのを邪魔しては悪いと思ったからだ。
自信過剰だった。
あたしは勝てるとそう思っていた。
だけど、結果は惨敗だった。
全ては自分の慢心が招いた敗北であった。
この程度なら勝てると思い込んだあたしは、まだまだ未熟だった。
そのせいで、姉さんを心配させる結果となった。
姉さんはあたしに何かあると、すぐ泣き出してしまう。
あたしはもう姉さんを泣かせたりしないと、心に決めたはずなのに、また泣かせることになってしまった。
きっと、あたしが気絶した時に、きっと泣いていただろうな。
もっとしっかりしなきゃ、あたし。
どんな相手にも全力で尽くして勝たなきゃ。
そうと決まれば、早く起きなきゃ!
リンはベッドから起き上がった。
どうやら胡車児はまだ起きていないようだ。
リンは右を向くと、そこにはうつろな瞳をしているフェイがいた。
リンはフェイの耳で囁いた。
「姉さん。おはよう」
フェイはその声で我に返った。
フェイがふいに横を向くと、そこにはリンがいた。
「姉さん、おはよう!」
「・・・・リン!!」
フェイは思わずリンに抱きついた。
私の可愛い妹、リン。
妹がいつも側にいる。
こんなに嬉しいことはない。
フェイは涙を流しながら、リンが自分の側にいることをじっくりと感じた。
と、その時、胡車児がゆっくりと起き上がった。
胡車児はリンとフェイの方をむいた。
そこには、リンとフェイが抱き合っている光景があった。
「あっ!」
リンとフェイは胡車児が起きたことに気付いた。
ああ、2人は姉妹でありながら、そういう関係だったのか。
胡車児はそう思った。
その瞬間、リンとフェイは胡車児に言った。
「あ、あああたし達はそういう関係じゃないから!!誤解しないで!!」
「そそそ、そうですよ!!誤解しないで下さいね。ね、ね!」
「・・・わかったぎゃ。パウロ達には言わないでおくぎゃ。彦達の奴にそういうところを覗かれると困るからな。ほんじゃ、俺はちっと飯食いにいってくるぎゃ」
胡車児はそう言うと、食堂の方へ行った。
絶対誤解された。
リンとフェイは心の内でそう思った。