中国の首都である北京にある、国家主席官邸「雷鳳」
その謁見の間に、ある1人の軍人が呼び出されていた。
先の梁山泊との戦いで、無様に敗北した軍の隊長、ホイ・コーローである。
ホイの前には、大勢の中国統一連合の軍人達や官僚達が座っていた。
ホイは軍人達や官僚達の圧倒的な気に押され、ただただ身を竦ませていた。
中国統一連合・八十万禁軍第二将軍・童貫は、ホイを見ながら言った。
童貫は黒い髪を金色に染めており、軍服を派手な色に塗り替え、黒のサングラスをかけている。
「おいおいおいおいホイ隊長さんよお?大勢の軍人共を引き連れて、結果無様にやられてくるなんて、馬鹿にも程があるんじゃねえの?」
「も、申し訳ございません・・・。梁山泊の力は我々が予想していたよりも、遥かに上回っていて・・・」
「ふーん・・・、で?お前は少数の兵を連れてまんまと逃げ帰ってきたってわけか。軍人である奴がなんてザマだ、おい」
童貫がそう言うと、他の軍人達や官僚達も口々に言い出した。
「全く、あれほどの軍勢を連れて行ったのに、やられてしまうとは・・・」
「軍のいい面汚しだぜ・・・」
「これでは我々統一連合が、またレジスタンスのクズ共になめられてしまうではないか!」
「この落とし前をどうつけるつもりだ・・・」
ホイは自分の立場が危うくなると思い、中央で座っている、八十万禁軍大元帥・高?に嘆願した。
高?の顔は白のカーテンに隠れているため、どのような顔をしているのか、全く分からない。
「ど、どうかお願いします!高?大元帥!!どうか私めにもう一度チャンスを!!」
高?は冷たい口調で童貫に言った。
「童貫。こいつの目玉を抉り取り、腹を掻っ捌いて内臓を引き出し、都市の肉屋中の店先にでも捨てておけ」
「そ、そんな!!」
「あいよ、わかりましたぜ。大元帥」
童貫は絶望の淵に立たされているホイを引きずりながら、処刑場へと行った。
ホイは泣きながら高?に言った。
「大元帥!!お願いします!!もう一度だけチャンスをください!!どうかー!!」
ホイは童貫に引きずられ、処刑場へと連れて行かれた。
「フン。チャンスが欲しかったらそれ相応の力をつけてから言えってーの」
高?はそう言うと、謁見の間にいる軍人達や官僚達に言った。
「あーあ、俺が梁山泊の連中をぶっ殺すのもいいが、それじゃまるで面白みがない。誰か梁山泊の連中をぶっ殺しにいきたいという奴はいないか?」
軍人達と官僚達は考えた。
もし、梁山泊を倒しに行くといって失敗すれば、ホイのように無惨な死体となるのは必至。
かといって、このまま何もしないでいると、いずれ梁山泊の連中に首を飛ばされるかもしれない。
どうすればいいか・・・。
高?はそんな軍人達と官僚達の腹を探ったのか、にやりと笑って言った。
「なにもホイのようになりたくなかったらいいんだぜ?報奨金の500万クレジットはお預けということで」
軍人達と官僚達はこの言葉に耳を傾けた。
高?は歯を出してにやにやとしながら、さらに言った。
「最も、これはホイの奴は知らなかったことなんだがな。梁山泊の連中をとっ捕まえたら、それなりの報奨金を出そうと考えていたんだ。その報奨金の金額が500万クレジットってわけ」
金にがめつい軍人達と官僚達は舌なめずりをしながら聴いている。
高?はさらに煽るようにして言った。
「さらに、梁山泊の首領の首を持ってきたら、500万クレジットにプラスして、国中からかき集めてきた美女100人用意してやろうと思うんだが、どうかな諸君?我こそはと思う者はいないかな?」
金銭欲と性欲にまみれた軍人達と官僚達は、目を血走らせながら高?に近寄ってきた。
「私が行きましょう!!」
「いやこの俺が!!」
「わしが梁山泊を攻め落としましょう!!」
「おい!押すんじゃねえよ!!」
「てめえこそ押すんじゃねえよ!!
「美女100人は俺のものだ!!先に手を出すな!!」
「いいや、俺が頂く!!」
高?は欲に溺れた軍人達と官僚達をにやにやと見ていた。
これだから欲にまみれたクズ共は扱いやすい。
金や女に対する欲望のために、血眼になって戦う。
これほど簡単に扱いやすい人間はいない。
さて、どれでもいいんだが、さっさと討伐に行く奴を決めなくてはならない。
一体誰にするか・・・。
高?がそう思って決めようとした時、
「ここはわたしの軍におまかせを!」
と、軍人達と官僚達の後ろから声が聴こえた。
見てみるとそこには、よく肥えた中年の男に、眉が太く恵比寿のように目がにやついている馬鹿な顔をしている男がいた。
「ほう・・・、お前達の名はなんと言う?」
高?は2人の男に名を訊いた。
「はっ、わたしは宇宙統一連合軍大尉・慕容彦達と申します」
「そして、わたくしめは彦達様の副官である、黄文炳と申しますよん」
「ほう・・・。副官がなかなかの馬鹿面なのが面白いが、お前達、自信はあるのか?」
高?は再び彦達に訊いた。
彦達は得意げな顔で言った。
「はい。わたしの軍には鎮三山・黄信と、霹靂火・秦明がおります。黄信はかつて黄巾の乱で3つの山に立てこもっていた黄巾の賊共を、一夜にて退治した猛将。そして霹靂火はその雷のような大声で敵の鼓膜を破り、さらに手に持つ狼牙棒で、敵将の頭をにかち割りぐちゃぐちゃにして、見るも無惨な姿にするという怪力の勇者。この2人が力を合わせれば、梁山泊を蹴散らすことも夢ではありません」
「成程、しかし、その2人が破れたときはどうするつもりだ?まさかもう一度チャンスなんて言葉を言うんじゃあるまい?」
「そのことについてはわたくしめがご説明いたしますよん」
高?の問いに答えたのは黄文炳だった。
「もし黄信や秦明がやっつけられても、我々の軍には、胡車児という名のワルキューレ兵がいますよん。それに我々の軍には、なんと、最近軍の間でも囁かれている『SWHシリーズ』の1人がいるんですよん。この攻撃という名の鉄壁に包まれた我が軍が、梁山泊の連中に負けることなどありませんよん!」
黄文炳の言葉を聴いた高?は、「これは面白そうだ」と思った。
高?は彦達に言った。
「よし!慕容彦達!梁山泊討伐はお前に決めた!見事梁山泊の連中をぶち殺し、その首をここへ持ってこい!!」
「ははー!!ありがたき幸せ!!」
「ありがたき幸せーだーよーん!!」
2人は高?に深く頭を下げた。
「ねえ?あの2人なんかに任せちゃっていいの?また失敗しそうな気がするんだけど?」
八十万禁軍第一将軍・蔡京は廊下を歩きながら高?に訊いた。
高?は笑いながら言った。
「いいんだよ。あいつらの武将2人とワルキューレ兵、そして軍の間で囁かれているSWHシリーズ・・・。そいつらと梁山泊が戦って、どちらが勝つか、面白そうじゃないか?」
「・・・・」
「どうした蔡京?」
蔡京はくすくすと笑いながら高?に訊いた。
「ねえ高??あなた・・・、戦いを楽しんでない?」
「・・・まあな。戦いもまた1つの楽しみなんだが、こっちもまた1つの楽しみでもある」
高?がそう言うと、向こうから腰まで伸びた長い黒髪を持った少女が走りながらやってきた。
少女は「高?!」と言いながら、高?に抱きついてきた。
「なあ、高?〜。わい、高?がいなくてさみしかったんやわ〜。
会いたかった〜♪」
「きつく締め付けるなよ、趙詰。今日は約束どおり、北京の大骨董品店に行くからな」
「やった〜♪高?好き好き、好きや〜♪」
少女は高?の頬に軽く口づけをした。
少女の名は趙詰。
中国国家主席の立場にある少女である。
彼女は身長がやけに低い。
それもそのはず。
趙詰の年齢は15歳。
彼女は前国家主席の血筋を継ぐ者だからという理由で国家主席の座に立った。
しかし、趙詰の年齢では政治を理解することは出来ず、彼女は自分の趣味に没頭するようになってしまった。
それ故に、人々は趙詰のことを「風流天使」と呼ぶようになった。
高?は趙詰を抱きながら蔡京に言った。
「もう1つの楽しみ、それは趙詰と共に暮らすことさ。欲にまみれた連中は手駒にするには扱いやすいが、いつもいるとうざったくてしょうがない。だから、純粋な心を持つ趙詰と一緒に買い物をしたり、後宮で遊んだりすることで心を癒すことが、戦いに続く第2の楽しみなのさ」
「ふう・・・。確かに、癒されたいっていう気持ちは分かるかもね」
蔡京はため息をつきながら高?に言った。
梁山泊・司令室
梁山泊頭領・劉備は、副頭領の宋江、十二神将の関羽、張飛と共に、兵の報告を聴いていた。
「・・・聞仲元帥の軍は香港のMS製造所を制圧、そして林冲様と陣八様の軍はインドの反統一連合派の孟獲大王と同盟を結ぶことに成功しました」
「では、聞仲、林冲、陣八の軍は、もうすぐここへ帰ってくるというのだな?」
「はい!後3日もすれば帰ってくると思われます」
兵士の報告を聴いた張飛は笑いながら劉備に言った。
「わははは!兄者!聞仲達が帰ってくるとよ!きっと聞仲、新しいMSにきっと驚くだろうぜ!」
「ああ、やっと十二神将も揃い始めてきたか・・・。十二神将が揃い次第、我々も本格的に動く必要があるな」
劉備がそう言うと、関羽は首を縦に振って言った。
「兄者の言うとおり。・・・しかし、KONRON社が開発している移動戦艦はまだ出来上がってはおらぬ。出来上がる前に統一連合軍の者達が攻めて来る前に、こちらから攻めなくてはならない」
「関羽殿のおっしゃるとおりです」
と言ったのは宋江であった。
「戦艦を開発している間に中国の統一連合軍だけでも何とかして倒さなければ、後々の戦いに支障をきたす可能性があります。丁度梁山泊には、マヤ、健太、カン、ダンベール、ジェシカという5人の仲間が出きました。一刻も早くあの5人と共に中国統一連合軍の中枢を叩き、貧しい民を救わなくてはなりません」
宋江の言葉に張飛は唸り声を上げた。
「ああ!力の無い民達を虐める悪党共を懲らしめなきゃならねえ!!」
「うむ。3人の言うとおりだ。民達がこれ以上苦しむ前に、中国の統一連合だけでも倒さなくてはならない!」
劉備は拳を天に突き上げて言った。
その姿は、梁山泊の頭領に相応しい姿であった。
KONRON社のメカニック達は、ダンベールとジェシカのワークスジンを改良していた。
先の戦いで、ドム・トルーパー、ドナテロ専用ゲイツR、スカイグラスパーなどのパーツが手に入ったため、早速そのパーツを使って改良を行おうというのである。
ドム・トルーパーとゲイツRの残骸が、あっという間に解体され、ワークスジンのパーツとなっていく。
「そこの脚部パーツをダンベールさんのワークスジンに付けるんだ!」
「はい!わかりました!」
「この部品はどうします?」
「とりあえずそこに置いておけ!」
「ああ、しまった!!部品の入ってるバケツをひっくり返しちゃった!!」
「この馬鹿!さっさと拾え!!」
「は〜い!!」
「全く、マッドのおっさんは人使いが荒いんだから・・・」
「ああ〜、猫の腕も借りたいよ〜」
ヴィーノとヨウラン、そしてマヤ達3人はマッドに怒鳴られながら、懸命に作業を続けていた。
ダンベールとジェシカ、そしてメカニック達の手早い作業に感心していた。
「いやあ、ここのメカニック達はすごいものですなあ。あのドナテロ大尉のゲイツRをあっという間に鉄屑にしてしまうんですから・・・」
「ええ。普通、MSを解体するには3日間かかるのに、ここの人達はたった2時間半で・・・」
「軍学校のメカニック達も、これぐらい作業が早ければいいのに。ねえ、ジェシカ先生?」
「本当にその通りですわね。この人達の作業には、ほれぼれするくらい・・・」
ダンベールとジェシカがこう話していると、マヤ達が2人に言ってきた。
「先生・・・!話をしていないで、こっちの手伝いをしてくださいよ・・・」
3人の声に気付いたダンベールとジェシカは、はははと笑って言った。
「い、いやあ、すまんすまん。つい話に夢中になってしまった」
「今手伝いに行くから!」
2人は自分達のワークスジンの元へ行き、作業を手伝った。
梁山泊・食堂
マヤ、健太、カンはダンベール達2人と一緒に水餃子を食べながら話をした。
「先生達のMS、もうすぐ新しく生まれ変わりますね!」
「ああ、ドムの足をくっつけたり、機体を解体して何かのパーツを組み入れたり・・・。本当に統一連合のMSが可哀想になってくるな」
「そうですね、ダンベール先生。あのドム・トルーパーも、楊志さんに張青さん、魯智深さんの手によって鉄屑となっちゃいましたからね」
「そうそう。おまけにほとんど壊れていなかったドナテロ専用ゲイツRも、あっというまにバラバラにされちゃうし、本当に無惨だと思いました」
「でも、そのパーツは私とダンベール先生のMSの部品となって蘇る・・・。無駄に制作費をかけて新MSを開発するよりも、スクラップとなった部品などを使ってMSを開発する・・・。梁山泊って、ジャンク屋組合みたいね」
ジェシカは水餃子をほおばりながら言った。
ジャンク屋組合。
宇宙に漂うMSの残骸パーツや戦艦のパーツなどを集めて色々な企業に売りつけている組合。
基本的には中立の立場で国際法で守られており、どこの国も攻撃、入国拒否はできないはずであった。
しかし5年前、地球連合の一部の者により壊滅状態に追い詰められた。
組合を追い詰めたのはマティスという名の、とある一族の娘であった。
ジャンク屋組合もこれで終わりかと思われたが、見事奇跡の復活を果たし、現在でも活動を継続しているという。
ジェシカは、ジャンク屋組合の力を借りればもっと性能の良いMSが開発できるのにと、水餃子を奥歯で噛み締めながら思った。
今度、梁山泊の人達にも言ってみようか・・・。
ジェシカがそう思っていた時、どこからともなく佐助が現れた。
水餃子を食べていたマヤ達は水餃子が器官に入り、ゲホゲホと咳をした。
佐助は相変わらずへらへらとした顔をして言った。
「よお!マヤ!作業は終わったのかい!?」
「ゲホゲホ、佐助さん、いきなり現れないでくださいよ!」
「そうですよ、こっちは水餃子が器官に入るとこだったんですから!」
「ゲホゲホゲホゲホ!」
カンはコップに入っている水を飲んだ。
ダンベールはやっと咳を止め、佐助に訊いた。
「それにしても一体なんなんです?いきなり現れて」
「いやあ、実はな、聞仲元帥と豹子頭・林冲、そして壊し屋陣八の軍が帰って来るんだ」
マヤ達は佐助の言った3人の名前を前に聴いた事がある。
梁山泊の中で最も強い12人の豪傑。
その12人を梁山泊十二神将。
聞仲元帥、豹子頭・林冲、壊し屋陣八はその中の3人であり、とある任務のために、外国の方へ行っていたのだ。
マヤ達はこの3人にはまだ会っていない。
佐助の話を聴いたマヤ達は、他の十二神将はどんな人達なんだろうと興味を持った。
マヤは佐助に訊いた。
「佐助さん。その人達はいつ頃帰ってくるんですか?」
「えっと確か、3日後だったような・・・」
「もう帰って来てるぜ」
と、佐助の後ろのテーブルで、声が聞こえた。
マヤ達と佐助は後ろのテーブルを見ると、そこには茶色の短髪の少年が座っていた。
「佐助!ただいま!」
「王魔!お帰り!」
王魔という名の少年はマヤ達のほうを見ると、佐助に訊いた。
「なあ、佐助?あの5人は一体誰だよ?見慣れねえ顔だが?」
「ああ、この5人は新しく梁山泊に入った・・・」
「マヤ・テンムです!」
「大江戸健太です!」
「カン・トンメンです!」
「ダンベール・タンベールだ」
「ジェシカ・エッセンスよ」
佐助が言おうとした途端、5人は自分の名前を言った。
王魔はへらへらと笑いながら自分の名前を言った。
「俺は王魔。梁山泊十二神将・聞仲元帥の配下だ。よろしくな!」
マヤは王魔の名前を聴くと、早速王魔に訊いた。
「あの、王魔さん。あなたのリーダーの聞仲元帥は、一体どこにいるのですか?」
「元帥か?元帥なら修練場に他の仲間といるはずだけど」
王魔の言葉を訊いたマヤは、健太とカンに言った。
「健太君、カン君!聞仲元帥を見に行こう!」
「ああ、行こうぜ!どんな顔をしてるのか楽しみだ!」
「うんうん!早く行こうよ!」
3人は修練場の方へ走っていった。
「お、おい!俺たちを置いていくなあ!」
3人に続き、ダンベールも走っていった。
「あ、ダンベール先生!待ってください!」
ジェシカも修練場へと走っていった。
佐助と王魔は5人が修練場へ走っていくのを見ると、顔を見合わせて笑った。
「はははは!3日後に来るって関羽さんから聴いていたのに、まさかこんなに早く来るなんてな!はははは!」
「まあな。できるなら早く来た方がいいと思ってな。「誰が1番先に梁山泊へ着くか」ってことで競争してて、それで早く着いたってわけ」
「なるほど、そういうことね。・・・で?一体誰が1位になったんだ?」
「もちろん聞仲元帥さ!俺は3位!2位が高友乾、4位が李興覇、1番ビリが楊森さ!」
「楊森か!そりゃあ言えてるな!」
「ああ、全くさ!」
佐助と王魔は笑いながら食堂で語り合っていた。
梁山泊・修練場
修練場にいる者達は、ある1人の男の周りに群がっていた。
男の名は聞仲。
梁山泊十二神将のリーダー的な存在である。
彼は黒いマントを纏い、額には十字傷が刻まれており、髪は黒く、瞳は蒼く光っていた。
「聞仲元帥!」
「元帥!お帰りなさい!!」
梁山泊の者達は、久しぶりに見る聞仲に、尊敬の念をこめて挨拶をした。
「ああ。皆の者、久しぶりだな。香港に行っていたので、皆の顔を見るのは久しぶりになるが、特に変わったことはないか?」
聞仲は修練場にいる者達に訊いた。
聞仲の言葉に答えたのは、史進であった。
「はい。実はこの間、梁山泊に新しい仲間が入りました」
「ほう・・・。新入りか。で、名前はなんというのだ?」
「それは・・・」
史進が言おうとした時、マヤ達が修練場へやってきた。
聞仲はマヤ達のいる方を向いた。
10代の子供と、2人の大人か。
まるで一家族のようだ。
マヤ達は黒い髪の青年を見て、あれが聞仲元帥か、と思った。
ダンベールとジェシカも聞仲の名前は知っていたが、実物を見るのはこれが初めてである。
聞仲はマヤ達の方に近づいて、
「お前達が新入りか。名前は何という?」
と言った。
マヤ達は緊張しながらも自分の名前を言った。
「は、はい!マヤ・テンムといいます!よろしくお願いします!」
「お、大江戸健太です!」
「カ、カ、カン・トンメンです!!」
「ダ、ダンベール・タンベールと言います」
「・・・ジェシカ・エッセンスです。よろしくお願いします」
「マヤに健太にカン、そしてダンベールにジェシカか。俺の名は聞仲。梁山泊十二神将の1人だ。よろしく頼む」
「は、はい!!こちらこそよろしくお願いします!!」
マヤは緊張した声で聞仲に言った。
と、マヤ達の後ろから、佐助と王魔がやってきた。
「聞仲元帥!お久しぶりです!!」
佐助はへらへらとした顔で挨拶をした。
聞仲はフッと鼻で笑った。
「・・・相変わらずおちゃらけた性格のようだな、佐助」
「当たり前ですよ、聞仲元帥!いつも明るく元気に陽気に!これが俺のモットーですから」
「んなこと言って。あんまりおちゃらけ過ぎて、任務に支障をきたしてんじゃねえのか?佐助」
「なんだよ王魔。そういうお前こそ、香港でヘマしたんじゃないのか?」
「うっ!見事当たってるな・・・」
「当たり前でしょ!俺は甲賀流忍者だぜ!」
佐助は得意そうな顔で王魔に言うと、マヤ達の方を見て言った。
「マヤ、健太、カン。この人が十二神将のリーダー、聞仲元帥だ。ちゃんと自己紹介はしたか?」
「は、はい!」
「さっき、自己紹介をしました!」
「緊張しました・・・」
「はっはっはっは、そうかそうか!緊張するのも無理はないよな。まだ顔すら見ていなかったんだから。まあ、直に慣れてくるさ」
佐助はマヤ達にそう言うと、聞仲元帥に訊いた。
「そういえば、聞仲元帥。王魔はここにいるとして、他の3人はどこにいるんだ?」
「他の3人はもうここにいるさ」
聞仲元帥がそう言うと、空から鳥の翼の生えた若い女性が舞い降りてきた。
その女性の髪は金色に輝き、翼は真っ白な色に染まっていた。
マヤ達は女性の姿を見て、美しい天子が舞い降りたかと思った。
「おお、高友乾!久しぶり!!」
「佐助さん、お久しぶりです。・・・そこにいる方々は、新入りの方ですか?」
「ああ、マヤに健太にカン、そしてダンベールとジェシカだ」
「よ、よろしくお願いします!」
「ふふ、よろしくね。マヤちゃん」
高友乾はマヤの手を握りながら微笑んだ。
と、その時、高友乾の体に3人の男が抱きついた。
王英とロイとギロである。
「高友乾〜♪この感触久しぶりだ〜♪」
「高友乾姉ちゃん〜、お帰り〜♪」
「ああ〜いい匂い〜♪」
「お、王英、ロイ君、そしてギロ君、ただいま・・・」
高友乾は少し戸惑った表情で3人を見つめている。
王英、ロイ、ギロは、恍惚とした表情で高友乾を抱きしめいている。
「はあ〜♪高友乾にはいつも心が癒される〜♪どっかのゲテモノ料理女よりも綺麗だ〜♪」
「いつまでもこうやっていたい・・・僕達の母さんになってくれればいいのに・・・」
「高友乾は優しいから好き〜、僕等の母さんとは大違いだよ〜♪」
「・・・誰と大違いって?」
王英達はギクッと驚き、恐る恐る後ろを向くと、怒りの気を放出している孫二娘の姿があった。
孫二娘は腕を組みながら、3人を睨みつけて言った。
「ようするに、私は高友乾よりも優しくなく、かつ、高友乾よりも母親に向いておらず、かつ、高友乾よりも綺麗じゃないと?」
「いいい、いえいえ!誰もそんなことは言っていないぜ、孫二娘!」
「そ、そそそそうだよ母さん!母さんはとっても優しくて、頼りになるよ!!」
「ロロロ、ロイの言うとおりだよ母さん!!」
王英達は口を震わせながらお世辞を言うが、孫二娘の気が止まらなかった。
孫二娘は人差し指を曲げながら言った。
「3人とも、ちょっと食堂の方へ来なさい・・・」
「は、はい・・・」
王英、ロイ、ギロは体をガタガタ震わせながら、孫二娘と一緒に食堂の方へ行った。
「うわあ、孫二娘さん、かなり怒ってるよ・・・」
「そりゃあそうだ・・・。高友乾さんと自分を比べられて、自分よりも高友乾さんがいいって言われたら、誰だって怒るに決まってる」
「女の人の嫉妬って、怖いね・・・」
「ああ、全くだ。眼で見えるほどに気が出ていたからな・・・」
「健太君、カン君、ダンベール先生。女を怒らせるとどうなるか、覚えておいた方がいいですわね」
「はい・・・」
ジェシカに言われて、健太、カン、ダンベールは首を縦に振っていった。
とその時、突如マヤの前に、腹話術人形を持った少年が現れた。
少年の腹話術人形は、一般的に道芸で使われる腹話術人形ではなく、ロイと同じ身長くらいの高さの人形である。
「きゃっ!」
マヤは腹話術人形の少年が現れたことに驚き、尻餅をついた。
少年は黙ったまま、マヤに手を差し伸べた。
「あ、ありがとう・・・」
少年は何も言わず、マヤを起き上がらせた。
聞仲は笑いながら少年に言う。
「ははは、李興覇。マヤを驚かせるんじゃない」
「・・・・」
李興覇という名の少年は、黙ったままその場を去った。
「あ、あの男の子は一体・・・」
「あの少年は李興覇。聞仲様の配下の1人だ」
マヤの後ろから、男の声が聴こえた。マヤは後ろを向くと、そこには、角刈りの髪型の大男がいた。
「あ、あなたは一体・・・」
「これは失礼した。某は楊森。聞仲様に仕えるものの1人。そなた達は、もしかして新入りの者でござるか?」
「は、はい。わたしの名前はマヤ・テンムと言います」
「俺は健太。大江戸健太と言います」
「カン・トンメンです・・・」
「ダンベール・タンベールと言います」
「ジェシカ・エッセンスです」
「そうか。これからよろしく頼む」
「はい!」
マヤ、健太、カンは大きな声で返事をした。
聞仲はマヤ達を見て、とても素直な子供達だと思った。
と同時に、ハッとすると、佐助に訊いた。
「ところで、佐助。頭領はどこにいる?香港での報告をしたいのだが・・・」
「ああ、それなら頭領は司令室にいるよ」
「そうか。すぐ行ってくる」
聞仲はそう言うと、司令室の方へとまっすぐ歩いていった。
「・・・では、香港のMS製造所は完全に制圧したのだな?」
「はっ、MS製造所にあった機体は全て解体し、梁山泊の開発所へ運びました」
聞仲は劉備に戦果の報告をした。
劉備の周りには、関羽、張飛、柴進、太乙、太公望、呉用の6人が座っていた。
「これで梁山泊のMS開発も、ほんの少しだけですが発展することになりますな」
「ああ、これで修理用のパーツもなんとか持ちそうだ」
MSの修理には多くの部品が必要になる。
KONRON社にも修理用の部品はあるのだが、後の戦いのことも考えると、余りにも足りなかったのである。
しかし、聞仲元帥のおかげで、なんとか後の戦いまで部品を切らせずにすむ。
太乙と柴進は笑みを浮かべながら言った。
聞仲はさらに話を進めた。
「そして、頭領。そのMS製造所でこんな設計書を手に入れたのです」
「設計図?・・・是非見てみたい。皆に見せてはくれないか?」
「はい」
聞仲は返事をすると、懐からMSの設計書を取り出し、それを司令室にいる者達に見せた。
皆は設計書を見て驚いた。
「こ、これは・・・!!」
「まさか・・・!!」
設計書には、新型MSの開発図が載ってあった。
劉備は新型MSの設計書を見て唖然とした。
両肩にはビームキャノン砲、背中には6枚の翼、頭部はまるで神話に出てくるような英雄が被る兜のようだ。
劉備達は目を閉じ、ため息をついた。
「なんだこのMSは。まるで玩具ではないか・・・」
「機能美、造形美、共に最低。子供の考えるMSじゃないんだから・・・」
「統一連合のMS開発チームは頭がどうかしているのか・・・?」
「柴進殿の言うとおり。しかもこれを製作するには、かなりの予算が必要となる。そしてその予算を手に入れるため、民はまた重い税金を払わされる・・・」
「おのれ、軍部の連中め!こんなMSを開発しようとしていたとは!!」
張飛は怒鳴りながら、拳をテーブルに叩き付けた。
聞仲は呆れたり、怒ったりしている劉備達に再び言った。
「おそらくこれは、我々梁山泊に対応するために、軍部が開発しようと計画していたMSだと思われます。こんなMSが開発されたら、ますます民の暮らしが苦しくなるでしょう。頭領、そのMSの設計書を処分するよう求めます」
「・・・ああ、分かった。二度とこんなMSが開発されぬよう、この設計書はこうしてしまおう!」
劉備はMS設計書を両手で2つに破り、さらにそれを八つに裂いた。
聞仲は安堵の声を漏らした。
これで民が余計に苦しめられずにすむ。
そう思うと、ほっとせずにはいられなかった。
慕容彦達邸
ここに、2人の武将が彦達の前にひざまづいていた。
彦達は2人の武将の名前を呼んだ。
「黄信、秦明。面を上げよ」
「はっ」
2人の武将は顔を上げた。
片方の武将の名は黄信。
かつて黄巾の乱で、3つの山に立て篭もっていた黄巾兵を倒したことから、『鎮三山』と呼ばれている。
もう1人の武将の名は秦明。
短気な性格で、鼓膜がちぎれる様な大声を出すことから、『霹靂火』という渾名がついた。
彦達は黄信と秦明に言った。
「お前達2人を呼んだのは他でもない。
八十万禁軍大元帥・高?様から、世界3大レジスタンスの1つ、梁山泊を討伐せよとの命を受けた。お前達はこの私、慕容彦達の配下の者。私の言うことを聞いてくれるであろうな?」
「・・・はっ」
「・・・はっ」
2人は彦達に頭を下げた。
彦達はふふふと笑い、2人に命令した。
「よろしい。では命令します。梁山泊のメンバーを生け捕りにし、私の下へ連れてきなさい!」
「・・・了解いたしました」
「仰せのままに・・・」
梁山泊・監視台
監視台とは敵勢力が来ないかを監視するために、外に築いた高い台である。
白勝はアビーと共に敵勢力が来ないか、双眼鏡を使いながら遠くを見回していた。
「後方、異常なし・・・。アビー、前方はどうだ?」
「ちょっと待ってください。今見回してますので・・・、あっ!」
アビーは何かを見つけたかのように声を上げた。
「どうした?」
「前方に統一連合の軍隊が梁山泊に向かって行進しています!」
「なんだって!?すぐに司令室に連絡するぞ!!」
白勝はトランシーバーを使い、司令室に連絡をした。
「司令室に連絡、司令室に連絡!!」
『どうした、白勝?』
通信に答えたのは、副頭領の宋江であった。
「副頭領、緊急連絡です!!梁山泊前方に、統一連合の軍隊が接近しています!!」
『何だって!?敵軍の数は?MS部隊はいるのか?』
「待ってください・・・、どうやら敵の軍勢は200万、MS部隊はいないようです。それに敵の武将は・・・、あっ!!」
白勝は驚愕したような声を出した。
『どうした、白勝!?』
「・・・副頭領。敵武将はとんでもない奴らです。敵武将は、鎮三山・黄信と、霹靂火・秦明です!!」
統一連合の軍は梁山泊に向かって進んでいた。
鎮三山の異名を持つ黄信は湖に浮かぶ梁山泊を、眼を細めて見ていた。
黄信の瞳は黒く、腰には『喪門剣』という剣を引っさげている。
「あれが、敵のアジトか・・・」
「どうした、黄信?」
黄信に声をかけたのは、霹靂火の異名を持つ秦明であった。
秦明の肌は灰色に染まり、手には痛々しい棘のついた狼牙棒を持っていた。
「秦明・・・。我々は国のために忠義を尽くして戦っている。高?のような下衆共のために戦っているのではない」
「ああ。その通りだな。黄信」
「うむ。そして我々は国のためと同時に、家で帰りを待っている家族のためにも戦っている。絶対に負けるわけにはいかぬ」
「ああ。俺もお前も妻と子供を持つ者同士。お前の気持ちはよく分かる」
「うむ。梁山泊が後の災いの種となるのなら、今のうちに引っこ抜かねばならぬ!」
黄信はそう叫ぶと、腰に引っさげた喪門剣を抜き、その刃を梁山泊に向けた。
「梁山泊の賊共よ、首を洗って待っておれ!」
梁山泊・司令室
「成程、統一連合も遂に本格的に攻めようとかかってきたか・・・」
劉備は腕を組みながら考えていた。
いずれこうなるということは前にも太公望と呉用から聴かされていたが、まさかこんな早く来ることになろうとは。
しかも相手は鎮三山と霹靂火と来た。
多少の犠牲がでることは覚悟しなくてはならない。
劉備がそう考えている時、楊志が花栄に訊いた。
「花栄。確か黄信といえば、お前の・・・」
「ああ、そうだ。黄信は古くからの俺の友人だ」
花栄は遠くを見るような眼で語った。
「1年前、俺は腐敗していく軍部に嫌気が差し、名誉も栄光も捨てて梁山泊に入った。軍部から逃げ出す前、黄信に別れの挨拶をせずに行ったからな。もし戦場で会ったら、『軍を裏切るとはどういうことだ』とあいつに言われるだろうな」
花栄は渇いた笑いを出すと、そのまま劉備に言った。
「頭領。今回の戦いは俺に行かせてください」
「花栄!お主、かつての友と戦うというのか!?」
太公望は眼を開けながら驚いた。
花栄は決意をした眼で太公望に言った。
「ああ。かつての友人だからこそ、戦わなくてはならないんだ。あいつには妻と子供がいる。秦明も同様だ。だから、あの二人を捕らえ、上手くいったら仲間にしようと思っている」
「何!?お前、黄信と秦明を捕らえようとしてるのか!?」
「なんという奴だ・・・」
張飛と楊志は花栄の言葉にただただ驚くばかりであった。
劉備は花栄の目を見て言った。
「花栄よ。もしあの2人を仲間にするというのなら、2人の家族も梁山泊に入れるというのだな?」
「はい」
「分かった。では、今回の戦いは花栄、楊志、関羽、張飛とする。4人は部隊を従えて戦ってくれ。くれぐれも犠牲は最小限に抑えるようにするのだぞ!」
「おう!」
4人が声を上げた時、聞仲が「待った」と言った。
「どうした、聞仲?」
「その戦い、俺も参加したいと思います」
「何!?帰ってきたばかりだというのに、また戦うと言うのか?」
劉備は聞仲に訊いた。
「はい。あの黄信と秦明が来ているとなれば、元軍人である楊志や花栄ばかりに任せては置けません。どうか俺に出撃のご命令を!」
劉備はしばらく考え、聞仲に言った。
「・・・分かった。出撃命令を出そう。しかし、余り無茶はならんぞ」
「はい!分かりました」
聞仲は眼を見開きながら返事をした。
「よし、それじゃあ出撃といくか!!」
花栄は兜を被りながら声を高らかに上げた。
楊志部隊・集合室
「じゃあ、今回MS部隊は来ていないというわけですね?」
「ああ。黄信と秦明はMSで戦うことを嫌っていたからな。今回の戦いは人間同士の戦いとなる」
マヤの問いに楊志は答えた。
マヤの隣にいたカンは、ぶるぶると体を震わせていた。
「・・・?どうしたの、カン君」
「どうしたのって、黄信と秦明っていえば有名じゃないか!」
「カンの言うとおりだ。3つの山に隠れていた黄巾党を制圧したとされる黄信と、その大声は鼓膜を破るほどの威力と言われる秦明。学校の歴史の教科書に載っていたぞ?」
健太は小声でマヤに言った。
「ええ!?そんなに強いの、その人達!?」
「当たり前じゃないか!!強くなかったら歴史の教科書にも載らないよ!!」
「カンの言うとおりだぜ。マヤは歴史の授業の時に居眠りをしているから分からないんだよ」
「だ、だって、歴史の授業は人の名前が複雑すぎて分からないんだもん。パトリック・ザラとか、ムルタ・アズラエルとか、ラウ・ル・クルーゼとか・・・」
「じゃあお前、オルガ・サブナックとか、アウル・ニーダとか、
ましてやヨップ・フォン・アラファスも知らないのかよ!?」
「知らないよ!!」
「うわあ・・・、マヤって歴史が苦手だったんだね・・・」
マヤ達3人が話していると、佐助が後ろから小声で言ってきた。
「ちょっとちょっと3人共、話はそれぐらいにしておいた方がいいと思うぜ」
「えっ?」
「マヤ達が話してたこと全部、先生2人や楊志のダンナ達にも聴こえてるぜ?」
「ええ!?」
マヤ達が驚いて前を見ると、楊志、ダンベール、ジェシカ、そして梁山泊のメンバーがマヤ達を睨みつけていた。
「マヤ・・・。お前、俺の歴史の授業の時に居眠りをしていたとはな・・・、戦いが終わったら、後で歴史の授業をみっちりと教えてやるからな!」
「それと健太君にカン君、私語は慎むように。今度喋ったら只じゃ置かないからね」
「は、はい・・・」
マヤ達は身を縮ませて頭を下げた。
楊志は気を取り直すと、梁山泊のメンバーに言った。
「・・・とりあえず、今回戦いに出るメンバーは、生身で戦うことのできるメンバーでいく。今回のメンバーは、
・赤髪鬼・劉唐
・操刀鬼・曹正
・花和尚・魯智深
・白花蛇・楊春
・那托
・矮脚虎・王英
・白面郎君・鄭天寿
そして俺の8人でいく。他の者は梁山泊に敵が入らぬように、アジトの防衛をしっかりとしてくれ」
「はい!」
メンバーの者達は高らかに声を上げた。
「よし!では、出撃するぞ!!」
楊志を初めとした8人の好漢達は、戦場へと向かっていった。
花栄、楊志、関羽、張飛、聞仲の部隊は梁山泊の門を開け、阮三兄弟、張兄弟が用意した舟に乗り、敵軍へと向かっていった。
マヤ達は敵が上から入らないように、楊志が言ったとおり高台に登っていった。
高台は各部隊ごと用意されていて、マヤが見ただけでも20台はある。
高台の頂上に着くと、湖と草原に広がる敵兵の軍勢が見えた。
「うわあ、すごい数・・・。統一連合ってこんなに軍を持っていたんですか、先生?」
「いやいや、あれほどの軍勢はいなかったはずだぞ!?」
ダンベールはこれは夢なのではないかと目をこすりながら思った。
「いくら統一連合といえど、あれほどの兵数ではないはず。
それに、あの『彦』という文字から、おそらく敵軍は慕容彦達の軍であろう。彦達の兵数はあんなに多くなかったはず。一体なぜ・・・」
ダンベールの疑問に佐助が答えた。
「ダンベールさん。慕容彦達は他国から兵士を借りたり、貧しい民を無理やり兵士にしているという話ですぜ。きっとあの兵はそういう理由で借り出された人達なんでしょう」
「な、なんですって!?」
「他国から借りる!?」
「貧しい人々を兵にする!?」「
「そ、そんな馬鹿なことが・・・!!もしそれが事実だとしたら、既に彦達は軍を解雇されてるはずでは・・・!?」
「軍とは資金。大金があれば悪行という悪行は許されるんですよ。軍の上層部のほとんどは、欲にまみれた連中が多いですからね。俺は忍びの者ですぜ。軍人の裏の顔をうんと見てきた俺が言うんです。間違いないと思いますよ」
「そ、そんな・・・」
マヤ達は軍部の悪事を知って落胆した。
これが今の軍なのか?
金さえあれば悪事は許されるのか?
そんな軍人達のせいで犠牲になる人達がいる。
そう、あの街で木の根をかじっていたあの貧しい人達のように・・・。
佐助はそんなマヤ達を見て言った。
「そんな悲しい顔をするなっての。俺達がその悪事を働く連中をこらしめて、政治の世界に顔を出して、統一連合の裏の顔を世間にばらせば、貧しい暮らしをしている人達を少しでも救ってやることができるだろ?」
「佐助さん・・・」
マヤ達は佐助の言葉を聴いて、すぐに元気を取り戻した。
「さあ、分かったら早くこの戦いを終わらせるよう、頑張らなきゃな!」
「はい!」
マヤ達は元気よく返事をした。
ダンベールとジェシカは、そんな佐助を見て、自分もマヤ達にあんなことを言えるようになりたいと思った。
梁山泊の湖の岸では、激しい戦闘が繰り広げられていた。
楊志の吹毛剣は敵兵を切り裂き、聞仲の剣が唸りを上げ、迫り来る兵の首を一気に飛ばした。
「ぎゃああああああ!!」
「ぐおっはあぁ!!」
「そんな・・・馬鹿なぁ・・・!?」
「死にたくなければ今すぐ下がれ!!」
「下がらなければ血を見るぞ!!」
楊志と聞仲は高らかに声を上げながら敵兵を次々と葬っていく。
楊志の配下である王英達も、襲い掛かる敵兵を蹴散らしていった。
王英の剣が戦場を駆け、劉唐の朴刀が血の雨を降らせる。
降り注ぐ血の雨は、劉唐の髪をさらに紅く濡らす。
艶やかな女性のような姿の鄭天寿の剣捌きは、まるで優雅な舞の如く、見とれている兵たちを永遠の眠りへと堕としていった。
「うおお・・・」
「はあ・・・」
「さあ、私の剣の舞で、甘美な夢へと堕ちなさい」
鄭天寿の声も、うら若き女性のような声であった。
那托は赤い髪をなびかせ、手に持つ朱色の槍で敵の体を貫いた。
その槍の刃からは真っ赤な炎が燃え盛る。
曹正は5本の刀を念で操り、迫り来る敵を牛や豚でも捌くかのように斬っていく。
「うげえ!!」
「おわあー!!」
「ひゃぎゃあ!!」
「統一連合の兵士共!肉塊になりたいか!!」
曹正はまるで楽しそうに敵を切り刻み、まるで刀を操る鬼のようであった。
それ故に曹正は『操刀鬼』というあだ名をつけられたのである。
魯智深は己の拳で敵兵の顔を叩き潰し、己の足で敵を蹴り飛ばす。
「ぐはあ!!」
「こんなところで・・・ぐほお!!」
「ちくしょ・・・おぼえっ!!」
「そらそらぁ!!花和尚・魯智深様のお通りだあ!!」
魯智深はどかどかと敵を打ち砕き前進していく。
楊春の長桿刀は蛇のようにしなり、そして蛇の如く敵を呑みこんでいった。
聞仲の配下である4人の戦い方もすさまじいものであった。
王魔はその身軽さを活かし敵を翻弄させ、高友乾は空から敵を打ち倒した。
「そりゃあ!この俊足の王魔様を捕まえてみろ!!」
王魔の拳が兵の1人を殴り気絶させた。
と、その瞬間、敵兵の1人が王魔を後ろから斬りかかろうとした。
しかし、素早く高友乾がその兵を剣で切り裂き、王魔を助けた。
「王魔、調子に乗りすぎると痛い目にあいますよ」
「ああ、すまねえ。・・・高友乾!!」
王魔は高友乾を捕まえようとした敵の兵士を蹴り飛ばした。
王魔はへらへらとした顔で言う。
「高友乾も油断してると、死ぬぜ!」
「ええ、分かっています!!」
高友乾と王魔は二手に分かれ、迫り来る敵兵を倒していった。
李興覇の前に立つ敵の兵達は、なぜか味方同士で斬り合っていた。
「おい!俺は敵じゃねえ!!」
「分かってるよ!只、体が言うことを利かないんだ!!」
李興覇の持っている腹話術人形がケタケタと笑った。
「クククク・・・、コレガ僕チャンノ御主人様ノ李興覇ノ能力サ!相手ノ全神経ノ自由ヲ奪イ、自分ノ思イノママ操ル・・・。
コレゾ特殊能力『神経操作』!・・・チナミニ僕チャンノ名前ハ
『ワンタン』ドウゾヨロシク!・・・ッテ、聴イテイナイカ」
李興覇は腹話術人形のワンタンを抱きながら、同士討ちをして死んだ兵の屍を踏みながら進撃していった。
楊森は両腕で2人の敵兵の頭を掴み、そのまま遠くへぶん投げた。
「聞仲の配下が1人、楊森!命をかける覚悟のある者よ、かかってこい!!」
楊森はびくびく震えている敵の兵士に大声で怒鳴った。
敵兵は勇気を振り絞り、楊森へと突撃した。
楊森は向かってくる敵兵を一瞬で葬り去り、ずんずんと突き進んでいった。
「うわあ・・・。楊志さん達、すごい・・・」
マヤは湖の岸で繰り広げられている戦いを眺めながら、弩に矢をセットしていた。
健太、カンも弩に矢をセットし、それをダンベール、ジェシカ、佐助の3人に渡していた。
ダンベール達はマヤ達に渡された弩を発射して、楊志達の援護をするのだ。
見る限り、敵は湖を渡ろうとしても渡れないらしい。
しばらくは楊志達の援護をしていていいようである。
そうマヤが思っていると、健太とカンがマヤに言った。
「マヤ!戦場を眺めてないで、早く矢をセットするのを手伝ってくれよ!」
「そうだよ!弩は1度撃ったら次に発射するのに時間がかかるんだから!」
「ご、ごめん!すぐにセットの準備をする!!」
マヤは慌てながら次の弩に矢をセットした。
「う、うわああ・・!こんな奴らに敵うわけがねえ!」
「逃げろぉ!!」
梁山泊の激しい攻撃に逃げ出す兵が現れた。
このままではこっちの士気が下がる一方だ!
ここは自分がなんとかしなくては!
「黄信、今から兵達を奮い立たせるため、俺は単騎駆けをするぞ!」
秦明は狼牙棒を持ち、今にも突撃しようとしていた。
黄信は驚いて秦明を止めようとした。
「秦明、正気か!?軍の隊長の1人であるお前が出撃すれば、我が軍の陣の防衛が薄くなってしまう!止めるんだ!!」
「だが、このまま戦っていても兵は怖気づいて逃げ出すだろう!
このまま本陣にいても意味がない!!」
「待て、秦明!!」
黄信の言葉も虚しく、秦明は馬に乗って戦場へ出撃した。
秦明は腹の底から大声を上げた。
「わが国の賊軍、梁ぉ山ぁ泊ぅううううううう!!!この霹靂火・秦明とぉ、勝負しろおおおおおおおおぉ!!!」
秦明の声は戦場だけでなく、梁山泊のアジトにも響き渡った。
もちろん、マヤ達のいる高台にも聴こえた。
マヤ達は余りの大声に耳を塞いだ。
「い、痛い・・・・。耳がキンキンする!!」
「こ、これが霹靂火・秦明の大声か・・・!!」
「こ、鼓膜が破れる・・・!!」
「な、なんて声なの!!」
「噂には聞いていたが、まさかこれほどとは・・・!!」
マヤ達は耳を塞いでいるのに、佐助だけは平然としている。
「さ、佐助さん?どうして佐助さんだけは平気なんですか?」
「・・・ん?マヤか。一体なんだ?」
「いや、なんでじゃなくて、どうして佐助さんはあんな大声でも平気でいられるんですか?」
「ああ、それね。それはこれをしてるからさ!」
佐助はそういいながら笑うと、マヤに右耳を見せた。
右耳の穴には、堅い木でできた耳栓が入ってあった。
「そ、それで平気だったんですか・・・」
「ああ、あの程度の大声は、耳栓をすればある程度防ぐことができる。マヤ達もこれをつけるんだ」
佐助はマヤ達に大量の耳栓を渡した。
マヤ達は耳栓をつけると、再び、弩の準備をした。
戦場にいた梁山泊のメンバーは秦明の声を聴いた。
長年、梁山泊で戦ってきた彼等である。
秦明の大声では決してひるまない。
関羽と張飛は秦明の声を聴くと、自分達も声を張り上げた。
「我が名は梁山泊十二神将が1人、関雲長!!秦明殿!
我と勝負せよ!!」
「俺様は梁山泊十二神将が1人、張翼徳!!秦明!俺と勝負だ!!」
秦明は2人の声を聴くと、さらに声を張り上げ、突貫していった。
「秦明が行ってしまった・・・。くそ!俺も出撃するしかないというのか!?」
黄信が心中で悩んでいたその時、黄信の頬を遠くから飛んできた矢が掠った。
黄信の頬から一筋の傷がついた。
黄信はその一瞬、自分に矢を放った者が誰なのか一瞬で分かった。
弓矢を持たせたら百発百中。
遠くの敵大将の眉間をも射抜く、旧歴の武将・李広の再来と呼ばれた、あの男。
「まさか、花栄か!?」
黄信は馬に乗りながら、遠くから白い馬に乗ってやってくる、凛々しい姿の男の名を呼んだ。
男は自分の名を高らかに言った。
「我が名は梁山泊十二神将が1人、小李広・花栄!鎮三山・黄信、我らの大義により、お前を捕縛する!!」
「花栄!!本当に花栄なのか!?」
黄信は本当に花栄なのか、花栄に問いた。
花栄はすぐにその問いに答えた。
「ああ!!敵大将のところへ矢を放てることのできる軍部のものといえば、俺しかいないだろう!」
「花栄!!何故だ!?周りから慕われていたお前が、なぜ国に刃を向ける!?」
黄信は腰に下げた喪門剣を抜いて振り回し、馬を走らせ、花栄の元へやって来た。
花栄も弓矢をしまい、手に持つ得物を槍に変え、黄信の検査履きを受け止めた。
「なぜって、国がクズ共の私物と化しているから、俺達がそのクズ共を倒し、そして、そのクズ共とグルになって、世界中の人々を虐める統一連合上層部の奴らを懲らしめてやろうとしてるのさ!」
「だからといって、何もレジスタンスになることはないだろう!!軍の上層部に不満があるのなら、ちゃんとした手続きを執るべきだ!!」
「手続きを執った所で、国家主席の馬鹿趙詰は聴いちゃくれないさ!!」
「聴かないかどうかは、実際執ってみなくては分からないであろう!!」
「聴かなくても分かるさ!!あの馬鹿女は自分の趣味しか頭にないからな!!それに、腐った連中の言うことを聞くより、腐った国を、そして世界を救ってくれる人に従う方が良いと思ったのさ!!」
「だからといって、レジスタンスの頭領に従うことはないだろう!!」
「欲の皮の突っ張った奴に従うお前が言うことか、それが!!」
花栄の槍と黄信の剣が火花を散らしながらぶつかり合う。
両者の戦いは、全くと言っていいほど決着が見えなかった。
秦明と関羽・張飛の戦いは熾烈を極めていた。
秦明の狼牙棒、関羽の青龍刀、張飛の蛇矛がぶつかり合い、3人から発せられる気が空に交じり合う。
「うおおおおおおおおおおおおぉ!!!」
秦明は怒号を上げ、関羽の頭上へ狼牙棒を振り下ろした。
関羽の頭は狼牙棒の一撃で、ぐしゃぐしゃの挽き肉になった・・・、と思われた。
しかし、秦明の予想は大きく外れた。
関羽は狼牙棒が頭上へ下ろされる瞬間、ギリギリのタイミングで後ろへ退いた。
「何!?」
秦明は関羽が狼牙棒の一撃を避けたことに驚愕した。
関羽はすかさず青龍刀で秦明に斬りかかった。
秦明はそれを狼牙棒で防ぐが、左から張飛の蛇矛が向かってきた。
「すきありぃ!!」
と、張飛は叫び、秦明を馬から振り落とした。
秦明は逆さになって転倒し、地に足を着いた。
「ぐぅ・・・!まさか、俺を馬から引き摺り下ろす者がいるとはな・・・!!」
「秦明殿、これでそなたは馬から落ち、我々と互角に闘える」
「さあ、勝負をつけようぜ!!」
関羽と張飛は秦明に言った。
秦明は2人を睨みつけながら言った。
「互角・・・?それは違うな。この俺の真の力は、地に着くことで発揮される!!」
秦明はそう言うと、狼牙棒を地面に向けて思いっきり振り下ろした。
「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
狼牙棒によって地面は砕かれ、めくり上がった地面は、関羽と張飛、そして2人の付近にいた統一連合兵達を持ち上げ、そのまま上空へ放りあげた。
秦明は狼牙棒をそのまま上に持って振り回し、雄叫びを上げた。
「ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
上空から落ちた兵士は首の骨を折り、腹部を強打し、そのまま息絶えた。
これでかつて死ななかった敵はいない。
関羽と張飛もそのまま地面に叩き落とされた。
これで奴らも終わりだ。
秦明は今度こそ勝ったと確信した。
しかし、関羽と張飛は膝をついて立ち上がり、再び構えなおした。
「な、なぜだ!?なぜ倒れん!!」
秦明は驚きながら関羽に言った。
「日頃から鍛えていれば、この程度の攻撃、ほんの少しの傷でしかない」
「おうよ!こんなんで倒れる俺達と思ったか!!」
「し、信じられん・・・。俺の攻撃を食らっても、まだ倒れんとは・・・」
秦明は、なぜ梁山泊が世界3大レジスタンスの1つに数えられたのか分かったような気がした。
それは、梁山泊のメンバーが極限まで己の力を鍛え上げ、MSと互角に渡り合えるほどの実力を持ったからだ。
だからと言って、ここで退くわけには行かない。
ここで退けば、軍人としての名折れとなる。
そして、我が息子の物笑いの種となる。
恥さらしになることだけは、絶対にあってはならないのだ!!
「俺は負けられん!!負けられんのだああああああああ!!!」
秦明は狼牙棒を振り回し、関羽と張飛に突進した。
関羽は振りかかる狼牙棒の棘を避け、青龍刀の柄を秦明の腹部に打ち込んだ。
秦明は白目を剥いてうつぶせに倒れた。
関羽は倒れている秦明を見ながらこれほどまでの力と勝利への執念を持つ秦明を仲間にしたいと思った。
「秦明殿・・・、敵にしておくには惜しい男だ」
黄信は喪門剣を振り回し、花栄の槍をバラバラに斬った。
「げっ!」
槍が破壊されたのを見て、花栄はまずいと思った。
黄信の持つ喪門剣は、戦場で使う度に切れ味が良くなっていくという名剣。
ここで黄信が喪門剣の実力を発揮すれば、確実に俺は死ぬ!
黄信は馬から飛び降り、花栄に向かって言った。
「花栄!国に刃を向けたことを後悔するがいい!!」
そして、右手に持つ喪門剣を大地に振り下ろした。
大地は二つに裂け、たまたまそこにいた統一連合兵を巻き添えにしてしまった。
花栄の乗っていた馬も大地の裂け目に落ちてしまった。
「どうだ!花栄!!国に逆らえばどうなるか、思い知ったか!?」
黄信は大地の裂け目に落ちたであろう花栄に向かって言った。
例え友人であろうと国に逆らうのであれば、容赦はしない!
花栄にはすまないが、これも国のためだ。
成仏しろよ。
黄信は心中で花栄が成仏するように経を唱えた。
しかし、意外なことが起こった。
空から矢の雨が降ってきたのである。
「な、何ぃ!?」
黄信はまさかと思った。
矢の雨を降らすことのできるのは、花栄しかいない。
しかし、花栄は大地の裂け目に落ちたはず!?
一体なぜ・・・?
黄信がそう思っていると、空から花栄の笑い声が聴こえた。
黄信ははっとして上空を見上げると、そこには高友乾の背に乗った花栄の姿があった。
「はっはっは!俺が大地の裂け目に落ちたと思っていたようだな、黄信!」
「花栄!?まさか、大地の裂け目に落ちる瞬間、急いで上空に飛び、空を飛んでいた女の背に乗ったというのか!?」
「ああ、大正解だぜ!!ギリギリのタイミングで高友乾が飛んでるのを見つけたから、本当にどうなるかと思ったぜ」
「まったく、私が飛んでいなかったらどうなっていたことか・・・、無茶はやめてください」
「いやあ、すまないすまない」
花栄は笑いながら高友乾に謝った。
「くそお!ならば、その女ごとお前を斬るまでだ!!」
黄信は花栄よりも上空に飛び、花栄を高友乾ごと切り裂こうとした。
しかし、花栄は弓矢を撃つ構えを取っていた。
「まだまだ甘いぜ、黄信」
「っ!?」
「くらえ!!百八震天箭!!」
108本の矢が黄信に向かって飛び掛った。
黄信は矢を切裂くが、剣を持つ腕に矢が刺さった。
「ぐっ!?ち、畜生・・・」
黄信はそのまま大地に落下していった。
「くそぉ・・・、俺は・・・こんな所で死ぬのか・・・」
黄信は国のために賊を討伐することができなかったことに後悔した。
このまま大地に落ちれば、俺は死ぬ。
だが、国の恥さらしになるよりは、この方がずっといい。
いっそのこと名誉の戦死を遂げた方が、国のためにもなろう。
黄信はそう思って瞼を閉じた。
黄麗、黄能・・・、すまない。
その時、黄信は自分の手を掴む者を感じた。
誰だと思い瞳を開けると、そこには花栄の姿があった。
どうやら、自分は花栄に助けられたらしい。
「・・・なぜだ。なぜ俺を死なせてくれなかった!!」
「馬鹿野郎。これからお前等は俺達と共に国のために戦うんだよ」
花栄は黄信の片手を掴みながら言った。
「うわああ!!黄信様と秦明様がやられた!!」
「退却だ!退却しろぉ!!」
黄信と秦明が倒されたのを見るや、統一連合兵は踵を返して逃げ出した。
高台でマヤ達はその光景を見ていた。
「あんな数の兵なのに、逃げ出しちゃった・・・」
「まあ、組織なんてこんなもんさ。いくら人が多くても、トップがやられちまえばあっけなく崩れ去る」
佐助がマヤの隣で言った。
マヤ達は佐助に訊いた。
「組織って、こんなにも脆いものなんですね・・・」
「頭の人がいなくなれば、あっさりと壊滅する・・・」
「梁山泊も・・・頭領の劉備さんが倒されれば、あんな風に・・・」
「・・・トップがやられちまえば大抵の組織は崩れ去る。だがな、仲間のため、そして自分のために戦う連中が多い組織はなかなか崩れない。そう、梁山泊みたいにな!」
「仲間のため・・・か・・・」
マヤは佐助の言った言葉を心の中で思い返した。
司令室にいた劉備は、白勝の報告を聴いていた。
「そうか・・・、敵側の武将を雲長、翼徳、花栄の3人が捕らえたか・・・」
「はい。もうすぐここにその武将が連れられてきます」
「分かった。下がってよいぞ」
「はっ」
白勝は司令室から退室した。
「それにしても、鎮三山の黄信と霹靂火の秦明がここへ攻めてくるとは驚きでしたよ」
宋江は劉備に言った。
「ああ。もしこの2人が仲間になれば心強いのだが・・・」
「はあ、また前回のようになるでしょうね・・・」
呉用がため息をつきながら言った。
劉備は首を縦に振って言った。
「うむ。だが、できるだけのことは言おう。いつか分かってくれるはずだ」
劉備がそう言うと、花栄、関羽、張飛の3人に連れられて、黄信と秦明がやってきた。
劉備は2人に名を言った。
「私は梁山泊の頭領、劉備玄徳と申します。そなた達が鎮三山・黄信殿と、霹靂火・秦明殿でございますか?」
「いかにも。俺が黄信だ」
「俺が秦明だ」
2人は劉備に返事をした。
劉備は2人に言った。
「黄信殿、秦明殿。今この世界は、統一連合の私利私欲に溺れた役人達の手によって、民が虐げられている状況にあります。我々梁山泊は民を虐める役人達を成敗し、貧しい民達を救いたいのです。そのためには、あなた方のような者が必要なのです。どうか、我々の力を貸してもらえないでしょうか」
黄信は劉備に言った。
「劉備殿。我々は国に背く気は一切ない。すまないが、あなたの頼みは聞き入れられない」
黄信に続いて秦明も言った。
「俺も黄信と同じ考えだ。それに俺達には、家で帰りを待っている妻と子供がいるのだ。その家族を置いて賊になるなど誰ができようか?すまないが、あなた方に力を貸すことはできない」
花栄は二人の言葉を聴いた後、黄信に訊いた。
「なあ、どうしても仲間にならないというのか?家に家族がいるなら、その家族も連れてくればいいじゃないか?」
「こんな山奥に家族を連れて行けるか。無理を言うな」
黄信は花栄に突っ込むように言った。
花栄は寂しそうな顔をして、
「そうか・・・。じゃあ、食堂で別れの杯を酌み交わそう。いつ会えるか分からないんだ。1杯やってくのも悪くはないだろ?」
と言った。
「・・・分かった。今度会う時は戦場か、平和な世か・・・。
せめて別れの杯を飲むのはいいかもしれんな。秦明、お前も飲んでいくか?」
「・・・いいだろう。だが、早く帰らなくてはならないからな。さっさと飲んだら、さっさと行こう」
劉備は3人の会話を聴くと、花栄に言った。
「では、花栄は食堂で黄信殿と秦明殿と杯を酌み交わしたら、2人を返すようにしてくれ」
「ああ、分かった」
花栄はそう言うと、黄信、秦明と共に食堂へ向かった。
マヤ達は佐助と共に、花栄と黄信と秦明が酒を酌み交わしているのを隠れながら見ていた。
「結局、あの2人の武将さん、仲間にならないんですね」
「しょうがねえさ。黄信さんと秦明さんは国を裏切りたくないし、家族を放っておけないんだろ」
「しょうがないよね。家族の人達を心配させるわけにはいかないもの」
「3人とも、話をしてるのはいいけど、そろそろ退散し解いた方がいいと思うぞ。花栄のダンナとその友達の中に割って入るわけにはいかねえよ」
「・・・そうですね」
「さすがにばれたらまずいからな。とっとと退散するか」
「同感・・・」
マヤ達は食堂の入り口から立ち去った。
「では、達者でな。花栄」
「ああ。生きていたらまた会おうぜ」
黄信と花栄は最後の別れの挨拶をした。
秦明は馬に乗りながら、黄信を呼んだ。
「おい。そろそろ行くぞ」
「ああ、分かった。それじゃあな!」
黄信と秦明の乗った馬は、夜空の暗闇に消え去った。
花栄は柴進と共に黄信達が去るのを見守っていた。
「ふう。これで黄信とお別れか。次に会う時は戦場でなければいいんだがな」
「だと・・・、いいんですがね」
柴進は心配そうな顔をしながら言った。
「・・・どうしたんだ、柴進?」
「いえ、彼等が少し不安になりましてね」
「不安って?」
「ええ。実はですね・・・」
柴進は自分の心の中にあった不安を花栄に話した。
「・・・なんだって!?すぐに黄信達を助けに行かなくては!!」
黄信と秦明は夜の真っ暗な道を抜け、彦達の邸宅の門前についた。
秦明は大声で門の向こうにいる兵士に言った。
「今帰ったぞお!門を開けろ!」
しかし、門は開かなかった。
2人はおかしいぞと思った。
秦明はもう1度大声で言うが、やはり開かなかった。
「一体どういうことだ?何度言っても門を開かぬとは・・・」
「全員どこかへ出かけたのか?」
2人がそう思っていると、門の上から彦達と黄文炳、そして、火弓兵5、6人が現れた。
黄信と秦明は彦達に言った。
「彦達殿!我々が命からがら帰ってきたというのに、何故門を開けてくれないのです!?」
「そうです!早く門を開けてください!」
彦達はフンと鼻で笑った。
「フン!敵に捕らえられたくせに、よくそんなことが言えるな!黄信、秦明!」
「な、何だと!?」
「逃げてきた兵達から聴いたぞ!お前達は無様に敵に敗れ、梁山泊のアジトへ連れて行かれたとな!」
「彦達様の言うとおりですよん!しかもこんな夜遅く帰ってくるなんて怪しいですよん・・・。まさか、敵に寝返って彦達様の首を狙おうとしているのではないですかよん・・・?ぐふ、ぐふふふぅ」
黄文炳は怪しい笑い声をしながら言うと、火弓兵に命令した。
「火弓兵構えい!あの裏切り者2人を射抜くんだよん!」
「はっ!」
火弓兵は黄信と秦明に向かって、火の矢の雨を降らせた。
黄信と秦明は自分の持つ武器で矢を払った。
「待ってくれ!我等は裏切るなどと考えてはおらぬ!」
「そうだ!話を聞いてくれ!!」
黄文炳は2人の頼みを断った。
「そんな話、信じられますかよん!」
「本当だ!信じてくれ!!」
「フンだ!お前達のような嘘吐きは、お仕置きが必要だよん!」
黄文炳はそう言うと、兵士に命じた。
「おい!あの4人を連れて来るんだよん!」
「はっ、かしこまりました!」
兵士はすぐさま黄文炳の言った4人を連れてきた。
黄信と秦明はその4人を見て驚愕した。
それは、自分達の妻と子供であったのだ。
「黄麗!黄能!!」
「秦蓉!秦勘!!」
黄信と秦明はそれぞれの妻と子供の名を呼んだ。
「あなた!」
「父さん!助けてぇ!!」
「秦明様!」
「パパー!」
それぞれの妻と子供も黄信と秦明を呼ぶ。
彦達は耳元で泣き叫ぶ4人の声がうるさくてたまらなかった。
彦達は兵士に命令した。
「兵士共!さっさとこやつ等を斬ってしまえい!!」
「はっ!」
兵士は黄信と秦明の妻と子供達の背中を剣で突き刺した。
「あああ!!」
「ぎゃあああー!!」
「秦明さまぁ・・・!!」
「パ・・・ぱ・・・!」
黄信と秦明の妻と子供達の悲鳴が門に響き渡った。
「黄麗ー!!黄能ー!!」
「秦蓉・・・、秦勘・・・!!」
黄信と秦明は妻と子供の名を呼ぶが、もう返答はなかった。
哀しいかな、2人の妻と子供達は非道なる者の手によって、その人生に幕を下ろされてしまった。
黄文炳は妻と子供達を門の上から突き落とした。
4つの血の華が鮮やかに咲いた。
彦達と黄文炳は不愉快な声で笑った。
「なっはははは!どうだ黄信、秦明よ!梁山泊に敗れるからこうなったのだ!!」
「にょにょにょにょにょん!これでわかったかよん?」
黄信と秦明はぐしゃぐしゃになった妻と子供の亡骸を抱きかかえながら、怒りの雄叫びを上げた。
「ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!彦達、黄文炳!!これが、これが国のために忠義を尽くしてきた者達への礼儀か!!?」
「貴様等、許さん!!許さんぞおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
彦達と黄文炳は二人の叫びに震えをあげた。
彦達は震える声で兵士に言った。
「な、何をしている!?早くあの2人を射抜くのだ!!」
「は、はい!!」
兵士は慌てながら黄信と秦明に向かって矢を放った。
黄信はそれを剣で切り払った。
「貴様等だけは、生かしておかん!!」
黄信は門の扉を剣でバラバラに切り裂いた。
黄信はゆっくりと邸宅の方へと向かって行った。
それに続くかのように、秦明も狼牙棒を持って歩いていった。
「我等が妻と子の受けた痛み!!」
「貴様等にも味あわせてくれよう!!」
彦達と黄文炳は焦った。
このままでは自分達があの2人に殺される!
ここはなんとかしなくては!!
彦達と黄文炳は別の出口から門の上を出て、走って逃げ出した。
黄文炳は汗ばんだ手でトランシーバーを持ち、兵士に連絡した。
「お、お前達!緊急事態だよん!!黄信と秦明が怒り狂って、わたくし達を殺しに来てるよん!!このままじゃまずいから、アレを倉庫から出すんだよん!!」
『へっ?あれって、『SWH−A』のことですか?』
「そうだよん!!早く出すんだよん!!早くしないとこっちが殺されるんだよん!!」
『は、はい!!分かりました!!』
兵士2人は外にある倉庫に入った。
倉庫の中には、棺桶のような黒い箱があった。
「確か、これだよな?『SWHシリーズ』の奴が入ってるのって?」
「ああ、そうだ。とにかく出せって言うから、出してみようぜ?」
兵士達は鍵を使って黒い箱を開けた。
鍵が開いた瞬間、黒い箱は白い煙を出し、自動的に開いた。
「うわわ!一体なんだ!?」
「浦島太郎の玉手箱か!?」
兵士達は驚いて腰を抜かした。
しばらくすると、黒い箱の中から何かが出てきた。
それは、蒼い長髪と蒼い瞳をした可愛らしい少女であった。
黄信と秦明は彦達の邸宅を怒りのままに破壊していた。
怒り、怒り、怒り怒り怒り怒り怒り怒り怒り怒り!!
2人の心の中にあるのは、妻と子供を殺した彦達と黄文炳への怒りと憎しみであった。
愛する妻を、将来の夢を見ていた子供達を、無惨に殺した慕容彦達と黄文炳!!
奴らをこのまま生かしておくものか!!
奴らには地獄よりも恐ろしい罰を下さなければならない!!
「彦達!!黄文炳!!貴様等を地獄へ落としてくれる!!」
「どこにいる!!でて来いいいいいい!!!」
黄信と秦明がそう叫んでいた時、遠方からガトリングの弾が飛んできた。
黄信と秦明はそれを剣と狼牙棒で防いだ。
「何者だ!!」
「姿を見せろお!!」
黄信と秦明は姿を現さぬ者に対して叫んだ。
すると、燃え盛る炎の煙から、華奢な体をした、見た目16、7歳くらいの蒼い髪の少女が現れた。
その少女の着ているコスチュームは、動きやすいように体に密着している。
そしてその少女の右腕には、巨大なガトリングガンが握られてある。
「一体何者だ!」
「名を名乗れ!!」
2人が少女に向かって叫んだ。
少女は淡々とした口調で言った。
<私は、対レジスタンス用掃討生物兵器・SWH−A。正式名称、Seed・Weapon・hurman−archetypusと言います。あなた方を統一連合軍士官・慕容彦達氏の邸宅の破壊行為により、反抗勢力のレジスタンスと判断、即刻排除します>
「・・・ちょっと待て!?俺達の話も聴いてくれ!!」
「そうだ!!奴は俺達の・・・」
<排除開始>
SWH−Aと名乗る少女は、黄信と秦明に向かって、ガトリングガンを発砲した。
黄信と秦明は寸前でガトリングの弾を全て避けた。
少女はガトリングガンが駄目だと判断すると、腰に下げていた剣を抜き、黄信に向かって振り上げた。
黄信は少女の剣を喪門剣で受け止めた。
そして、そのまま剣と剣の打ち合いとなった。
ガキン!カキキィン!ガキキキキィン!!!
2本の剣は眼にも止まらぬ速さで打ち合った。
しかし、長く打ち合いをやっていると、次第に疲れが見え始めてくるもの。
黄信はだんだんと腕が疲れてきていることに気付いた。
長く打ち合いをやっていたんだ。
体力が消耗してくるのも当然かと思った。
しかし、それと同時に黄信はあることに気付いた。
今、こうやって打ち合っている少女は、疲れというものが微塵も感じていない。
いや、むしろ、疲れるという感情がないという感じだ。
一体どういうことだ?
黄信がそう思っているうちに、蒼い髪の少女は剣を打ち合っている隙を突き、黄信の腹部を蹴った。
黄信はその場に膝を突いた。
蒼い髪の少女は黄信の頭上に剣を振り上げて言った。
<敵、体力85%低下。これ以上戦うことは不可能と判断。敵の危険値99%、よって、この場で排除する選択を優先します>
一体、この少女は何を言ってるんだ・・・?
まるで機械が喋っているようではないか・・・。
<排除・開始>
少女は黄信に剣を振り下ろした。
しかし、少女は剣を振り下ろそうとした瞬間、秦明の狼牙棒牙くることを素早く判断し、狼牙棒を回避した。
「黄信!大丈夫か!?」
「ああ、なんとかな・・・」
「ここは俺に任せろ!」
秦明は少女の蒼い瞳を睨みつけた。
少女も秦明を蒼い瞳で見つめる。
その瞳に、感情は一切感じることはできない。
<あなたは任務の妨げをするつもりですか?任務を妨げるのならば、あなたを不穏分子とみなし、排除します>
「フン!排除するものなら、排除してみろ!!」
秦明と少女は黙って睨みあっていた。
と、その時、遠くから声が聴こえた。
黄信はまさかと思って振り向くと、花栄と梁山泊のメンバー達が向かってくるのが見えた。
「花栄!お前、どうしてここに!?」
「どうしてって、もちろんお前たちを助けにだよ!!」
花栄はそう言うと、黄信と秦明を素早く馬に乗せ、少女の前から立ち去ろうとした。
少女は花栄に向かって言った。
<あなたも任務を妨げるつもりですか?>
「妨げるって、そりゃあ昔からの友人を助けるためなら、その任務って奴を妨げるつもりさ!」
<では、あなたも不穏分子とみなし、排除します>
「排除?フン!排除される前に逃げ切ってやるぜ!!阮小二!!童威!!突っ切るぞ!!」
「おう!!」
「任せとけ!!」
花栄、阮小二、童威は馬を走らせた。
3人は追いかけてくる少女から逃げ切り、炎で脆くなっている壁を馬で突進して破り、彦達邸宅から脱出した。
少女は逃げ切った花栄達を見つめていた。
すると、彦達と黄文炳がどこからともなく現れた。
彦達は少女に訊いた。
「奴らは仕留めたか、SWH−A?」
<いえ、排除し損ねました。申し訳ございません>
「なに、謝ることはない。また討ち取ればすむことだ。それに、たとえあの2人がいなくとも、お前がいれば大丈夫だ。これからもよろしく頼んだぞ?」
<はい。わかりました>
花栄等3人は黄信と秦明を乗せ、森の中を馬で駆け抜けていた。
黄信は花栄に訊いた。
「なあ、なぜお前は俺たちを救いに来たのだ?」
「ああ。ついさっき、柴進のダンナから聴いたのさ。『彦達は戦に負けた奴を容赦なく切り捨てる』ってな。それで俺は助けに行こうと思って、阮小二と童威を連れてやってきたってわけさ!」
「全く、水中戦専門の俺を連れて友達を助けようとする花栄さんの心には負けるぜ」
「本当ですよ。いきなり俺たちを連れて、2人を助けに行くぞって言ってたんですから」
阮小二と童威は笑いながら言った。
黄信は3人の話を聴き、俺はいい友人を持ったなと思った。
そして秦明と顔を見つめてから言った。
「花栄。俺達は梁山泊に入る」
「えっ、国に背く気はないって言っていたんじゃないのか?」
「ああ。だが、妻と子供を殺された時、俺達は思った。あんな奴らを匿う国を潰して、そして新しい国のために働こうってな」
「ああ。黄信の言うとおりだ。花栄殿。梁山泊に着いたら、頭領に仲間にしてくれと頼んでくれ!」
秦明はすすり泣きをしながら花栄に言った。
花栄は微笑みながら2人に言った。
「当たり前だろ!俺達は仲間なんだからな!!」
「花栄・・・」
「花栄殿・・・」
黄信と秦明は馬の上に乗りながら男泣きをした。
「・・・では、黄信殿と秦明殿は愛する妻と子供達を殺されたと?」
「はい。その時我々は目覚めました。こんな奴らのいる国に従う義理はないと」
「ですから、劉備殿!我々を仲間にしてくだされ!!頼む!!」
黄信と秦明は頭を下げて劉備に言った。
花栄は黄信と秦明を見ながら劉備に言った。
「頭領。2人もこう言ってるんです。仲間に入れてください。黄信と秦明はこの国を変えようと我々に協力してくださると言っているのです」
劉備は微笑んで言った。
「あたり前であろう、花栄。この2人を丁重にもてなしてやってくれ」
「はい!」
「ありがとうございます!」
黄信と秦明は感涙し、劉備に深く頭を下げた。
そしてその夜、梁山泊で楽しい宴が開かれた。
「待っていたぞ。ワルキューレ27楽奏」
高?は自分の前で並ぶ3人のワルキューレ兵に向かって言った。
3人のワルキューレ兵はそれぞれ名前を言った。
「はっ!ワルキューレ27楽奏が1人、パウロ・カーディアンであります!」
「同じく、リン・マーシャオであります!」
「私は付き添いのワルキューレ兵、フェイ・マーシャオであります」
「ほほう。なかなか面白い連中だな。くくくく・・・」
高?は含み笑いをすると、3人に言った。
「お前達はこれから慕容彦達のもとで働いてもらうことになる。彦達と共に梁山泊の連中の首をもぎ取ってくるのだ!」
「ははっ!全ては世界の平和のために!!」
3人は右手を挙げて高らかに叫んだ。
「くくくくく・・・、ワルキューレ27楽奏とおまけ1人が来て、ますます楽しくなってきた。さて、どう楽しませてくれるのかな?梁山泊?」
高?はこれから起ころうとしている戦いに、思わず笑いがこみ上げそうになった。
果たして高?は、一体何のために戦っているのであろうか?