盲目将軍・陶金節作
ガンダムSEED・FINALWAR 第6章

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梁山泊のアジトでは、佐助と史進等が、捕縛した兵士達を修練場へ連れて言っていた。
捕縛されている兵の中には、ダンベールとジェシカの姿があった。

「くそ、何てことだ・・・。生徒達を救うはずが、逆に敵に捕まる羽目になるとはな・・・」
「しかも、その生徒達も敵に味方をしているなんて・・・」

ダンベールとジェシカは生徒達が梁山泊の味方になったことを疑問に思った。
なぜ連れ去られた生徒達が、世界三大レジスタンスの1つである梁山泊に味方しているのだろう?
洗脳はしていないと敵は言っていたが・・・。
ダンベールとジェシカがこう考えているうちに、修練場に着いた。
捕縛された兵士は横11列に並べられ、そのまま座らせられた。
兵士達が座った瞬間、佐助は忍者刀で兵士達を縛っている縄を斬った。
佐助は兵士達に言った。

「いやあ、がんじがらめに縛ってすまねえすまねえ。これから頭領と副頭領が来るから、楽な座り方で待っててくれ」

佐助の言葉に、兵士達は驚きを隠せなかった。

「なぜ敵である自分達に優しくしてくれるんだ?」
「こいつらは統一連合に歯向かうレジスタンスではないのか?」

兵士達はどういうことだとざわめき始めた。
兵士たちが抱いている思いは、ダンベールやジェシカも同じであった。

「これはどういうことでしょうか?ダンベール先生?」
「俺にも何がなんだか・・・。このレジスタンスのメンバーは、何を企んでいるのだ?」

ダンベールがこう考えているうちに、頭領と副頭領である男がやってきた。
頭領と副頭領の顔立ちは、レジスタンスには見えない顔つきであった。
佐助が兵士達に言う。

「このお方等が、梁山泊頭領・劉備玄徳と、副頭領の及時雨・宋江だ」

兵士達はこれが梁山泊のリーダーなのかと驚いた。ダンベールとジェシカも驚いた。
ダンベールとジェシカを含む兵士達は、梁山泊のリーダーはもっとゴツい巨漢かと想像していたからだ。
劉備達が現れた後、梁山泊のメンバーがぞろぞろとやってきた。
やってきたメンバーは、参謀役の呉用、太公望と、楊志、関羽、張飛等十二神将を初め、楊春、王英、宋万、杜遷、阮三兄弟、張兄弟、童兄弟、魯智深、張青、孫二娘、柴進、レッテ、那托、ロイ、コレット、ギロ、史進、劉唐、白勝、ヴィーノ、ヨウラン、アビー、マッド、アーサー、マリク、チェン、バート、太乙真人等KONRON社の社員達。
そして、マヤ、健太、カンであった。
ダンベールとジェシカはマヤ達の姿を見た瞬間、マヤ達に叫んだ。

「マヤ、健太、カン!なぜ梁山泊のメンバーなんぞに!?」
「訳を聞かせなさい!!」

マヤ達はダンベールとジェシカの声を聴くと、3人は2人に言った。

「・・・先生。今はあまり喋らない方がいいと思います・・・」
「先生方は今、一応梁山泊にいるわけだからさ。訳は後で言いますよ」
「そうそう、その証拠に、先生方は、梁山泊のメンバーの皆さんに睨まれているわけですから・・・」

ダンベールとジェシカは3人の言葉を聴いて、周りを見回すと、確かに梁山泊のメンバーが『お前達、自分達が今、どういう状況か分かっているのか?』と、不気味な気を漂わせている。
梁山泊のメンバーだけではない。
2人は統一連合の兵士達からも睨まれている。
まるで『場の空気を読めよ、あんたら』といわれているような感じだ。
そうだ、自分達は今、敵の捕虜にされているんだった。
今は黙っておいた方がいいな・・・。
ダンベールとジェシカはそのまま口を閉じた。
劉備は咳払いをすると、統一連合の兵士達に言った。

「統一連合の兵士達よ。先ほどの戦いで、そなた達を捕縛するような真似をしてすまなかった」

劉備の言葉を聴いた兵士達は動揺した。
敵のリーダーがなんで謝るんだ?
一体梁山泊は何を考えているのだ?
劉備はさらに言う。

「そなた達を捕縛したのは、そなた達を梁山泊のメンバーに迎え入れようと思い、やったことなのだ」

兵士達はさらに動揺した。
俺達を梁山泊のメンバーに迎え入れるだと!?
一体どういうことだ!?
劉備は兵士達の同様を治めると、話を続けた。

「今、この世界は、統一連合と特殊部隊・ワルキューレの者達の手によって、民衆が苦しめられている状況にある。統一連合初代総長兼オーブ首長連合国主席・カガリ・ユラ・アスハは己の思想を他国に押し付け、逆らう者は平和の敵とみなして攻撃し、それでも抵抗するならば、ラクス・クラインを筆頭にする特殊部隊・ワルキューレを派遣し、弾圧する。逆らう者を片付けた統一連合の官僚達やクライン派の面々は、力の無い民達から重い税を搾り取り、その税金で毎夜宴を開き、宴に飽きれば街中の婦女達を連れさらって自分の慰みものとして、民達を恐怖のどん底に陥れている。我々はそんな下劣な悪党共から民を救い、真の平和を創り上げたいのだ!」

劉備はそう言うと、統一連合の兵士達に土下座をして言った。

「無礼な真似をして言うのもなんだが、どうか、我々に力を貸して頂きたい。どうか、この通りだ」

統一連合の兵士達は一体どうしたものかと悩み始めた。
確かに最近、統一連合が横暴になっていくのは分かっていたが、
かと言ってレジスタンスに入るというのはちょっと気が引ける。
なにしろ、レジスタンスに入ったら入ったで、かつての同僚達と戦わなければならなくなるのなら尚更だ。
そして家族を置いてレジスタンスに入るのは妻や子供を悲しませやしないだろうか。
一体どうしたものか・・・。
兵士達はレジスタンスに入るか入るまいか、大いに悩んだ。
敵を味方に引き入れるという作戦を考えた佐助は、兵士たちが悩む姿を見て、やはりそう簡単に仲間に入るわけがないかと思った。
その内、歩兵部隊隊長の何進が口を開いた。

「す、すみませんが、わしには眼の見えぬ年老いた母がいるのです。申し訳ありませんが、あなたの願いを聞き入れるわけには参りません・・・」

何進の言葉に続いて、軍学校の生徒らしき少女が涙目になりながら立ち上がった。年齢的には14歳辺りだろうか。

「あ、あたし・・・家に・・・家に帰りたい・・・!!おねが、い・・・、家に帰して・・・!!」

少女は喘ぎながら叫ぶと、ついに泣き出してしまった。
少女が泣いてるのをを見て、さすがの張飛も少女を殴ることが出来なかった。
泣いている少女に続き、統一連合の兵士や軍学校の生徒は次々と言い出した。

「お願い!私を家に帰して!!」
「すみませんが、俺にも子供がいるのです!!」
「お母さんやお父さんが心配するから、仲間になることは出来ません!!」
「お家に、お家に帰りたいよぉ・・・」

仲間になることを拒否する兵士達を見て、ダンベールとジェシカは思った。
もし自分達がここで仲間に入れば、学校にいる他の生徒達が心配するだろう。
しかし、昨今の統一連合上層部やワルキューレの兵士達が横暴化していくのを黙って見過ごすことは出来ない。
ダンベールとジェシカは劉備に言った。

「分かりました。あなたがそこまで言うなら仲間になりましょう」
「今の統一連合を黙って見過ごすことが出来ません。私達の力をお貸ししましょう」

ジェシカはそう言うと、「ただし」と付け加えて言った。

「北京の軍学校にいる生徒達だけは絶対に襲わないという約束をしてくれれば、仲間になります」

ジェシカの言葉を聴いた劉備は、

「分かった。約束しよう」

と言うと、梁山泊のメンバーに言った。

「では、皆の者。帰りたいと言った兵士達に、1週間分の食料を与え、北京の軍学校へ送ってくれ」
「はい。分かりました!」

梁山泊のメンバー達は大声で返事をした。
マヤ達は小声で話し合った。

「佐助さんの作戦が何とか上手くいってよかったね」
「ああ、それが俺達の先生だっていうんだから!」
「そうだね!・・・でも、泣いて家に帰りたいって言った女の子の気持ちも分かるなあ・・・」
「・・・そうだね。父さんと母さん、今頃心配しているだろうなあ・・・」

マヤ達がそう話していると、後ろからダンベールとジェシカ、そして、楊志と佐助がやってきた。
4人が来たのに気付いたマヤ達は、「ど、どうもこんにちは!」
と反射的に挨拶をした。
ダンベールはマヤ達を見ると、大声で怒鳴った。

「この馬鹿者共が!!連れ去られた身であるお前達が、なんで梁山泊に入っているんだ!!」

ダンベールに続いてジェシカも言った。

「連れ去られてそのまま梁山泊に入ると言う度胸は認めるけど、何で梁山泊に入ったのか、詳しく訊かせてもらうわよ」
「は、はい・・・・」

マヤ達はダンベールとジェシカに言われると、身を小さくして頭を下げた。
佐助は2人にまあまあと言った。

「まあまあ先生方、そう怒りなさんなって!この子達は梁山泊で一生懸命頑張ってたんですから」
「その通りだ。そう怒ることも無い。許してやれ」

ジェシカは楊志の言葉を聴くと、はっ、と思い出し、楊志の目を見て言った。

「・・・そうそう、あなたにも色々と訊きたいことがあったから後でゆっくり話し合いましょう」

楊志はジェシカの言葉を聴くと、平然とした眼で言った。

「それは何かのプロポーズか?あいにく俺は恋愛には疎くてな。悪いがそのセリフは他の男に言ってくれ」
「・・・そうじゃなくて・・・」

ジェシカは半ば呆れた声で言った。
と、ジェシカは自分に近づく邪な影を感じた。
ジェシカはその影に蹴りを一撃を食らわせた。
影はその場に倒れると、腹を押さえて呻きながら転げ回った。
影の正体は王英であった。

「ひ、ひどいじゃないか・・・、べっぴんさん。見事水月に当たったぜ・・・」
「あははは、王英!またお前諦めきれないのか?」
「仕方ないだろ。女を追っかけ回すのは、俺の宿命だ・・・」
「宿命か・・・。大した宿命だな・・・」

王英、佐助、楊志の会話を聴いて、ジェシカは深くため息をついた。

「梁山泊の人達って、こんなのばっかりなのかしら・・・」
その昼、佐助が運転するトラックは、捕らえた兵士達を解放するため北京の軍学校に向けて走行していた。
トラックの中には捕らえられた兵士達の他に、マヤ達を連れ去る時に佐助と行動を共にした楊志、王英、宋万、杜遷、楊春、そして、梁山泊に入ったダンベールとジェシカがいた。
ダンベールは、軍学校にいる生徒達に申し訳なく思った。
だが、梁山泊に『北京の軍学校を襲わないことと、捕らえた兵士を解放することという条件のもと、梁山泊の仲間になろう』と約束してしまったのだから、今更その約束を無かったことにするわけにはいかない。
軍学校にいる生徒達よ許してくれ、とダンベールは心の中で生徒達に謝った。
ジェシカは助手席にいる楊志に語りかけた。

「楊志さん。そろそろ聴かせてくれないかしら?」
「・・・だから、俺は恋愛に疎いと言っただろう?そういうことは王英か楊春に言えといったはずだ」
「そうそう、愛の告白なら俺に言って・・・、うごお!!」

王英が言おうとした途端、ジェシカは王英の腹部を殴り、王英を気絶させた。

「うわあ・・・また一撃で・・・」
「すげえ・・・」
「王英は鄭天寿と互角にやり合うほどの剣の使い手なのに・・・」

楊春、宋万、杜遷の3人は、王英を一撃で気絶させたジェシカに、ただただ驚くばかりであった。
それを見ていた兵士達も、唖然としていた。
この人ならば、普通に生身で戦えるんじゃないのか?
トラックにいた者達はそう思った。
ジェシカは再び楊志に訊いた。

「告白とかそういう意味で言ってるんじゃないの。ちゃんと話して頂戴。どうして統一連合少佐であったあなたが梁山泊に入ったのか・・・」

楊志はしばらく黙ってから、口を開いた。

「そうだな・・・。俺は確かに宇宙統一連合の少佐だった。
己の住む国のために今まで戦ってきた。
国のために戦っていると、統一連合政府の腐敗や横暴さも目に付くようになってきた。
俺はこの手でこの国を、そしてこの世界を変えたいと思った。
民を苦しめる役人達や軍人達を罰し、民が笑って暮らせる世にしたいと思った。
俺の上司であった元帥や将軍、そして、軍の友人達も俺の考えに賛同してくれた。
俺は元帥や将軍、そして友人達と共に世直しをしようと考え、国の建て直しを計画し、それを実行しようとしていた。
だが、高?、蔡京、童貫の奴らがやって来た途端、軍部や政界は大きく変わってしまった!
そう、全てはこの国の国家主席・趙詰があの3人を待遇したことから始まった。
そもそもあの小娘は、前国家主席の血筋だからという理由で主席の座に立った。
しかし、奴は絵画、書物、骨董など、自分の個人的趣味ばかり
にしか興味を持たず、政治のことなど全く無関心。
重臣は趣味・芸術の繋がりのある者達ばかりだ。
それ故についた渾名が『風流天使』だ。
奴ら3人は、そんな趙詰が自らの独断と偏見で選んだことから、軍部の上位に上り詰めたのだ。
奴らはあの小娘の後ろ盾で八十万禁軍の大元帥と将軍にまで上り詰めた。
元帥や将軍はあの3人の手によって職と地位を奪われ、俺の友人は無実の罪で幽閉された。
この俺も高?の手によって軍職を追われる羽目となり、他の軍人達も他国へ人事異動となってしまった。
邪魔者がいなくなった所であの3人は政治の世界にまで手を出し、弱い者達を虐める様になった。
俺はそんな国に絶望し、我が祖先の代から受け継がれる宝刀『吹毛剣』を売ろうかと思い、街で刀売りをしていたが、いちゃもんをつけてきた牛二の奴を怒りのままに斬り捨て、見事罪人となった俺は、逃亡生活を送っていた。
しかし、そんな生活をしている時、昔からの仲の魯智深と元帥の誘いで、俺は梁山泊に入った。
そう、元帥や将軍や友人達と目指した夢を叶える為に。
・・・これが俺が梁山泊に入った理由だ」

楊志は静かな口調で語ると、また黙りこくってしまった。
ジェシカは楊志の語ったことを頭の中で繰り返した。
国家主席が政治に無関心の女の子とは聴いていたけど、こんなに酷かったなんて思いもしなかった。
そして、高?等が大元帥と将軍の座に着く前にいた、元帥と将軍って、もしかして・・・。
ジェシカは運転席でハンドルを操作している佐助に訊いた。

「ねえ、えっと・・・」
「猿飛佐助だぜ」
「ああ、ええと、佐助さん。1つ訊きたいんだけど」
「いいよ。何だい?」
「あなたの隣に座っている楊志が軍にいた頃の元帥と将軍の名前は分かる?」
「ああ、知ってるよ。元帥の名前は聞仲。今は俺達梁山泊十二神将のリーダー的存在さ。もう1人の将軍の名前は王進。今はどこにいるのかわからねえけど、確か史進がその王進将軍に武芸十八般を教えてもらったとか言ってたっけ」

聞仲元帥が梁山泊に!?
そして王進将軍が梁山泊メンバーと知り合い!?
ジェシカは佐助の言葉に驚いた。
軍部で最強と謳われていたあの2人が、まさか梁山泊と関わっていたなんて!
ジェシカは、梁山泊の関係者は見えない糸で繋がっているのかと心臓を激しく動かしながら思った。
会議室では、徐々に増えつつあるレジスタンスの対策会議が行われていた。
会議室には、世界3大レジスタンスの1つである梁山泊に関してのニュースが流れていた。
TVではニュースキャスターや記者達が、北京の軍学校の校門に押し寄せていた。

『統一連合軍と特殊部隊ワルキューレは、今日午前6時頃、梁山泊に攻撃を行いましたが、結果は敗北。統一連合の兵の大半は敵に捕らえられ、特殊部隊ワルキューレの兵士達も、全員戦死したとのことです。統一連合軍隊長・ホイ・コーロー氏は現在、北京軍学校の記者会見を行っています。詳しい情報が入り次第、お伝えします』

白い軍服を着たカガリは、TVを付けっぱなしにしながら、オーブ軍の士官や統一連合の官僚達、そして、27人のワルキューレの兵士達に語った。

「統一連合、そしてワルキューレの者達よ。世界3大レジスタンスの1つである梁山泊は、世界中で暗躍している。ある時は各国の政府の官僚を殺害し、ある時は他のレジスタンスを救援し、そしてまたある時は、各国のMS製造所からMSを大量に盗んでいる。
梁山泊だけではない。各コロニーやプラントでは『宇宙海賊・江東乃虎』が暴れ回り、ロシアでは『曹一族』がロシア大統領・ベルチネス・カレンスキーを殺害し、ロシアの自分達の領土とした。
そして各国の小規模のレジスタンスは世界3大レジスタンスの暗躍に勇気付けられ、再びゲリラ活動を行っている」

そう言うとカガリは両手でテーブルを叩き、会議室にいる者達に叫んだ。
「今こそ宇宙統一連合とワルキューレは一致団結し、世界の平和を守らなくてはならない!そのためにはどんなことがあっても負けるようなことがあってはならない!」

カガリの言葉に、オーブの士官と統一連合の官僚達は喝采を上げた。

「カガリ様の言うとおりだ!!」
「レジスタンスを潰せ!!」
「世界の平和のために!!」

カガリの隣にいた青い髪の青年と中国の官吏のような服装をした青年は、興奮している者達を治めた。
青い髪の青年の名は、アスラン・ザラ。
5年前の大戦でクライン派の軍に付き、クライン派が極秘に開発した「インフィニットジャスティス」を駆り、ザフトのナスカ級戦艦を何隻も沈没させたエースパイロットである。
彼は戦後、オーブに行き、ワルキューレの将軍として、「インフィニットジャスティス・カスタマー」で統一連合に逆らうレジスタンスを次々と壊滅させてきた。
それ故、「紅き正義」という渾名で呼ばれるようになった。
中国の官吏のような服を着た青年の名は、司馬懿仲達。
彼はオーブのアスハ家の次に位の高い名門である、司馬家の出身である。
戦場で活躍しているアスランより活躍の場は少ないが、その明晰な頭脳で作戦を指示したり、カガリが海外出張でいない間、カガリの代わりに政を行うため、オーブ国民からカガリと同じくらいに支持を受けている。
司馬懿は会議室が鎮まった後に言った。

「カガリ様の言うとおり、統一連合の力だけでは各国のレジスタンスに勝つことは出来ません。全てのレジスタンスを鎮圧させるには、ワルキューレの力も必要なのです」

司馬懿に続いてアスランが言った。

「そこで、今日統一連合主席・カガリ・ユラ・アスハは、プラントにいるワルキューレ総帥・ラクス・クラインから『ワルキューレ27楽奏』の方々をお借りした」

ワルキューレとは、日に日に数が増していくレジスタンスに対抗するため、プラント最高評議会議長・ラクス・クラインが、ザフトの『フェイス』という称号を基にして設立した特殊部隊のことである。
ワルキューレ総帥の座はラクスが座り、将軍の座は5年前の大戦で活躍したキラ・ヤマトとアスラン・ザラが座ることとなった。
ワルキューレの軍服は、ワルキューレ入隊時、初めての戦場で殺した敵の数で色が変わり、上から見て
『純潔の白』
『誠実の青』
『信頼の緑』
『愛情の桃』
の軍服を着た者は、周りから手厚く待遇され、逆に
『非情の紫』
『虚実の灰』
『虐殺の赤』
『邪悪の黒』
の軍服を着た者は、周りから蔑視されてしまう。
特に白の軍服と青の軍服を着ている者ほど英雄や聖人ともてはやされ、赤の軍服と黒の軍服を着ている者ほど、殺人狂や虐殺魔と罵られてしまう。
そんなワルキューレの中で、特に強い力を持った27人の戦士のことを『ワルキューレ27楽奏』というのである。

アスランはワルキューレ27楽奏のメンバーのリストを見て、疑問に思ったような顔で、27楽奏の者達に訊いた。

「確か、現在ワルキューレ27楽奏のメンバーは、諸事情で1人いないはずなのだが、ここに27人いるのはどういうことだ?」

アスランの言葉を聴いた士官や官僚達はいっせいにどよめきたった。
士官や官僚の中には、怯えた目をしている者もいた。

「27人揃っているだって!?」
「まさか『奴』が・・・!?」
「『あの者』がここにいるのか・・・!?」

司馬懿は士官や官僚達を鎮めさせた。
鎮めさせる彼の眼にも、怯えの表情があった。

「落ち着いてください!『彼』はここには来ていません!来ていたら既にここは大騒ぎになっているはずです!」

士官や官僚達が鎮まると、司馬懿は深呼吸をして、27楽奏に訊いた。

「ワルキューレ27楽奏の皆さん、メンバーが1人多いというのはどういうことです?人騒がせるのにも程がありますよ!」

司馬懿の問いに答えたのは、団子を頭に2つくっつけた様な髪形をした双子の姉妹であった。

「ああ、それはあたしが姉さんを連れてきたからよ。姉さんも地球に行きたいって言うから、あたしが連れてきたのよ」
「どうも、お騒がせをしてすみませんでした」

彼女達の名はリン・マーシャオと、フェイ・マーシャオ。
姉のフェイは青い軍服を着ていて、どこか大人びた雰囲気を漂わせている。
妹のリンは桃色の軍服を着ていて、まだ少女のあどけなさを残した顔つきである。

アスランはフェイに言った。

「・・・人騒がせにも程がありますよ。ミス・フェイ。『あの男』じゃなかったから良かったけど・・・!」
「どうもすみません。アスラン将軍」
「すみませんじゃすみませんよ!!大体、あなたは27楽奏のメンバーには入っていないでしょう!!」

アスランに続いてカガリがフェイに言った。

「アスランの言うとおりだ!!ラクスは私に26人来ると言ったんだ!それを地球に行きたいからという理由でここへ来るな!!」
「プラントの防衛はどうするんですか!!」

アスランとカガリの言葉に、リンは激怒した。
リンはアスランに文句を言った。

「ちょっと!!姉さんが地球に行きたいって言うからあたしが連れてきたんじゃない!!その言い草は何よ!!」
「リン!フェイ少佐はここへ来るメンバーには入ってないんだぞ!それをどうして言わないで置く!?」
「何よ!脱走ホモのくせに!!」
「脱走・・ホモ・・・・」

ホモという言葉にアスランの何かが切れた。
5年前からずっと言われ続けてきた『ホモ』という言葉に、アスランは大きな声で真っ向に否定した。

「俺はホモじゃない!!」
「フンだ!ホモじゃないんなら証拠を見せてみなさいよ!?
ほら、ないんでしょ!?どうせ5年前の脱走事件はキラのことで頭の中がピンク色になってたからでしょ!?
どうせ「キラキュ〜ン♪」とか叫びながらザフト軍基地を走り回ってたんでしょ!?
正直に白状しなさいよ!!自分がホモだって!!」

リンの言葉に反応し、大笑いをした27楽奏の青年がいた。
彼の名は、パウロ・カーディアン。
パウロは紫色の軍服を着ていて、腰まで届く黒く長い髪を後ろに伸ばしている。

「あっははははは!!脱走ホモか!こりゃ笑えるな!!それが事実ならアスラン将軍も大した器じゃないな!!ははははは!!」
「パウロ!!お前まで言うか!!」
「パウロだけじゃねえぜ。ホモ野郎」

アスランにそう言ったのは、27楽奏の1人、アドル・カウフマンであった。
アドルは灰色の軍服を着ていて、おかっぱ頭の髪型をしている。
アドルはアスランを睨みつけていった。

「七年前の大戦もそうだ。あんたはいつもキラと行動を共にしてきた。それはあんた自身が隠れホモだからじゃないのか?どうなんだよ?はっきり言えよ。ホモ野郎!」
「そうよそうよ!!白状しなさいよ、脱走ホモ!!」
「貴様等!!」

アスランはアドルとリンを殴りつけようとした。
だが、それをカガリとフェイが止めた。

「アスラン!2人の挑発に乗るな!!」
「アスラン将軍!落ち着いてください!!
リン!アドル!!早くアスラン将軍に謝りなさい!!」

フェイの言葉に、2人は仕方なくアスランに頭を下げた。

「・・・どーも、すいませんでした」
「・・・ごめんなさい。ホモ野郎」

アスランはまた激怒し、アドルに掴みかかろうとした。
と、その時、TVのニュース番組が騒がしくなってきた。
アスラン達は何だと思い、TVを見た。
そこには、梁山泊のメンバーが、捕らえた兵士を軍学校に解放している光景があった。

『ほらほら!学校だぞ!!』
『また俺達に捕まりたくなかったら、早く降りろよ!』
『もう二度と梁山泊を攻める等と考えるなよ?』
『ハイ!!ありがとうございます!!』
『おじさん達、ありがとう!!』
『だったらさっさと行け』
『はい!!』
『いやあ、我々を解放してくださり、本当にありがとうございます・・・』
青痣の男に泣きながら頭を下げているのは、中国統一連合軍の何進であった。

「なんと!あの何進が頭を!?」
「信じられぬ・・・」
「一体何があったのだ?」

カガリ、アスラン、ワルキューレ27楽奏、そして、オーブの士官や官僚達は驚愕の色を隠せなかった。
何進は中国統一連合軍の中では上の中ぐらいの強さを持つ武人である。
その何進が頭を下げるとは信じられない。
官僚達がそう考えているのとは違い、ワルキューレ27楽奏は梁山泊に興味を示していた。
あの何進を泣かせて頭を下げさせる梁山泊とは、一体どんな連中なんだ?是非、戦ってみたい!
カガリはパウロ、リン、フェイの3人に言った。

「パウロ、リン、そしてフェイ。お前たち3人に命じる。お前達3人は中国へ行き、梁山泊を攻め落とせ!」
「・・・そうこなくっちゃ。カガリ様。丁度俺も奴らと戦ってみたかったんだ」
「故郷の中国へ行きたいと思っていたのよね!」
「ご命令・・・。委細承知しました」

3人の声を聴くと、カガリは他の27楽奏に言った。

「他の27楽奏は各国へ自由に行き、レジスタンスを鎮圧せよ!!」
「はっ!!」

カガリ、アスラン、ワルキューレ27楽奏、そして、オーブの士官と官僚達は右手を上に挙げて言った。


『全ては、世界の平和のために!!」