盲目将軍・陶金節作
ガンダムSEED・FINALWAR 第4章

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オーブ・官邸
「しかし、まさかワルキューレが動くとは思わなかったぞ」
モニター通信でピンク色の髪の女性に話しかけている金色のショートカットの女は、宇宙統一連合初代総長兼オーブ主張連合国初代主席の、カガリ・ユラ・アスハだ。
「レジスタンスの1つや2つ、中国の統一連合軍に任せておけばよいものを・・・。なぜワルキューレの者を動かす必要があるんだ?しかも4人のうち1人は、『緑光の惨朴眼』とよばれた、あのドナテロだ。どうしてあんな女ったらしを・・・。答えろラクス!」
ラクスと呼ばれた女性は、ゆったりとして、かつ、何か裏のありそうな顔をしている。彼女、ラクス・クラインは、プラントで『平和の歌姫』と呼ばれていた少女であり、今は、プラント最高評議会議長として、人々から崇められている。ラクスはカガリに言った。
「カガリさん。レジスタンスだからといって、侮ってはいけません。今、世界で活躍しているレジスタンスの中で、力をつけてきている3つのレジスタンス、『曹一族』、『江東乃虎』、そして『梁山泊』。そのなかでも梁山泊は、素手や刀でMSを破壊する事のできる凄腕の者達。統一連合の力だけでは太刀打ちできません。ですから、独立軍・ワルキューレを本格的に動かす時がきたのです。現在、地球圏に『ワルキューレ27楽奏』の方々を送っています」
「ワルキューレ27楽奏だと!?」
カガリはラクスの言葉に驚いた。ラクスはさらに話を進める。
「・・・とは言っても、今送ってるのは26人ですが」
「馬鹿な!!27楽奏はワルキューレの中でも最強と言われる、通称『覇王27天王』!そんな者達を送ってくるなんて、プラントの方は大丈夫なのか!?はっ、まさか地球にいる『あいつ』も解き放てなんて言うんじゃないだろうな!?」
「安心してくださいな。プラントはキラがいるので大丈夫ですわ。それに、『あの方』を解き放つような事は致しませんわ。『あの方』を解き放てば、世界が終わります・・・」
カガリはラクスの言葉にほっとした。
「そうか・・・、ははは、そうだよな。わざわざレジスタンスを鎮圧するために、『あいつ』を解き放つような事はしないもんな。それに、地球にはアスランもいるんだ。なんとかなるだろう。分かった。ワルキューレ27楽奏が地球圏に無事到達したら、地球各国の軍に送る事にするよ」
「ありがとうございます。そう・・・」
ラクスとカガリは右手を高く上げて、声を揃えていった。

『全ては、世界の平和のために!』
梁山泊・機体開発研究所
マヤ達3人は、自分達のワークスジンの整備を、ヨウラン、ヴィーノ、マッドと共に行っていた。
「ふう、学校で整備技術の勉強をしていた甲斐があったぜ」
健太はワークスジンの脚部の整備を行っていた。カンは自分のワークスジンの整備をしながら、健太の話に乗ってきた。
「本当だよね〜。まさかここで役に立つとは思わなかったよ」
「へえ、最近の軍学校は、初っ端から整備技術の勉強も教えてるのか」
「俺達の場合は2年になってからだったよね」
ヨウランとヴィーノは健太とカンの話を聴いて、感心した。
健太はヨウランとヴィーノの話を聴くと、
「そうなんですよ。『立派な軍人になるためには、入学早々から整備技術の勉強をしなくてはならない!』って、先生に言われていたんですよ」
と、2人に言った。健太に続き、カンも言った。
「僕達はMSの整備技術をみっちり教えてもらいました。けれど、マヤの場合は・・・」
カンが途中の言葉を言おうとしたその時、突如、何かが落ちるような音が響いた。

「なんだなんだ!?どうしたんだ!?」
「何があったの!?」
「あーあ、またマヤがやったのか」
「今度は何をやったのかな」
健太とカンはそう言うと、作業をやめて、マヤのMSの所へ行った。ヨウランとヴィーノも気になって、二人の後を着いて行くと、そこには、マヤが整備の道具を一生懸命拾っている姿があった。マッドがマヤの手伝いをしながら怒鳴っている。
「このお馬鹿!!お前は一体どこを整備しようと思ったんだ!!整備道具が上から落っこちてきて、死ぬかと思ったんだぞ!!」
「す、すいませ〜ん・・・」
マヤは涙目になりながら、マッドに頭を下げた。健太はその光景を見て、やれやれ、と言った。
「全く、マヤはいつもこうだ。整備技術の時間の時、いつも失敗ばかりして先生に怒られるんだ」
「そうそう。その大半が、先生の命に関わる事なんだよね♪よくあれだけの失敗を重ねてきて、先生方が死ななかったもんだよ」
カンはけらけらと笑いながら言った。ヨウランとヴィーノはマヤを見て、
「な、まさか整備道具を上から落とすなんて・・・」
「俺たちでもやらないっていうのに・・・」
と言った。マッドは目を三角にしてさらに言った。
「今度こんなことをしたら、お前を梁山泊の湖の中に落っことしてやるからな!!」
「は、はあ〜い・・・」
マヤはマッドに何度も頭を下げて謝った。

「はああ・・・」
マヤは食堂のAランチを食べながらため息をついた。
「マヤ。そう気を落とす事はないぜ」
「そうそう、誰でも失敗はするってさ!」
健太とカンはマーボカレーを食べながら、マヤを慰めた。
マヤはランチのキャベツをもそもそ食べながら二人に言った。
「だってさー。昨日は張飛さんを怒らせるし、今日だってマッドさんに怒られるし・・・。軍学校にいた時と全く変わらないじゃない」
「そりゃあ、張飛さんが怒るのは無理ないぜ。まだ成人にもなってない子供同然のガキに説教じみたこと言われちゃ、誰だって怒るって。相手は大人なんだからよ」
「けど、今日のはまだ可愛い方だよ。もう二度とその失敗をしなけりゃいいんだからさ」
「そうかなあ・・・」
マヤは下を向いてうつむいて、またため息をついた。と、そこへ佐助がやってきた。佐助はマヤの姿を見て、
「おお、マヤ。どうした。なんかあったのか?」
と声をかけた。
「・・・・・・はああ」
マヤは深いため息をついたまま、何も言わなかった。
「ああ、佐助さん。これには色々とわけがありましてね」
健太が言おうとした時、佐助は笑って言った。
「分かってる!整備かなんかで失敗して、暗くなってるんだろ?」
「ええ!?どうして分かったんですか!?」
カンは驚いて佐助に訊いた。
「いや、マヤの顔を見れば大体分かる。なあ、マヤ」
佐助はマヤの肩をポンと叩いた。マヤはゆっくりと顔を上げた。
佐助はマヤの顔を見て言った。
「マヤ、飯が食い終わったら、街の方へ行かないか?丁度、張青から食料を買ってくるように言われてるからさ」
「町へ・・・ですか?」
「そう、町!」
マヤは暗くなっていた顔を明るくした。
町へいけば、嫌な事も吹き飛ぶかもしれない!
「行きましょう!!佐助さん!!」
マヤは元気な声で言った。
佐助とマヤ、健太、カンの4人は、梁山泊付近にある小さな街にいた。街は、小さい街とは思えないほどに明るく、商店街も活気づいていた。マヤ達は、佐助から渡された肌着を着て、街の中を歩いていた。
「いやあ、小さな街とはいえ、ここまで活気づいてると、都心部の方を思い出させるぜ」
健太は街中をきょろきょろと眺めながら言った。
「本当だよねえ。小さな街とは思えないよ」
「店の数もすごい・・・」
カンとマヤも健太に続いて、感嘆とした言葉を言った。
確かに、街の建物は豪華であり、商店街にある店の品物の数も半端じゃない。人々の顔は明るく、つらそうな顔をしている人は見当たらない。
佐助は3人に言うようにして語った。
「そう、ここはエイプリル・フール・クライシスで被害を受けた町の1つで、終戦後、宇宙統一連合の力を借りながら、やっと街は復興し、人々の顔にも笑顔が戻った。そう、表側だけは・・・」
佐助の言葉に、マヤ達は反応した。
「表側って・・・」
「一体どういうことですか?」
「もしかして、裏側はまだ・・・」
佐助は悲しそうな顔をして、
「・・・ちょっと、商店街の裏の方を見ていこう・・・」
と言い、店と店の間の通路を通っていった。3人も佐助の後を着いて行くと、そこには、街の人々とは違い、老朽した建物や、古びた服を着て、新聞を巻いて寝ている人々の姿があった。人々の中には、まだ3歳にも満たない赤ん坊もいる。中には死体もあるのだろうか、生肉が腐った匂いが鼻を刺激する。
「これは一体・・・、うぅ・・・っ!」
マヤはあまりの死臭に吐き気を覚えた。マヤは口を押さえて、腹を抱えている。
「表側の街と違って、なんだここは・・・」
「ぼろぼろだ・・・。全然復興がされていない・・・」
健太とカンは、あまりの光景に眼を開けたり閉じたりしながら、口をぽっかりと開いている。佐助は老朽化した建物を見上げながら言った。
「表側は復興したように見えても、裏側は全然復興されていない。統一連合が力を貸したのは、街の復興のみで、エイプリル・フール・クライシスで財産を失った人々の衣食住については全然力を貸してない」
「でも・・・、どうしてですか?どうして統一連合は人々の暮らす場所の復興に力を貸さなかったのですか?」
マヤは佐助に訊いた。
「・・・統一連合の財力は全て、オーブが仕切っている。昨日、頭領が言っていただろ?そう、オーブの親近国である、スカンジナビア王国や、フランス、イタリアなどに救援物資を送りすぎたせいで、二度の戦争で被害を受けた中国や日本やモンゴルといった東アジアや、一番被害が多かったアラブ諸国やアフリカ連邦には少しの救援物資しか送られなかった。そのため、復興できるのは少しの地域だけで、他の地域はここのように、未だ貧しい生活を送ってるんだ」
佐助は一呼吸を置いてから、また語り始めた。
「それだけじゃない。復興した中国の都心部では、宇宙統一連合の者達がでしゃばり始めやがった。中国・宇宙統一連合軍八十万禁軍大元帥・高?、統一連合軍第一将軍・蔡京、統一連合軍第二将軍・童貫、そして、統一連合中国政府国家主席・趙詰。この4人が贅沢の限りを尽くし、貧しい民から税を搾り、そして、自分達の配下と共に暴虐の限りを尽くす!!あいつらがいなくならない限り、人々は幸福に暮らせない!!」
佐助は血が出るほど両手の拳を握り締めて叫んだ。マヤ達は佐助の言葉を聴いて、自分達の信じてきたものが段々と崩れ始めてきた。軍学校では佐助が言ったような事は教えてくれなかった。それは、おそらく、統一連合政府の教育機関が、自分達に都合の悪い事は教えずに隠蔽しているからなのだろう。
佐助はマヤ達の方を見て言った。
「この国だけじゃない。他の国でも、貧しい人々が統一連合の連中や、ワルキューレの奴らに苦しめられている。俺達はそんな人々を助けるために戦っているんだ。そのためならどんな汚名をつけられようが構わない」
マヤ達は佐助の言葉と、街の裏側で、自分が抱いていた価値観にひびが入った。マヤ達は佐助に言った。
「・・・ここにいると、統一連合軍が信じられなくなります」
「・・・それだけじゃないです。救世主として称えられてきたワルキューレにも不信感が募ります」
「・・・何を信じればいいか、分からなくなってきました」
佐助は3人の言葉を聴くと、髪を掻き揚げながら言った。
「まあ、俺の言う事を全て信じろとは言わないけれど、これだけは言っておく。この光景だけは覚えておくんだぜ。華やかな街の裏は、こんな錆びれた街があるってことを・・・」
佐助はそう言うと、表側の街に出た。マヤ達も佐助の後を追うが、マヤは後を追う際に振り返り、ぼろぼろの服を着ながら、木の根を噛み締める家族の姿を眼に焼き付けた。

マヤ達4人が表へ出ると、商店街は大変な騒ぎになっていた。商店街の道路を戦車やMSを積んだトラックが我が物顔で通っているのだ!
MSを積んだトラックにの後に続く戦車が、商店街の通路をパレードのように通っていた。どうやら統一連合軍の出征らしい。
佐助は街の人に訊いた。
「すいません。あの軍勢はどこへ出征するのですか?」
街の人は小声で佐助に言った。
「ああ。あの軍勢は梁山泊の方へ出征するんだ」
梁山泊だって!?
マヤ達は心の中で驚愕した。
まさか、自分達を救出するために統一連合軍が出動したのでは!?
佐助はそんなマヤ達の気持ちも察したのか、さらにその人に訊いた。
「すいません。再び訊くことになるので悪いのですが、この軍はどうして梁山泊に軍を?」
「ああ。なんでも、北京の軍学校に梁山泊の連中が攻めてきてな。その連中は3人の生徒を連れ去っちまったんだとよ。そんで、その子達を救出するために、統一連合の軍が出撃する事になったんだとよ」
街の人はさらに話を続けた。
「それでよ、この軍には北京の軍学校の生徒や教師もいるらしいぜ。なんでも、MSに乗る兵士の人数が足りないから、軍学校の訓練用ワークスジンなんかを出撃させるとかどうとか。まあ、生徒や教師の命を散らせようとするなんざ、お偉いさんも残酷だなあ」
街の人はトラックのMSを見ながら言った。
マヤ達は街の人の言葉を訊くと、不安に陥った。
もし、先生やクラスのみんなと戦うようなことになったらどうしよう。もしかしたら殺してしまうのではないか。
3人がそう思っていると、佐助がマヤ達に小声で言った。
「おい、マヤ、健太、これはいいチャンスだぜ!」
佐助の小声を聴いたマヤ達は、佐助に小声で訊いた。
「いいチャンスって、何がですか!!」
「そうですよ!俺達は先生方やクラスメイトのみんなと戦わなくちゃならないのかもしれないのですよ!?」
「先生方やクラスの皆を殺したくないですよ!」
「そう言うと思ったぜ!いいか?軍学校の教師や生徒が軍の中に入ってるというのを俺達が頭領や楊志のダンナ達に言う。そうすりゃ、MSは破壊せずに捕縛しろと、頭領が俺達に命令する!そうなれば、先生方や生徒の皆を殺さずにすむし、梁山泊の貴重な戦力にもなる!さらに、捕縛したMSの中に、統一連合の兵士もいれば、説得させて仲間に入れられる可能性も高い!まさに一石二鳥ならぬ、一石三鳥と言うわけだ!」
「あっ、そうか!」
「そういう手があったか!」
マヤと健太は成程と思った。しかし、カンは不安な顔をして言った。
「でも、もし劉備さんがMSを破壊しろと言ったら?」
カンの問いに佐助は、歯を見せて笑いながら答えた。
「大丈夫だって!頭領は人徳のある人だ。俺達が言えば、きっと頭領はMSを捕縛する方向で命令をしてくれるさ!・・・只」
「只?」
「張飛のダンナが戦いに夢中になる余り、MSをぶっ壊さないかが心配だ」
「ああ、成程」
と、3人は言った。
確かに、張飛の人柄と性格を考えれば、MSを全て壊してしまうかもしれない。3人はそれを思って、ますます心配になった。
「ま、まあ、でも、そんな事になったら、俺達が早くMSを捕縛すればいいんだし、心配ないさ。ハハハ」
佐助は顔をにやけさせながら言った。
「それじゃ、この事を頭領たちに知らせなきゃな!」
「は、はい!」
4人は善は急げと街を出て、梁山泊のアジトへ戻った。

MSを積んであるトラックには、軍学校の訓練用ワークスジン30機の他に、スカートを履いたようなデザインをした、1つ目の黒いMSがあった。これこそ、かつての大戦で活躍した、クライン派製造のMS「ドム・トルーパー」である。そのMSを積んでいるトラックを運転しているのは、独立軍・ワルキューレの1人、ドナテロ・フェルビラブドである。
「全く、梁山泊へ行くために、わざわざここを通らなくてはならないとはな」
「仕方がないでしょう。ここを通らなくては梁山泊へ行けないのですから」
ドナテロの隣に座っているのは、軍学校の教師である、ダンベール・タンベールである。ドナテロはしわがれた声で笑いながら言った。
「はははは、でもまあ、梁山泊も哀れなもんだぜ。ワルキューレの1人であるこの俺と戦わなくてはならないんだからな」
ドナテロはエメラルドグリーンの眼をぎらつかせながら運転している。ダンベールは彼を見て思った。
おそらく、彼の異名である「緑光の惨朴眼」というのは、彼のその獲物を睨みつけるような眼から来ているのだろう。しかし、こんな柄の悪い男がなぜワルキューレなぞに・・・。
ダンベールはそう思いながら、誘拐されたマヤ達3人のことも考えた。
あの3人は死ぬような奴らではないと思うが、マヤ達は大丈夫だろうか。昨日の夜はちゃんと寝ることが出来たであろうか?ちゃんと飯は食っただろうか?そう思うと夜も眠れない。
そう、自分にとって生徒はわが子のような者なのだ。
そう思いながら窓を眺めていると、街の人の群れの中に、マヤ達の姿が見えたような気がした。
ドナテロはそんなダンベールの気をよそに、舌なめずりをしながら笑っていた。
「へへへ、待ってろよ!梁山泊!てめえらはこの『緑光の惨朴眼』がぶちのめしてやるぜ!!」
佐助が運転するトラックは、梁山泊に着いた。
4人は橋をゆっくり渡り―カンが走って壊したため、ゆっくり渡らなくてはならない)―、門を通り、司令室へと向かった。
司令室に向かう4人を、張青はたまたま見つけた。
佐助達、もう帰ってきたのか。えらく早いな。もう買い物を済ませてきたのか?
張青は佐助を呼び止めた。
「おい、佐助。俺が頼んどいた、食料を買いに行ったのか?」
「ああ、まだだ。ちょっと俺達、野暮用があるんで、それを済ませてから行ってくる!!」
「まだって・・・、あっ!おい!待てよ!!」
張青の言葉を無視して、佐助はマヤ達3人と共に走り去って行った。

4人は司令室へ辿り着くと、ドアを2回叩いた。
「頭領、頭領!街でとんでもない情報を手に入れてきました!開けてください!」
頭領である劉備は、関羽、張飛ら十二神将の面々と共に、宋江、呉用、太公望の3人が話す、各国に散らばっている梁山泊のメンバーの報告を聴いていた。
劉備は佐助の言葉を聴くと、街で何か統一連合軍の情報を手に入れてきたのか、と思い、
「佐助か。何のようだ?」
と訊いた。
「統一連合軍の連中が、ワルキューレの兵士4人を連れて、ここへ攻めてくるんです!」
「何だって!」
司令室にいた者達は驚いた。
梁山泊に攻めてくるのは度々あったが、まさかワルキューレの兵士を、しかも4人も連れてくるなんて!
「分かった。司令室の中へ入ってきてくれ!」
劉備は佐助に言った。佐助はマヤ達3人と共に、司令室へと入った。

「・・・というわけで、おそらく統一連合の軍は、明日、この梁山泊を攻めてくると思われます」
佐助は街の人から訊いた情報を、皆に話した。佐助の後ろには、マヤ達三人が立っている。
「成程、マヤ達の軍学校の教師と生徒も送り出してくるとはな」
「ワルキューレの兵士まで送り出してくるとは、いよいよ奴らも梁山泊を本格的に潰しにきやがったな!」
関羽は落ち着いた口調で言い、逆に張飛は今から戦いに行って来る様な表情で言った。
「それで、敵の数は?」
太公望は佐助に訊いた。
「はい。俺が見た所、戦車が20機、戦闘ヘリコプターが10機、トラックに積んであったMSは、訓練用ワークスジンが30機、ゲイツRが10機、そして、ドム・トルーパーが3機です」
「ドム・トルーパーだって!」
楊志はドム・トルーパーという言葉に反応した。
かつて楊志は、悪事を働く役人を成敗しに、花和尚・魯智深、菜園子・張青等と共に行った事があり、その時に、ドム・トルーパーのパイロットである、ヒルダ・ハーケン、マーズ・シメオン、ヘルベルト・フォン・ラインハルトの3人と戦ったことがあった。彼等は、オーブ征討戦の時に、ザフト軍のザク・ウォーリア、グフ・イグナイテッドの軍勢を相手に奮戦したと言われており、彼等が三位一体となって発動する必殺技「ジェットストリームアタック」は、余りにも有名で、軍学校の歴史の教科書にも載ったくらいである。―なにせ、『ドム・トルーパーの三戦士』と、TVの実況解説者がつけそうな名前で載っているのだから。―
そのジェットストリームアタックを、張青が巨大な岩を投げつけて、まん前のドム・トルーパーが当たり、ひるんでいる所へ、楊志と魯智深が斬り込む戦法で、難なく破ってしまったため、以来、楊志、魯智深、張青と、ドム・トルーパーの3人のパイロットは、因縁の間柄になっているのである。
「そうか・・・。あの3人が来るとはな。今度はどんな手で攻めてくるのか・・・」
楊志は心の中でほくそ笑んだ。
佐助は劉備達に言った。
「それで、1つ、この猿飛佐助にいい名案が浮かんでいるのですが・・・」
「よろしい。言ってみろ」
劉備は佐助に言うと、佐助は、街でマヤ達に言った通りに説明した。
「はい。おそらく統一連合軍は、歩兵部隊を先に送り込み、その後にMS部隊やヘリコプター部隊などを送り込んでくると思われます。なにせ、素手でMSを叩き壊したりすることの出来る我々です。歩兵部隊から攻めていこうと思うのは当然のことと思われます。ですから、湖の橋を渡ってくる歩兵部隊は、呉用先生の軍である阮三兄弟と、宋江殿の軍の張横、張順兄弟と、童威、童猛兄弟、そして、張飛翼徳の軍勢を使い歩兵部隊と戦わせ、巧に焦った統一連合軍がMS部隊を出したら、青面獣・楊志、関羽雲長率いる軍勢と、マヤ・テンム、大江戸健太、カン・トンメンの搭乗するワークスジン部隊で、MSの軍勢を全て捕らえるという作戦はいかがでしょう?捕らえた兵士を説得させ、我らの仲間にし、捕らえたMSは我らの戦力する。そうなれば、梁山泊の同志も増え、KONRON社の技術も上昇する。これほど徳だらけの作戦はないと思いますが?」
佐助の考えた作戦を聞いて、劉備達は驚いた。
「なんと、敵の兵士を殺さず、捕縛するという作戦を思いついたか!」
呉用は佐助の考えた作戦にただ感嘆するばかりであった。確かに、我等梁山泊の兵力増強や戦力上昇のことも考えれば、これほど自軍側に徳になる作戦はあるまい。
呉用は心中、この作戦で通そうかと考えた。しかし、反論するものもいた。張飛と関羽、太公望の3人であった。
「佐助!てめえはあのワルキューレの大悪党、キラ・ヤマトのような意気地なしに成り下がりやがったかぁ!?てめえが言った作戦は、まんまキラ達の過去のやり方にそっくりじゃねえかあ!!」
「確かに、我らの軍の増強にはなるが、捕らえた兵士を無理やり同志にするやり方が気にいらない。張飛の言ったとおり、キラ達の過去のやり方と同じだ」
「わしも張飛殿と関羽殿の考えに同じだ。例えマヤ達の教師や生徒がいるからとはいえ、MSに乗ってる兵士を全て殺さずに捕らえ、我らの同志にするというのも無理があると思う。ならば、MS部隊が発進するその前に、敵の兵士に変装した我らの特殊工作部隊を忍び込ませ、MSを動かせないようにした方が早いと思うのだが・・・」
佐助は3人の言葉を聴くと、深く深呼吸をしてから、こう言った。
「確かにお三方の言うとおり、この作戦はキラ・ヤマト達が過去に行ったやり方と似通っている部分がありますし、太公望殿の言った事の方が、手っ取り早いように思われます。しかし、張飛殿に関羽殿、我等梁山泊の目的と、キラ・ヤマト達の目的は、全然違うと思われます」
「全然違う?」
「どういうことでい?」
張飛は佐助に訊いた。佐助はそう聴くと、さっそく張飛の問いに答えた。
「我等梁山泊の目的は、貧しい人々を苦しめる統一連合やワルキューレの者達、そして、その頂点に立つラクス・クライン、キラ・ヤマト、アスラン・ザラ、カガリ・ユラ・アスハを倒すことで、いわゆる我々は義賊という立場で戦っています。そのため我々は虐げられる人々から、英雄として崇められています。しかし、彼等の場合は、周りの迷惑を省みず、己の理想やオーブの理念を掲げて、世界中を混乱させた、飴を欲しがり駄々をこねる、最もたちの悪い子供です。しかも、周りに迷惑をかけたにも拘らず、カガリはオーブ連合国主席兼統一連合主席となり、ラクスはプラント議長兼ワルキューレ総帥、キラとアスランはそのワルキューレの将軍に成り上がり、貧しい人々を苦しめ、自分達は映画を貪っています。立場的に表すならば、テロリストから大統領に成り上がった様なものです。やり方は同じだとしても、目的が後の世のためになるのなら、多少の不殺も正当化されるのです」
佐助の言葉を聴き、関羽と張飛は納得がいった。
「成程、後の世のためならば・・・か」
「要するに、後の世に俺達が良く評価されるためには、不殺も行わなくてはならないってわけか」
「はい。只、敵であるものを殺すというやり方では、世間から悪く評価されてしまいますからね。それに、キラの不殺は、実際には殺人弊助をしてるようなものですからね。捕縛してから仲間にする方がよっぽどいいでしょう。そして、太公望殿が先ほど言った作戦も入れるというのはどうでしょうか?」
「・・・成程。分かった」
「まあ、お前にしちゃ良く考えたもんだな!・・・認めてやらないわけにもいかねえもんな!」
「わしの作戦とおぬしの作戦か・・・。よかろう。試してみるとしよう」
3人は佐助の言葉に納得がいったようだ。
劉備が司令室の者達に問う。
「では、佐助の作戦と太公望の作戦に異議のある者はおらぬな?」
『異議なし!』
「よし、では、明日の鋭気を養うため、宴を開くぞ!」
これで、緊急会議は終了となった。
その夕方、梁山泊では、明日の戦いの鋭気を養うための宴会が行われた。宴会は修練場と食堂で行われた。
宴会の席には、統領である劉備と、副統領の宋江もいた。
「はははは!!統一連合の連中が、俺達に敵うかよ!!」
「ああ、期待しているぞ!王英!」
「この俺達も戦場で活躍してやるぜ!なあ、杜遷!」
「おうよ宋万!へなちょこの統一連合軍なんぞ、ぎたぎたにぶちのめしてやらぁ!!」
「兵士はあくまで捕縛するんだからな!戦いに夢中になって、殺したりはするなよ宋万、杜遷!」
劉備は宋万と杜遷に注意をした。
「あいよ!頭領!分かってますよ!ヒック!」
「捕縛は任せておくんなって!はははは!!」
宋万と杜遷は酒をがぶがぶ飲みながら返事をした。

「全く、お前が買い物をし忘れたおかげで、俺はお前の代わりに買い物に行かなくてはならなくなったんだからな!」
張青は佐助に向かって怒鳴った。佐助はへらへらと笑いながら、
「まあ、気にすんなっての張青!明日は戦いなんだから、酒飲んでおかねえとよ!」
と、酒を飲みながら張青の背中を叩いた。背中を叩かれた衝撃で、張青の酒がこぼれかけた。
「あっととと、お前なあ!!酒がこぼれたらどうするんだよ!!」
「気にしない気にしない!酒がこぼれなかったんだから良いだろう!」
佐助は酒の入った酌をぐいっと飲み干した。
マヤ達はロイ、コレット、ギロの3人と一緒に、月餅を食べていた。マヤ達はロイ達が次々と出す質問に答えっぱなしであった。
「ねえねえ、マヤ姉ちゃん?マヤ姉ちゃんの父さんと母さんはどんな人?」
「どんな人って言うと、国のために仕事をする人達で、わたしはお父さんとお母さんに「将来は国のために戦う立派な軍人になれ!」っていつもいつも言われていてね」
「マヤはその親父とおばさんのおかげで軍学校に入ったんだ!」
「そうそう、半分無理やりに入学させられたって感じだけど」
「ちょっと2人とも!わたしのお父さんとお母さんを悪いような感じで言わないでよ!」
マヤは2人に頬を膨らませていった。
「いやあ、悪い悪い!俺達の悪口で言ったわけじゃないからさ!」
「でもマヤが嫌な思いをしたって言うなら謝るよ。ごめんごめん」
「へえ〜!マヤ姉ちゃんのお父さんとお母さんって、そんなに厳しいんだ〜!」
「でも厳しいのだったらボクらの母さんだって厳しいよ!」
ギロが自慢するように言った。
「なんたって、ボクらが食べ物のつまみ食いしたら、母さんは鬼のような顔で包丁を振り回すんだよ」
「ほ、包丁!?」
マヤ達の言葉に、コレットとロイがギロに続いて答えた。
「そうそう、包丁は刀のように長くて、1つ間違えれば体が真っ二つになるんだから!」
「そして僕達を追いかけながらこう言うんだ。『お前達を今日のディナーにしてやる〜!』ってね。ハハハハ!」
「はははは・・・っは!?」
マヤ達は笑っているロイの後ろに、長い髪を後ろに束ねた女性が立っているのに気付いた。コレットとギロも気付いたらしく、マヤ達3人と、コレットとギロ2人は、
「ロイ君!後ろ後ろ!!」
「ロイ!後ろを向いて!」
と小声で言った。ロイは5人の声に気付いたのか、
「後ろ?」
と言って振り向くと、そこに異様な気を放つ女性が立っていた。
「か、母さん!?」
「へえ〜、ロイ、コレット、ギロ?私ってそんなこと言ったっけ?」
「い、いや、あの、それは・・・」
唇が震えて、口から上手く言葉が出ない。ロイ達はとてつもない恐怖に怯えていた。
「言っ・たっ・け?」
女性は威圧感のある声でロイ達に言った。彼女から放たれる気は、マヤ達にもはっきりと分かった。
「い、いえ、何もいってません・・・」
ロイ達はがたがたと震える唇で言った。女性は異様な気を放つのをやめると、にこやかな顔で言った。そのにこやかとした笑顔を見てマヤ達は、笑顔を作っているなと感じた。
「そうよね。ロイ、コレット、ギロ。私がそんなことをするわけないよね〜、ふふふふふ♪」
女性はマヤ達のほうを向くと、自分の自己紹介をした。
「あなた達、新入りね。私は張青の夫であり、この子達の母である、『母夜叉・孫二娘』といいます。よろしくね」
「よ、よろしくお願いします・・・」
3人は口を揃えて挨拶をした。
なるほど、母夜叉という渾名を付けられるのも、なんとなく納得がいく様な気がする。だって、あんな異様な気を見せられたら、誰だって怯えるはずだ。
3人は心中そう思った。孫二娘は3人に言った。
「ねえ、マヤさん達。ちょっと私の夫である張青と、いつもあなたたちと一緒にいる佐助さんの所へ行って、お酒の酌を注いでくれないかしら?私はこの子達とちょっと厨房の所へ行くから。ねえ・・・」
孫二娘はロイ達を鋭い目で見た。ロイ達は固くなって、「はい!」と返事をした。
「そういうことだから、ね♪」
マヤ達は孫二娘の頼みに「・・・分かりました」と答えた。
孫二娘は、
「じゃあ、よろしくね♪」
と言うと、3人を引き連れて、食堂の厨房へ行った。ロイ達は足を震わせながら右足と右手を同時に出し、左足と左手を同時に出しながら歩いて、孫二娘の後についていった。マヤ達はロイ達の後ろ姿を見ながら話し合った。
「あーあ、ロイ達もとんだ災難になっちまったな」
「きっとあの孫二娘って人にこってり絞られているよ。でも、綺麗だったなあ。あの人・・・」
「うん、そうだよね。あんな綺麗な人なのに、怒っているときの顔はどんな顔なんだろう?」
「きっとこの世のものとは思えないほど、恐ろしいんだろうぜ・・・」
マヤ達は肩を震わせながら佐助と張青の所へ行った。
「佐助さん。張青さん。お酒を注ぎにきました」
マヤがそう言おうとした時、3人は佐助と張青の他にも、楊志と、後2人、人がいることに気付いた。1人は岩のような大きい体をした破戒僧らしき大男と、もう1人は、髪が赤く、そして破戒僧より一回り小さいが、それでも人が見れば大男と呼びそうな男がいた。
佐助はマヤ達に気付くと、
「おう、マヤ!健太!カン!いいところに来た!孫二娘のかわりに酒を注いでくれ!」
と言って、3人を近くに寄らせた。マヤと健太とカンは酒のビンを持ち、マヤは佐助に、健太は張青と楊志に、カンは破戒僧と赤い髪の男に酒を注いだ。
マヤは佐助に訊いた。
「佐助さん?あのお坊さんと、赤い髪の人は一体誰です?」
「ああ、あいつらは楊志のダンナの配下の1人で、あのでか坊主が『花和尚・魯智深』、あっちの赤髪の奴が『赤髪鬼・劉唐』さ」
「おい、佐助!でか坊主とは、そのまんまに言ってくれるじゃねえか!」
「そうだ!俺の場合は奴扱いか!」
魯智深と劉唐は佐助に怒鳴るようにして言った。
佐助は頭をぺこぺこ下げて、
「いやあ、すまねすまねえ!悪かった悪かった」
と謝った。2人も気を戻して、酒を飲み始めた。楊志と張青も酒を飲み始めた。
マヤ達が酒を注ぎながら佐助達を見ていると、突然、劉唐と楊志がマヤに訊いた。
「なあ、新入り。明日の戦いはMSの兵士を全員捕まえるんだよな」
「え、ええ。そうですけど・・・?」
「ふう、俺達の場合は敵にも容赦しねえから、もしかしたら、お前の学校の教師や生徒をぶっ殺してしまうかもしれねえ・・・」
「それに、明日はあのドム・トルーパーの三人組と決着をつけなくてはならない。さすがにあの3人は捕まってはくれないぞ」
楊志はマヤ達3人に言い聞かせた。マヤは少し間を置いてから楊志に言った。
「でも、できることなら、わたしは先生や生徒の皆、そして、兵士である人達を生かしてあげたいと思うんです。・・・でも、いけませんよね。そんな甘いような考えって・・・」
楊志達はしばらく黙って、やがて楊志が口を開いた。
「・・・確かに甘い。甘いからこそお前は教師や生徒や敵である連中を助けたいと願う。そう思うのは勝手だ。だがな、お前がどうしても人として許せない奴が敵として現れたら?」
「それは・・・、多分殺してしまいたいと思います」
「・・・・・・・」
「けれど、そんな状況になったら、わたしはきっと、その人を殺せないと思います・・・」
「・・・それが普通だぜ」
「えっ?」
マヤの言葉に最初に答えたのは、佐助であった。
「そりゃあ俺や楊志のダンナ達だって、平気で敵を殺せる奴じゃなかったさ。ねえ、ダンナ?」
「ああ。最初から敵を殺せるような奴は、きっとガキのような奴だと俺は思う」
「俺もだ」と言ったのは、魯智深だった。
「俺だって、殺したくて殺したんじゃねえ。ただ、つい力が入り過ぎただけさ。誰だって人を殺すのは最初は嫌さ。そこに嘘はねえ」
続いて言ったのは張青であった。
「ああ、だが、慣れてくれば不思議となにも感じなくなる。慣れというものは恐ろしい。人を殺すことに不快感とか感じなくなるんだからな。だが、そこで俺達は狂ったりしない。俺達が戦ってるのは、悪党共に苦しめられている人々を救うためだ」
「だが、そのために、敵を殺すという状況が必ず生まれる」
こう言ったのは、劉唐である。
「だからこそ、忘れてはならないことがある」
劉唐は一気に酌に入っていた酒を飲み干すと、マヤ達に言い聞かせるように言った。
「いいか?『敵を殺すということは、相手の人生を奪うこと。だから俺達はその殺した者の意思を背負って生きていかなければならない』例えそれが、どんな下衆な悪党であろうともだ。よく覚えとけよ・・・」
佐助達の言葉が心に響き、マヤ達は考えた。
相手の意思を背負って生きていけばならない・・・。もし、自分達が敵を殺してしまったら、その時は、その敵の意思を背負って生きていかなければならない。果たして、自分達に、相手の意思を背負う覚悟があるのだろうか?そう考えると、心臓が押しつぶされるような気持ちでいっぱいになった。


「ちっ!あいつら、自分達のアジトで宴会を開いてやがるのか・・・」
ドナテロは自分のMSの整備をしながら、梁山泊が明るく光っているのを見て、舌打ちをした。
「・・・だが、まあ明日になれば俺の手によって、全員ぶちのめされるんだ!それまで酒でも飲んで酔っ払ってろ!」
ドナテロがそう言って高笑いをしていると、遠くからダンベールとジェシカとホイ。そして、ドム・トルーパーの3人がやってきた。3人の中でリーダー格である紅一点のヒルダ・ハーケンは、右目に眼帯をしているが、別に右眼が潰れているわけではない。相手を威嚇するために付けているだけで、別に意味はないのだ。もう1人の男性のメンバーのマーズ・シメオンは、顎に茶色の髭を蓄え、その黒い眼は、ドナテロと負けずとも劣らずの三白眼だ。さらにもう1人のヘルベルト・フォン・ラインハルトであるが、『フォン』という名がついているからといって、貴族出身であるわけではない。彼は口にキセルをくわえ、度の入った眼鏡をかけている。額には縦に入った斬り傷がある。
「かなりの余裕を見せているじゃないか?ドナテロ」
ヒルダがドナテロに言った。ドナテロは挑発するような口調で、
「いやあ、これはこれは、化粧がケバイヒルダさんに、全然似合わないなんちゃってリーゼントのマーズに、ボヤッキー眼鏡のヘルベルトじゃねえか」
と言った。ホイはドナテロを叱り付けた。
「こら!ドナテロ!仲間である者達に悪口を言うつもりか!」
「ああ、言うぜ。5年前、プラントを守るために戦っていたザフト兵を裏切って、キチガイ女のラクス共に降った真っ黒な犬共にはな!!」
「なんだと!このやろう!!」
「待て!マーズ!」
ヒルダの声も聞かず、マーズはドナテロに右の拳を食らわせようとした。だが、ドナテロはそれをかわそうとはせず、そのエメラルドグリーンの両目でマーズを睨みつけた。すると、マーズの右の拳はドナテロの顔のギリギリで止まり、マーズの体は硬い石になったかのように動かなくなった。
「な、なんだ!?体が動かない!?」
「何!?マーズが突然動かなくなった!?」
「一体、何が起こったんだ!?」
ヘルベルトとヒルダは一体何が起こったのか、わけが分からないでいる。ドナテロはヒルダ達2人とダンベール達3人を睨みつけていった。
「これが俺の能力『惨朴眼』だ。相手の動きを止めることができる。これが俺の能力だ」
ドナテロはマーズの顎鬚を掴んで、さらに話を続けた。
「ワルキューレは、世界中で暴れるレジスタンスを潰すために、普通のMSパイロットだけでなく、俺のような特殊能力を持った者も入れる。俺は元・ザフト兵でな、5年前の大戦が終結した後、地球に移住して暮らしていたが、レジスタンスを潰すためにクライン派の連中がスカウトしに来てな。俺は新たに作られようとしている世界のために入隊した。そう、てめえらのようなラクスのワン公と違ってな!!」
ドナテロは左の拳でマーズの顔を殴りつけた。マーズの口の中から、前歯3本が飛び出した。
「うげえ!」とマーズは呻くと、その場に倒れた。
「この程度でぶっ倒れんのかよ?弱いな」
「この野郎!よくもマーズを!!」
ヘルベルトはドナテロに飛び掛るが、ドナテロはヘルベルトの腹を蹴飛ばして、ヘルベルトを倒した。
「2人目っと・・・。さてと、ケバ子。最後はお前か?」
ドナテロは中指を立てて、くいくいと曲げ、「かかってこいよ」というサインをした。
「てめえ!言わしておけば!」
ヒルダがドナテロに飛び掛るのを、ダンベールとホイが抑えた。気絶したマーズとヘルベルトはジェシカが担いだ。
「放せ!!私はこのスカしたあの男をぶん殴るんだ!!」
「抑えてください!ヒルダ少佐!ここで我々が仲間割れをしてどうするのです!!」
「お前もだドナテロ!!少しは礼儀というものをわきまえたらどうなんだ!?」
「へん、こんな裏切り者共に礼儀なんていりませんぜ。ホイさん。それより、ジェシカさんに担がれている2人の手当てをしたらどうなんです?くくくく・・・」
ドナテロは含み笑いをしながらホイに言った。ジェシカはそんなドナテロを見て、
「私達は誘拐された生徒の奪還が目的でここに来たんです。それを忘れないようにしてください」
と言った。
「はいはい。分かってますよ」
ドナテロはそっけない返事をした。
ホイとダンベールはヒルダを連れて、遠くへ行った。ヒルダはその際に「放せ!」と連呼したが、2人は聞く耳を持たなかった。ジェシカは3人の後をついて行くように、マーズとヘルベルトを担いでいった。ドナテロは舌打ちをして言った。
「ちっ!全く、ジェシカさんは怖いんだから。・・・俺はヒルダの奴らのような裏切り者にはならねえ。たとえ、統一連合が悪であろうともな・・・」

深夜2時

マヤ達三人と佐助、そして、ヨウラン、ヴィーノ、レッテの7人は、梁山泊の湖を船で渡っていた。
相手の軍はどうやら気付いていないらしく、テントでぐっすりと寝ているらしい。
ヨウランとヴィーノは船から下りた。

「じゃ、行って来るぜ!」
「早く橋を降ろしてよ。こっちも早く作業を終えるから」

ヨウラン達2人はそう言うと、敵のMS格納場の方へと、忍び足で走っていった。

「じゃあ、俺達の方も早く作業を始めるとするか!」
「オチビちゃん達、音は立てちゃ駄目だよ!敵に気付かれるとまずいからね!」
「はい!」

マヤ達と佐助とレッテは、梁山泊のアジトと向こう岸に架けてある橋を取り外しにかかった。
明日の戦いで、敵が簡単にアジトへ入らないようにするためである。
しかし、もともと走って壊れる橋なのだから、敵がもしこの橋を渡っても、脆く壊れて、敵の兵士は皆、湖へ落っこちるのではないか?
3人はふとそんなことを考えた。

「ねえ佐助さん?走って壊れる橋なんだから、わざわざこの橋を取り外さなくてもいいと思うのですが・・・」
「あ、そういえばそうだな。カンが走って壊すような橋なんだから、敵兵が一気にやってきて、そして橋が壊れて、皆、湖の中へボチャン、ということにはなるな」
「僕も思い出したよ。佐助さんにレッテさん。この橋、そのままにしておいた方がいいのではないですか?」

3人は佐助とレッテに訊いた。
佐助とレッテは、橋を取り外しながら答えた。

「それも考えたんだけどね。けど、そうすると、敵が動揺してくれないなと思って」
「動揺って・・・?どういうことですか?」
「ほら、あたし達が宴会をやってる時、敵の軍勢はもうここに橋があることに気付いているだろ?だから、敵さんが寝静まった頃に橋を取り外してしまえば、敵は
『一体どうしたことだ!?橋がないぞ!?』と驚くわけだ。
そうすれば敵さんはボートを使って歩兵部隊かなんかをよこさなくちゃならないわけだから、ボートを使ってアジトに来ることになる。その時に、佐助の考えた作戦が発動するというわけさ!」
「あ、成程!」

と、3人は納得した。
要するに、敵がボートで来たときが絶好のチャンスということなのか。
3人がそう思ってると、レッテはさらに話を続ける。

「向こうの湖の橋は、張横・張順兄弟、童威・童猛兄弟、そして阮三兄弟が取り外してるから、完全に湖のバリケードが完成する。まさにここは湖に囲まれた最高の要塞さ!」

マヤ達は橋を取り外す作業を続けながら、レッテの言葉を聴いていた。
レッテの言うとおり、湖ほど最強の要塞は無い。人の足や馬の足では行けず、ボートや水中用MSを使おうとしても、たちまち沈められてしまう。
梁山泊がなぜ、最強と呼ばれるのか、マヤ達は少し分かった様な気がした。


「よし、これでこの戦車はポンコツになり下がった!」

ヨウランとヴィーノは敵兵の目を掻い潜り、戦車や戦闘用ヘリコプターの動力プラグを、ナイフで切っていた。
どんなに強いMSであろうと、動力プラグが切られてしまえば、只の木偶の坊でしかない。

「よし!これで戦車とヘリコプターは全部動けなくなった!後はスカイグラスパーとMSだけだ!」

ヴィーノはヘリコプターのプラグを切りながら言った。

「おっしゃ!それじゃあ早速、スカイグラスパーに取り掛かるとするか!」
「ああ、どきどきするぜ!」

ヨウラン達2人は舌なめずりをしながら、スカイグラスパーとMSが置いてある所へ向かった。
スカイグラスパーとMSの置いてある場所は、兵士がまだ起きていた。

「ちっ!まだ起きてやがるか!」

ヨウランは舌打ちをしながら言った。

「仕方ない。佐助達の所へ戻ろう。そろそろ橋を全部取り外した所だろう」
「ああ。ここで騒動を起こしたらまずい。そろそろ戻るか」

ヴィーノとヨウランはそう言うと、佐助達の所へ戻っていった。


「おっし!これで最後だな!」

最後の橋が取り外された。
佐助は船に橋を巻いて積んだ。

「よし。そろそろヨウランとヴィーノを呼びに行くか」

佐助は舟を漕いで、岸へと向かった。
岸にはヨウランとヴィーノが待っていた。

「よう!2人とも!作業は終わったか?」
「それが、まだ起きていた兵士もいて、全部のプラグを切ることが出来ませんでした」
「でも、戦車とヘリコプターのプラグは全部切りました」

佐助は二人の言葉を聴くと、

「分かった。戦車とヘリコプターだけでも、相手の戦力は十分に削がれた。明日はきっと敵は慌てるぞ!」

と言って、歯を見せて笑った。
佐助の言葉を聴いて、ヨウラン達2人も肩を下ろして喜んだ。

「そろそろ阮三兄弟達も戻っている頃か・・・。そんじゃ、アジトの方へ戻るとするか」

佐助はヨウランとヴィーノを乗せ、アジトの方へと戻っていった。



俺はザフトのために戦ってきた。
ザフトにいる仲間と共にに戦うことが、何よりの生きがいだ った。
だが、5年前の戦いで、ザフトは事実上壊滅。
敗因は、ザフトの中に裏切り者が現れ、その裏切り者達の活躍によるものだった。
プラントはオーブの管理下に置かれ、
俺を含めたザフト兵は、オーブの兵になるか、他の職を探す
か、どちらかを選んだ。
仲間を失い、生きがいも失った俺は、地球に移住し、自分の特殊能力を活かし、人物模写の美術家を目指して生活していた。
だが、そんな生活にも終わりが来た。
宇宙統一連合が発足されてから2年後、地球で『黄巾の乱』が起こった。
プラント議長であるラクス・クラインは、これに対し、
自分を総帥とした独立軍・ワルキューレを設立した。
俺はクライン派の連中にスカウトされ、ワルキューレの組織に入った。
ザフトの次は、ワルキューレ。
ワルキューレに戦友と呼べる友が出来た。
戦友とは呼べない連中も3人いるが・・・。
再び俺に生きがいが出来た。
俺はこの瞬間から、決心した。
統一連合が悪に堕ちようと、俺はワルキューレの戦友達と戦い続ける。
例え、人から蔑まれようとも、罵声を浴びられても。
絶対に仲間を裏切った『アスラン・ザラ』達のようにはならん。俺は戦友を裏切るような真似は絶対にしない!―



ドナテロは、長い夢を見ていた。
5年前の頃の夢だった。

「・・・あの頃のことを夢に見るとはな」

ドナテロはコックピットを開けると、もうすぐ太陽の光が出始めようとしていた。

「へっ!太陽も俺の勝利を願っているぜ!梁山泊!首を洗って待っていやがれ!!」

ドナテロは水のほとりの要塞に向かって、中指を立てた。
ドナテロの眼は、太陽に照らされ、緑色に輝いていた。