盲目将軍・陶金節作
ガンダムSEED・FINALWAR 第2章

目次に戻る

軍学校は、大変な騒ぎになっていた。学校の校門にはマスコミや新聞記者らが押し寄せていた。人気女性キャスターがカメラの前でニュースを伝えている。
『今日の午前11時25分頃、ここ、中国・北京国立宇宙統一連合軍学校で、世界三大レジスタンスの1つである梁山泊のメンバーが、学校の訓練用ワークスジンを盗み出しました。この梁山泊メンバーは、MS3機に搭乗していた、男子生徒2名、女子生徒1名を誘拐したとの情報も入っており、北京国立統一連合軍学校
は現在、中国の統一連合軍少将、ホイ・コーローと緊急会議をし、誘拐された3人の生徒の救出を考えている模様です』
中国・統一連合軍少将、ホイ・コーローは、TVの電源を切った。
「これは非常にまずい事態です。教師の皆様」
会議室には、軍学校の教師全員が集まっていた。その中にダンベールとジェシカの姿もあった。
「国立の軍学校があの梁山泊に潜入された・・・。危機管理がなってないとか、教師が気絶したからというそんな責任のなすりつけの問題ではない」
ホイは机を両手で叩いた。
「問題なのは!この軍学校の3人の生徒が誘拐されたことなのです!!」
ホイはさらに言葉を強くして言う。
「あの梁山泊は、この国の役人を10人殺した!それについてはまだいい。彼らに殺された役人は、民衆を苦しめる行為をしてきたからな。この私も多少の目はつぶっていた。しかし!今回は許されざることだ!!彼らは、まだ未成年である少年少女の未来を奪おうとしているのだ!!誘拐は人の人生を奪う大罪だと私は考えている!そこでだ!本日の午後2時より、梁山泊制圧に乗り出そうと思う!」
ホイの言葉に教師達は動揺した。
そんないきなり制圧だなんて、まだMSも修復していないというのに、これから制圧なんて無理だ、もし返り討ちにあったらどうするんだ・・・。
教師達はぼそぼそと相談をし始めた。ダンベールとジェシカはそんな教師達よりも先にホイに訊いた。
「ホイ少将!我々のMSはまだ修復がされておりません。今から出撃するのは無理です」
「もし行ったとしても、逆に返り討ちにあうのがオチでしょう」
「ほほう・・・、ではジェシカ士官?その返り討ちにあうという根拠はあるのかね?」
「はい。侵入した梁山泊のメンバーのリーダー格らしき男は、右の顔に大きな青痣がありました」
「な、何!青痣!?それはもしや・・・!!」
「そう、その男はおそらく、青面獣と呼ばれた、元宇宙統一連合軍少佐・楊志だと思われます。
「よ、楊志だって!?」
ジェシカの言葉に、さらに教師達は騒然とした。
「ふむ・・・。楊志といえば、統一連合屈指の剣の達人といわれた軍人。その男がなぜ、梁山泊に・・・?」
ホイはジェシカに訊いた。
「さあ、そこまでは分かりません。しかし、梁山泊の戦力がいまだ分からない以上、むやみに制圧をしないほうがよろしいかと思われます」
「ふむ。だが、しかし、君達は誘拐された生徒のことが心配ではないのかね?」
この問いに答えたのはダンベールであった。
「それは私も心配であります。しかし、彼女達は、マヤ・テンム達は、レジスタンスに殺されるような奴ではないと信じております」
「ふむ。そこまで言うなら・・・、制圧は明後日に伸ばすとしよう」
ホイはため息をついて、椅子に座った。
これにて第一回緊急会議は終了となった。
MS3機を乗せたトラックは、森の中を走っていた。人の手の付けられていない山奥なのに、道路がちゃんと作られている。
「もうすぐ俺達の要塞につく。とても住み心地のいい要塞さ。見たらきっとびっくりするぜ」
佐助はトラックを運転しながら、3人に言った。
「わたしたちを・・・一体どうするつもりなんですか?」
マヤは佐助に訊いた。
「どうするつもりって?それは後でのお楽しみ!」
佐助はへらへらとした顔で答えた。佐助の反応にマヤは大きな声で、
「ふざけないでちゃんと答えてください!」
と怒鳴った。
「学校に潜入して、MSを奪っただけじゃなく、生徒であるわたしたちを誘拐するなんて!身代金でも要求するつもりですか!!」
「そうだ!!世界三大レジスタンスの名が聞いて呆れるぜ!!」
「正々堂々と勝負しろ!!」
健太とカンもマヤに続いて佐助に怒鳴った。佐助は困りに困った。
さてもさても、どう説明すればいいか。俺達は身代金要求なんてそんなみみっちい事はしないというのに。それに世界三大レジスタンスといっても、それは新聞やTVのキャスターさんが勝手に付けた名前であるのに。説明した方がいいか?それとも黙ってたほうがいいのか・・・。
佐助がそんなことを考えてるうちに、トラックは森の中から出て
広い大地の上を走っていた。
「おおっ!見えてきた見えてきた見えてきた!!ついにアジトが見えてきたぞ!」
佐助はなんとかマヤ達の気を逸らそうと、わざとリアクションを大きくして言った。しかし、マヤ達の気は逸れなかった。
「わたしたちの気を逸らそうとしたって、そうはいかないんですからね!!」
「ちゃんと俺達の質問に答えやがれ!!」
「そうだそうだ!」
「ああ!もう!本当に若い人らは血気さかんというか、なんというか・・・。その力をもっと別のことに使えばいいのに・・・」
佐助はマヤ達に聞かせるように言った。
「・・・どういうことですか?」
「お嬢ちゃん。この世界を統治している、オーブ国家主席・カガリ・ユラ・アスハを頂点とする宇宙統一連合と、プラント最高評議会議長・ラクス・クラインを総帥とする独立軍・ワルキューレが、民衆にどんなことをしているか、分かるかい?」
佐助は突然、涼しい顔でマヤに訊いた。
「それは・・・、平和な世界の実現のために、いろんな努力をしていると思います」
「そう、平和な世界の実現のために、各国の軍備の縮小、世界平和記念コンサートの実地、親善大使らの派遣・・・。表向きではまるで天使様や英雄のようにに見える・・・。しかし、裏では一体何をやっているのか・・・」
「・・・何が言いたいんです?」
マヤが佐助に問いかけると、佐助はにやけついた顔になり、
「まあ、詳しいことは俺達の頭領に聞けば分かる。それよりも、窓を開けて見てみろよ。あれが俺達のアジト、『梁山泊』だ!」
マヤ達はトラックの窓を開け、外を見てみた。外には、馬やラクダが駆け回り、トラックの向かう先は、青く澄んだ湖の上に、巨大な要塞が浮かんでいる。要塞の全長は、マヤ達の通っていた軍学校の3倍はある。要塞には鉄の橋が架けられている。マヤ達は
目を開いて巨大な要塞を見上げている。
「あれが・・・梁山泊!」
「すんげえでかい・・・!!」
「綺麗な湖だ・・・」
「な、言ったろ?水のほとりの要塞だって」
佐助は笑いながら言った。
トラックは要塞に架けられている橋の前で止まった。
端の前には、佐助の仲間らしい男2人が立っている。
「佐助の兄貴!おかえり!」
「例のMSは手に入ったんですかい?」
「おう!一つ目のMS3機を軍学校からちょいとかっぱらってきたぜ!それと、そのMSのパイロットも連れてきた!」
佐助は相変わらずへらへらとして2人の男に話している。
2人の男は佐助の言葉を聴いて驚いた。
「ええっ!?パイロットもかっぱらってきたんですかい!?」
「すんげえなあ!!早くMSとパイロットの顔を拝ませてくださいよ!」
「そうせかさない、せかさない。おい!降りてきてもいいぜ!」
佐助はマヤ達に言った。マヤ達はトラックの出入り口から降り、佐助の顔を睨んだ。佐助はマヤ達の顔を見て、
「まあまあ、そんな顔をして俺を見るなって。かわいい顔が台無しになっちまうぜ?」
と言った。
「・・・盗みを働いたり、誘拐したりするレジスタンスの言葉なんて、聴きたくありません」
「う〜ん・・・、盗みは俺達梁山泊の十八番だから否定はしないが、あんた達をさらったことにはちゃんと理由があるんだ。だからそう睨むなっての」
「理由ってなんですか!早く言ってください!」
「だからそれは俺達の頭領が説明するって言っただろう・・・。本当に若い人は真っ直ぐというか無鉄砲というか・・・」
佐助がそう悩んでいると、2人の男は早足でマヤに近づいた。
「うわあ、女の子じゃないっすか!!最近の軍は女も入れるんすか!?」
「へへへへ、5,6年後が楽しみだなあ・・・。君達、名前はなんていうの?」
「・・・マヤ・テンム。15歳です」
「大江戸健太。同じく15歳だ」
「カン・トンメン。・・・15歳」
マヤ達は2人の男に名前を言った。
「へえ・・・。マヤかあ・・・。良い名前だなあ・・・」
「そこの2人の男の子の名前もイカしているぜ!」
「こらこら、3人はまだ俺達と初対面なんだぞ。いきなり近づいて驚かせてるなよ!」
佐助は2人の男達に注意した。
「は、はい・・!」
「そんじゃまあ、、確か・・・、マヤって言ったっけ。これから俺達のアジトを案内するから、ちょいとついてきな。それから、そこの2人!」
佐助は2人の男に言った。
「2人は楊志のダンナ達と一緒に、トラックに積んである一つ目のMSを担ぎ出す作業を手伝ってくれ」
「は〜い!」
2人の男は元気よく返事をすると、トラックの方へ走っていった。
「そんじゃ、俺の後についてきな」
佐助はマヤ達に言うと、橋の上を歩いていった。マヤ達も佐助のあとをついていった。
ここのレジスタンスの頭領に会えば、なにかわかるかもしれない。頭領にあって、色々と聞きださなくては・・・。
マヤは心の中でこう思いながら、橋の上を歩いた。
橋は木製のものであるため、ぐらぐらと揺れやすい。カンは橋をそろりそろりと歩く。カンは大のカナヅチであるため、橋から落ちたらどうしようと考えていた。前をどんどん進む4人からどんどん離れていく。
まずい、このままでは自分がここに取り残される!そんなのは嫌だ!!
そう思ったカンは、橋の上を駆け足で走った。橋は激しくグラグラと揺れ、3人の足を止めた。
「うわわ!!ちょっとカン君!!橋を揺らさないでよ!!」
「カン!!そんなに走ったら、橋の底が抜けるぞ!!」
健太はカンに向けて言ったが、もう遅い。カンは橋の底を見事ぶち抜いていた。
「た、助けてえ〜!!橋の底が抜けた〜!!」
「ほら、言わんこっちゃねえ!!早く走るからこういうことになるんだよ!!」
健太がカンにこう言ってると、佐助が早歩きでやってきた。
「どうぢたどうした!?・・・ってあ〜ららあ。橋の底をぶち抜いちまったのか・・・。しゃあねえな。手を貸すから掴まれ!」
3人の先を歩いていた佐助は、急いでカンの元へいき、カンを橋の底から引き上げた。
「・・・しかし、しょっぱな早々、橋の底をぶち抜くとはなぁ・・・。仕方無い。後で俺が直しておくか・・・」
佐助は下をうつむきながら言った。しかし、佐助はすぐ頭を上げて、
「さあ、三人とも、もうすぐ要塞の入り口に着くぞ!気をつけて歩けよ!」
と言って、3人の先頭を歩いていった。3人は佐助の姿を見て、歩きながら話し合った。
「なあ、マヤ。あのおっさんは、どうも人がいいんだよなあ。なんかあのおっさんにしろ、あの2人の兵士にしろ、レジスタンスにしてはどうも人間味があるんだよなあ」
「そうそう、僕が橋の底をぶち抜いた時も、すぐ立ち直ってたもんね」
「・・・たとえ、人はよくっても、レジスタンスであることに変わりないじゃない」
「まあ、そりゃそうなんだがな。おっと、アジトの入り口が見えてきたぞ」
健太は先を見ながらマヤとカンに言った。アジトの入り口の扉は石で出来ていて、ちょっとやそっとじゃ開きそうに無い感じだ。
佐助と3人は橋を渡り下りて、扉の前に立った。
「うっひぇ〜。こりゃすげえでかさだなあ〜」
健太は自分たちの前にそびえたつ、二つの巨大な石を見上げて、感嘆の声を上げた。
「すごいだろお。この扉があるだけで、統一連合軍の人間は入ってこれねえ!まあ、空を飛ぶMSはなんなく抜けられるがな」
佐助はからからと笑いながら言った。
「さて、と・・・」
そして、佐助は大きく息を吸い込むと、大きな声で叫んだ。
「おーーーーーーーーーい!!今帰ったぞおーーーーーーー!!!扉を開けてくれないかーーーーーーーーーー!!!!」
3人は耳をふさいで佐助の声を遮断した。しかし、鼓膜だけは佐助の声に反応しているため、3人の耳はキンキンと鳴り響いている。佐助の声に反応したのか、扉はギギギギと音を上げて動いた。扉の先は、中国映画で見るような光景が広がっていた。扉の先にあったのは、何百人もの兵士達が、剣や、槍や、棒を持ちながら、生身で打ち合いをしている修練場であった。
兵士達は生身で剣や槍を持ち、命がけの修行を行っている。一歩間違えれば死ぬのは確実だ。それを承知で兵士達は生と死の間の修業をしているのだ。
修練場は兵士達の熱気に包まれ、入った途端に汗が出てくる。
「す、すごい・・・」
「軍学校の訓練とはえらい違いだ・・・」
「は、迫力ある・・・」
3人は口を開いたまま呆然と立ち尽くしている。
「どうだ?すごいだろ?これが俺達の修業の場さ。生身の体をむき出しにして修業をするから、自然に修業もハードになる。MSに乗るための訓練もえらい大変だろうが、こっちの修業も大変なんだぜ」
「修行中に死んだ人って・・・いるんですか?」
マヤはおそるおそる佐助に訊いた。
「死人?そんなもんいないよ。全員志半ばで死にたくないから、必死で相手の攻撃を避けたりするから、死人は出そうでも出ない。MS訓練だってそうだろ?」
「それは確かに・・・そうですけど・・・」
佐助とマヤが話している所へ、修行中の男が4人の所へやってきた。男は背中に、九匹の竜の刺青を彫っている。
「おお!佐助!今戻ってきたのか!」
「これはこれは、九紋竜・史進のダンナ!今戻ってきたところですよ!」
「そうか。・・・ところで、佐助?そこにいる3人は誰だ?」
史進という名の男は佐助に訊いた。
「ああ・・・、この子達は軍学校からMSと一緒に連れてきた生徒達さ」
「生徒だって!?こんな小さい子供達がか!?しかも1人は女の子!?・・・まあ、最近の軍学校も、女を軍人として扱う時代が来たか・・・」
佐助と史進が話していると、3人が口を開いた。
「あ、あの・・・!この人は一体誰ですか?」
「なんかいかにも筋肉質で、いかにも、という感じがするのですが・・・!」
「とても強そうです・・・」
史進は3人を見て、声を上げて笑った。
「はっはっはっは!!筋肉質か!強そうか!そうかそうか!はっはっはっは!!」
「な、何がおかしいんです!!」
マヤは史進に向かって言った。
「いや、これは失礼。君達が俺のことをそのままに言うものだからさ。俺の名前は史進!梁山泊軍の1人だ。人からは、九紋竜と呼ばれている」
「く、九紋竜だって!?」
史進の言葉に、健太は声を上げて驚いた。
「け、健太君?どうしたの?そんなに驚いて?」
「そうだよ。隣にいるこっちもびっくりしたよ」
「だ、だって、マヤ!カン!九紋竜・史進といえば、ここの国の史家村という村の御曹司だぞ!!2年前、突如行方不明になったというけれど、まさかこんな所にいるなんて・・・!」
「ええ!?御曹司!?」
「そんなにすごい人なのか!?この人は!!」
マヤとカンも健太の言葉を聴いて、驚愕した。史進は健太の言葉を聴いて、遠くを見るような目で3人を見た。
「史家村か・・・。懐かしい名前だ。だが、そんなもんはとうの昔に捨てた」
「捨てたって・・・。じゃあ自分のうちにあった財産は!!」
「家ごと全部燃やした。・・・俺ん家を襲おうとした山賊の1人を捕まえたら、その山賊の頭領が、俺の所に自分から捕らえられに来て、その山賊達の義理に感心した俺は、山賊達を放した。そしたら、その山賊といつのまにか仲良くなっちまってな。それをかつての友人が、金目当てために警察に通報したのさ。俺は怒りに怒って、その警察どもをかつての友人ごと、山賊達と皆殺しにした。んで、人殺しをした俺はもうここにいられないと思い、自分の住んでいた家を燃やし、山賊達と共にいろんな所をふらつきまわっていた。そんで、気がついたらここにいた。まあ、家で修業をしているよりもここのほうが居心地が良くてな」
「そんな・・・金目当てのために、友達を警察に通報するなんて・・・」
マヤは史進の話を聴いて、呆然とした。史進は気を取り直すと、
「まあ、俺は史家村の御曹司として人生を送るより、天下に逆らう義賊として生きた方がいいと思ったのさ」
と言った。史進の言葉に3人は反論する。
「そんな!天下に逆らうって・・・!宇宙統一連合やワルキューレは、世界平和のために戦っている人達ですよ!?そんな良い人達を倒そうなんて・・・!!」
「そうですよ!!たとえ統一連合を倒したって、また世界は混乱するだけですよ!!」
「ワルキューレだって、世界の平和を乱すレジスタンスと戦ってるんです!そんな悪と勝手に決め付けちゃ・・・」
「その世界平和のために、犠牲になってる連中が大勢いるんだぜ?軍学校の生徒さん?」
3人の反論に、史進はこう答えた。
「確かに、宇宙統一連合やワルキューレは、世界平和のために甚大な努力もしている。だが、その宇宙統一連合やワルキューレがどうやって設立したのか、分かるかい?」
「そ、それは・・・ラクス様やカガリ様が・・・」
「そう、現プラント最高評議会議長兼独立軍・ワルキューレ総帥ラクス・クラインと、オーブ首長連合国国家主席・カガリ・ユラ・アスハが、前議長・ギルバート・デュランダルを打ち破ったことがきっかけで誕生した。この2人のおかげで人類史上初の世界平和が実現した・・・。巷じゃそういわれている。だがな、世間知らずのお嬢様2人が世界を統治しているおかげで、次第に貧富の差があらわれ始めた。そんな世界の状況にあの2人は目を通さずに、親近国にしか支援物資をよこさず、逆に逆らう国は、平和の敵とみなして、ワルキューレ・統一連合混成軍で、住んでいる連中ごと皆殺しにする・・・。そんな非人道的なことが許されていいのか!?」
史進は心の奥底から声を上げ、マヤ達に問いかけた。しかし、マヤ達は、信じられない顔をしている。
「そんなの・・・、そんなのは信じられません!」
「それを信じろって言われても・・・」
「あっさり信じるのもなんだかなあ・・・」
そんな3人を見て、史進は気まずそうな顔をした。
これはさすがに信じろと言う方が難しいな。実際のその光景を見た方がいいかもしれないな・・・。
「いや、すまなかった。つい興奮して言ってしまった。いきなりこんなこと言われても、信じられないよな。すまなかった」
史進は3人に頭を下げて言った。
「まあ、詳しくは俺達の頭領に聞いてみたほうが早いな。佐助、この子達をアジトの中へ連れて行ってくれないか?この子達も相当、まいってるようだしな。食堂の方へ連れて行ってやるといい」
「ああ、分かった。そんじゃ、3人とも、そう気を落とさずに、ほら、皆、腹が減ってるだろう?食堂の方へ案内するよ」
佐助は3人を連れて、食堂の方へ向かった。
佐助に連れられる3人を見て、史進は気の毒そうな顔をした。
「・・・世界の現実を知るというのも、それもある意味残酷か・・・」
色黒の青年達は食堂に入ると、マヤ達に目を向けた。
あれ、梁山泊にあんな子達がいたっけ?
もしかしたら、楊志の兄貴がMSと一緒に連れてきた子達なのか?それにあの子達のところには、佐助の兄貴もいる。
とりあえず、佐助の兄貴のところに座って聞いてみるとしようか・・・。
「おい、ヴィーノ、アビーさん。佐助の兄貴の所へ座るぞ」
「えっ?でも、あそこの椅子はもう埋まってるぜ、ヨウラン」
「だったらテーブルをくっつければいい話だ」
ヨウランは佐助達のいる場所のテーブルに、隣のテーブルをくっつけ、そのテーブルの椅子に座った。
「佐助の兄貴、お帰りなさい」
「おお、ヨウランじゃないか!楊志の兄貴達の持ってきたMSの分析は、もう終わったのか?」
「ええ、ワークスジンは武装兵器や構造が単純なMSだから、分析はすぐ終わりました。おーい、ヴィーノ、アビーさん!早くこっちこいよ!」
ヨウランはヴィーノとアビーを呼んだ。
「ど、どうしようか・・・、アビーさん」
「とりあえず、あそこへ座りましょうか」
ヴィーノとアビーは、マヤ達のいるテーブルの椅子に座った。
「お帰りなさい。佐助のアニキ」
「お帰りなさい。佐助様」
「おう、ヴィーノ、アビー、ただいま。なあアビー。その佐助様ってのはやめないか?なんかこう、上に立ってるっつー感じがして、なんか嫌なんだよな」
「そうですか?私にとって、これは普通なのですが?」
マヤ達は佐助達の会話を聞いていて、この人達は一体誰だろう、と思った。マヤは佐助に訊いてみた。
「あの、佐助さん?この人達は一体誰ですか?」
「ああ、こいつらは梁山泊・機体開発研究所のメカニックのヨウラン・ケント、ヴィーノ・デュプレと、梁山泊の通信オペレーターのアビー・ウィンザーだ」
「ヨウラン・ケントだ。よろしく」
「どうも、ヴィーノ・デュプレです」
「アビー・ウィンザーです。こんにちは。あなた方は楊志様がMSと共に連れてきた3人のパイロットですか?」
「えっ?は、はい。そうです」
マヤはアビーの問いにあっさりと答えた。
「そうですか。名前はなんと言うんですか?」
「わ、わたしの名前ははマヤ・テンムといいます」
「大江戸健太です」
「カン・トンメンといいます」
「マヤに健太にカン・・・、とてもいい名前ですね」
「は、はあ・・・」
マヤはコップの水を飲みながら、ヨウラン達の顔を見ている。
確か、この人達、どこかでみたような・・・。
マヤは肉まんをかじりながら、考えてると、健太が、
「あっ、あなた達は!」
と大声で言った。マヤとカンは健太の言葉で、口の中に入ってあった食べ物を喉に詰まらせ、慌てて一気にコップの水を飲んだ。
「げほげほ、健太君どうしたの?」
「そうだよ、突然大声で言って・・・」
「この人達は、確か、歴史の教科書に載ってた、ミネルバクルーの人達だ!!」
「ええ!?」
マヤは健太の言葉に反応した。そういえば、確か、この前の歴史の授業で、確かこの人達の名前が載っていたっけ・・・。
「へえ、俺達は歴史の教科書に載ってるのか。すごいな」
「そうだよね、普通は俺達ミネルバクルーとか、戦艦のクルーの名前は普通教科書には載らないのにね」
「それほど、教科書を作る方々も、戦いの歴史を事細かに伝えたいのでしょうか?」
ヨウラン達は健太の言葉に関心の言葉を発した。
「そりゃあ、歴史の教科書に載るもなにも、『ミネルバクルーは戦後突如行方不明となった』って書いてあったんですから!あの戦争の後、どこへ行ってたんですか!!」
健太が3人に聞こうとした時、健太の背後から、声が聞こえた。
「それは、私の会社が彼らを引き取ったからですよ」
健太は一体誰だと思い、後ろを振り向くと、そこには身なりも上品な、レジスタンスにいるのがおかしいくらいの、どこぞの会社社長らしい男が立っていた。
「あ、あなたは一体誰ですか!?」
健太は男に訊いた。
「これは失礼しました。私は梁山泊・機体開発研究所の機体設計担当の『小旋風・柴進』と申します」
柴進という男の名前を聞いた健太はさらに驚愕した。
「さ、柴進だって!?」
「ねえ健太君?この人は一体誰なの?」
マヤが健太に小声で訊いた。
「マヤ、知らないのかよ?柴進といえば、中国のMS開発社『ウーロン社』の社長だぜ」
「しゃ、社長!?」
「社長である人がどうしてここに!?」
マヤとカンはどうして社長であるこの人が、レジスタンスのアジトにいるのかと疑問に思った。柴進は3人の驚きようを見て、はははと笑った。
「ははは、そう驚くのも無理はない。社長の身であるこの私が、レジスタンスのアジトに平然といるなんて、あまりにも不自然だろう」
「不自然って、当たり前ですよ!!」
「なんでウーロン社の社長であるあなたが、梁山泊のアジトにいるのですか!?」
マヤと健太の言葉を聴いて、柴進は言った。
「ふむ・・・。では、食事が終わったら、私と一緒に機体開発研究所のほうへ来て見ますか?」
「え?どういうことです?」
「ちょうど、あなた方のMSの分析作業が終わり、今そのデータをもとにして、新たなMSの設計をしていますからね。あなた方に見せてあげましょう。私達の秘密の研究所へ」
柴進はそういうと、マヤの隣に座り、ウェイターの子供達に肉まんを1つ頼んだ。
「ところで、君達の名前はなんていうのかな?」
「わ、わたしの名前は、マヤ・テンムと言います」
「さて、食事も済んだところで、早速、機体開発研究所へ行きましょうか」
柴進はヨウラン達とマヤ達と佐助を連れて行きながら言った。
どうやら機体開発研究所は地下にあるらしく、エレベータを使いながら機体開発研究所に向かっている。
「柴進さん。質問があるのですが」
「どうしたんです。マヤさん?」
「機体開発研究所って、一体どんなところなのですか?」
「ふむ・・・」
柴進は少し考えると、柴進はマヤに問いかけた。
「ところで、君は、戦争が起こる原因は何だと思いますか?」
「え?それは確か、ロゴスという企業だと、授業で習いました」
「そう、戦争をビジネスに利用して金儲けをし、世界中で暗躍していた秘密結社『ロゴス』・・・。『理性』という名の意味を持つこの組織は、地球連合に多大な金額でMSやMAを売りつけて、その売った金額を自分たちの懐に治めて大儲けをしていた。かの反コーディネイター組織である『KKK(クー・クラックス・クラン)の尻尾』と呼ばれたブルー・コスモスも、そのロゴスが暗躍するための媒体組織でしかなかった。そのロゴスもヘブンス・ベースの戦いで全員しょっ引かれて、ブルー・コスモス総帥であるロード・ジブリールも、ついには非業の死を遂げた。
戦後、ロゴスのメンバーだった者達は、当時のプラント議会議長・ギルバート・デュランダル亡き後、オーブに身柄を引き取られ、その後、処刑された。ロゴスのメンバーの財産も、クライン派の者達が全て没収し、ブルーコスモスの残党も、統一連合軍の手により全滅した。しかし、これで本当に終わったと思っているのですか?」
「え?でも、ロゴスやブルーコスモスも事実上壊滅したはずなのでは?」
「そうじゃないのですよ。たとえロゴスという組織が壊滅しても、MSやMAそのものを開発する会社はまだ世界中にたくさんある。そして、もし、その会社が併合し、巨大な企業に変貌したとしたら?」
マヤは、はっとした。もし兵器を作る会社同士が併合すれば、ロゴスよりも巨大な企業と化し、新たなるMSやMAが次々と開発され、それが軍やレジスタンスの手に渡る。
「と、いうことは・・・、まさか!」
「そう、ロゴスなんかなくても、企業の力が集まれば、兵器開発は、実にたやすいことなのですよ。そしてその企業同士が併合し、レジスタンスに身を投じた会社・・・」
エレベータはどうやら地下に着いたらしい。エレベータの扉がゆっくりと開く。
「そう。その名は、KONRON社」