盲目将軍・陶金節(元・DETTO、現・天空星)作
ガンダムSEED・FINALWAR 第1章

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プロローグ C・E73年

 プラント最高評議会議長・ギルバート・デュランダルが提唱した「デスティニー・プラン」の導入実行が引き金で起こった、ザフト軍とクライン派・オーブ混成軍の戦いは、デュランダルの死亡と宇宙要塞メサイアの陥落により、クライン派・オーブ混成軍の勝利に終わった。

 デスティニー・プランはデュランダルの死亡により中止となり、プラントの政治経済は停止状態となってしまった。プラントは地球の中心国家となったオーブ首長連合国の管理下に置かれ、ザフト・地球連合両軍の軍事力やMS設計技術は、クライン派の手により全て没収された。

 やがて世界はオーブ首長連合国初代主席、カガリ・ユラ・アスハが頂点に立つ「宇宙統一連合」となり、世界は平和になったかに見えた。

 しかし、一国の支配者たちによって造られた平和は、いつしか貧富の差を生み出し、世界各地でレジスタンスが起こるようになった。統一連合軍はその武力でレジスタンスを抑えようとしたが、レジスタンスの数は一向に増え、カガリはクライン派の象徴であるラクス・クラインを総帥とした独立部隊「ワルキューレ」を設立。ワルキューレはクライン派の技術者が生み出すMS、MAで多くのレジスタンスを鎮圧するが、民衆の嘆きと苦しみは収まらず、新たなレジスタンスが増え続ける結果となった。

 かくして世界は、貧しさに苦しむ民衆達が率いるレジスタンスと、カガリ、ラクスら率いる統一連合・ワルキューレ混成軍の争いとなり、世界は再び、混迷の時代を迎えようとしていた・・・。



第一話「始まり」


 「・・・・というわけで、旧連合のMS・GFAS−]1・デストロイ五機は、ザフト軍最強と呼ばれた、ZGMF−]56S・インパルス、ZGMF−]666S・レジェンド、そしてZGMF−]42S・デスティニーの活躍により、あえなく全滅したのである・・・」

 教室中に大柄の体の男の声が響いている。机に座っている生徒は、黒板に書いてある文字を写しながら、授業が終わるのを今か今かと待っている。中には、こんな生徒もいる。

 「では、この時、デストロイ五機に乗っていたパイロットの一人の名前を、・・・って、マヤ!!またお前居眠りかぁ!!」

 「ええっ!?あぁ・・その・・・えっと・・・、すみません。ダンベール先生」

 ダンベールという名前の士官らしき男に怒鳴られ、彼女、マヤ・テンムは春の眠りから覚めた。ここは中国・北京の国立宇宙統一連合軍学校。宇宙統一連合の支配下に置かれている中国にある軍学校である。

 宇宙統一連合軍に入るためには、支配下に置かれている国の軍学校に3年間勉学しなければならない。勉学の内容は、軍事学、MS技術、歴史、そして、MS訓練といった、立派な兵士を作るための学習内容だ。そのため、学校には生徒の教育に熱心な士官達が多く存在しているのである。ダンベールもまた、その一人であった。

 「馬鹿者!!ここが戦場だったらどうする!?お前はすぐに敵に発砲されて、あの世逝きだぞ!?」

 「す、すいません〜っ!」

 マヤはここの軍学校に入ったばかりの1年生である。親が無理やりここの軍学校に入れさせたため、マヤは嫌々軍学校の勉強をしているのである。もちろん、勉強はぜんぜんはかどらず、MS訓練は全く駄目、唯一のとりえは、その逃げ足と言った所か。

 「全く、お前はしばらくそこで立っとれ!この間のように、立ったまま眠ったら承知せんぞ!!」

 「は、はい・・・」

 マヤは渋々椅子から立ち、生徒達の笑いものとされた。

 「では、この問題は後ろの席の健太にやってもらうか。健太、今の問題を答えてみろ」

 「はい」

 変声期の途中であるかすれた声で返事をしたのは、彼の友人の大江戸健太であった。

 「デストロイのパイロットの一人の名前は、スティング・オークレーです」

 「正解だ。健太の言うとおりだ」

 マヤ、もう座ってよろしい、とダンベールは言った。マヤはゆっくりと椅子に腰をかけた。

 「デストロイのパイロットの一人であったスティング・オークレーは、デストロイに搭乗する前は、地球連合軍がザフトから奪取した、ZGMF−]24Sカオスに搭乗していた。オーブ軍共同戦線などで活躍していたが、ベルリンでの戦いで当時テロリスト扱いにされていたアークエンジェルの傘下に入ったオーブ兵、ゴウ、ニシザワ、イケヤの三人の搭乗していたMVF−M11Cムラサメの攻撃により、カオスは修復不能にまで大破、その後、彼はなんとか連合兵に救出され、ザフトのヘブンス・ベース攻略戦でデストロイに搭乗し、ザフト軍のMS相手に奮戦するが、デスティニーの攻撃により彼の乗っていたデストロイは大破、乗っていた彼も戦死したそうだ」

 マヤは、ダンベールの長ったらしい話を聞いてると、とてつもなく眠くなる。まるでダンベールが子守唄を歌っているかのようだ。どんどん目蓋がまた重くなってくる。ああ、早くこの授業が終わってもらいたい。マヤはまた夢の世界へ入ろうとしていた。

 「えー、このスティングというパイロットは、一説によれば、地球連合の生み出した強化兵だという説もあり・・・」

 ダンベールが次の言葉を言おうとした瞬間、授業終了のチャイムがなった。

 「よし、歴史の授業はこれで終わりだ。ルーム長、号令をかけろ」

 「はい、起立、ありがとうございました!」

 「ありがとうございました!」

 生徒達の声にマヤは夢の世界から帰って来た。またダンベール先生に叱られるとマヤは思ったが、ダンベールは気付いていなかったようだ。

 「よし、次の授業はMS訓練だ、全員、早く運動着に着替えて、グラウンドへ来いよ!」

 「はあ〜・・・」

 マヤは廊下で大きくため息をついた。

 「どうしたんだ、マヤ?いつもよりも元気がないぜ?」

 「そうだよ、えらく落ち込んでるみたいだけど、どうしたんだい?」

 マヤのもう一人の友人、カン・トンメンは、マヤの顔をのぞきながら言った。

 「はあ〜、次の授業がMS訓練だからよ。わたしって、ほら、MSの操縦、下手でしょう?だからいつもいつも、いーっつも、ダンベール先生や、MS訓練担当のジェシカ先生に怒鳴られて・・・」

 マヤはこう言うと、またため息をついて言った。

 「わたしは軍人になりたくてここに来たんじゃないのに、どうしていつもいつも怒られなきゃいけないの・・・」

 「どうしてってそりゃあ、マヤが軍事学や歴史の授業中居眠りしたり」

 「MS技術の時に、サンプルのパーツを破損させたり」

 「MS訓練の時に、操縦の仕方を間違えて、危うくダンベール先生とジェシカ先生を踏み潰しかけたり」

 『結局、マヤがドジってるから怒られるんじゃん』

 健太とカンは声を揃えて言った。

 「わたしは好きでドジってるんじゃな〜い!!」

 マヤは健太とカンに大声で怒鳴った。三人は廊下でこんな他愛もない話をしながら更衣室へ歩いていった。自分達に数奇な運命が待ち受けていることも知らずに・・・・。


 軍学校のグラウンドに生徒達がぞろぞろと集まってきた。グラウンドにはジャージに着替えたダンベールと、肩まで伸ばした銀色の髪をなびかせた、見た目20代前半の女性が先に来ていた。この女性こそ、MS訓練の担当士官である、ジェシカ・エッセンスである。

 「皆遅れずに来た様ね。ではルーム長、号令を」

 「はい、これからMS訓練の授業を始めます。お願いします!」

 「お願いします!」

 ルーム長の後に生徒全員が挨拶をした。グラウンドに立っている8機のMSは「ワークスジン」というMSで、廃棄処分になったり、お払い箱となったジンを、民間企業の手によって作業用に改修された機体であり、個々の機体により装備が異なっている。軍学校のワークスジンの装備は、MA−M3重斬刀と、76ミリ突撃銃のみである。

 「今日はこのワークスジンを使ってMSの操縦の訓練を行います。ルールは簡単、私とダンベール士官が操縦する2機のワークスジンを、6機で捕まえてください。センサーの破壊は認められますが、コックピットへの直接攻撃は禁止、これはあくまで訓練なので、本気でやらないように。いいわね」

 ジェシカが生徒たちに説明していると、健太が口を挟んできた。

 「先生、今日はMSに乗るんですね。この前、踏み潰されかけたのがショックなんですか?」

 「・・・みんないいわね。それでは訓練を開始します。始めに乗る生徒は準備して!」

 「無視ですか・・・、怒らなくたっていいのに・・・」

 ジェシカに無視された健太はチッと舌打ちをした。


 「ふん・・・ふん・・・ふん・・・ふん・・・、こりゃあすげえぜ!!ワークスジンが8機もあるぜ、ダンナ!!」

 グラウンドの付近の林の中に、妖しげな影が6つあった。グラウンドのワークスジンの数を数えていた片方の目を髪で隠した青年は喜びながら、隣の男に声をかけた。隣の男の顔には、右の顔に大きな青痣があった。男の肌は白く、その顔の青痣をはっきりと映し出している。

 「フン、ダンナと呼ぶな。それに喜んでいる暇はないぞ、佐助」

 「ああ、そうでしたね、ダンナ」

 佐助と言う名前の青年は、ダンナと呼んでいる男の言葉にふと、自分達の目的を思い出した。

 「俺達の目的は、あのワークスジンを奪い取ること、でしたよね?」

 「ああ、そうだ。全く、MSなんかなくとも、俺達は十分に力を持っているというのに」

 「まあ、そんなことはどうでもいいじゃないか、楊志。それにしても、あのデブ士官の隣の美人士官を見てみろよ。いい女だぜ」

 楊志という名の男に声をかけたのは、足の長さが人よりも短い小男であった。その小男の髪は茶色に染まり、額には紅い鉢巻を巻いている。小男はグラウンドのジェシカをいやらしい目つきで見ている。

 「へへへへ、あの女、俺の女にしてえぜ。なあ、楊志。お前もあんな女が自分の嫁だったら嬉しいだろ?」

 「王英!俺達はそんな女を身に来たわけではないぞ!お前、今回の目的を忘れたわけではあるまいな!?」

 「はいはい、分かってますよ。俺達の目的はワークスジンの奪取、上手くいけば、その中のパイロットも連れて来い。そういう目的でしょ?なあ、宋万」

 「おう」

 宋万と呼ばれるその男の図体は大きく、口には立派な口ひげが生えている。頭には毛一本も見当たらない。

 「俺達はそのために頭領達の命令を受けた。忘れなどしていないさ。心配することはない」

 「そうか・・・。それを聞いて安心した」

 楊志は王英、宋万、その他の3人に言った。

 「よし、作戦開始時間はMS訓練開始の瞬間!そして、素早く8機のワークスジンを捕縛するんだ!抵抗するなら、中のパイロットごと破壊しても構わん!お前たちの健闘に期待す
る!」

 運命の時は、刻一刻と迫っていた。


 「はあ・・・。今日は最初から乗ることになるなんて・・・」

 マヤはワークスジンのコックピットの中でため息をつきながらつぶやいた。

 「どうしてわたしって、いつもいつもついてないのかな・・・。TVで見てる血液型占いじゃ、いつもトップなのに・・・」

 『血液型占いは、当たる確率が低いぞ!』

 突如、他のワークスジンの通信が入り、マヤはえっ、と驚いた。

 「ええ!?その声は健太君!?どうして私の言っていたことが分かったの!?」

 『どうしてって、マヤ。お前、自分の乗ってるワークスジンの通信回線を、他のワークスジンに全部つなげてるだろ』

 「あっ」

 しまった! 先生達のワークスジンにだけ通信をつなげるつもりが、間違って全部のワークスジンにつなげてしまった! マヤは自分の言っていたことが、他の生徒や先生に聞かれたのかと思うと、恥ずかしくて顔が赤面した。

 「ああ〜。わたしって本当についてない・・・。これで皆や先生に、朝のニュースの血液型占いを毎週欠かさず見てるってことがバレちゃった・・・」

 『バレちゃったって、マヤ。じゃあ、いつも学校にギリギリの時間で登校してる理由って・・・!?』

 「そう、その血液型占いを見てるから・・・。ああ、これで後で先生に呼び出しされるわ・・・」

 『へへ、そりゃあ言えてるな。あははは』

 「笑い事じゃないよお〜!」

 『こらあ!マヤ!健太!無駄口を叩いてるんじゃない!マヤは早く通信回線を俺とジェシカ士官のワークスジンにだけつなげ!他の通信は切れ!』

 マヤと健太が話していた所へ、ダンベールの通信が入った。もうすぐ訓練が開始するらしい。マヤは慌てて、ジェシカ士官とダンベールのワークスジンにだけつないで、他のワークスジンの通信を切った。

 「はあ〜、今度からあの血液型占いを見ないようにしようかな・・・。」

 マヤは他の所への通信を切りながら、こうつぶやいた。ジェシカ士官の通信が、生徒の乗るワークスジンに届く。

 『ではこれより、MS訓練を開始します。制限時間は30分。それまでに私とダンベール士官のMSを捕まえなさい。コックピットへの攻撃は禁止。それでは、始め!!』

 「へへ、どうやら始まったようだぜ、楊志のダンナ!」

 佐助が楊志に合図をした。

 「よし、全員、武器は持ったか?」

 「準備はばっちりですぜ!」

 「俺はあの女士官のMSを捕まえるのはいつでもいいぜ!」

 「おう!」

 「大丈夫だ」

 「まかせとけ!」

 五人は血気盛んな声で楊志に返事をした。

 「よし!これより、あの8機のMSを捕縛する!あまり無茶はするなよ!抵抗する行為をしたら、破壊しても構わん!だが、できるだけMSを捕縛するようにするんだ、いいな!全員、突撃だ!!」

 楊志の掛け声とともに、五人の男は、林の中から飛び出した。


 『は、始まった!』

 ジェシカ士官の号令と共に、8機のワークスジンはセンサーを光らせた。ジェシカ機とダンベール機が動こうとしたその時、グラウンドの近くの林の中から、6人の男達が飛び出してきた。

 『あ、あいつらは一体なんだ?』

 生徒の一人がつぶやいたその時、生徒の搭乗するワークスジンは、片目を長い髪で隠した青年の細い糸により、がんじがらめにされた。

 『うわあ!』

 ワークスジンは身動きがとれず、その場で転倒した。グラウンドが大きく揺れた。

 『こらあ!貴様ら!ここは軍学校だぞ!?無断で侵入して、一体何しに来た!!』

 ダンベール士官のワークスジンが、リーダー格である、右の顔に大きな青痣がある男に怒鳴った。青痣の男は、鼻で笑い言った。

 「フン、ここにあるMS8機は、我ら梁山泊がいただいていく!」

 『なっ!?梁山泊ですって!?』

 ジェシカは青痣の男の梁山泊と言う言葉に驚愕した。ジェシカが驚愕したその瞬間、コックピットの前に、背丈がやけに小さい男が飛んで来た。男は腰に下げた剣を抜き、コックピットの開閉部に突き刺した。剣が刺さった開閉部は、てこの原理で簡単に開いた。

 「なっ!?MSのコックピットを、こんな簡単に!?」

 ジェシカは元来のMSの常識を覆す事に、さらに驚愕の色を表した。MSのコックピットは普通、人間の手では開けられない仕組みになっている。たとえ剣を使っても、常識的に考えて、まず不可能だ。それを簡単にやってしまうなんて・・・。ジェシカは今までの常識を覆されたことに、驚きの隠せないでいる。小男はジェシカのコックピット内部に潜入し、ジェシカに抱きついた。

 「きゃあ、ちょっと、抱きつくのはやめなさい!!」

 「へっへ〜!なあ、彼女〜♪俺と一緒に梁山泊に行こうぜ〜♪何、別にとって食おうってわけじゃないからさあ〜♪」

 小男はそう言うと、ジェシカの太腿に手を忍ばせた。それに気付いたジェシカは、

 「何をするのよ!この変態チビ!!」

 と叫び、小男の股間に右の拳を食らわした。小男は、

 「う、うぎゃああああああああ!!」

 と、この世のものと思えぬほどの叫びを上げ、ジェシカのワークスジンのコックピットから抜け出した。小男は股間を押さえながら涙を流す。

 「痛っててててててえ!!男の大事な所に拳を食らわすなんて、よくも、よくもこんなあああ!!ここだけは鍛えようがないんだぞ!」

 小男がそう呻いてると、隣にいた白い装束を纏った細身の青年は小男に向かって言った。

 「やれやれ、いつもの好色癖が災いしたようだね」

 「うるせえ!楊春!これはいつものことだ!けれど、大事な所に食らったのは初めてだ・・・!!いつもは平手打ちや乱打の嵐なのに・・・!!」

 「これに懲りて、女性の尻を追っかけるのはやめた方がいいんじゃないの?」

 「フン、嫌だね!俺は女が出来るまで、絶対にやめないぞ!!」

 「やれやれ。とにかく、楊志の言ったとおりです。ここのグラウンドにあるそのMS8機と、その中のパイロットは、我々梁山泊がいただいて行きます!」

 白装束の青年の言葉に、マヤ達は動揺した。

 「私達を、いただくですって!?」

 マヤが白装束の青年の言葉に驚いているその時、ジェシカのワークスジンから通信が入った。

 『皆、よく聴いて!MS訓練は中止!MSに乗っている生徒は直ちに脱出して、教室に戻りなさい!他の生徒も教室に戻りなさい!ルーム長は職員室に行って、先生方にに連絡してください!!相手は梁山泊の一味よ!!』

 グラウンドにいた生徒達は、駆け足で教室に戻った。MSに乗った生徒もコックピットから脱出し、急いで教室に戻った。マヤ、健太、カンもコックピットから脱出し、駆け足で教室に戻ろうとした。だが、糸に絡まったワークスジンに搭乗した生徒は、コックピットのハッチが糸で縛られていて、脱出することが出来ない。

 『だ、誰か助けてくれー!!』

 生徒は大声で助けを求めた。仰向けに倒れているワークスジンの側には、禿頭の大男と、黒いもみ上げと髭が繋がった男がいる。

 「へへ、まず1機捕まえたぜ!」

 「早速持ち帰るとするか!」

 二人の男はワークスジンを担ぎ上げようとしている。

 どうしよう・・・、あの二人の人を放っておいたら、あのワークスジンの中に乗っている生徒が連れて行かれちゃう・・・、でも、もし立ち向かった所で、返り討ちにあうのがオチ。しかも自分は女。あんな筋肉質の男二人に敵わない・・・。

 ワークスジンが連れて行かれる光景を見て、マヤは悩んだ。いつものマヤならここでものすごいスピードで逃げるのであるが、今日は違った。

 「・・・あのMSに乗っている子と、先生達を助けなきゃ!」

 「えっ!?何だって!?」

 マヤの隣にいたカンは、マヤの言葉に反応した。

 「カン君、健太君!先に行ってて、わたし、あの中にいる生徒の子と、先生二人を助けに行ってくる!!」

 「待てよ、マヤ!!あいつらは梁山泊の一味だと、ジェシカ先生が言ったろ!!やめておけ!!」

 健太がマヤに怒鳴った。

 「どうして!?今ここで逃げたら、先生もあの人達にやられちゃう!あの子が連れて行かれちゃう!!」

 「まだ分からないのか!!あいつらは世界三大レジスタンスの1つといわれている、梁山泊の奴らなんだぞ!!あの独立部隊・ワルキューレのドム・トルーパー三戦士のヒルダ、マーズ、ヘルベルトさえ奴らに苦戦したんだ!!あんな奴らに向かっていっても、すぐ返り討ちにあっちまう!!」

 「そんなの、やってみなきゃ分からないよ!!」

 健太の制止を振り切って、マヤはグラウンドの方へ走っていった。

 「おい、マヤ!!・・・ったく、しょうがないな。カン、俺達も行くぞ!」

 「ええっ!?俺達も!?」

 「マヤを助けに行くんだよ!!行くぞ!!」

 「ああ、ちょっと待ってよ!!」

 健太とカンも、マヤの後を追って行った。


 「そこの禿頭のおじさんと、もじゃもじゃ髭のおじさん!そのMSを離しなさい!!」

 MSを担ごうとした二人の後ろから、幼い少女の声が聴こえた。

 「誰が禿頭だって〜?」

 「誰がもじゃもじゃ髭のおじさんだってえ〜?」

 二人の男は後ろを振り返ると、予想通り、幼顔の少女が立っていた。しかも少女の手には、どこかから拾ってきた鉄パイプが握られている。

 「あなたたちのやってることは、不法侵入罪と、窃盗罪です!今すぐにここから出て行ってください!出て行かなかったら、このマヤ・テンムが、あなたたちを成敗します!!」

 「成敗だって?がははははははははは!!」

 「うわあははははははははははは!!」

 二人の男は大きなだみ声で笑った。

 「俺たちを成敗するだと?フン、宇宙統一連合軍のクズ共が!貧しい民を平気で苦しめてよく言うぜ!」

 「全くだ!まさに正義の味方気取りの悪党、キラ・ヤマト、アスラン・ザラの如しだ!!てめえらのような人の皮を被った悪党共は、この摸着天・杜遷様と!!」

 「雲裏金剛・宋万がひねり潰してくれるわ!!」

 杜遷と宋万は、腰に下げてある朴刀を抜き、マヤに襲い掛かった。宋万は朴刀をマヤの脳天めがけて振り上げた。

 「ひっ!?」

 マヤはそれを左に避けて、宋万の横っ腹に鉄パイプの突きをお見舞いした。

 「うぐおっ!?」

 宋万はうつぶせにどたんと倒れた。

 「あ、当たった!?」

 「宋万!?おのれ、悪党!!よくも宋万を!!」

 杜遷は虎のように叫び、マヤを胴真っ二つに切裂こうと、朴刀を横に捌いた。

 「き、来た!!」

 マヤは杜遷の朴刀を座ってかわし、杜遷の顔に鉄パイプを振り下ろした。杜遷は鼻から赤い血を出し、仰向けに倒れた。

 「はあ、はあ、死ぬかと思った」

 マヤは息を切らしながら膝に手を突いた。と、そこへ、健太とカンが現れた。

 「おーい、マヤ!大丈夫か」

 「健太君!?教室に戻ってたんじゃなかったの!?」

 「いや、マヤのことが心配になってさ。・・・て、おい!!こいつらをお前たった一人で!?」

 「うん、意外と大したことなかったみたい。ところで、カン君は?」

 「ああ、それなんだが・・・。お、来た来た」

 健太が後ろをを向くと、カンがぜえぜえと息を切らしてやってきた。

 「ぜえ、ぜえ、健太・・・。マヤは大丈夫・・・?」

 「ああ、大丈夫だ。心配ない」

 「そう、よかった・・・。ところで先生は?」

 カンがそう言うと、マヤは、はっと口を開けて、

 「そうだ、先生を助けに行かなきゃ!!」

 と言って、近くにあるワークスジンに乗り込んだ。

 「健太君、カン君も、早く!先生達を助けに行かなくちゃ!」

 マヤは健太とカンに言った。

 「ああ、分かった!さすがに先生らもあの状態じゃ危ない!!」

 健太はダンベールとジェシカのワークスジンと、4人の生身の男達の戦いを見ながら言った。

 優勢なのは、4人の男達の方だ。

 「カン、早くワークスジンに乗れ!マヤと先生達を援護するんだ!」

 「ああ!?ちょっと待ってよ!!」

 カンは急いでワークスジンに乗った。

 「くっ!?」

 ジェシカとダンベールは4人の男に苦戦していた。相手はMSに乗っていない、生身の人間。なのに、MSがその人間に押されているなんて・・・! ジェシカがそう思っていると、ダンベールのワークスジンが白装束の青年の持つ長桿刀に、右足を斬られ、地に腰を付いた。

 「ぐわあ!!」

 「ダンベール先生!!」

 ジェシカがダンベールに気を取られているうちに、青痣の男がジェシカの機体の頭部に素早く登り、腰に下げてある剣を抜き、

 「この吹毛剣の切れ味、受けてみろ!!」

 と叫んで、ワークスジンの頭部を豆腐を切るかのようにバラバラに切り刻んだ。青痣の男が地に着地すると、ジェシカのワークスジンの頭部は細切れになって爆発した。

 「きゃあああ!!」

 爆発の衝撃でジェシカは頭を打ち、そのまま気絶した。両方とも戦闘続行が不能となった所に、4人の男が近づく。白装束の青年は青痣の男に訊いた。

 「楊志。確か、抵抗するなら中のパイロットごと、破壊しろ。だったよね」

 「・・・ああ。どうせ抵抗したものを連れて行っても、反乱分子になるだけだからな。王英と佐助はここで見ていろ」

 「ええ〜!?そんな!?せっかくいい女を見つけたのに、殺しちまうのかよ!?」

 楊志と呼ばれる男に、王英という名の小男は文句を言った。片目を髪で隠した青年は王英に、

 「そう言うなよ、王英。また股間に鉄拳をくらいたいのか?」

 と、言った。

 王英は股間に手を当てながら、うっ、と呻いた。

 「さ、さすがに股間に鉄拳は勘弁だな・・・」

 「だろ?そんじゃあ、ここで見ていようぜ」

 「あ、ああ・・・」

 だけれど、やっぱあの女は惜しいなあ、と、王英は心の中でつぶやいた。

 「・・・お前達に恨みはないが、ここで死んでもらうぞ!」

 楊志と楊春は、ジェシカとダンベールのコックピットめがけて、手に持った得物を振り下ろそうとした。が、そこへ、遠方からマシンガンの嵐が2人を襲った。2人はかろうじてマシンガンの嵐をかわした。楊志は声を張りあげた。

 「くっ、一体、何者だ!!」

 「そこまでです!梁山泊!」

 マヤは4人の男に向かって叫んだ。

 「あなたたちの仲間の2人はわたしが倒しました!もうあなたたちに勝ち目はありません!今すぐに部下の人達を引き連れて帰って下さい!」

 マヤに続いて、健太とカンも叫んだ。

 「そうだ!今すぐここから出て行きやがれ!」

 「出て行かないと、またマシンガンをお見舞いするぞ!!」

 楊志は三人の声を聴いて、ここの軍学校の生徒だと分かった。

 「・・・なるほど、お前達はここの軍学校の生徒というわけか。フン、この青面獣・楊志に立ち向かおうとは、気に入ったぞ!ぜひ、梁山泊に欲しい存在だ!」

 楊志はそう言うと、マヤの乗るワークスジンに向かって飛んだ。

 「俺達を追い返せるのなら、追い返してみろ!」

 楊志はマヤのコックピットに剣を突き刺そうとした。

 このままコックピットをこじ開けてしまえば、たかが軍人の卵。恐れおののいて、何も出来なくなるに違いない。楊志はそう思っていた。しかし、彼の予想は大きく裏切られた。マヤは自分からコックピットを開けたのだ。

 「何!?自分から突かれに来るつもりか!?」

 楊志は予想外の出来事に、目を見開いて驚いた。

 しかし、それだけではない。マヤは右手に持った鉄パイプで、楊志の頭をガツンと殴った。

 「ぐわあ!!」

 楊志はそのまま地に落ちた。マヤは落ちた楊志を見て、

 「わ、わたしだって、やればできるんだから!」

 と叫んだ。楊志はかろうじて起き上がった。頭部からは赤い血がどくどくと流れ出て、右の顔の青痣を紅く染めていた。

 「・・・フン、成程。自らコックピットを開いて俺の虚を突いて、自分があらかじめ持っていた得物で攻撃するとは・・・」

 楊志はそうつぶやくと、

 「ふふふふ・・・・ふははははははははははははははははは!!」

 と高らかに笑った。マヤ達はそれを見て

 「・・・一体、何がおかしいのですか!!」

 「そうだ!戦闘中に笑ってんじゃねえよ!!」

 「余裕を見せてるつもりか!!」

 と叫んだ。楊志は笑いを止めると、

 「・・・気に入ったぞ!!その度胸があれば、我ら梁山泊の精鋭に慣れるぞ!」

 と言い、片目を髪で隠した青年の名を呼んだ。

 「佐助!!こ奴らのMSを縛れ!!」

 「あいよ!縛忍法・糸縛り!!!」

 佐助と言う名の青年は、マヤ達の乗るワークスジンを、両手の細い糸で縛り上げた。

 「きゃあ!!」

 「わああ!!」

 「のわあ!!」

 3機のMSは佐助の糸により縛られ、身動きが取れなくなっていた。マヤのワークスジンは、楊志の戦いの時に、コックピットを開けたままだったため、マヤ自身も糸で体を縛られた。マヤは必死で糸を振りほどこうとしたが、全然振りほどけなかった。

 「くう・・・、何よ、この糸、ほどけない・・・!」

 「ちくしょう!操縦がきかねえ!」

 「どうなってんだよお!!MSがこんな糸に苦戦するなんて!!」

 「あっはっは!無駄無駄!この俺の操る金糸はな、象だろうが、MSだろうが、なんでも動けないようにしちまうのさ!」

 佐助は笑いながら言った。さらに彼は、

 「あ、そうそう。俺の名前は猿飛佐助。梁山泊十二神将の一人、青面獣・楊志のダンナの配下さ。以後ヨロシク」

 と、自己紹介をした。

 「以後ヨロシクって・・・、わたしたちはまだヨロシクしようなんて思ってないわよ!」

 「いんや、あんた達はこれからヨロシクすることになる。あんた達はこれから、梁山泊のアジトへ連れて行くのさ!」

 「りょ、梁山泊のアジトへ!?」

 「そう、ですよね?ダンナ」

 佐助は楊春に方を背負われている楊志に言った。

 「ああ、どうやら宋万も杜遷も起き上がったようだし、それに、そろそろ時間だ」

 楊志は5人の名を呼んだ。

 「佐助!王英!楊春!宋万!杜遷!作戦は成就した!これよりこの3機のMSと、3人の者達を連れて、梁山泊へ帰還するぞ!」

 『おーーーーーーーーーーーーー!!』

 5人の男達は、声を天高く張り上げた。佐助は糸で縛り上げた3機のMSを宋万、杜遷と共に担いで、あらかじめ用意しておいた大型トラックに乗せ、マヤ、健太、カンの3人を乗車席へ座らせた。その際にマヤは、体を縛り付けていた糸を楊春に解いてもらった。トラックは軍学校を離れ、人里離れた山奥を進んでいた。マヤはトラックを運転している佐助に訊いた。

 「わたしたちを・・・どこへ連れて行くんですか?」

 「・・・水のほとりの要塞さ」

 佐助は片目を隠した髪を掻き揚げて言った。


ガンダムSEED・FINALWAR 第1話 完

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