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 宇宙戦艦ヤマト(1974)各話レビュー →宇宙戦艦ヤマト2レビュー

 第16話「ビーメラ星、地下牢の死刑囚!!」


あらすじ (人類滅亡まで、あと267日)

 中間地点バラン星へ近づいたヤマトでは、隊員たちが日光浴をし、リラックスするなどして過ごしていた。食事はワンパターン化し飽きられていたが、森雪はワンピース姿を披露して気分転換をすすめる。しかしせっかくのお洒落もアナライザーのスカートめくりで台無しになってしまう。一方、艦内では野菜不足が深刻になっていた。沖田艦長は生活班長の森雪を呼び、近くのビーメラ星に降下して食べられる野菜を探してくるよう命じる。アナライザーとともに未知の惑星に降下した森雪だったが操縦ミスで乗機が墜落、二人は先住民に捕らえられてしまう・・・

コメント

 銀河系を出てバラン星へ向かう途上、異次元空洞を無事脱したヤマトは順調に航海を続けている。オクトパス星団で停滞していたとき、ヤマトの食糧はあと2か月分、という不穏な会話があったが、今回はそんな食糧事情に絡めた動きからストーリーが展開していく。

 ヤマト食堂では、オートメーションでいかにもマズそうな食事が提供されており、隊員たちはすでに同じような献立に飽きてしまった様子である。航海中、ストーリーの展開上は毎回ガミラスと遭遇したり宇宙の怪奇現象に巻き込まれたりしているが、実は何も起こらない日の方が多いだろう。この回の前半では、そんな平常運転時のヤマト艦内の様子が伺えて面白い。そこではアナライザーに寄る森雪のスカートめくりという情景も含まれるが、この一コマから、本作の含む深淵なテーマに導かれていくところも見どころの一つである。

 ヤマトが厳しい食糧事情を抱えることを知る沖田艦長は、森雪をビーメラ星に派遣して野菜となる植物を探すよう命じる。未知の惑星探査をたった一人に任せてしまうヤマトのブラックな一面が見てとれるが、アナライザーが同行するのが救いである。しかし、その前に古代らとアナライザーとの意味深な会話を聞いている視聴者としては、何かあるかも?とムズムズした気分になる。
 その「何か」は森雪とアナライザーが二人きりになってすぐにやってくる。アナライザーの言葉にびっくりした雪が操縦を誤り、乗っていた飛行機が墜落するのだ。そこへ、先住民がやってきて、二人は捕らえられてしまう。ヤマトでは、すぐに森雪からの通信が途絶えたことに気がつくが、沖田艦長の「もう少し様子を見よう」という一言で、事態はさらに悪化していく。

 ビーメラ星の先住民は、地球人の森雪をガミラス星人と思ったようだ。彼らは昆虫がヒト化したような形態をしており、女王の統治下、全員が奴隷のように働いている。彼らの体内には栄養価の高いローヤルゼリーがあるようで、なんと、同胞を捕らえてミキサーにかけ、ローヤルゼリーを搾り取ってそれをガミラスに献上しているのだ。
 一人の男が立ち上がって女王に対して反乱を起こす。その企ては一瞬女王を追い詰めたかに見えたが、あえなく男は撃たれてしまう。森雪とアナライザーは、この事件の一部始終を目撃するのだが、ここから様々な様相が見えてくる。
 ・科学技術のより進んだ種族が、遅れた種族を支配する
 ・ヤマトはすでにガミラスの勢力圏に入っている
 ・ガミラスはビーメラ星人を恐怖によって支配し搾取している
 ・ビーメラ星人には、ガミラス人と地球人が同じに見えた
 ・森雪も、こ地球人の自分たちがガミラス人が「同じこと」をしようとしていると感じた

 実は地球人にとって、ビーメラ星人はガミラス人以外に宇宙で遭遇したはじめての異星人なのだ。ガミラスの支配と搾取に疲弊する彼らは、遊星爆弾の攻撃で滅亡の危機に瀕した地球の人々の姿とある意味では重なる。違うのは、彼らは生き延びる為に同胞の命を犠牲にしており、女王は同胞の反乱者をためらわず撃ってでもガミラスとの関係を守ろうとしたことだ。巨大なガミラスの科学力と軍事力の前には、そうするしか自分の統治する国を守るすべはない、と女王は考えたのだ。
 この回では、ヤマトは傍観者に回っており、ビーメラ星で何も取らず、しかしローヤルゼリーを回収するガミラスタンカーを撃破して去ってゆく。何も取らないことで搾取する側になることは免れたが、ガミラスタンカーを攻撃したことは、ビーメラ星人にとっては大事件であった。これに勢いづいた反乱者たちは立ち上がり女王の軍勢に立ち向かっていく。燃え上がる王宮を背に、ヤマトの隊員たちは立ち去っていく。残されたビーメラ星と、ガミラスとの関係はいったいどうなっていくのか、という一抹の不安を残して…。
 ビーメラ星の人々が奏でる、哀愁ただよう素朴な音楽が、不思議な余韻となっていつまでも心に残る、そんな切ない1話である。

ピックアップ 「生物と無生物のあいだ」

  この回では、ガミラスに搾取されるビーメラ星人の女王と労働者たちの間で起こる事件を、たまたまこの星に立ち寄って捕らえられたことで森雪とアナライザーが目撃するのだが、もう一方で、森雪とアナライザーとの二者の間でも、ある種哲学的な会話が展開される。
 きっかけは、アナライザーのスカートめくりである。このいたずらに大喜びの古代たちは、アナライザーの「人間臭さ」をからかいの種にした。雪のことが好きなんだなな、そのうちキスするっていうんじゃないか、と。それに対してアナライザーは「キスだって、その先だって」と大真面目に答え、古代たちを慌てさせる。アナライザーはロボットだが、その感情は人間以上に人間らしいものなのだ。だから雪と二人でビーメラ星の探索へ出かけることになったとき、アナライザーは恋する少年がそうであるように、心ときめかせたに違いない。そして、着陸まぎわの飛行機の中で雪にその思いを告白する。二人きりになったとき、「壁」を超えようとしたのである。

 しかし、雪はその真剣な告白を真面目には取り合わなかった。なぜなら彼は、人間ではないからである。ビーメラ星に派遣される以前、食堂でのスカートめくりで恥をかいた雪は、沖田艦長に、アナライザーからスカートめくりをするような行動を解体して取り除いてほしい、と懇願していた。かように雪にとって、アナライザーは掃除機や食洗機と同じく便利な「機械」にすぎないのである。
 そんな二人は捕らえられ、牢獄に閉じ込められる。ローヤルゼリーを絞り取るために犠牲になるビーメラ星人の阿鼻叫喚を聞きながら、アナライザーはここで何が行われているかを冷静に分析し解析する。しかし雪は、そんな話ははめて、といって耳をふさぐ。雪にとってそれは、これから自らの身に起ころうとしていることの予見であり、死の恐怖をまざまざと感じさせるものだからだ。
 これに対して、アナライザーは雪の命(神がつくった)と自分の命(人がつくった)に違いはあれど、命にかわりはない、そして自分はこの命をささげて雪さんを守る、と宣言する。雪はその言葉で、ようやく彼を機械でなく頼れるパートナーとして受け入れた。
 しかし、それも古代たちが彼らを助けに来るまでのことだった。古代の姿を見た雪は彼のところに駆け寄り、二人は抱擁する。ガミラスタンカーが爆破されたことで勢いづいた反女王派が立ち上がり、暴動が起こる中、ヤマトの面々はビーメラ星を去って行く。この動乱の中でアナライザーだけが凍り付いたように静かになる。彼は失恋した。その「壁」を越える試みは、見事に砕け散ったのだ。

 ガミラス人、地球人、ビーメラ星人はそれぞれ命ある存在として、それぞれに他の動植物の命に依存して生きている。まさに、そこで繰り広げられるは「命」をめぐる争いで、アナライザーはひとり違った形の「命」を持ったものとして存在していた。ビーメラ星の女王は反乱派のリーダーにガミラスタンカーを撃て、と迫られたとき、一旦撃つそぶりをみせたものの、くるっと向き直って同胞のリーダーを撃った。ガミラスはビーメラ星人の命を自らの栄養源のために奪い、雪は「命をかけてあなたを守る」と言ったアナライザーを、無意識のうちに切り捨てる。命ある者は、自分のためには無慈悲になれてしまうという欠点がある。人格ある者として存在するアナライザーだけが、そこから超越していた。森雪を悩ませる彼の欠点は、完全無比な存在になってしまわないようにと彼を造形した設計者が与えた、彼の「命」そのものなのではなかっただろうか。


関連レビュー
「宇宙戦艦ヤマト2第16話 テレサ、愛と別れ」



いいのか、古代。───── 徳川彦左衛門


あらすじ

 帰還命令を受けたヤマトは地球帰還の準備を始める。一方、テレザートが白色彗星の進路上にあることを見た島はテレサに脱出を促す。


ヤマト隊員のヘルメット通信機

Aパート:ヤマト帰還準備、島の説得
Bパート:テレサ乗艦、テレサの本心

コメント

 帰還準備を進めつつも、ヤマトとテレサとの接触は続いている。テレサからの通信波で通信機を破損した古代は島にテレサに事情を尋ねるよう促す。「いいのか、古代」、これまでの事情からクルーらは島とテレサの間の恋情を察知していた。それにしてもヤマト世界の女性は積極的である。当時の女性がそうだったとは思えないが、テレサの場合は超能力者なので、島に恋い焦がれる彼女の精神の乱れがヤマトの機械を壊してしまうのだ。「そんなことじゃダメだ!」と目を剥いた真田さんがケーブルを引きちぎるのはテレサ絡みではこれで二度目である。が、彼女の精神波によって墜落したコスモタイガーもないので、彼女の超能力はある程度のスペックのある通信機以外には作用しないのかもしれない。アナライザーはもう少し高級な機械なので場合によっては壊れることもある。
 島の告白を受け、抱き合う島とテレサの横でヘルメットからの古代の出歯亀通信が響く(どうして本作ではこの男はこういった規律委員みたいな役回りが多いのだろう?)、やはりヘルメット通信機ごときの低スペックの機械には彼女の超能力は作用しないのだ。焦げたテープから真田が解読したテレサの通信の内容(好き好き島さん)に歯が浮く思いがするのは筆者だけではないだろう。この場面はまるで隠していた恥ずかしい本を人前に晒されたような、ラブレターを堂々と開陳されたような気恥ずかしさがある。もう少し何とかならなかったのかと思うが、これを書いたのはあの藤川桂介である。藤川は決して恋愛物が得意な脚本家ではないが、彼にしてはかなり踏み込んだこの描写はやはり企図あってのものである。これは我慢して見ていなければいけない。
 映画のテレサは反物質世界の半ば女神のような存在だったが、ヤマト2のテレサは島との別れに涙を流すなどかなり人間臭い。第2クールの制作に入り、当座の制作環境が安定して落ち着いた話をする余地が生まれたが、ヤマト2ではその部分をすべてテレサ絡みの話に使っている。これは10話で明らかになったスタッフ間の相克、特にプロデューサ西崎氏の指図によるそれにスタッフが再び軌道修正を加えたと見ることができる。「さらば」のテレサと2のテレサのどちらが好きかと聞かれれば、筆者などは迷わず後者である。何を隠そう、宇宙戦艦ヤマト最高のヒロインはスターシャでもルダ・シャルバートでもクィーン・アクエリアスでもなく、ヤマト2のテレサである。そもそも最後の一人は人間ですらない。
 パート1のスターシャと同様、彼女も母星に居残る道を選んだが、彼女が残ったのはスターシャのように地球人が嫌いだったからではない。島との抱擁を通じ、彼女が密かに企図した「ある目的」のために、彼女はテレザートに残る必要があったのだ。
(レビュー:小林昭人)

評点
★★★ 島との恋愛は2の特色だが、本格的に描かれたのはこの話が唯一で、これは作品のイメージを決めるほどカラーの強い話。ただ、藤川はやはり恋愛は得意ではない。

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