地球(テラ)へ…

第1話「目覚めの日」

脚本/西園悟 演出/清水聡 絵コンテ/ヤマサキオサム 作画監督/波風立流

あらすじ
 育英都市アタラクシアで両親と暮らすジョミー・マーキス・シンは14歳の誕生日「成人検査」を受ける。完全なコンピュータによる管理社会で、この検査により適性を見て今後の人生が決まるのだが、ソルジャーブルーの介入により彼は不適格となってしまう。

Aパート:ジョミーの夢、成人検査前日の両親、学校での最後の挨拶
Bパート:自宅での心理検査、成人検査にソルジャー・ブルー介入

はじめに

 連載途中の原作に出会い、「総集編」として出版された第1部から第4部までの本をボロボロになるまで読んだ、中学生時代。完結とほぼ同時に劇場アニメ化され、胸をときめかせながら映画館へも足を運んだ。私にとって、マンガやアニメ、SFという創作の世界へ没頭するきっかけを作ってくれた、特別に思い入れのある作品である。このマンガで、中二病を発症したといっても過言ではない(出会ったのもちょうど中学二年生の頃だった)。

 そんな作品が、完結から27年を経てテレビアニメとして制作・放映されていたと知ったのは、実はごく最近のことである。自分自身も、もうみずみずしい感性をもってその世界観を受け止めた10代の頃とは違っているし、昨今のアニメの薄っぺらい感じにいい印象がないこともあって、視聴するのを躊躇していたのだが、1980年代に製作された別作品を見たことで、あの当時の時代の雰囲気を2000年代にどう解釈されているかに興味をそそられ、見てみることにした。

 本作は、原作が非常に高い評価を受けている「傑作SFマンガ」ということもあり、原作の世界観やテイストを、どのように受け止め、咀嚼し、アニメ作品として脚色・表現しているかということにフォーカスしてレビューすることとした。
※以下のレビューには、ネタバレが含まれることをあらかじめご了承ください。

コメント

 ストーリーは、不思議な夢を見て目覚める少年ジョミーの日常生活からはじまる。14歳で受ける「成人検査」の前日、いつものように学校に行ったジョミーは。明日成人検査を受けるため、サム、スウェナら学友たちに別れを告げる。教師の言葉から「メンバーズ」がこの世界のエリート集団であることが伺える。
 ジョミーの学友として登場するサム、スウェナは、原作では第2部の教育ステーションで、キース・アニアンの学友として初登場するキャラクターだが、本作では、サムがジョミーの同級生という原作の設定を活かして、ここで登場させている。
 サムは明日から「大人になる」ジョミーにドリームワールドの100周年記念パスをプゼレントする。彼らは「大人になる」ことに前向きで明るい希望を持っている。


おれたち、ずっと友達だぜ。大人になって、また会えるといいな。

 プレゼント、そして「また会えるといいな」という言葉は、彼らの「もう会えないかもしれない」という寂しさを打ち消すためのもの、であると同時に、物語上、やがて彼らは大人になって再会することを予見させる。

 一方、成人検査の前夜「さびしくないの」と聞くジョミーに、母は涙を浮かべて、子供が巣立っていく母親の寂しさを訴える。「どんなにつらくても、さびしくても、大人にならなくてはいけない。あなたなら一人でも大丈夫」と、大人になることへの否定的な感情が強く表現されている。
 このジョミーの母の人物像は、原作から大きく変わっている。原作では、ジョミーが大人になることへの否定的な感情を吐露したことを、管理局に通報し、自ら深層心理テストを受けさせるよう手配していた。この作品の世界観でいうと、大人になることに否定的な母は、不適格者の烙印を押されるのではないか。

 この原作との母親像の違いが、とても気になった。そもそも竹宮惠子が描いたこの世界は、私たちの生きる今の社会とは構造がまったく異なる。家族関係、人間関係、すべてが違った土台に立っているのである。一見同じように見えて、実は異常な世界の中に、私たちと同じ常識を持つ少年としてのジョミーがただ一人いるからこそ、彼は輝くのである。息子との別れを惜しみ涙を流す母、という浪花節をここに入れてしまう脚本に、原作の突きつけるテーマから、早くも逃げる姿勢を感じて不安になる第1話であった。

キャラクター紹介

ジョミー・マーキス・シン
 本作の主人公。育英都市アタラクシアで暮らす元気いっぱいの明るい少年。14歳の誕生日を迎えるが、その前日不思議な夢を見る。そして成人検査当日、夢に出てきた謎の男、ソルジャーブルーが検査に介入し、彼の人生は敷かれたレールから大きく外れてゆくのだった。

用語解説

成人検査
 ジョミーの育った育英都市アタラクシアをはじめ、この世界で14歳の誕生日を迎えた者が必ず受ける検査。コンピュータにより、14歳までの記憶が消去されるとともに能力、適性などが検査され、以後の進路に個々が振り分けられてゆく。アタラクシアで成人検査を担っているのは「テラズ・ナンバー5」であった。

ナキネズミ
 ジョミーが成人検査の日に訪れた、ドリームワールドで展示されていた新種の小動物。危険な能力があることからケースにバリアが張られていたが、成人検査を終えたジョミーに「ここから出たい」と不思議な声で話しかける。


評点
★★★ 母親像に疑問を抱きつつも、まずまず無難な滑り出し。



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