銀河鉄道物語 THE GALAXY RAILWAYS

2003年10月〜2004年4月>TV放映
(BSフジ、フジテレビ) 全26話
原作・総設定・デザイン松本零士
監督西本由紀夫
シリーズ構成園田英樹
キャラクターデザイン
木崎文智/竹田逸子
メカニカルデザイン
渡辺浩二/板橋克己
脚本
園田英樹/早坂律子/長谷川菜穂子
むとうやすゆき/鷲尾市子/山田靖智
音楽青木望

スト−リ−

  銀河の星々をつなぐ「銀河鉄道」の、安全な運行を守る「空間鉄道警備隊(SDF)」を部隊に、様々な事件、事故から鉄道を守りるシリウス小隊の活躍と、殉職した父、兄の思いを継いで入隊した有紀学の成長を描く。

レビュー

 松本零士の画業50周年を記念して企画・製作されたテレビアニメで、全26話。タイトルからわかるように、松本零士の代表作「銀河鉄道999」の外伝的SFアニメで、その世界観を踏襲しているので、私はてっきり銀河鉄道のいろんな列車で宇宙を旅する話かと思っていた。ところが、全然そうではなかった。銀河鉄道の安全運行を守る空間鉄道警備隊の活躍を描くものなのだが、びっくりなのは件の警備隊だ。JR新幹線の「ドクターイエロー」のように、同じ路線を走る特別装備の列車で、事故や事件の起こった現場に駆けつけるのだが、この列車、なんと屋根が開くと砲台が出てくるうえに、戦闘機まで格納しているのだ。それもそのはず、作中では空間鉄道警備隊という正式名称ではなく、もっぱら略称の「SDF」で通っている。何の略かといえばSelf-Difence Forcesで、これを再翻訳すれば要するに「自衛隊」である。鉄道会社が、運行の安全を守るために武装小隊を編成しているのだ。何とも「松本零士」な世界ではないか。

 この空間鉄道警備隊、略してSDFは「カッコイイ」そして「崇高な任務を担う」ことから、子供たちの憧れの的という存在だ。銀河鉄道全線をカバーするためいくつもの小隊があり、そのうちの一つシリウス小隊が本作の舞台となる小隊である。
 主人公の有紀学は惑星タビトで母のカンナ、兄の護とともに暮らしている。父はSDFシリウス隊長を務める有紀渉である。学は父の仕事に憧れる余り、こっそり父の乗る特別車両「ビッグワン」に乗り込んでしまうが、そこで謎の異星人の襲撃に遭い、父渉は殉職してしまう。その父に憧れた護もSDFに入り、精鋭部隊SPG(Space Panzer Grenadier)に選ばれるが殉職。その後を追って自分もSDFに入りたいと学が言うと、母カンナはこれ以上家族を失いたくないと必死に止めるが、その決心は変えられず、学も憧れのSDFに入隊する。そして隊長のシュワンハルト・バルジ(名前が難しすぎる)、指導教官になる砲術担当のブルース・J・スピード、操縦担当のデヴィッド・ヤング、同期入隊の女性隊員ルイ・フォート・ドレイク、医療用セクサロイドのユキ、というメンバーとともに、銀河鉄道の安全を守るために活躍していく。

 とはいえ、実際に活躍するためには何か事件や事故が起こらねばならず、毎回毎回、事故発生や宇宙海賊の襲撃で大惨事が起こってしまうという展開で、正直大丈夫か!こんな鉄道乗りたくない!毎日株価が大暴落や!と心配になってしまうが、これも松本ワールドの醍醐味と思えばどうということはない。

 登場人物は父の渉はどう見てもキャプテン・ハーロックだし、母は森雪だし、主人公の学は古代進だし、学の幼少期は星野鉄郎だし、とおなじみの松本キャラがそろい踏み、な感じなのだが、バルジ隊長やブルース、デビッド、ルイなど小隊のメンバーは、松本キャラの持つ個性や美学を制作スタッフが解釈して作り上げたオリジナルキャラクターだろう。例えばブルースハープ(ハーモニカのことをこう言うところに、スタッフのこだわりを感じる)をいつもポケットにしのばせている、というのは松本零士的な何かを受け継いでいると思う。
 このように、松本零士の作品は、その長い経歴とアニメ制作への貢献から、松本零士の世界観とその美学について、制作スタッフ、声優、そして視聴者が暗黙のうちに共有できるという関係が出来上がっているのが特長だ。それゆえに、本作はその世界観を活かして心を動かすドラマを作ろうとする作り手の魂が感じられる、実に力のこもった作品に仕上がっている。戦艦ではなく列車が戦闘を繰り広げるという最初の「ええっ?!」という違和感を乗り越えれば(松本アニメで育ってきた人なら、それはたやすいことのはずだ)、そこにはとてつもない感動が待っている、と保証できる傑作である。骨太の男臭い作品だが意外にも脚本家の半数は女性である。男性ターゲットのアニメが美少女萌えに走る傾向の強い昨今では、女性を交えた方がバランスのよい作品作りができるのかもしれない。

 個々の話には立ち入らないが、ラストの展開には意表をつかれた。「さらば宇宙戦艦ヤマト」を踏襲するような流れだっただけに、シリウス小隊のビッグワンもこのまま・・・と思ったのだ。しかし予想に反して踏襲しつつ、別の展開に持っていったところに、何か深い信念のようなものを感じた。ちょうど放映時期が「宇宙戦艦ヤマト」の著作権問題で、プロデューサーの西崎義展氏と醜い争いを展開し、結局原作者という立場を失ってしまった頃だけに、失ってしまった「ヤマト」の中で松本零士が描きたかった未来を、ここに見た気がした。

 ささきいさお氏の歌うオープニング・エンディングの主題歌もすばらしい。特にエンディングの「銀河の煌(ひかり)」は名曲で、第12話「黄昏」を見た後では涙なしには聴くことができない。DVDには巻末に特典として声優インタビューが収録されており、大塚周夫、野沢那智、ささきいさお&上田みゆき夫妻、青野武、麻上洋子といった重鎮から井上和彦、大塚明夫、子安武人、緑川光などベテラン、そして若手で主人公を演じる矢薙直樹などの肉声を聞くことができる。この声によってキャラクターは命を与えられる。演じる人ひとり一人の思いの中にも、いかに松本アニメが広く愛され、その世界観が共有されてきたかが感じられて、うれしい付録である。(2017.4.25)

評点 ★★★★


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