MUDDY WALKERS 

Kー19 K-19 The Widowmaker

K19 2002年 アメリカ 138分

監督キャスリン・ビグロー
脚本クリストファー・カイル

出演
ハリソン・フォード
リーアム・ニーソン
ピーター・サースガード
クリスチャン・カマルゴ
ジョス・アックランド
ジェームズ・フランシス・ギンティ

スト−リ−

 1961年のソビエト連邦。国家首脳部は新型の原子力潜水艦Kー19の処女航海を実施することを決める。直前に艦長のポレーニン(リーアム・ニーソン)が解任され副艦長に降格、艦長としてアレクセイ・ボストリコフ(ハリソン・フォード)が着任する。ボレーニンは経験豊富で乗組員からの信頼も厚かったが、ボストリコフは経験や人間関係よりも組織としての規律を重視するタイプで、テスト航海の最中、二人はことあるごとに対立する。航海の目的は、テストミサイルを発射させ、アメリカに、ソ連がアメリカを核ミサイルの射程に捉えていることを誇示することにあった。ボストリコフが強行する訓練で乗組員は鍛えられ、見事テストミサイルの発射に成功する。しかし厳しい訓練の連続に、次第に乗組員の不平不満は高まるのであった。そんな中、Kー19の動力源である原子炉内に重大な損傷があることが発見され、艦内は放射能漏れの危機にさらされる。原子炉の温度はグングン上昇し、メルトダウンは時間の問題となっていくが…。

レビュー

 日米冷戦のただ中、核ミサイルを積んだソ連の原子力潜水艦の原子炉放射能漏れという実際にあった事故をもとに作り上げられた作品。事故の詳細については、ソ連崩壊後にはじめて明らかにされたそうだが、それをいち早く取り上げて、重いテーマを持つ映画を作るというところに、アメリカのアメリカらしい意気のようなものを感じる。一つは、この冷戦に勝利した側のプライドであり、もう一つは、世界を二分する勢力の一方としての自責であろう。ハリウッド映画として、出演するほぼ全員がロシア人という潜水艦映画の製作に取り組んだということには違和感を感じる向きもあるかもしれないが、そこに実はハリウッドの懐の深さと、素晴らしい題材は逃さないという良い意味での貪欲さがあるように思う。

 映画は、潜水艦内での新任艦長ボストリコフと、部下の信頼厚いポレーニンとの航海中のテストをめぐる対立を軸にストーリーが展開されていく。最初のテストで乗組員の練度の低さを見抜いたボストリコフは次々に過酷な条件の訓練を課していくが、彼の独断専行で自分の考えを口にしない性格が災いして、乗組員は反感を募らる。この艦内での不協和音があるために、原子炉破損が明らかになったときの危機感が増幅され、乗組員が反乱すら起こしかねない状況の中で、一体どのように事態を打開し、命を顧みない原子炉の復旧作業へ担当者たちを駆り立てていくのか、目が離せない展開となった。

 実物の潜水艦を使って再現されたセットや、旧ソ連の潜水艦艦長経験者による出演者へのレクチャーなど、リアリティを追及するための作り込みがしっかりとしており、実話を基にした作品としての重厚感をしっかりと支えている。主演のハリソン・フォードは知的で良識的なイメージを持つアクションスターとしてのイメージが強いが、本作では、途中まで「この人が悪役なのか?」と思うようなパワハラ上司の雰囲気で、ハマリ役とはまったく違った役柄を好演している。ただ、残念なのは、この意固地な独断専行艦長に対立してきた副艦長がイザというところで「心変わり」した理由やプロセスが、よく見えないままに話が進んでしまったことだ。観客としてはどちらかというと、人柄の良い副艦長視点で流れを見ているので、艦長のこの厳しい対応の背後にあるものを副艦長視点でもう少しわかりやすく見せてくれれば、その後乗組員たちの尊敬を、ボストリコフ艦長が勝ち取っていく理由も把握できただろう。実際には、突然の変化に「えっ?」と思った戸惑いが、やや後まで尾を引くこととなってしまった。原子炉損傷の原因を作ったのが、艦長の厳しすぎる訓練と思えてしまうところもツッコミたくなるところだ。

 それにしても、たまたまハリソン・フォードが潜水艦艦長をやっている映画があるということで随分前に買ったままになっていたDVDだったが、今この時期に観ることが出来たことはとても良かった。これを観れば、今この国で現在進行中の、福島第一原発事故のことを思わずにはいられないからだ。本作では、原子炉担当の乗組員たちが、被ばく覚悟で原子炉の炉心部へと入っていく。映画に描かれた被ばくの惨状は、目を覆いたくなるものだった。核の恐ろしさとともに、今この時に、このような重篤な危険をもたらす復旧作業を名もない作業員たちに負わせてしまっている、この社会の罪深さを思わずにはいられなかった。「彼らは英雄だった」とこのように語り継ぐことが出来たことそのこと自体が、この重い作品の救いになっていると思う。そのようなリーダーを、私たちは持っているだろうか?

評点 ★★★★

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