MUDDY WALKERS 

八甲田山 

八甲田山 1977年 日本 170分

監督森谷司郎
脚本橋本忍
原作新田次郎「八甲田山 死の彷徨」

出演
高倉健/北大路欣也/加山雄三/緒形拳
栗原小巻/森田健作/秋吉久美子/前田吟
大滝秀治/藤岡琢也/小林桂樹/丹波哲郎
三国連太郎

スト−リ−

 1902年(明治35年)に実際に起こった八甲田山雪中行軍遭難事件を題材にした映画。ロシアの脅威に脅かされていた日本軍は、寒冷地における戦闘の予行演習、また陸奥湾が封鎖された場合、陸路で青森から弘前へ補給することを想定して、雪中行軍を行うことを決める。弘前からは、徳島大尉(高倉健)率いる30数名の部隊が、240キロを迂回して八甲田山を超え、青森へ行軍。また青森からは、神田大尉(北大路欣也)率いる200名を超える部隊が、そりによる輸送演習をかねて、八甲田山を超えるルートを行軍することになる。徳島と神田はそれぞれの計画を確認し、行軍の途中、八甲田山の山中での再会を誓い合う。徳島は困難な行軍になると考え、少数精鋭の部隊で入念な準備をしていたが、神田の部隊は直前になって部隊編成が変更され、意思統一がはかれないまま決行の日を迎えた。
 訓練前の予行演習は快晴で、雪中行軍は「遠足のようだった」と兵隊たちは安堵していた。しかし実施当日、八甲田山は猛烈な吹雪に見舞われる。神田大尉は村人の声に耳を留め、行軍の中止を考えるが、同行していた上官の山田大尉(三国連太郎)は決行を主張。しかし、まずそり部隊が積雪に阻まれて立ち往生。持参した食糧の握り飯が凍って食べられなくなるなど、次第に困難な状況へと追い込まれていく。

レビュー

 撮影に3年を要したという、日本屈指の超大作パニック映画。とはいえ場面の大半は真っ白な猛吹雪の中を、顔も見えないフラフラの兵隊がよろめきながら歩いているだけで、撮影の木村大作は「こんな映画がヒットするのか」と思ったほどだったという。しかし予想をはるかに超える大ヒットで、北大路欣也扮する神田大尉の「天は我々は見放した」という台詞は、当時の流行語になった。  そんな日本映画史に名を残す一作を、2014年に亡くなった高倉健さんをしのんで初鑑賞。健さんをはじめ北大路欣也、三国連太郎、加山雄三など大御所陣の文字通り極寒での体を張った演技と、まさに命がけだったのではないかと思われるロケに、今更ながら驚愕した。

 冬の八甲田山は太平洋側、そしてオホーツクからの猛烈な風が吹き付ける極寒の地となる。そんな八甲田山の雪中行軍。山中の村人を案内人にし、村人たちの知恵を参考に周到な準備をする徳島大尉の部隊と、同じく周到な準備をして挑もうと心がけるものの、組織に割り込んできた上官に指揮系統を乱され、不完全な計画のまま決行せざるを得なくなった神田大尉の部隊。遭難事件の全容を映像化した、ということに加えて、こうしたヒューマンエラーの要素を多分に盛り込み、困難を乗り越えるために必要なものは何か、人間の力の限界や、組織の力学が乱れることの恐ろしさについて描き込んだことが、大ヒットにつながった。

  何よりも、驚かされるのが、画面で再現されるそのすさまじい猛吹雪の光景である。雪で視界が真っ白に覆われて、高度や地形の起伏がまったく識別不能となることを「ホワイトアウト」というが、まさにそのような状況が画面の中に現れる。特撮でもCGでもない。これを、実際に八甲田山の雪の中で撮影した、というのだから驚きである。暖かい部屋で見ていても、心底、体が凍るほどの寒さを感じる映像で、自然のもつ恐ろしい一面を垣間みることができた。それはこの遭難事件が、遭難に至る必然性を持つものとして描かれるために、最も重要なものである。

  あまりに有名な北大路欣也の台詞は、まさに期待を裏切らない、そういう台詞が出てしかるべき状況の中で語られる。この一言で、最後の気力で踏みとどまっていた兵士が、一人、また一人と倒れていくのが、あまりにも恐ろしい。
 しかし、もっと恐ろしいのは、こうした事態が、軍の組織の中で決定権を持つ人物の、無知、無謀、無計画、無責任によってひき起されるということである。そのために犠牲になるのは、名もない兵卒たちなのだ。

 雪の中で友との再会を幻想する高倉健の徳島大尉、そして遺体となった神田大尉との再会で涙する場面は圧巻。案内役の秋吉久美子に敬礼する場面は唯一心温まる、名場面。全員生還した徳島部隊が歌う軍歌「雪の進軍」が響くラストに震撼。まさに昭和を代表する名品である。

評点 ★★★★★

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