MUDDY WALKERS 

ガッチャマン 

ガッチャマン 2013年 日本 113分

監督佐藤東弥
脚本渡辺雄介
出演
松坂桃李/綾野剛/剛力彩芽
濱田龍臣/鈴木亮平 ほか

スト−リ−

 21世紀初頭。謎の侵略者によって、たったの17日間で地球の半分が壊滅的な被害を受ける。侵略者から地球を守るため、“石”という特殊な結晶体の力を引き出せる適合者が集められる。適合者は800万人に1人。施設に集められた適合者は特殊エージェントとしての訓練を受け、石を操る忍者、ガッチャマンとし て侵略者と戦うべく立ち上がる。

レビュー

 1970年代にお茶の間を席巻した、大人気アニメを今になって実写化。嫌な予感しかしないのだが、もしかして、ひょっとすると・・・と視聴してみた。  ちなみに、子どもの頃私もちょこっと見ていた原作は「科学忍者隊ガッチャマン」。タツノコプロが制作を手がけた作品で、アメコミのようなバタくさい絵柄が当時としては強烈な印象で、一度見たら忘れられないインパクトがあった。タイトルにあるように、科学の力を使った現代の忍者で、世界征服をたくらむ秘密結社、ギャラクターと戦う5人の少年少女である。5人はそれぞれ大鷲、コンドル、白鳥、ツバメ、フクロウという鳥にちなんだ名前を持ち、それぞれの鳥に模したコスチュームを身につけている。必殺技は「科学忍法火の鳥」で、ほかにも様々な科学忍法を繰り出して敵と戦うのである。放映は1972年から1974年で、私が6歳から8歳の頃だった。振り返ってみれば、我が家にカラーテレビが来たのが、私が4歳で滋賀から岐阜に引っ越した頃。それから2年後の作品である。カラー放送は1966年3月に回線網が完成し、1971年にようやくNHKの全放送時間が完全カラー放送となった、というから、この時期のアニメはカラー放送黎明期の作品だったということになる。確かに、色のインパクトが強烈に残っているような気がする。同時期に放映されていたのが、巨大ロボットアニメの原点ともいうべき「マジンガーZ」で、戦隊ものの「ガッチャマン」とロボット物の「マジンガーZ」がその後融合して、合体ロボアニメが出来ていったのだな、と今にしてわかった。

 この2作品は主題歌も強烈である。
「だれだっ、だれだっ、だれだ〜 空のかなたに踊る影 白いつばさの ガッチャマン〜」ではじまるガッチャマンの歌は「地球は一つ、地球は一つ Oh〜 ガッチャマン、ガッチャマ〜ン!!!」と異様な盛り上がりを見せて終わる。実は歌っているのは子門真人だったそうだ。「およげ!たいやきくん」だけではなかったんですね。
 マジンガーZは「空に そびえる くろがねの城 スーパーロボット マジンガーZ〜」ではじまる。最初のフレーズに、必ず番組名、主役となる戦隊やロボット名を入れてくるあたり、当時の作詞家は実にいい仕事をしていた。この最初のフレーズで、もうヒーローの活躍がイメージできて、ワクワクするではないか。

 そんな、歴史に名を残したアニメ作品の、実写版である。あの科学忍法、あの憧れのメカが、最新技術のCGと洗練された映像美で再現される! 往年のファンにとっては、それだけでワクワクものだ。期待しないワケがないだろう。冒頭の市街地でのアクションが、その気持ちを増幅させた。  しかし、である。その後の展開に「あれれ?」と思った。まちがって、違う作品を借りてきてしまったかな? なんか、エヴァンゲリオンみたいな話なんだけど?

 物語はご丁寧にも、ガッチャマンの5人がどのように集められて、戦うことになったか、ということから説明してくれる。それが、特殊な石の能力を引き出せる適合者で、何百万人に1人しかいない。ガッチャマンは、幼少の頃に選ばれて訓練された、まさに「選ばれし者」なのだ。・・・ということなのだが、それが、エヴァンゲリオンのなんとかチルドレンの設定とよく似ているうえ、ガッチャマンのコスチュームもエヴァンゲリオンのなんとかチルドレンたちの着ているコスチュームみたいで、原作の持っていたテイストがほとんど感じられないのだ。

 私は、マンガを実写化したり、古い作品をリメイクしたりするときの基本は「まぜるな、きけん」だと思っている。映像化したり、古い映像を最新技術で新しくしたりするときに、新しい要素を入れてしまいたくなるのが、クリエイターというものだ。しかし、なぜ元の作品を俎上に上げるのか。その作品に、ある一つの時代を作り、多くのファンを作り上げたオリジナリティがあってこそではないか。だから、まずそのオリジナリティに真剣に向き合い、そこから掘り下げて、必要な新設定があれば、そこから生まれたものを付け足していくべきだ。他の作品にあったような後付け設定を入れるのはあまりにも安直だし、そういうことをしてもすぐ観客に見破られる。

 正直いって、ガッチャマンの原作は古く、子どもの頃にテレビで何となく見ていただけでよく覚えていないことの方が多い。しかし本作を見て「ああ、こういう話だったな、こういうヒーローだったな、こういうところがカッコよかった」とは微塵も思わなかった。それ以前の問題として、とてつもなく話が面白くない。地球は宇宙からの侵略者ギャラクターに征服されているらしいが、隊員たちの日常は結構平和そうである。しかし征服者に虐げられているのなら、彼らをやっつけて自由を取り戻すのが正義ではないか。なのに隊員たちは自分たちの正義について悩み、隊員間の三角関係で悩み、戦いそっちのけで悩み、その悩みを台詞でぶちまける。そういう展開は近年の流行りかもしれないが、このタイトルに誰もそんなことは期待していない。子どもの頃カッコイイ、スタイリッシュだと思ったその感覚を、今に置き換えてみせてくれれば満足なのだ。なぜそういう基本中の基本を無視して、他のどこかで見たような映画を作りたがるのだろう。

 過去のビッグタイトルが、観客動員のためだけに浪費されて捨てられる。これは、文化に対する冒涜ではないだろうか。

評点  

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