MUDDY WALKERS 

不都合な真実 An Inconvenient Truth 

不都合な真実 2006年 アメリカ 96分

監督デイヴィス・グッゲンハイム

出演アル・ゴア

スト−リ−

 地球温暖化問題について、これを自らの使命に政治に取り組んできたアメリカの元副大統領、アル・ゴア氏のスライド講義を中心に編集された、ドキュメンタリー映画。ゴア氏が地球温暖化問題に目を向けるようになったきっかけ、政治的使命として扱うようになる過程をまじえながら、その気候変動の実態について、科学的な観測データをもとに、わかりやすく説明。地球温暖化が実際にどのように進行しているのか、そのために私たちは何をすべきなのか、を訴えている。

レビュー

 地球温暖化問題については、日本ではテレビや新聞の報道、また自治体広報などでもよく取り上げられるので、実際に何が起こっているか、どのような気候変動が起こっているかなど細かい点は別にして、比較的よく知られているのではないかと思う。冬の積雪が減った、真夏日が増えた、など身近な生活の中で温暖化を実感することも少なくない。ウォームビスやクールビズ、ゴミの分別やリサイクル、節電、そして車のエコ運転など、具体的な取り組みも行われている。
 それらはどこから始まったのかというと、1997年に京都市で開催された国際会議で採択された、気候変動枠組条約に関する議定書「京都議定書」を日本が批准したことによる。ところが世界最大の温暖化ガス排出国であるアメリカは、いまだ批准せず、地球温暖化対策に国として取り組んでいない状況にある。このような状況を背景に、アメリカの政治家で環境問題の論客として知られるアル・ゴア元副大統領が地道に取り組んでいる地球温暖化問題についての世界的な啓発活動をドキュメンタリー化したのが、本作である。

 ゴア氏はときおりユーモアを交えながら、地球温暖化の実態や原因について、科学的根拠をもとに分かりやすく解説している。科学者でなく政治家であるゴア氏が、なぜこのような地球環境問題についての講演を行うのか。本作を見る上で、その内容以上に大切なのはそこかもしれない。専門家は以前からこのことについて、警鐘を鳴らしてきた。しかしそれを取り上げ、民意を問い、政治の訴状にのせて解決のための政策を打ち出すのは政治家の仕事である。様々な問題について、いくら専門家が指摘しても、それが政治的課題として議論され、政策化されなければ、解決のための具体的な動きを取ることはできないのだ。そしてそれを政治問題化していくのは、政治家の使命である。

 学生の頃からこの問題に関心があった、というゴア氏にとって、それは政治家の道を歩ませる大きな動機の一つであったのかもしれない。地球温暖化問題の大きさと深刻さについて学ぶことができると同時に、これを政治問題化するために何からどのように取り組めばいいのか、ということを教えてくれる。私たちの国は、東日本大震災以降、原発事故とエネルギー問題という大きな抱えて、右往左往している。事実を隠蔽し、被災者や現場の人々の声を無視し、問題はすべて解決したかのような言説を振りまく政治家。それに迎合するマスコミと、あえて報じられることの裏をつつこうとしない、従順な民衆。私たちは、このままでいいのだろうか。民主的な政治のために、本当に必要なことは何なのか。そんなことを考えさせる、貴重な一本となった。

評点 ★★★★★

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