司令席の鉄仮面司令官が艦長に撤退を促す。ジェリド少佐率いるハイザック隊が善戦しているため、艦へのモビルスーツによる攻撃は免れているが、ザクマシンガンの砲弾が尽きた機体が次々と着艦してきており、スクリーンが破られるのは時間の問題である。さらにエイジャックスの主砲弾が艦橋付近に三発まとめて着弾し、艦橋の彼らは大きく動揺した。スクリーンを破ったディアスの投下した真空対応爆弾が炸裂し、艦は断末魔の様相を呈している。
「うぬぬ、せめてまともに動ければ、、」
動揺で床に放り出され、艦長席にしがみついたガディが唸り声を上げる。すでに速度の維持さえ不可能な状況になりつつある。やはりスラスターが全壊し、片肺運転で操艦に失敗してソロモン要塞に墜落した「スコルピオ」の悲劇が頭をよぎる。あんな不名誉な死に方はごめんだ。
モビルスーツ「ガンダムマークU」
ジェリド少佐機
ディアスはともかくガリバルディとの交戦は初めてだ。ジオン軍機の焼き直しのGMに毛が生えた程度の機体と認識していた彼は目前のソロモン機の意外と俊敏な動きに驚いた。ディアスより小型だが、チームプレーを組み果敢にジェリドに砲撃を加えてくる。最初に接近してきたディアスはやはり彼の機体に喰らいついており、ビームライフルによる砲撃でジェリドに回避運動を強いている。連携プレーに一瞬の隙を見出したジェリドは一瞬射線を掠めたガリバルディにレールガンを撃ち込んだ。
「バベッジ!」
コクピットへの被弾は免れたものの、機体の左半分を吹き飛ばされたバベッジが射出座席で座席ごと機体から脱出する。パイロットを放り出した機体は回転し、やがてエンジンに火が入って爆発した。
「この野郎!」
新米パイロットを撃ち落されたビシェッツがすかさず射線に割って入り、ジェリドの機体にライフルを撃ちかける。
「やっていられるか!」
レールガンの弾頭が尽きかけたのを見たジェリドはブーストを吹かすと、三機の包囲網から脱出した。戦艦にしろモビルスーツにしろティターンズの不利は拭いがたく、彼はハイザックの援護を受けながらやっとの思いで「ギア」に機体を係留した。情けない話だが、この四〇〇メートルの超巨大戦艦には二〇メートル超のRX−178を収容するスペースがなく、ジェリドも普段は内火艇格納庫かいっそ艦外に係留索を作ってもらって係留している。格納庫はすでに全壊していたため、ジェリドは係留索に機体を固定してハッチに飛び込んだ。
「艦橋に通してくれ! ガディ大佐に撤退を具申する!」
応急班が慌ただしく駆け回る艦内でジェリドは非常灯が点いた通路を艦橋に向かった。時折、戦艦の砲弾が着弾し、彼はパイロットスーツごと壁に叩きつけられる。
戦闘巡洋艦「エイジャックス」
ギア」が撤退を始めたのを見たマーロウ中将は艦長のブッダ大佐に攻撃中止を命じた。すでに戦艦は半壊しており、攻撃力を失った艦は煙幕とミノフスキー粒子を散布して戦場からの離脱を図っている。撃沈を主張する砲術長の意見を彼は退けた。
「クロスボーン艦隊が出撃してきているし、潜宙艦もある。長居は得策でない。撃墜されたパイロットを救助後、本艦は
シャリアに撤退する。」
すでにユニオン艦隊も後退を始めている。通信パネルでエイジャックスの勝利を祝ったユニオンの提督に、彼は軽く会釈を返した。
「クロスボーンを攻め滅ぼすことが作戦の目的ではあるまい。」
彼はそう言うとシャリアまでの運行をブッダ艦長に任せ、自身は早々に自室に引き揚げた。提督がいなくなった後の艦橋では、プレスコット中佐が艦長に声を掛ける。
「ユニオンの潜宙艦をここに配置していたということは、彼は最初からここまでやる気だったんでしょうね。」
「やる気だったんだろう。ザムス級戦艦くらいなら爆撃でたぶん事足りた。」
犠牲の大きな戦いだったが、と、航海長の指摘にブッダは窓外のフロンティアを見た。クロスボーンは滅びたとはとうてい言えないが、この宙域の脅威でなくなったことは確かだ。ドゴス・ギアはフロンティアへの航路を取らず、サイド2外であるヨシュア地峡に向かっている。おそらくグリプスに撤退し、艦の修理をするつもりなのだろう。ふと、ブッダは艦外に漂うガンダムの残骸を見た。
「RX−178を撃墜したという報告は入っていないが。」
艦長の手招きで残骸を見たプレスコットが窓外に小さく見える機体をしげしげと観察する。
「ネモでしょうか、しかしティターンズにはこの機体はなかったはず。」
後で飛行隊長に聞いてみよう、ブッダがそう言い、二人は顔を見合わせた。
RX−178「ガンダムマークU」 第九話で早くも登場し、その少しふやけた開発経緯が語られているマークUだが、この時代のありとあらゆる装備を満載した最強のモビルスーツである。本作のマークUはZガンダムのそれより全高が三メートル高く、大きさも二倍の機体である。本作の場合、ガンダム標準機GMはむしろ小さくなっているので(18m→16m)、これと比べると三倍近い大きさの巨人機である。技術が進歩しているので、ザク比で5倍以上のエネルギーゲインを誇った初代ガンダムよりさらに強大な機体であることは間違いない。
MSF−21「リック・ディアス」 第十四話で登場するディアスはジオン系のガンダムといえる機体である。やはり原作より大柄な機体であり、全高21メートルはほとんどマークUと同じで性能もほぼ同等である。マークUにはないクレイ・ライフルやアフターバーンなどの装備を持つが、電子戦性能はマークUの方がやや優れている。
MS−17FA「ガリバルディβ」 第八話で登場し、十二話のタイタニア作戦で活躍するガリバルディだが、以降の登場頻度はディアスにお株を奪われ、実はあまり高くない。正統的モビルスーツサイズの全高18メートルの機体で、大きさはディアスの約半分のソロモン艦隊標準機である。
良く誤解されているところであるが、本作の場合、登場するメカは原作のものも全て大きさ機能など翻案して用いている。リック・ディアス、ガリバルディはシルエットはジオン公国軍のMSに似ているものの、実は全く別物と言って良いフォルムであり、これを連邦やジオンと言うのはそもそも無理なデザインであった(元は重戦機エルガイムのヘビーメタルに遡る)。そういうわけで、作者はそういう機体は分類し直して用いることとしている。本作ではこれらはソロモン共和国軍の機体である。