参考掲示板 フラガ評論集作品第4話 (発言30以下未掲載分)
※斜線発言は掲示板の該当部分
[30]35〜39ページ「戦闘終了」2投稿者:フラガ投稿日:2009年12月11日(金)
副題は「トラジディ」
悲劇(tragedy)という意味です。まあ、地球連邦軍にとってはこの言葉通りの結果でしたよね。しかし、さらに続きが実はあったんです。これは結構ダークです。
「この戦いで連邦第9艦隊は直接戦闘(direct engagement)で派遣した兵力の半数を失うという大敗北(catastrophe)を喫した(4-36)。」
ま、前の記述読めば分かりますよね。「良く半分で済んだな」という感じで、あれで半分も残っていた方が不思議でしょう。
「残った艦も損傷し、戦闘に耐えうる艦は無い。」
事実上は全滅でしょう、やっぱりという感じです。
「戦闘物資もそれを運ぶ輸送船が全て沈められたため」
ある意味、これに乗っていた人がいちばん気の毒です。ほとんど虐殺でしたから。
「散り散りになって逃走した残存艦もエネルギーの不足から各所で降伏」
結局、第9艦隊はバカな提督たちが個人プレーに走ったために、本来いちばん守らなきゃいけない輸送船とかジュピトリスとかが丸裸にされてしまったんですね、いくら軍艦があっても燃料武器弾薬がなけりゃ手を上げるしかないわけです。たぶん、最初からこういう作戦だったんでしょう。
直接戦闘(direct engagement)でも負けたために、指揮官もこんなに死んでます。しかし、彼らの処遇については一言言いたい。
キムさん・トウさん(司令・参謀)→捕虜
ジーン・コリニー→戦死(2階級特進:准将→大将)
ステファン・ヘボン→戦死(2階級特進:准将→大将)
ロッキー・郷→戦死(2階級特進:大佐→中将)
キムさんトウさんの捕虜はまあ良いでしょう、ある意味被害者の彼らにとっては、この戦いはこれで殺されてはたまらない的なものがありました。しかし、コリニー、ヘボン、ロッキーが2階級特進に値するかといえば、描写を読む限りそう思う人はいないでしょう。
一人落ち延びたナカッハ氏も生きては帰れませんでした。
「唯一生き残ったナカッハ・ナカト少将も、地球への帰還途中に反乱が起き、火星付近で艦橋勤務の一兵士に刺されて命を落とした。」
「公式報告では、ナカッハが刺殺された理由は敗戦のストレスによる彼の兵士虐待(abuse)によるもので、戦闘が原因のものではないと認定されている。」
彼は戦死ではなかったので2階級特進せずに終わったのですが、負けた後も兵士を虐待する上級指揮官、レダ後の逃避行の陰惨さを感じさせます。これ本気で書いたらUCなんかよりも暗いですよ。ま、この作者は書きませんがね。そして、彼らに付き合った部下たちも無事では済まなかった。
「第9艦隊進発当時5隻の主力戦艦(battleships)も、2ヶ月後、地球圏に無事にたどり着いたのは『アムルタート(Amurtart)』ただ1隻だけでしかなく、残りの艦は全て航行不能で遺棄されるか、針路を誤って宇宙の深淵に消えた。」
「『レムリン(Lemlin)』の沈没は確認されていないが、土星方向に飛行しているのを目撃された姿を最後に消息を絶ったこれは喪失と判断されている。」
描写を読むだけで戦慄するような第9艦隊の後日談です。結局、この戦いでの連邦軍の死者は2万名、同盟・ジオンは362名ということですから、戦いで生き残った半数の艦と乗員にも、その後には過酷な運命が待ちかまえていたわけです。そういうことをあえて書くという、この作者の姿勢は通常のこの種の小説ではまず無いことです。
さて、ラストの同盟艦隊に行きます。マシュマーがアイスノンを額に当てています。
「艦医からもらった冷却シートを彼は額に当てた(4-38)。」
知恵熱でしょう。しかしこの作戦を考えたのはハマーンちゃん(19歳)です、マシュマロ(31歳)は彼女の指図に従って肉体労働していただけです、頭使ったのかコイツと思いますが、それでも彼の脳のキャパシティには結構来るものがあったようです。ハマーンちゃんの末恐ろしさを感じますが、マシュマロの方は早くも限界です。その後50話続く彼の引きずられ人生のこれが始まりです。同盟艦は禁酒とかほざいていますが、戦艦レイキャビクでは内ゲバを鎮めたサド艦長が酒盛りの計画を立てています。このザルっぷりが同盟軍の同盟軍たる由縁でしょう。
いずれにしても、やっと終わりました。サドとハイデル将軍が次の話で何か良からぬ企みをしそうなムードはありますが、「レダ星域会戦」はこれでおしまいです!
フラガでした!
[1]インターセプション投稿者:越川紀彦投稿日:2009年12月 5日(土)
辞書で調べましたが「通信傍受」という意味ですね
「ちなみに「ガイア大虐殺(Gaia massacre)」とは、一年戦争末期にサイド2で連邦軍部隊によって引き起こされたとされる事件である(4-17)。」
福井UCが「ジンネマン氏の過去」ということで微に入り細に入り書いていたから入れた、じゃないですね。こっちの方が早いんです。ただ、前はサイド5でした。「ガイア大虐殺」は別の話でしたから、どうもまとめたようですね。どんどん第9艦隊が悪人の集団になっています。
新しく加わった描写だと思いますが、私が気に入ったのはここ。
「「このレイプ野郎」と小声で言いかけたアイルトン中尉の口をマーロウは両手で塞いだ。この話題はここではセンシティブすぎる。アイルトンはサイド5出身のパイロットで、一年戦争当時は小学生だった。艦橋では肩身の狭い元連邦士官とは裏腹に、ジオン出身者は「ほら見ろ、やっぱり」と薄笑いを浮かべている。これ以上喋るなナカッハ(4-18)。」
同盟軍はジオンと連邦の混成部隊だということが良く分かる描写です。「ガイア〜」なんかで女性をレイプしてどうのと自慢している第9艦隊の面子ですが、これは同盟軍にいる「元地球連邦軍」の方々(マシュマーが典型)には実に気分悪い。でも、ジオン出身の方には「ザマを見ろ」なんですね。正直、私はこういう陰惨な話はこのくらいで良いと思います。「この話題はここではセンシティブすぎる。」という言葉も良いですね。深入りしたら一触即発、彼ら同盟軍がどういう集団か分かる描写です。
「聞くまでもあるまい。この戦いでどちらに正義(the righteous)があるのかは、この通信を聞くだけでも自明のことだ。」
第9艦隊を迎撃する根拠に疑問があるという話は利通さんとか作者の小林さんも度々触れていましたが、私はそんなに細々とその「根拠」を書く必要は無いと思います。実は心配していました(杞憂でしたが)。上で良いと思います。これは理屈の話じゃありません。「正義と悪」の戦いです。
例えば「08小隊、ユニコーン」の小説なんかでレイプの場面なんか執拗に描いておきながら「裁かれもしない」、それが大人の世界だというような福井みたいな腐った考え方にはウンザリします。それに対し、作者の小林さんはこの場所では悪を裁く価値観を明瞭に示しています。私はこれで良いと思います。
[39]25〜30ページ「エスチュアリー」投稿者:越川紀彦投稿日:
X運命研究家の越川です、私の珠玉のレビューは以下のスレッドを読んでください。
http://8646.teacup.com/anotalez/bbs/t17/l50
「『ジュピトリス』、暗礁宙域を抜けました、ジャミング無し(4-25)。」
やっぱりこの場面ですよね。X運命、リバなど厨作品専門家の私ですが、改めて読むと非凡さが分かります。なぜか、この25ページから27ページのたった3ページで小林さんの場合は「全部分かる」んです。何がというと、この戦いの組み立てがです。
「測距レーダー作動0.5秒。測的と同時に砲撃。目標、空母『ナイル』。」
実は小林さん、この場面に来るまでに作戦の説明を一度もしてません。作劇だけで状況説明をやっちゃってるんですよね。でも、この辺を読むと実はジオン艦隊を囮にして第9艦隊を分散させ、待ち伏せして各個撃破する作戦だなとすぐ分かります。同盟艦隊だけじゃなくて、先に戦っているハマーン艦隊やマーロウ艦隊の戦いの意味が全部ここで分かってしまうんですよ。彼は作戦の講釈なんかしていません。それでも、ここで分かるんです。
「測的完了、距離21,530メートル。」
厨作品の場合は、まず戦闘それ自体が何話も続いて長いですし、台詞なんかもこの作品より何倍も多いです。ホント、こんなのしか無いのかとウンザリするのですが、この作品は戦闘時の台詞がホントにシンプルです。ほとんど一語、一文で済ませてしまっている。これが却って凄味があります。ラノベじゃなく、歴史物や戦記物の持つ迫力があるんですよね。
「私が仕掛けるとしたら、この出口(estuary)で仕掛けるね(4-24)。」
敵を見るにしても、厨作品みたいに「○○は恐ろしい相手で一人でプレッシャーが戦局が」という長々しい敵認識はこの作品では皆無です。互いに理知的に計算して、各々が囲碁の達人のように向かい合っている感じがします。情勢だけが粛々と進んでいて、次ページの結果に繋がっていく、これって普通の戦記物なんですよね。
「艦針路280度、全艦右砲戦! 目標、巡戦『アリーガル』!(4−26)」
フラガ式の5ページレビューで行きますが、とりあえず範囲の25〜29ページで感想を述べますと、ホントにまともで常識的な戦いをしてます。それと、これはだいぶ前のゲストブック討論で誰かが指摘したことですが、この作者は「同じ武器を使って」敵に突進することをまるで恐れていません。これって厨作品にはまず無い態度なんですよ。算段を尽くした後で自分自身も駒として突撃させる、指揮官の態度だと思いますし、それに見るところ、彼らの戦いは決して絶対有利な状況じゃないです。
「自分は頼むべからざる者(die Unzuverlassigkeit)を頼んだのかもしれない(4-29)。」
つい昨日までX運命のレビューをやっていましたが、この部分が思い出されました。果断さが、やっぱ違うんですよね。シンプルで、我々にも常識で分かる話で進めています。「ニュータイプ」も「魅了能力」も「サテライトキャノン」も出てきませんが、ファーストも実は基本的な部分はそれだったと思います。ア・バオア・クーやソロモンはアムロが勝ったんじゃないんです、地球連邦軍が勝ったんです。そこには「物量の優越」という子供でも分かる論理があった。登場人物の台詞は短く、ヘドが出るような台詞はありません。しかし、改めて読み返してみると、この作品のマシュマーやハマーンの方がX運命のキラやラクスやガロードよりよほど勇気があったんじゃないか、そんな気が、実はしていますね。ハマーンなんかは打たれるだけの作戦で6時間も粘っています。こんな人、厨作品にはどこにもいませんよ。
[36]第4話レビューを終えて(タクティカル編)投稿者:フラガ投稿日:
この作品の魅力は人それぞれだと思いますが、33レビュー(私を誉めたい!)を書いた私の印象としては、やっぱ「バランス」でしょうね。まずはタクティカル編。
この作品の世界は、いわゆる「ファースト」の続編としては本当にありそうな話だと思います。作者の小林さんは「プロローグ」で短く書いていますが、これ、この作品全編を規律する超重要文書ですよね。作者は「この範囲でしかやらないよ」と言っているわけですが、本当にその範囲でしかやってない。「ファースト」の続編の方がむしろ超常現象の嵐だったことを考えると、この作品のストイックな姿勢はむしろ例外です。
でも、作者はできる範囲でやれることについては全然容赦してない。戦艦は木星まで飛んでいきますし、1〜4話の展開なんかすごいですよね。普通の作者がキャラ紹介なんかやっている話でいきなり大戦争です。
レダの戦いのレビューをやっていて気づいたんですが、実は書きながら「こんな話で勝てっこない」と思ってはいたんですよ。だって地球連邦軍が何十隻とか百機とかいう数なのに、私が書いていた節々での同盟軍とかジオン軍とかの数って数隻とか十機くらいの話でしょ。あの戦いの場合、同盟とジオンの両方合わせても連邦艦隊の半分くらいしか無いんです。
なので、そりゃあハマーンさんひどい目に遭っているけど、マーロウさん果敢に戦っているけど、これ、連邦軍がもう少し利口で少し早く戻ってくるとか、キムさんのところにあと10隻もあれば、と、いうのはあったんですよね。最初はそういう微妙な偶然が重なって(主として全能の作者のせいで)、ホントは勝てない話なんだけど、小説なので勝つ話かなと思っていたんですよ。最後の「第9艦隊の顛末」を読むまでは。
ところが、最後のあれ、訥々と書いてありますが、第9艦隊の末路の悲惨っぷりを読むに、これはやっぱり「輸送船団にマシュマーが戦艦を突入させたせいだ」と気づいたんですね。あと、ジュピトリス、このせいで第9艦隊の戦艦は1隻沈んだだけなのに、護衛船も何十隻も残っていたのに、結局燃料切れで降伏するしか地球に逃げ帰るしか無くなったということが分かった時、ハッとしましたね。「この作者、最初から第9艦隊全滅なんて考えてない」と、最後の方の文章に「第9艦隊の戦略的価値」は消滅したと書かれていますが、狙いは最初からそれで、この戦いで第9艦隊が10隻しかやられなくても、これさえ達成すれば勝ちだったんですよね、この戦いは。
それならマシュマーやハマーンでもできるなと気づいたので、会戦の話をもう一回見直したのですが、まとめて見ると全部その目的に収斂するように書かれているんですよね。戦略に無理が無かったんですよ。そこでさらに気づいたんですが、作者は主人公の二人、若いけれども指導者的人物の活劇を書くことはそれはそれなりにしていますが、実際だったら当然あるだろう、彼らが率いている無名の人物の人命にも関心があるのだなと分かりました。ハマーンは6時間も連邦軍と戦っているのですが、良く読むと最初に攻撃してすぐに艦隊を引いているんですよね。護衛船なんかも下げている。これは兵隊を傷つけない戦い方で、彼女はマシュマーが「戦略的目的」を達成するまで粘ることが自分の仕事だと思っていたんでしょうね。
そういうことを作者はクドクド書いてません。彼は彼女や彼の狙いが何それでボクって頭良い的なことはまず書きませんね。最後の方でハマーンがマシュマーに怒るシーンがありますが、その理由というのも「自分を助けなかった」ではなくて、「打ち合わせ通りの行動をしなかった」で怒っているわけです。その通りに動いてくれなければ、彼女はただ痛めつけられるために出てきたにすぎませんから。それで怒っているわけです。助けなかったことではなく、自分の犠牲をムダにしたから怒っていると分かるわけです。
マシュマーの方はマシュマーの方で、彼は結構奥の方で待ち伏せしているわけですが、ハマーンがある程度痛めつけられることは承知してるんですよね。その様子と連邦艦隊の隙を両天秤に掛けていて、最後に「これ以上の犠牲を出すわけにはいかない」と言って攻撃に出るわけです。その攻撃の仕方も徹底的に弱い船ばかり襲うといったやり方で、強い船(戦艦とか)が来たら逃げてしまいます。この場合はそれで良かったんです。なぜなら、最初に出てきたハマーンの艦隊と戦うのに、輸送船を引き連れて戦う提督なんているはずありませんから。彼女の前に出てくるのは戦艦ばかり、それは連邦の提督が「ああいう」面々であろうと無かろうと同じだろうと思いますから、最後になって彼の前にやってくるのが「輸送船ばかり」というのはかなり高い確率であったものでしょうね。
レビューを書きながら第9艦隊の艦数を数えていたのですが、ハマーンに対していたのが40隻くらい(もっといた)、マーロウに引き回されていたのが20隻くらいですので、最後の時にマシュマーと相対したのは10隻程度の護衛船でしょう。小林さんはなぜか撃破する場面は書いているくせに輸送船や工作艦を第9艦隊の隻数に含めていない(書いてあるのは全部戦闘艦)のですがこれらはやっぱり10隻くらいいたと思います。となると、最後の戦いでいたのは戦艦1、空母1、護衛艦10、輸送船・工作船10くらいでしょうね。それに対してマシュマーの戦力は引き算すると戦艦1、護衛艦7ですからほぼ互角といった感じです。結局、この戦局を作るために全部の描写があるんですよね。これならかなりの確率で勝てそうだと。互角の戦いに勝って、輸送船を全部沈めればジ・エンド、スマートだなあと思いました。
「ミノフスキー」という単語が1〜4話には出ないのも特徴で、たぶん木星は広すぎて、そんなものの散布が意味無いのかもしれません。第1話は大気圏の上層ですし、第4話は千キロ単位の空間です。そこで手堅い戦術を組み立てて、主人公達に冷静に実行させているというのは見応えがありましたし、この作者の唯物主義的態度はレビューしていても腑に落ちるものでした。戦略とか戦術というのは素人でも分かるようなものが理想とは良く言われますが、こういう作品でそれを実践している例は少ないと思います。
実はこういうことを考えながらレビューを書いていたのですが、もちろん、この作品には人物にも魅力があります。その辺は次で書きますね。
フラガです。