MUDDY WALKERS 

銀河鉄道物語

 銀河鉄道物語(2003)各話レビュー

 第16話「セクサロイド」(銀河鉄道254号遭難事件)


あらすじ

 銀河鉄道の経営するカジノ列車グレイスウェルシーが襲撃され、海賊に襲われた列車は惑星グインに墜落する。救援に向かったシリウス小隊は金属を腐食させる惑星に苦闘を強いられる。アンドロイド・ユキは救助艇から転落した乗客を救うため、惑星グインの地表に飛び降りる。

 Aパート: カジノ列車襲撃、惑星グインの地表
 Bパート: 惑星グインのユキ、ユキの秘密

コメント

 銀河鉄道物語を見ていると、囚人列車を脱走したり、カジノ列車で欲望に溺れる人間よりもロボットの方がまともじゃないかと思えることがあるが、今回の主役はロボットである。まず、破産した大山を慰める254号のロボット車掌、同型ロボの多くの例に漏れず確かな人間観察眼を持ち、悪い女に騙され続ける大山の身を案じている。そしてシリウス小隊の医療アンドロイド・ユキ、任務に忠実かつ無私な彼女は今回も身を挺して乗客の命を救う。そして今話で特筆すべきは彼らに助けられるダメ人間大山である。「ロボットのために発車を遅らせたのか」という乗客を大山は全力で張り倒す。
 トチローは以前は富山敬が演じており、ある意味松本自身とも言えるこのキャラは生半可な声優では務まらない難しい役だが(ゲームの寸劇など見ると分かる)、この物語のトチローである大山を演じるのは安原義人、大山はこの声優あってのこそのキャラと言え、芸歴の長いベテラン安原の緻密な演技が話に奥行きを与えている。大塚周夫や野沢那智など新人に混じってこういうベテランの演技が見られるのもこの作品の醍醐味の一つである。
 一つケチを付けるとすれば、ユキが大山に話した彼女の製造秘話は要らない話で、銀河鉄道物語の世界観は宇宙戦艦ヤマトと異なるし、「森雪に似せて作られた」というが、ヤマトの雪は銀鉄のユキよりよほど人間臭い女性である。有紀学が古代進に似ているというこじつけとも相まって、この時代の松本零士の迷妄に付き合ったのか、あるいは松本自身が直接指図したのか、話に少し苦々しい、蛇足と言うべきものを加えている。
(レビュー:小林昭人)

今週の被害車両・施設

  ■銀河鉄道254号・・・惑星グインに不時着し全損

作品キャラ・用語紹介

カップ酒「悪酔」 
 カジノ列車のバーに常備されているカップ酒。16話でロボット車掌が大山に供しているが、他に高価そうな酒が酒棚に並んでいたにも関わらず、「いつものあれ」として出されていたことから、おそらくカジノで負けた客向けに銀河鉄道が提供している安物アルコール飲料。飲料の性格上、この安酒は乗客に無償で提供されているものと思われる。なお、まともな醸造業者で自社の銘酒にこんな名前を付ける酒蔵はないと思われるので、勧めた車掌自身が飲用しなかったことや、名前からして、おそらくはディスティニーの操車場でホイットマンらがエイリアンの体液やSDF用燃料などまともでない材料から作った銀河鉄道オリジナル飲料と思われる。銀鉄のPBブランドなので、上位銘柄として「運命」や「レイラ」、トリップ酒として「シュラ」があるか否かは定かではない。

グイン星原生生物  
 どこかの映画のタチの悪い模倣のようなグイン星原生生物は機械類を全て腐食させるグイン星で生き延びている身長2メートルほどのエイリアンである。激しく人間を襲い、シリウス小隊やユキを手こずらせたものの、その生態は不明で特に食人していた様子もなかったことから草食性の生物と思われる。救命艇でブルースに撃ち落とされたり、有紀学にコスモガンで撃たれたりしていたが、凶悪な見た目と異なり、特に人間に対して悪さをしていたつもりもなさそうに見えたので、254号の漂着はこの生物にとっては災難だった。

松本零士の妄念  
 この作品が制作されていた2003年は原作者の松本零士は宇宙戦艦ヤマトを巡る西崎義展との法廷闘争の末期で、同年には西崎との和解が進められていた。そのため、銀河鉄道物語はこの時期の松本作品にしては松本の影響が小さいが、他の作品では見られたこととして、松本は宇宙戦艦ヤマトを初めとする彼が関わった諸作品を一つの世界に統合しようとしていた(スター・システム)。この原作者による作品破壊で害を被った作品は少なくなく、999(エターナル・ファンタジー)や大ヤマトなど、原作とは似ても似つかないものにされてしまった作品もある。
 銀河鉄道999と世界観を同じくする本作もその制作途上で松本により、やれ「ハーロックを出せ」、「ヤマトを出撃させろ」など圧力があったことは想像に難くなく、現に2部ではメーテルと鉄郎、ヤマトが出演しているが、1部においてはこういう作品世界を破壊する妄動はスタッフにより極力抑えられている。16話でトチローに似た大山を出したり、10話と矛盾するユキの製作秘話など入れたのはスタッフによるギリギリの譲歩と言うべきで、松本も西崎との和解に忙しく、介入がこれ以上進まなかったことが作品に幸いした。
 なお、筆者の理解では銀河鉄道物語のユキはシリウス小隊に配属されている医療ロボットのユキで、それ以上でも以下でもないという理解である。

今週の殉職社員

ロボット車掌254号 CV:魚健
 カジノ列車グレイスウェルシーを仕切る254号は様々な男女の欲望の渦巻くきらびやかな列車の中で一人淡々と任務を遂行している。列車の性格からしてこの列車には人間車掌のほうが適当だと思えるが、人間と違い金銭欲がなく、また破産した大山に同情するなどカジノの胴元らしからぬ態度で大山とは乗客と車掌以上の友情を育んでいた。惑星グインに墜落した際に全身を腐食菌に侵され、錆朽ちながら機能停止するという悲惨な死に方をする。彼の死に対して有紀学とブルースは敬礼を送った。グレイスウェルシーが多数の乗客の乗る列車であったにも関わらず、元々耐性のない機械人間以外に犠牲者がなく、残った乗客も救援が来るまで秩序を保っていたのは、自身が腐食しながら最後まで乗客の秩序維持に努めたこのロボ車掌の存在が大きかったと思われる。なお、殉職した彼の制帽と254号の腕章は有紀によって大山に手渡されたが、制帽の方はともかく腕章は続くアンドロイド・ユキの二次遭難の原因となった。

カオルmemo

 人は古より、目に見えないものを信じ、生きる拠り所としてきた。愛、絆、そして誇り。それらすべて、目にすることも、触れることも出来ないものだ・・・。冒頭のナレーションの語る深遠さに心惹かれる話で、脚本はスリリングな展開を通して「見えないもの」に迫る筋立てとなっているが、残念なことに作画でそれが表現できていない。金属を腐食させる星に墜落したカジノ列車、救出のために着陸したビッグワン。シリウス小隊は制限時間6時間の中で乗員乗客の救援に当たる。そんな中、救命艇から落下した乗客、大山を助けるためユキがダイブし、そのまま行方不明になってしまう。ビッグワンさえ腐食が始まるギリギリの時間、学は仲間のユキと大山を救出するため奔走する。
 ここで見せなければならないのは、見た目の美しいものが朽ち果てるさまと、その中で目に見えない美しさが立ち現れるさまである。職務を全うして果てるロボ車掌(誇り)、自らを犠牲にして大山を助けようとするユキ(愛)、そして二人を捜して奔走する学(絆)。事業に失敗して目に見えるもの全てを失った大山は、彼らの見せたそれに希望を見る。それなのに、ユキの顔に一つの錆も浮かせられず、原生生物の体液で防護服が溶けるお色気場面にうつつを抜かす。そんな絵づくりをするスタッフは分かっていないとしかいいようがない。

今週のメンヘラ社長

今週もお休みです・・・



評点

★★★★ 不吉な点もあるが、人間の本性について考えさせる話。(小林)
★★★ 脚本の出来に作画が追いついていないのが残念。(飛田)

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