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An another tale of Z

 SF小説”An another tale of Z” 各話レビュー

第33話「クロスボーン強襲」

◇現代・0098〜ソロモン軍、クロスボーンを攻撃へ
クロスボーン・バンガードでは、ソロモンの艦隊派遣に不満を持つザンスカール党がソロモンからの旅行者を次々捕らえ、ギロチンで処刑するという事件が続発していた。すでに8人が処刑され、4人が捕らえられている。ソロモン共和国軍作戦部長のマシュマーは首相官邸からの命令を受け、報復のためクロスボーン・バンガード攻撃作戦を実行に移すことを決意する。その報は派遣艦隊にも伝えられ、潜宙艦を保有するサイド4ユニオン派遣艦隊のローラン提督は、マーロウに作戦への協力を申し出る。作戦のため、ソロモンからは第一艦隊の空母ガルーダがサイド2宙域に向かっていた。カリバルディ60機を対潜警戒に当たらせ、ヘルシング大佐の率いる40機のリック・ディアス隊でクロスボーンの要塞コロニーを攻撃する、という作戦である。

◇現代・0098〜ソロモン軍、作戦行動開始
ゲアリ中佐とともにクロスボーン・バンガードのコロニー、フロンティア01に侵入したビシェッツ中尉は、マシュマーの立案した作戦に従い、軍事施設のみを目標として攻撃し、潜宙艦基地をはじめとする軍事施設が次々に破壊されていく。編隊から離れて単独行動をとるマクガイア少佐は、病院に隣接するGミサイル製造工場を、病院施設の民間人を犠牲にすることなく破壊する任務を負っていた。彼は工場に向かうと、攻撃の手引きをする手はずになっている工作員からの発振信号を待つ。一方、ソロモン艦隊の攻撃を受けて、クロスボーン・バンガードとの防衛協定を結んでいるティターンズは、戦艦ドゴス・ギアを出撃させていた。指揮官はガディ大佐、しかし司令席には鉄仮面の男、ガロッゾ・ロナの姿があった。

【この一文!】
「ご協力いただけるのでしょうか?」
 ユニオン艦隊の戦闘技術には、上官同様、マーロウも深刻な猜疑を抱いている。役に立つのだろうか、それにユニオン艦が一隻でも撃沈されるのはマーロウも 困る。ユニオンは専守防衛の「非戦国家(ル・エタ・パシフィスム)」の国是を取っており、先のジオン内戦への介入も国内では反対の論調が強かったという。
 ただ、最近は代表のミシュランを筆頭に、「普通の国(ル・エタ・ムワィヤン)」を渇望する風潮があるようだが、国民性(ナシオナリテ)というものはそう簡単に変わるものではない。  要するに、ユニオン艦隊は実戦では役に立たない(ス・エスト・メディオクル)、と、いうのがマーロウの見方である。彼の不審をよそにローランは話を続けている。
「このエイジャックスが「ギア」と戦う際にも、周囲には一〇隻程度の潜宙艦がいるはずだ。貴官の艦隊もかなり有能だが、数は我々の方が勝っているし、空母も持っている。露払いは我々の方が向いていると思うがね。」
 露払いは良いが撃沈されるのは困ると言うマーロウに、ローランは首を振った。
「私は代表の艦隊派遣には反対していた。前回のジオン内戦もそうだったがね。しかし、軍人である以上、命令には従うし、目的達成のためには最善の努力も払うつもりだ。貴官の足手まといにはならない。」
 ローランの階級はマーロウと同じ中将(ヴィス・アミラル)である。ユニオン艦隊はソロモン艦隊より数が多く、ローランは艦隊指揮官(コマンダント)としては先任でもある。指揮権をどうするのかと尋ねたマーロウに、ローランは言葉を返した。
「実戦では、貴官が先任だ、私は貴官の命令に従う。」
 一〇歳以上年長の司令官の顔をマーロウはまじまじと見つめた。悪い男ではない。自分はこの提督を誤解していたのかもしれない、と、マーロウは思った。


▼ソロモン同様、アガスタ共和国の要請を受けて派遣されたサイド4ユニオン艦隊。紳士で人当たりの良いローラン提督はイザベル・バトレーユ大統領のお気に入りである。しかし、ユニオンは少々扱いに困る国だった。専守防衛を国是とする非戦国家で、その艦隊の実力も未知数だったからだ。だから実のところ、アガスタ大統領も、ユニオン艦隊をそんなにあてにしているわけではない。しかし、ソロモンがクロスボーン攻撃に向けて動き出そうとする中で、ローラン提督はマーロウに作戦への協力を申し出る。援軍どころか足かせになりかねないと困惑するマーロウだったが、軍人としての決意を語るローランの言葉に心を変える。同じ「宇宙の男(ゼーファーラー)」としての矜持を感じたのであろうか。こうしてソロモン艦隊と合同で作戦を開始する実力未知数のユニオン艦隊の活躍も、この33話を盛り上げてくれるエピソードの一つとなった。

第34話「副大統領救出作戦」

◇現代〜0098・副大統領救出チーム
サイド2を訪れていた地球連邦のフォスター副大統領の乗った政府専用機「フェデレーション2」がハイジャックされたという事件の一報がソロモン国防省に入る。ハイジャックされたフェデレーション2は10機程度のデナンゾンに取り囲まれ、船体には核爆弾がセットされているという。地球連邦の第八艦隊分遣隊のハルバートン提督からは、ソロモンの他エウーゴ、ティターンズに協力要請が出されていた。これを受け、エウーゴからはクワトロ・バジーナ大尉、エマ・シーン少佐らが、ティターンズからはジェリド・メサ少佐、カクリコン・カクーラ少佐らが、そして連邦軍からはアムロ・レイ少将が馳せ参じ、救出チームが結成される。フェデレーション2には、ハイジャック犯の目を逃れて副大統領警護官のアッバスが密かに情報を送っていた。それを頼りに、ハルバートンは作戦を立案。成否は最も重要かつ難度の高い任務を負ったアムロとクワトロにかかっている。

◇現代〜0098・フェデレーション2
フェデレーション2をハイジャックしたのは、クロスボーン・バンガードの過激派リガ・ミリティアだった。リーダーのジン・ジャナハムは人質解放の条件として、オーブル結成同盟の撃滅、エウーゴの解体、サイド2の内乱に介入している諸勢力の即時撤退など、限度を超えた無茶な要求をつきつけてきた。しかも要求が受け入れなければ、核爆弾で船を爆破するという。船内放送でこれを聞いた副大統領のフォスターは密かに死を覚悟するが、ジャナハムは交渉に当たるハルバートン提督に、要求についてつい本音を洩らしてしまう。救出を待ちながら、フォスターはリガ・ミリティアの若い兵士の話に耳を傾けていた。

【この一文!】
 目的はやはり政治的なものよりも金と船か、ネビュラストリーム社のXV─12は外惑星航行も可能なエグゼクティブ向け小型船で、多分イオにでも逃げるつもりなのだろう。残念なことに、フェデレーション2を含むトラテガー級の宇宙船には外惑星航行能力はない。
「ラミアス大尉、明日の朝、もう一度勧告を行う。作戦決行まで連中を暴発させないようにしなければいけないからな。それと、艦隊の糧食を少し分けてやれ、明日の三時頃で良いだろう。私は少し休む、何かあったら伝えてくれたまえ。」
 ハルバートンはラミアスに指示をするとパネルに表示されているNR―22型核爆弾の構造図を見た。すでに作戦部隊には説明してあるが、これはコロニー爆破用の大型水爆で、爆発すれば半径一〇キロは吹き飛ぶ。爆弾の先端に起爆装置があり、中性子還流用のパイプが露出している。この二つを吹き飛ばせば起爆はしない。しかし、これらはたった数十センチの的でしかなく、大変な技量とタイミングが必要だ。この爆弾が船の機関部の上下に据え付けられている。

 あの二人なら、やってくれるに違いない。


▼副大統領救出のため、普段は剣戟を交える諸勢力のエースが集結して“ドリームチーム”が作られるという心弾む展開。その立役者がハルバートン提督だ。並みいる将官を差し置いてちゃっかり司令官の座につくと、凶悪そうなハイジャック犯に向かって安っぽい刑事ドラマのような説得を始める。苛立つジャナハムはすっかりペースを狂わされ、ついに本当の要求をバラしてしまう。一筋縄では行かない人材ぞろいの連邦軍につい感心してしまうが、この演技派提督の描いたシナリオは、“ドリームチーム”があってはじめて成り立つものだ。核爆弾を無効にする、たった数十センチのターゲット。「あの二人なら、」が誰であるかは、もちろんご承知の通りだ。サービス精神旺盛に見えるこの提督の、最高のキャスティングを楽しもう。

第35話「贖罪の代償」

◇現代〜0098・ハイジャック事件
ハイジャック犯、ジャナハムの要求に応えて用意された惑星間航行艇ネビュラストリームXV-12が、自動操縦で彼らの乗る連邦政府専用機フェデレーション2に近づいている。しかし突如、その進路を妨害するかのように、ソロモンの戦艦エイジャックスが猛然と加速する。「人質が惜しくないのか!」と怒り狂うジャナハムに、マーロウは「ソロモン共和国はテロリストには屈しない」と言い放つ。ソロモンは、船の引き渡しに同意できないようだとみた連邦軍のハルバートン提督は、ジャナハムに、エイジャックスをデナンゾンで威嚇してみてはどうか、と勧めた。それに従い、デナンゾンはフェデレーション2を離れてエイジャックスに向かってゆく。しかし、それこそハルバートンの思うツボだったのだ。そのとき、アムロとクワトロはリック・ディアスで“ターゲット”に向かっていた。

◇現代〜0098・事件の波紋
ハルバートン提督のシナリオと“ドリームチーム”の活躍により、ハイジャック事件は解決された。ドリームチームのうち、連邦軍とエウーゴ、ティターンズは元々はすべて連邦の傘下にある組織である。このことに目をつけた第八艦隊のアマルティア・セン提督は、潜宙艦による攻撃で危険度の高いサイド2航路の防衛を、現在の第八艦隊の所轄からエウーゴに移管しようと画策する。その結果講じられた措置は誰もが納得するもののはずだったが、ひとりティターンズのマウアー・ファラオを悲しませ、さらにその人生を変えてゆくものとなる。一方、事件の背景にはクロスボーン・バンガードの暗躍があるとして、地球連邦のトム・バンカー大統領は、第三艦隊のモーリス・ルグラン大将にクロスボーン・バンガードの制圧を命じるのだった。

【この一文!】
 「クロスボーン・バンガード(ガイアの尖兵)という奇妙な名前を君がフロンティアの国名としたのは、君が旧ガイアの科学と技術、そして文化を温存し、いつか来る再統一の日に備えていたからではなかったのかね。」
 マックスが言った。
「フォア・ザ・ガイア(ガイアのために)。」
 サルラックの言葉に、マックスが頷く。
「ガイアは一つだ(ガイア・イズ・ワン)。」
 彼にそう言ったバートンがマックスの周囲に集まってきた一同に手をかざした。
「我らは一つの国、一つの民だ。」
 マイッツアーは一座の中央にいるマックスに問い掛けた。
「再び統一(ユナイト)されるとおっしゃるのですか。いつ、誰が、どうやって?」
 オーブルか、正統政府か、それとも連邦か、マイッツアーは彼の言葉に苦笑しているバートンとサルラックを見比べた。彼の問いに彼らは首を振っている。
「連邦でもオーブルでもない。」
 バートンとサルラックの助けを借り、パシフィックの統領が車椅子から立ち上がった。
「もっと大きなものになる(マグニ・ノミニス・アンブラ)。」
 車椅子から歩み寄り、マイッツアーの手を取ったアナトール・マックスが言った。


▼宇宙要塞コスモ・バビロニアの閉ざされた一画で、最期のときを迎えようとしているマイッツアー・ロナ。サイド2宙域で猛威を振るったクロスボーン・バンガードだったが、ソロモンによる強襲で軍事施設を破壊された上、テロリストを使って地球連邦副大統領を襲った報復として、地球連邦軍の猛攻を受け、今や国家そのものが風前の灯火となっている。そんな中、自決を覚悟するマイッツアーの前に、かつてパシフィック政府でガイア統一を共に担いながらぶつかり合い、分裂していくことになった有志たちの幻が現れる。科学力を武器に、奇抜ともいえる国家体制を築いたマイッツアーだったが、その心の奥底には、師と仰いだ政治家アナトール・マックスから受け継いだ志があった。有志たちの前に隠されてきたその心情を吐露するマイッツアーに、マックスは預言めいた言葉を言い残す。マックスの理想と彼らの再統一の夢は、いつ、誰によって、どのように実現に導かれるのだろうか。一つの国が滅ぶとき、別の新たな道が拓かれてゆく。

第36話「明日への道」

◇現代・0098〜ソロモン/ラ・コスタ船上
ソロモン共和国のリーデル首相は、クロスボーン・バンガードの事実上の崩壊を受け、サイド2領域の諸国の代表を集めた国際会議を開催する。混迷を続けるサイド2の今後を模索しようというのである。会場となったオルドリン市のホテル「ザッハ」には、サイド4ユニオンの首席代表ジルベール・ミシュランやオーブルのウズミラ・ブリャーヒン、正統政府のハデス大佐など主要各国の代表が集まっていた。サイド6フォルティナの外務次官、カムラン・ブルームが議事進行を務め、会議は開幕する。しかしオブザーバーのミシュランが参加国を批判したり、ハデス大佐の有意義な提案をウズミラが断固拒否。会議はリーデルの思惑とは裏腹に、内戦当事国双方の和睦にはほど遠い雰囲気になってゆく。
一方ジオン公国の公王ハマーン・カーンもまた、自国の今後を模索するための会議を招集していた。議場となるのはマシュマーの姉、マグダレナが保有する専用船ラ・コスタ。外惑星植民地を視察しつつ、ジオンは今後どう進むべきか、改革の道筋を検討していこうというのだ。このユニークな外遊に同行し議論に参加することになったジュグノーは、その充実した日々に、かつてジオン・ダイクンの運動員をしていた頃の情熱が蘇ってくるのを感じるのだった。

◇現代・0098〜ジオン公国ズム・シチ
女王が旅立った後のズム・シチでは、再び元婚約者マチアス・フォン・フリッツが動き出していた。大蔵大臣の兄ギュンターの端末からハッキングした資料を元に、彼はクーデター「後」の改革案を練っていく。8ヶ月前のコルプの反乱時には女王側につき、ニューヨークのジオン大使館占拠で功績を上げたジオン陸軍のゴットン・ゴー大佐のもとに、軍務大臣のゲルハルトが訪れる。そして不祥事を起こしたせいで生活が困窮している彼に、「もっと公平な待遇にするために、宮殿の掃除が必要だ」とクーデターへの参画を呼びかけた。

【この一文!】
 トレンチコートを羽織ったブロッホ少将は同じくコートを纏い、散会する将軍たちの後ろ姿を見送った。主流から外れた地味な将軍たち、老いた者も多い。かつ ては突撃地上軍(SFS)などで活躍したのだろうが、時代の変化に取り残され、過去の栄光にしがみつくしかない者たち。しかし、国家に対する自負心だけは 過剰に持ちすぎている者たち。
「結局はフリッツ将軍なのだろうな。」
 おそらく政権奪取(レジールングスヴェクセル)まではできるだろう。コルプの時には同調できなかったが、今度の計画の無血開城の趣旨には賛成だ。帝位も より尊敬できる血筋の者がなる必要がある。全てに正統に、オーソドックスに、マハラジャの娘による、名ばかりの「改革(レフォーム)」よりは、実のある保守の方がいい。クーデター後、地下に潜伏していたフリッツから計画を持ち掛けられた時、彼は一も二もなく賛意を示した。女帝陛下はクーデターを鎮圧し、民衆のための政治を約束したが、その後、何も変化していないではないか。
 ブロッホはまだ戦前の、軍人がより軍人らしく、国家がより国家らしかった時代を思い出した。当時は今のように腐敗した資本家や議員などおらず、無私で卓 越した総帥(フューラー)が、全ての者に等しく義務を果たし、誇りを持つことを訴えていた。今のジオンは戦争直後の荒廃したジオンではない。ならば、時代の流れを少し変え、元のジオンに戻っても良いだろう。恵まれなかった自分はそのための捨て石に喜んでなろう。
 グレミー公王と、マチアス・フォン・フリッツ総帥のために、、、


▼ソロモンの首都オルドリンでは、サイド2領域の今後を模索する話し合いが、そして木星に向かう船上では、ジオンの改革に向けた議論が繰り広げられている。それと時を同じくして、ジオンの首都ズム・シチでも「次」のために話し合う者たちの姿があった。コルプの反乱を起こした「ジオン正常化同盟」の面々が、ハマーンの改革によって変わりゆくジオンを押しとどめ、古き良き時代の国家像を取り戻そうと動き出したのだ。コルプの反乱の際には同調しなかった者たちが、今になって立ち上がろうとしているのはなぜなのか。軍務大臣の訪問を受けてクーデターへの参画を決めたゴットン大佐だったが、生活の困窮だけがその理由ではないだろう。将軍たちの後ろ姿を見送るイスマイール・ブロッホ少将の背中には、長年にわたって主流から外され日陰のような場所で生きてきた者たちが、今なお捨て去ることなく持ち続けている誇りが大きくのしかかっている。彼らが開こうとしている「明日への道」は、一体どんな道なのか。

第37話「軍神二人」

◇一年戦争末期〜0079・オルドリン
ジオン占領下のサイド5ルウムのコロニー、オルドリンに、港のゲートを破って戦艦が侵入してくる。ルウム防衛隊の戦艦トーメンター、艦長はキャサリン・クラレンス・マクニール大佐である。ソロモンの戦いで連邦軍がジオンを退けると、サイド5ではジオンに対するレジスタンスが活発化した。連邦軍とともにソロモン要塞陥落のため戦ったマクニールは、このレジスタンスを救援し、オルドリンをジオンから解放するためにやって来たのだ。とはいえ、コロニー内部に戦艦で乗り入れるなど、前代未聞の作戦である。コロニー内部の気象条件のため航行が不安定となったトーメンターに、ジオンのザクが襲いかかろうとしていた。そのとき、連邦軍のGMストライカーの小隊が姿を現す。

◇現代・0098年〜ズムシチ/オルドリン
かつてエギーユ・デラーズと彼に従う一団が起こしたデラーズの反乱に参加した一人として国外追放処分となっていたクリスチャン・ヴァン・ヘルシング大佐。女王の恩赦によって処分が解除されたため、十数年ぶりにかつて過ごしたジオン公国の首都ズム・シチを訪れる。今はソロモン共和国軍の軍人となっている彼に、かつての上官であったケリー・ギャレットの妻ローラからの手紙が届いたのだ。アルテイシア新聞社の記者を務めるローラと15年ぶりの再会を果たすヘルシングだったが、そこに、かつて首都防衛隊の一員だったときの上官エンゼル大佐が姿を現し、彼を「裏切り者」と厳しく責め立てる。デラーズの反乱に参加した夫ケリーを「反逆者などではなかった」と言うローラに、ヘルシングは木星の衛星イオ出身の彼がジオン軍のパイロットになったいきさつや、上官ケリーの最期について語る。そして彼は、多くの同志を死に赴かせながら今も生きながらえているかつての“導師”シン・マツナガを捜し当てると、彼に対決を挑むのだった。

【この一文!】
 「キャサリン・クラレンス・マクニール大佐、オルドリン警備隊の司令官だ。」
 マシュマーが言った。彼にマクニールと呼ばれた佐官はポケットから一枚の紙片を取り出した。
「イオ星間都市連合の照会が届いている。本籍アスタナ市ゼニア区五―一〇―四、カレル・ヴァン・ヘルシングの息子クリスチャン、一七歳中卒、こんな子供をジオンや連邦に引き渡すわけにはいかない。よちよちクリスチャンちゃん、ママが面倒みてあげるわね。」
「この女!」
 彼を子供扱いする金髪の女に、ヘルシングは鉄格子を掴んで激昂した。
「銃をくれ! マシュマー、こんな恥辱を受けて生きるくらいなら!」
「司令官に従え、クリスチャン。」
 一連のやり取りを聞いていたマシュマーが平静な声で言った。
「ケリー・ギャレットの遺志を無駄にしないためには、これしかないんだ。」
「そういうことよ。」
 金髪の女が言った。碧玉の瞳が彼を見据えている。
「貴官を釈放する。しかし、この子供、危なくて見ていられない。まずはそのデラーズとジオニズムの粗悪な混合物で曲がった性根を叩き直してやるわ。」
「俺が曲がっているだと?」
 そうよ、と、女は彼の目前で指を振った。かなり狂っているわ。
「もうあなたはジオンには戻れない。ジオン政府は国外に逃れたデラーズ関係者の永久追放を宣言した。帰国すれば即決裁判で銃殺。未成年でも容赦ない。」
 俺はそこまでの罪人なのか、女の言葉に彼はあんぐりと口を開けた。
「あなたは我々と一緒に来るしかない。同盟軍に来なさい。カレルの息子、クリスチャン・ヴァン・ヘルシング少尉。」
 同盟軍? 聞いたことのない軍隊の名に、鉄格子の彼は不思議な顔をした。
「そこに貴官の新しい生き方がある。」
 そう言うと金髪の女は看守から鍵を受け取り、営倉の扉を開いた。


▼0083年のデラーズ戦争の際、ヘルシングは元上官のケリー・ギャレットに従って、反乱に参加した。しかし戦いに敗れ、彼は上官の手でその身柄を宿敵マシュマー・セロに引き渡される。その後、ギャレットは連邦艦隊に突撃し、最期を迎えた。ヘルシングはそのことを、オルドリン警備隊の戦艦の独房の中で聞かされる。それが、もう一人の「軍神」、キャサリン・マクニールとの出会いであった。彼女はヘルシングに、デラーズ関係者に永久追放が宣言されたという事実を告げ、同盟軍という今まで聞いたことのない軍隊に入隊するよう説得する。マシュマーとマクニールは、彼らにヘルシングの身柄を託したギャレットの遺志を察していた。マクニールが独房の扉を開いたとき、それはヘルシングのみならず、宇宙に生きる者に新しい道を開いた瞬間であった。ジオンの大義のため、と称して彼らをデラーズの戦いに誘った導師、シン・マツナガは結局大義に死ぬことなく生き延び、滅び行くほかない古い道に身を置いている。
ヘルシングの過去と現在を通して描かれる、明と暗とのコントラスト。再会した導師の内に見たものは、闇なのか、それとも光だったのか。

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