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 信長図書館

【小説・マンガ編】


織田信長 全5巻   山岡荘八 講談社・山岡荘八歴史文庫
★★★☆☆
 いわゆる大河ドラマ的織田信長「伝説」のスタンダードというべき作品。江戸時代以降に広まった「常識的」な信長像を代表しているといってよいのでは。現在では「史実でない」と分かっているようなエピソードも多数あるが、のちに書かれた信長関係の小説は、このイメージを打破するということを共通の「目標」としているようにも見受けられるので、そういう観点から、一度読んでおくのも意義があると思います。

炎の柱 織田信長   上下巻 大佛次郎 徳間書店 徳間文庫
★★★★☆
 冷徹無比な「魔王」、そして燃えさかる本能寺での炎に包まれた最期など、人間・織田信長の新しいイメージを生ん巨匠の力作。ストーリーは、安土城建造後から本能寺の変までの信長を追っています。徳川家康の嫡男・信康に嫁がせた徳姫と、後継者である長男の信忠というふたりの子どもの「父」を見る視点が新鮮でした。特に鬼神のような父に圧倒されながら、本心では戦うことが嫌でならない息子・信忠の人物像は印象的。

国盗り物語 全4巻  司馬遼太郎 新潮社 新潮文庫
★★★★☆
 「下剋上」そして「天下取り」。戦国時代の醍醐味が凝縮された壮大な歴史物語。1〜2巻では、斎藤道三が京都の油商を乗っ取り、美濃国を「国盗り」の拠点にして勢力を拡大するまでを描き、3〜4巻では、娘の濃姫を嫁にもらった織田信長が、道三の「遺志」を継いで「国盗り」を果たそうとするまでが描かれます。特に乞食の身から大名になる斎藤道三の物語は一気に読ませるものがあるけれど、歴史上の実際の道三は、このような大人物ではなかったようです。

信長   坂口安吾 講談社 文芸文庫「信長/イノチガケ」に収録
★★★★☆
 信長が家督を相続し、敵対する織田一族との抗争を重ねながら尾張を統一、「桶狭間の戦い」によって今川義元を撃破するまでを描いています。歴史小説にありがちな時代がかった語り口がなく、時代の常識にとらわれない信長の、竹を割ったようなカラッとした性格と、余人を寄せ付けない天才性が軽快に語られていて、信長の「明るい」部分を存分に楽しむことができます。私が当初文庫のタイトル「信長/イノチガケ」でひとつの題だと思っていた(「イノチガケ」はキリスト教禁止後の日本で殉教した宣教師たちを描いた短編)のですが、このイノチガケということばが、信長の生き様をも物語っているようで、結構好きです。

安土往還記  辻邦生 新潮社 新潮文庫
★★★★★
 信長が活躍したそのころ、世界は大航海時代を迎えていました。スペインやポルトガルから、宣教師が多くの人々とともに、アジアへ、そして日本へもやって来ました。この物語は、こうした宣教師として日本にキリスト教を伝道しようとするカブラル師、オルガンティノ師を送りとどけるために来日した一外国人船員の目を通して見た信長とその時代が描かれています。はるか海の彼方から異教徒の国へやって来た一船員は、怒涛の乱世を戦い抜き、天下統一を図ろうとする信長がもつ「孤高」の精神にふれ、深い共感を覚えます。そのとき、読み手もまた、語り手の船員「私」とともに、信長の心にふれているのです。

鬼と人と 上下巻  堺屋太一 PHP研究所 PHP文庫
★★★★★
 どうして信長の小説を書くのか? それはやっぱり、書き手が「好き」ということが一番にあるでしょう。今は閣僚のこの方も、とにかく「信長好き」で知られる。何はともあれ、そんな氏の心があふれた作品といえましょう。本能寺の変にいたるまでの信長と光秀の生き様を、それぞれの「独白」という形で描いた異色作。特に、信長が「俺」という一人称で語る作品は、大変珍しいのでは。信長の「俺」と光秀の「私」の対比がおもしろい。タイトルの「鬼と人と」はまさにその対比をいっているのでしょうが、信長、光秀それぞれの中に、それぞれの「鬼」と「人」がいる…そんな感じもしました。

下天は夢か 全4巻  津本陽 講談社 講談社文庫
★★★★☆
 私の中で「信長ブーム」を巻き起こしたのが、この作品。確か、日本経済新聞に連載されていたのでは。時はバブルのまっただなかで、みんなが「おれこそ信長」と浮き足立っていた時代、世の信長ブームを多いに盛り上げたのでありました。私もそんななかで「なんで今信長?」ということから興味をもち、のめりこむことになったのです。父の死から本能寺の変まで、信長の武将としての一生を描き切ったこの作品は、話し言葉に「尾張弁」を再現してみせたことでも知られます。「〜ずら」「〜だぎゃあ」などと話すんです。それはそれでおもしろいが、これが全4巻続くとなると、ちょっとくどい気もしました。

決戦の時 上下巻  遠藤周作 講談社 講談社文庫
★★★★★
 ドリカムの歌のタイトルみたいですが、信長です。津本陽氏の「下天は夢か」と同様、新発掘の歴史資料「武功夜話」によって書き起こされているので、内容的に結構似ているかも。この作品では、信長が18歳で家督を継いでから、安土城築城までの間のたびかさなる「決戦」を描いています。特に、これまであまり知られていなかった「川筋衆」と呼ばれる人々の影なる活躍に焦点があてられています。遠藤周作氏の作品は、どちらかというと信長その人よりも、その周辺で戦々恐々とする人々を描くことで信長像を浮き上がらせているように感じます。氏の、信長に対する「好き」「嫌い」の入り交じった複雑な感情がうかがえます。

反逆 上下巻  遠藤周作 講談社 講談社文庫
★★★★★
 先に紹介した「決戦の時」の続編にあたる作品。織田信長は羽柴秀吉、明智光秀、前田利家をはじめすぐれた武将を取り立ててきましたが、それにも増してまた多くの武将に「反逆」されてきました。この作品では、そうした反逆者のひとり、荒木村重を中心に、信長に反逆せざるを得なかった人々の生き様と、そのような人々から見た信長像を描いています。ここで描かれるのは、いわば信長の「暗黒面」ともいうべき部分。過酷な仕打ち、残虐なやり口が続き、読み続けるには相当の根性が必要でした。にもかかわらず、この作品の信長は、ここで取り上げたどの小説の信長よりも「カッコイイ」のです。最後の反逆者、明智光秀が自らの理想として、自分自身と一心同体であると一瞬思うほどに、格好いいのです。光秀の裏切りは、よくいわれる信長の過酷なやり方でなく、むしろこの一心同体感が原因ではなかったかと思われるほどです。なんせ、「似すぎた者同士は憎み合うということさ」と、かのシャア・アズナブルも言っているくらいですから(^_^;

内閣総理大臣織田信長 全8巻   志野靖史 白泉社 ジェッツコミックス
★★★★★
 「もし、現代に信長がいたとしたら、この日本をどうするか?」信長好きならだれもが一度は、こんなことを考えるでしょう。これはそんな妄想?をそのままマンガにしてしまったという恐るべき作品。織田信長が400年ぶり(爆)に政権復帰したところから、話は始まります。いきなりの解散・総選挙から省庁の再編成、円高、首都移転、少子化、財政再建など山積する問題に、その卓越した手腕でずばっと切り込んでいく爽快感! 超ワンマンでありながら、どこか人の心をとらえてはなさない魅力と、時折ほろりとこぼれ落ちるような人情味があるという信長の人物像がまたよい。

信長秘録・洛陽城の栄光  井沢元彦 幻冬舎 幻冬舎文庫
★★★☆☆
 「もし、信長が本能寺の変で死ななかったら?」これも、信長好きなら一度は考えてみるシチュエーションです。これは、SF仕立てで信長の「本能寺」以後の活躍ぶりを描きながら、戦国最大の事件「本能寺の変」のナゾを説き明かす歴史ミステリーです。軽いノリですらすら読める作品ですが、その背景の「謎解き」の根拠となる部分はすごくしっかりしていると思います。

織田信長推理帳「五つの首」「謀略の首」   井沢元彦 講談社 講談社文庫
★★★★★
 織田信長が「探偵」になって難事件・怪事件に立ち向かう歴史ミステリー。もう一作「修道士の首」がありますが、残念ながら手近なところで入手できず、読んでいません。織田信長が「探偵」なんて---と思われるかも知れませんが、歴史書をひもとくと、信長という人は実に話を聞くのが好きなようで、自分の城下で起こったちょっとした事件や騒ぎ、奇人変人が現われたとか、怪しい人物が人々をまどわしている、といった市井の話題をよく知っていたようです。案外にゴシップ好きだったのかも? そういう歴史的背景を知れば、なんとなく「探偵」役も意外に似合っているような…。水戸某のように、葵の紋を見せびらかすような野暮な真似をしないところも、イカしてる、と思う。

本能寺(上)(下)  池宮彰一郎 毎日新聞社
★★★☆☆
 「四十七人の刺客」「島津奔る」などの時代小説で知られる著者が描く「入魂の記念碑的傑作」(帯のコピーより)だそうだが、どこが?というのが正直なところ。物語は、稲葉山に岐阜城を建造し、明智光秀を召し抱えるときより、信長が本能寺で倒れるまでを描く。類例なき新たな信長像というが、革新的な政策や戦略・戦術をすべて「信長の美意識」といいきってしまうあたり、たしかに類例なき信長像ではある。っていうか、まるでこれではゴーショーグンのレオナルド・メディチ・ブンドル将軍ではないか…。本能寺の変の黒幕とそこへ至る過程は、まあ新しいといえなくもないが、あまりに懲りすぎて、よくわからない。天皇との関係をきれいごとで片づけたままで、結局のところ、夢のような作り話に終わっているように思う。美しく、夢のようにはかなく消えてゆく信長を堪能したい人にはおすすめ。

信長の棺  加藤廣 日本経済新聞社
★★★★☆
 信長の伝記「信長公記」を著した太田牛一が主人公の歴史ミステリ。太田牛一はもと柴田勝家の臣下で、のちに織田信長の側近となった人物。彼を主人公に、本能寺の変のナゾを解いてゆく。
 物語は本能寺の変のあと、太田牛一が加賀に隠棲することになったいきさつからはじまるが、この部分は結構退屈。しかし本能寺の変前後の明智光秀の奇妙な行動(諸説あるが現在もナゾのまま)から牛一がこの暗殺事件の首謀者を推理していくあたりから、俄然おもしろくなる。「本能寺の変の首謀者は誰か」「本能寺の変のあと、信長の遺体はどこへ消えたか」という謎解きに加えて、太田牛一自身の“なぜ「信長公記」が何種類もあるのか”といったマニアックなナゾにも光をあてているのがユニークで、中盤以降は一気に読ませる。
 しかし、謎解きの部分で「それはないやろ」という大きな間違いがあり、少々白けた。本書では「安土城は天主と書かず天守と書く。…」と書かれているが、これは逆で、安土城は「天主」、その他の城は「天守」である。当の太田牛一の著書「信長公記」の中にも「安土山御天主之次第」と題して安土城の概要が記録されているくらいなのに、この間違いはいただけない。もう一点、安土に関して「なんでやねん」と思わせることがあり、謎解き自体が説得力のないものに感じられてしまった。
 信長に心酔していた太田牛一なのに、信長の魅力があまり伝わってこないのも残念な点である。信長暗殺という大事件のウラには、もはや何の官職にもつくことなく絶大な権力をふるうようになった信長への「恐れ」があったと思うのだが、物語がはじまった時点でもう信長は死んでいるので、このあたりの描写が不十分のまま。タイトルにあるように、物語はまさに信長の「棺」だけしか見せてくれず、信長ファンとしては物足りない気持ちも残った。

【歴史書・評論・解説書編】


爆笑 信長の野望 全3巻   シブサワ・コウ編 光栄
初級
 人気ゲームソフト「信長の野望」でおなじみ光栄から出ている「爆笑人物笑史」の織田信長編。信長の人物像や彼をとりまく家臣や女性たち、敵対・同盟した戦国大名や数々の戦史、エピソードなどを、軽妙な文章とイラストでわかりやすく紹介しています。しかしいくら光栄から出ているとはいえ、ゲームの攻略にはあまり役立たないと思われます(笑)。

信長解体新書   歴史ファンワールド編 光栄
初級
 上に同じく光栄から出ている「解体新書」シリーズ。織田信長のプロフィール、関連人物、政略、合戦、城、史跡などのデータを系統立てて紹介しています。信長といえば「人間50年、下天のうちをくらぶれば〜」でおなじみ『敦盛』を好んで舞ったことでも知られていますが、この本ではなんと『敦盛』の踊り方(っていうのか?)の図解もあります。

回想の織田信長--フロイス「日本史」より--  松田毅一・川崎桃太編訳 中央公論社 中公新書
史料
 戦国時代に宣教師として来日したルイス・フロイスがまとめた大著「日本史」のうち、織田信長に関連する著述を抜粋して訳注と解説をつけたもの。『信長公記』とともに、同時代を生き、信長と直接対面した人物だけが描きうる、迫力に満ちた信長像を実感できます。古典ものの翻訳ということで決して読みやすい文章ではありませんが、生々しい著述にはそれを補ってあまりある「感動」があります。

フロイスの日本覚書  松田毅一・川崎桃太編訳 中央公論社 中公新書
史料
 信長とは直接関係ありませんが、ルイス・フロイスが「日本史」とは別に著述した直筆文書が「誰に宛てて」「何のために」書かれたかという謎を解明するとともに、その内容を翻訳して解説しています。ちょうど、フロイスによるヨーロッパと日本との比較文化論的内容になっていて、当時の日本、そしてヨーロッパの生活習慣や文化の違いを詳細に知ることができます。ただし、フロイス自身が間違っていることもあったりして、史料的価値はあまり高くないようです。

「信長」の魅力 解説&ビジュアル  歴史街道編 PHP研究所 PHP文庫
評論
 会田雄次、堺屋太一、津本陽、山本七平など「歴史通」「信長通」として知られる面々が、信長の魅力について様々な角度から検証しています。信長画像や古戦場、愛用の西洋風兜や乗馬パンツ(?)などのビジュアルも充実しています。なかでも、会田雄次の「お市との近親相姦仮説」は、別の意味で魅力的。別の意味ってどんな意味?ときかれても困るけど。

織田信長---中世最後の覇者  脇田修  中央公論社 中公新書
歴史検証
 戦国末期、天下統一を目前に散った信長は、中世という時代そのものと戦っていたのかもしれません。本書では、信長の行動と革新性を軍事、政治、政略、戦略、人民の支配、商業と税制、行動と思考など様々な観点から検証し、中世に挑みながら「中世の枠をこえることができなかった」信長像を描き出しています。

戦国武将  小和田哲男 中央公論社 中公新書
歴史検証
 そもそも戦国武将というのは、どんな時代を、どのような感覚で生きていたのか? 本書では、私たちが軍記物や大河ドラマの描写によって勝手に作り上げた「戦国武将」の虚像をあばき、戦国時代に生きた人々の全体像を明らかにしてくれます。江戸時代以降、日本人がすっかり失ってしまった「謀反」の論理と心理などには、うならされるものがあります。

織田信長と安土城   秋田裕毅 創元社
歴史検証
 この【歴史書編】で私個人の「信長ブーム」を巻き起こしたのが、本書です。ていうか、大学生のとき、単位稼ぎのために取っていた「博物館学」という授業の講師をされていたのが、著者の秋田氏なのです。授業の一環で安土城を訪れたとき、氏の細かな観察と実証をまじえた解説をきいて、いっぺんにその世界に引き込まれてしまいました。本書では、あくまで「現地検証主義」を貫く氏が、その長年の研究成果をもとに、信長の「安土」首都構想を明らかにしたものです。目から鱗の新発見が満載です。

神になった織田信長    秋田裕毅 小学館
歴史検証
 信長が自らを神と称したという史実は、フロイスの「日本史」の中にすでに見られますが、どういうわけか、長く闇に葬り去られていたようです。本書では、安土城郭の現場検証をベースに「信長神」を実証するとともに、その背後にある信長の政治構想に迫っています。ページのはしばしに、氏の信長への熱い視線が感じられて、ますます信長のかっこよさにしびれることうけあい。

信長と天皇---中世的権威に挑む覇王 今谷明 講談社 講談社現代新書
歴史検証
 今日本が神の国かどうなのかは知らないけれども、信長の時代といえば「俺が神だ」と言い出すとまずいことになったでしょう。本書では、信長の最大のライバルが実は時の正親町天皇であったと結論づけ、信長と天皇との関係と駆け引きのなりゆきについて検証しています。そうとなったら、やはり本能寺の変の真相もそこらへんにあるのか---?と思いきや、その辺りのことについてはなんだかお茶をにごすような記述におわっていて、ちょっと物足りないなあ。

信長   秋山駿   潮社 新潮文庫
評論
 日本史上まれにみる独創性を発揮した織田信長の行動を、プルターク「英雄伝」、スタンダール「ナポレオン」など東西の古典をひもときながら明らかにしていきます。ヨーロッパと日本の歴史を縦横無尽に飛び回るような記述はとっても読むのがたいへんですが、信長の「天才性」が見えてくるにつれ、ぐいぐいと引き込まれていきます。

復元模型・安土城  宮上茂隆・作 草思社
歴史検証
 それって、本なのか?といわれそうですが、プラモデル屋に行っても売っていないことは確かでしょう。模型本、と本の外箱に書いてあります。日本建築史が専門で、歴史研究から復元設計まで手かげるという著者が、自らデザインした紙模型。外観から内部までカラーで再現されており、本書を切り取って解説にしたがって組み立てれば、あなたも安土城主になれます。200分の1の大きさだけど。


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