MUDDY WALKERS 

 著作集

 

宝島社 別冊宝島808


僕たちの好きなガンダム

『機動戦士Zガンダム』全キャラクター徹底解析編

2003年6月28日発行
定価:本体952円+税

Zの男たち

カミーユ・ビダン
 のっけからジェリドを殴り、「恐いんです、怒鳴る人は」と言った尻からマトッシュにハイキックを入れ、おまけにガンダムに勝手に乗り込んで戦うのか?!と思いきや、またもやマトッシュを踏みつけようとする…。そんなバイオレントな性格がこの少年の持ち味です。ニュータイプ的な鋭敏さなしでは、彼の攻撃的な態度の裏に隠された繊細なハートに触れるのは困難を極めるでしょう。実際、彼にまとわりついてきたのは、ファを除けばフォウとかロザミアとか、彼以上に繊細にして猟奇的な女たちでした。しかもタチの悪いことに、本人は自分の攻撃性に周囲が呆れている状況が分かっておらず、やたらと年上の女性を構いたがります。悩める女性を「助けたい」らしいのですが、実は構ってほしいだけなのがミエミエです。そんな彼には、年上のお姉さまに可愛がられる男とはどういうものか、こってり教えてやりましょう。ただし、命がけの付き合いになるのは必至です。

クワトロ・バジーナ
 サングラスで顔を隠していたり、ユニフォームの色が赤だったりと、いかにも思わせぶりな態度がやたら目につくのですが、自分では、それでも素性がバレてはいないと思っているらしい不思議な人です。ひょっとしたら天然ボケかもしれません。レコア・ロンドとは当初から微妙なところを見せており、年上のお姉さまを独占したいカミーユをやきもきさせているのですが、どうもこの人、そもそも自分がレコアを好きかどうかも良くわかっていないような感じなのです。そんな彼にも、ハマーン・カーンという「なかったことにしたい」女性関係があるようですし、ララァという女性とも因縁があったらしく、過去をほじくり返せば、様々な恋愛不良債権を抱えていることがわかります。そんなわけで、恋愛逃避中の彼に今必要なのは「癒し系」。相手をすれば疲れるだけで終わるでしょう。

ブライト・ノア
 かつて艦長を務めたホワイトベースでも恋愛話に花が咲いたが、そこから結婚に持ち込んだという希有の人。もう一組、ハヤト&フラウのカップルが誕生したのも、意外に艦長の人徳があるかも…と思わせます。しかし今となっては二児の父。関心事は恋愛よりも子育てにあるらしく、アーガマ艦内でもやカミーユの父親役ができそうにないと苛立っている姿が見られました。ミライさんとは離れていても通じ合う…と言いたいところですが、幼い息子ハサウェイに手紙を書かせて届けるあたり、感涙の中にも「これはひょっとして、ミライさんのリモートコントロールでは?」という疑念が浮かびます。地球に家族を残して来て、妻や子どもを守ってやれないという後ろめたさと、それとは裏腹の解放感とで内心は揺れていたかもしれませんが、艦長である彼までがフラフラと色恋沙汰によろめき出したら、アーガマが沈みかねません。身の安全のためにも、そっとしておきましょう。

ヘンケン・ベッケナー
 敵味方の間柄なのに、一瞬の出会いで恋に落ちる二人もいれば、毎日顔を合わせながらまったく進展しない二人もいる…。恋愛とは、思惑通りには進まないものです。ヘンケン艦長の場合を考えてみましょう。彼の敗因は3つあります。まず第一に、リサーチ不足です。一目惚れするのはいいですが、相手の気持ちを惹きつけるなら、まず相手を知る必要があるでしょう。第二に、デリカシーの欠如です。自分が好きになったら、相手も好きになってくれると思っている節があるようですが、その容貌で露骨なアプローチをされたら、エマでなくても退いてしまうでしょう。そして第三に、コミュニケーション不足です。せっかくプレゼントを用意したのに、それをレコアなんかに託してはいけません。照れくさいのは分かりますが、コミュニケーションがなければ良い関係は作れません。しかし、女性のために命を捨てたのはこの人だけでした。尽くされてみたい人にはおすすめです。

アムロ・レイ
 相変わらずうじうじと内向的な彼ですが、ベルトーチカの挑発に乗ってくるあたりに意外な積極性を見ることができます。「男ってバカよね」と思わせる単純さをストレートに出せるところが彼の強み。少年時代にマチルダ中尉やクラウレ・ハモンなど年上女性に好感を持たれていたのもうなずけます。苦悩するさまを隠そうとしないのが、良くも悪くも彼の真骨頂。恋愛関係によって奮起し、立ち直っていく様を見せられれば、これは女冥利につきるというものでしょう。しかし、彼のカリスマはモビルスーツ搭乗時にしか輝かないので、知名度に惹かれて寄ってくる女性にとっては、つまらない男性に見えるかもしれません。アムロ自身は女性に優しいタイプですが、彼につきまっているベルトーチカはかなりの危険人物ですので、アムロを奪うならすさまじい逆襲に耐える覚悟が必要です。

カツ・コバヤシ
< カツのようなお子様に本気で惚れる女性はいないとは思いますが、反面教師としてピックアップしておくのも悪くないかもしれません。彼の問題は、決してルックスだけにあるのではなく、あのカミーユでさえあきれるほどの身勝手さにあります。どうも、自分のことを一角の人物と思いこんでいるようなのです。それを証明しようとして、ことごとく失敗する悪循環を繰り返しています。ですからまず、カツは鏡をよーく見て、自分がどれほどの男なのかを見極める必要があります。いつも何かしら頭にきているような顔をしてますが、もとがのほほんとした容貌なので、もっと肩の力を抜いて「のほほ〜ん」という雰囲気を漂わせてみたら、あの殺伐としたアーガマ艦内ではもっと可愛がられたに違いありません。彼は女性にとっては「安全牌」のような存在かもしれませんが、安全牌には安全牌の戦い方があるでしょう。サラは案外、カツのそんなところに目を留めたのかも。

ブラン・ブルターク
 アムロ復活の立て役者として評価の高い彼ですが、絡んできた女性がロザミア・バタムだけだったので、こちらの面では評価の難しいところです。しかし、ロザミア・バタムの泣き落としに遭ってもデレデレと鼻の下をのばしたり、役得に預かろうとしなかったところは注目に値するでしょう。泣きついてきた若い女性とワンナイト・アフェアを楽しむつもりが、『危険な情事』になってしまったというのでは笑うに笑えません。ロザミアに対してクールな態度を貫いた彼ですが、どうも連邦軍とティターンズの板挟みになっていて、かなりストレスのたまる状況におかれていたようです。ですから、グチをこぼされるより、むしろグチを聞いてほしい心境だったのではないでしょうか。副官のベン・ウッダーには当たっていたようですが。女性には厳しそうなので、お近づきになるには工夫が必要でしょうが、親密になれば、意外に大人の恋愛を楽しめる相手かもしれません。

ヤザン・ゲーブル
 サラに「凶暴で野獣のような方です」と言わしめた、強烈なキャラの持ち主です。しかしそれはあくまでモビルスーツでの戦闘スタイルであって、彼の人格すべてがそうであるとは限りません。あの上下関係にやたらと厳しいティターンズでまがりなりにも将校にまでなっている男ですから、礼儀というものを知っているはずなのです。ローマ帝国の傭兵みたいなセンスあふれるカスタマイズを施したユニフォームも、彼にも彼なりの知性というものがあるらしいことを教えてくれます。自分を評価してくれる人には心を開くようですから、シロッコを見習って「キミは特別」と思わせるような待遇を与えてみると、人間的な関係を結ぶことができるでしょう。ドイツ軍の軍用犬として名高いドーベルマンでさえ、精悍で凶暴そうな外見とは裏腹に、飼い主に対して絶大なる愛情を示すそうですから、彼も上手に手なづければ、すばらしいボディガードになってくれるに違いありません。

ジェリド・メサ
 戦闘においては7つも年下のカミーユにやられっぱなしのヘタレぶりを大いに発揮して、数多くの名場面を演出してくれたジェリドですが、彼ほど男と女で見る目が違うキャラクターもちょっといないのではないでしょうか。男性から見れば、暴虐ぶりのみパワーアップして一向におつむの方が成長しないヘタレキャラなのですが、なぜかそんな彼に、聡明な美女が絡んでくるのです。それは単にルックスだけの問題ではありません。確かに、地球生まれのエリートで金髪碧眼、195cmの長身で顔よし、スタイルよし、黙っていれば非のつけどころのない男です。しかし口を開けばZを倒して日頃の鬱憤をはらしたいだけの単細胞がバレバレです。このギャップが、女の目には「カワイイ!」と映るわけです。しかしエリート教育の弊害なのか、あまり女性に対する免疫がないらしく、誘われればいとも簡単になびいてきます。彼と付き合っても、あまり自慢にはならないでしょう。

パプテマス・シロッコ
 愛されたい、そして癒されたい女たちを手玉に取る彼こそまさに「卑し系」。他人を貶めることで野望達成を目指す、エリート集団ティターンズの覇権を握るにふさわしい人物の生き方です。しかも、貶められているはずの当の本人は少しもそれに気が付かず、むしろ自分は「癒されている」だの「必要とされている」だのと誤った妄想の中に引きずり込んでいく、天才的な手練手管の持ち主でもあります。自分を「特別な人間」と思いたいなら、彼に近づいてみるとよいでしょう。今までとは違った自分を開発してくれるに違いありません。しかし、彼ほどのカリスマとなると、愛情を独占するのはとてもできない相談です。サラやレコアに絡まれて女の醜い争いに巻き込まれたくないなら、ここは一つ、この天才をひざまずかせるほどの「女王様」を狙ってみてはいかがでしょう。どうやら彼自身、本当のところは女王様に支配される世の到来を望んでいるようですから…。

Zの男たち コラム

 Zの女たち良くも悪くも輝いていたのとは対称的に、Zの男たちは、どこかギリギリまで追いつめられているような雰囲気を漂わせている。上はジャミトフから下はカツまで、みな男性ならではの壮大なビジョンを失い、目先の争いに汲々としているように見えるのだ。戦場に女性が進出してきたことで、そのパワーに圧倒されているからだろうか。それも一つの理由としてはあるだろう。しかし、やはりここにも一年戦争の傷跡を見てしまうのだ。戦争の影響は一人ひとりの人生にも及ぶ。生き延びて帰還したら、妻や恋人に他の男ができていたかもしれない。戦果を上げることもなく、だれからも栄誉を称えられずに終わったかもしれない。歴史の影にあるそうした些細な出来事に、アドレナリンの切れた男たちは女以上に傷つくのだ。そして女のようにストレートに感情を出すことのできない男たちは、結局また武器を取る。Zはそんな男たちの悲しみに満ちたドラマでもあった。

レコア・ロンド レビュー

 レコア・ロンドは一般人の理解の範疇を超えた存在です。何しろ、戦争をやっている真っ最中に「女ととして生きる道」を選んでしまうのですから。そんな彼女を見ていると頭の中が「?」で一杯になってしまいますが、ここは一つ、同性の立場から彼女の弁護を試みることにしましょう。
 女性は、二つのタイプに分けられます。一つは、女同士で群れたがるタイプ。そしてもう一つは紅一点になりたがるタイプです。かくいう私も紅一点タイプで、小学生の頃は『秘密戦隊ゴレンジャー』のモモレンジャーや、『宇宙戦艦ヤマト』の森雪に憧れたものでした(女同士で群れるタイプの憧れは、『キャンディ・キャンディ』)。レコア・ロンドも同タイプであり、紅一点として男臭いアーガマの艦内でチヤホヤされることを、大いに期待していたに違いありません。しかし彼女の目論見は、エゥーゴが作戦行動を開始した途端にもろくも崩れ去ってしまいます。エマ・シーンとファ・ユイリィがなだれ込んで来たからです。カミーユの「エマさんは良い人です」という思いっきり主観の入った一言で、あっさり敵の女を受け入れてしまいまいした。内心面白くなかったでしょう。たった一人で敵地に侵入するという危険なミッションに身を投じる決意をした背景には、エマの加入によって危うくなった自分の存在価値をもう一度高めたいという隠れた動機があったのではないでしょうか。
 そしてもう一つ、見落としがちなことがあります。彼女はシロッコの元に走ってティターンズに寝返りますが、それ以前に、アーガマの主要クルーの面々がみんな裏切り者だということです。エゥーゴという組織自体が、地球連邦軍から離脱したいわゆる反乱軍だからです。一年戦争時からゲリラ活動をしてきた彼女には「自分の時代が来た」という興奮があったでしょう。クワトロという男と昵懇になっているのも、ゲリラとしての自分の経験を生かして彼のために役立ちたい、そしてあわよくばリーダー格であるクワトロの女になりたいという野心があったと思われます。反乱軍というのは正規軍と違って、身元の怪しいはみ出し者の吹き溜まりのような組織です。一人ひとりがそれぞれの野心を持っていて当然でしょう。
 そのバラバラの兵士たちを一つに結束させるのが「敵」であるわけですが、レコアの中で、自分の「敵」は誰かということが、戦局の進展とともにどんどん周りとズレていってしまったように思われます。そのズレを生じさせる要因の一つが紅一点となることを阻んだエマの存在であり、もう一つが、ジャブロー潜入時に受けたという「辱め」であったと思われます。レコアが受けた辱めがどんなものかは語られていませんが、恐らく女性にとって男性そのものが敵となってしまう経験だったことは間違いないでしょう。女も敵、男も敵になってしまった彼女は、もうアーガマを出るしかなかったのです。
 それにしても、なぜシロッコの元に走らなければならなかったのでしょうか。彼は「オレは危険な男なんだよ、フフフ…」と全身で訴えかけているような男です。常識的に考えれば、この胡散臭い男が「いい男」であるはずがありません。しかし、はったり十分のシロッコの言葉にまんまと引っかかってしまうのも、結局はレコアが「誰それの女」になりたかったからしょう。実に単純な話です。慰めとか癒しでなく、ただクワトロは「おまえはオレの女なんだ」と言えばそれで良かったんです。しかし彼は“ナイーブ”過ぎました。ナイーブとは日本語では「繊細な」という良い意味で使われていますが、原語では“間抜け”くらいの言葉ですから「あなたはナイーブな男ね」などと言われて喜ばないように気をつけましょう。
 これで、少しは彼女を弁護できたでしょうか。余計に腹が立ってきた? まあ、いつの時代も女性とは、親密になればなるほど腹立たしく理解不能な存在になってしまうのは事実でしょう。

ハマーン・カーン レビュー

 Zガンダムを見ていると、20話を過ぎたあたりから、だんだん気持ちがダレてきてしまう…というのは、私だけでしょうか? 主人公のカミーユのプッツンぶりに驚愕し、ファーストガンダムの登場人物が一人ふたりと顔を出すのにワクワクしているうちは良かったのですが、徐々にカミーユが正常化して、あっけにとられて開いていた口も塞がってくる頃には、話が見えなくなってしまっています。ティターンズは、やれ毒ガス注入だ、コロニー落としだと悪の限りを尽くそうという勢いなのですが、それというのも結局はティターンズ内部の覇権争いのため。人相のわるーい男たちがテーブルの下で互いの脚を蹴り合う様子に、だんだんと気持ちが萎えてくるのです。言ってみればZの中の戦いは、社長のイスを前にした重役たちの脚の引っ張り合いみたいなもの。エゥーゴは、その争いのダシにされているに過ぎないと言ってもいいでしょう。それはそれで面白いんだけど、なんだか非常に物足りなさを感じてしまうのです。
 カミーユやクワトロがハマーン・カーンに誘導されてグワダン艦内に入っていったとき、その物足りなさの正体が明らかになりました。そう、私はこれを待っていたのだと。グワダンの中には、一年戦争後に失われたはずの「ジオン公国」がありました。そこで私は悟ったのです。「ガンダムの敵はジオンしかあり得ない」と。
> たとえアクシズという組織名を名乗っていようと、ハマーン・カーンはまぎれもないジオンの女です。まず、ファッションが違います。ティターンズの、連邦軍とジオン軍を足して2でわったような、中途半端なエリート趣味ではありません。真の悪玉はマントをまとっていなければならないのです。そして、黒ずくめのコスチュームの胸のドレープも見落としてはなりません。旧ジオン軍の軍人で胸にドレープのあるマントを着用していたのは、キシリア様でした。あの女傑から黒のドレープ付きマントを受け継ぐとは、ただ者ではないのです。そして巨大なドアが開くと現れる、真っ赤なじゅうたんとその先の玉座。時代錯誤もはなはだしい光景ですが、敵たるものが、そうカンタンに時代の風潮に乗ってはいけないのです。「ザビ家の再興」という、余人にとってはどうでもいいようなことを野望に掲げて突き進むところに、真の敵の恐ろしさがあるのです。
 ハマーン・カーンのカリスマは、ザビ家という舞台装置があったからこそ輝きました。もしザビ家再興という大義名分がなかったら、彼女はただの高慢な女王様気取りの女でしかなかったでしょう。しかしそこに彼女の孤独もまた見えるのです。かつての恋人、シャア・アズナブルをもう一度振り向かせるためには彼の野心に火をつける「何か」が必要でした。ハマーンはその「何か」にザビ家再興というビジョンを掲げました。これが何とも的外れに思えます。そもそもシャアはザビ家打倒を目指していた男だったはず。苦労して倒したものをもう一度自分で興してどうしろというのでしょう。ハマーンは恋人シャアの心を理解しているつもりだったのでしょうが、彼女はシャアがジオン・ダイクンの息子であることさえ知らされていなかったと思うしかありません。コロニーレーザー内の劇場でシャアと相まみえたとき、彼女は自分が『オペラ座の怪人』の役回りを演じていたことに、気付いたでしょうか。
 しかし、このハマーンの描いたシナリオは、決して無駄にはなりませんでした。シャアはどうも彼女の手が、内心ひどく気に入ったようなのです。彼女を前にして、安っぽい袖無しのユニフォームを着ている自分が情けなくなったのかも知れません。爆風とともに遁走した彼は、再び地球圏に戻ってきたとき、きっちりマントをまとっていました。
 そしてまた、世代を越えて人を魅了する“ギレンの野望”を目の当たりにして、ついに告白するのです。ああ、私たちは本当にジオン軍を愛していたと。

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