◇MUDDY WALKERS
ガンダム精神世界探索
シャアの「関わったけれども愛さなかった女」その3として、忘れてならないのがクェス・パラヤです。彼女はもともと地球連邦高官の娘でしたが、父親と折り合いが悪く、偶然、ロンデニオンでアムロとシャアが再会したとき一緒にいて、シャアの「来るかい?」の一言でアムロからシャアに乗り換えたといういわくつきの少女です。このとき、年齢わずか13歳。とくれば思い出すのはララァ・スン…ではないですよね! 彼女はララァの再来ととらえられがちですが(例えば、彼女がはじめてファンネルを操ったときシャアは「あの子と同じだ!」とつぶやきますが、その「あの子」ってララァのこと?と思いませんか?)、でも、ララァとは年齢も、経歴もかけはなれています。それよりも、ハマーン・カーンにずっと近いでしょう。クェスは自分よりはるかに年上のアムロやシャアに、恋心を感じていたようです。父親との折り合いが悪かったこととあわせて考えると、父親のように年の離れた男性に惹かれる傾向があったものと思われます。だからこそ、シャアの甘い誘いについていき、才能を認めて重用してくれる彼のことを慕うようになったのです。
ここでシャアは、昔取った杵柄…、でなくついこれまでの古い習慣で、彼女のこの慕う気持ちにつけこんで彼女を自分の野望達成のために利用しようとするわけです。そして、おそらくはハマーンにも見せたであろう役者っぷりを、堂々と私たちに披露してくれます。彼女に自分の思想を語って聞かせ、才能を持ち上げ、リムジンで送り届けると彼女の前にひざまずいて手の甲にキスをする。それでもう、「大佐は私のものよ」とクェスは舞い上がってしまうのです。アムロに対しては、チェーンがいるから…とさっと身を引いてしまった彼女だったのですが、シャアにはすっかり丸め込まれてしまうあたり、彼の方が役者が上でした。
表面的にはちやほやしながらも、実は結構クェスのことを邪険に扱っていたシャア。もし彼女が死なずに生き延びていたとしたら、またもや「振った女に憎まれる」結果となったことでしょう。
実は恋愛下手なシャアが、ようやくまとも(に見える)恋人を連れて出てきました。それが「逆襲のシャア」のナナイ・ミゲルです。例によってどこでどうして出会ったのかも分かりませんが、一応、上司と部下という間柄です。しかも、これまでとはうってかわって、公の場にも連れ歩き、彼女の腰に手を回すなどラブラブな様子さえ見せています。スウィートウォーターでは豪邸で一緒に暮らしているわけですが、シャアはこのとき、これまでのポリシーを捨て去っていました。そうです。ナナイこそ、シャアが自分の正体を隠さずに付き合った最初の女性だったのです。シャアは彼女に対して「いてくれなければ困る…。父の名前を継ぐのはつらいな。君のような支えがいる 」と心情を吐露しています。本音を話しても、弱さを見せても大丈夫。そういう意味で、ナナイはシャアの人生において初めてまともな普通の恋人関係を持つに至ったといってもいいでしょう。ナナイはシャアにとって、初めて体験する居心地のよい女性だったに違いありません。
しかし、ナナイはあまり居心地の良さを感じてはいなかったようです。どうも、始終イライラしているような様子がうかがえました。その原因は、やはりシャアがどこかから“ニュータイプの素養がある”と拾ってきた小娘、クェス・パラヤにあるようです。「あんな小娘に気を取られて…!」と、シャアの飲み差しのタンブラーを床に投げつけてブチキレたりしています。それをシャアの目の前でやらないところが彼女の奥ゆかしさでもあるのですが(だからこそ、シャアは居心地よくしていられたのでしょう)、それにしてもどうして、恋のライバルにもならないような小娘の登場で彼女はそんなにもイライラしなければならなかったのでしょう。
恐らくナナイは、シャアの過去のニュータイプ娘たちとの因縁をある程度知っていたに違いありません。だから、いろいろとあることないことを想像してしまったのでしょう。でも、それが一番の原因ではないと思います。これは、まったくの私の想像でしかないのですが、彼女のように、彼の支えになっていて、公認の仲になっていて、一緒に暮らしていて、これから彼は大きな仕事を成し遂げようとしている。そんな彼女が待っているのは、あの一言しかないはずです! その言葉が出てこないから、彼女はいろんなことが気に障って、あんな小娘のこともイライラのネタになってしまったんじゃないかと思うんです。
でも、私には「その一言」を口にするシャア、というのがとても想像できませんが…(笑)
良きパートナーとして、シャアに「君のような支えがいる」と言わせた女性、ナナイですが、アムロとの最終決戦の際には、戻るように呼びかけて、「男同士の間に入るな!」とシャアから一喝されてしまいます。「私たちを見捨てるのですか」というナナイの言葉からは、このままではアムロにやられてしまうのでは、という恐れが感じられます。それが、シャアの怒りを誘発したのではないでしょうか。ララァを身代わりにして、辛うじて生き延びた苦い経験が、フラッシュバックしたに違いありません。男としてのプライドを守るため、彼は何としても、女の助けなしにアムロに勝たねばなりませんでした。彼が総帥という立場にありながら、アムロとの一騎打ちにこだわったのは、そういう心理的背景があってのことだと思います。で、結局勝てなくて、クェスに冷たかっただのどうのこうのとアムロに難癖をつけ始めます。アムロはそれを聞いて思わず「キサマほどの男が、なんて器量の小さい…!」と叫びますが、うん、そうだね。みんな、わかってたよ〜。
MUDDY WALKERS◇