MUDDY WALKERS

さよならゲーム BULL DURHAM(1988)
 監督:ロン・シェルトン  出演:ケビン・コスナー/スーザン・サランドン/ティム・ロビンス



DVD/字幕
マイナーリーグを舞台に、引退間近のヴェテラン捕手、剛速球を投げる新人投手と野球を愛する女性との奇妙な三角関係を描く。



「大リーグの打者にしばらく目の敵にされても、心配するな。打たれても誇り高くいるんだ。それが秘訣だ」

---Crash Davis

プレイヤー クラッシュ・デイビス Crash Davis
所属球団 ダーラム・ブルズ DURHAM BULLS
(アトランタ・ブレーブス1A)
背番号
ポジション キャッチャー 右投げ右打ち
打順

 ハリウッドの「ミスター・ベースボール」ことケビン・コスナーが最初に出演した野球映画。傑作という人もあれば、すごくくだらないという人もいて、好みで評価が分かれる作品である。その原因は、目をつけたマイナー選手とセックスしつつ野球を教えて、メジャー入りさせることを生きがいにしている女性、アニー・サヴォイというキャラクターにあるのではないかと思う。野球とセックスを同等に考える彼女の思想は滑稽で、なおかつ少々お下品でもある。これもユーモアと割り切れれば楽しいが、そうでなければ不快さが残る映画かもしれない。しかし私は結構好きだ。へっぽこチームが何かをきっかけに快進撃、そして優勝争いへという話が多いなか、この映画はそんな次元を遙か彼方に見上げつつ、へっぽこチームがへっぽこのまま終わる話。そんな中にあって、勝った負けたの騒ぎを超越して野球に人生を捧げてしまった男と女の生き様が、ウィットに富んだ(といっていいのかどうか分からないが)やりとりを通して描かれる。邦題は『さよならゲーム』だが、映画の中でサヨナラ勝ちの場面があるわけではない。私の感じではむしろ『野球狂の詩』みたいな、そんな雰囲気のタイトルが似合う映画だと思う。

 映画の舞台となるのは、マイナーリーグのチーム、ダーラム・ブルズ。当時はノースカロライナにあるアトランタ・ブレーブス傘下の1Aの球団だったが、現在はタンパベイ・デビルレイズ傘下の3Aに格上げされている。所属リーグは1Aのカロライナ・リーグだ。そんなチームに剛速球を投げる期待の新人、エビィ・C・ラルーシュが入ってくるが、これがとんでもないノーコンのノータリン。監督いわく「腕は100万ドル、頭は5セント」である。彼を何とか一人前のピッチャーに仕立てようと、ベテラン捕手のクラッシュ・デイビスがチームに雇われる。ストーリーの軸となるのは、ベテラン捕手による投手育成で、反目しあう二人がやがて信頼関係を築いていき…という「バディもの」の要素がメインといえるだろう。

 新加入のエビィとクラッシュに目をつけるのが、球場に足繁く通うアニーという女性。ワンシーズン・ワンプレイヤーというルールを作って、お気に入りの選手とお付き合いをするのだ。二人のうちからエビィを選び「愛し方と投げ方」を教えるのだが、当然のことながら、プロ選手でベテランのクラッシュとはことごとく対立する。しかしこの二人、実は互いに気になる存在…という三角関係があって、こちらがもう一つの要素となっている。

 チームはマイナー最下層に近い1Aだけに、その中の人間模様も悲喜こもごも。ブードゥー教を信仰し、打てなかったり守備が悪いのは「呪い」のせいにする選手がいたり、熱心なクリスチャンで、ロッカールームで試合前に礼拝しようと言い出す選手がいたり。投球フォームの矯正のためにガーターベルトをつけさせるといったアイデアなど、何ともいえない可笑しさがある。大爆笑コメディではないが、ときどき「プッ」と吹き出してしまうような可笑しさだ。

 特に私が好きなのは、遠征中のおんぼろバスで、エビィがギターを弾きながら、間違いだらけの歌詞で歌を歌うシーン。クラッシュとエビィのやりとりで、はじめてクラッシュが、21日間だけメジャーリーガーだったことを話す。そのときのチームメイトの反応をみると、メジャーリーガーがどれだけ尊敬されているかがよく分かる。エビィ以外の選手には、その一員になれる見込みはまったくないが、それでもメジャーは夢であり、憧れなのだ。彼らがあえて野球の世界にとどまり続けている理由、そしてベテラン捕手クラッシュの矜持が垣間見えて、面白い。

 クラッシュは一貫してエビィに憎まれ口を叩き、マウンドで自分のサインに首を振ると、バッターに球種を教え、わざと打たせてエビィの思い上がりを砕こうとする。クラッシュの教えることはとにかく「自分で考えるな、サインに従え」ということだ。よくアメリカ人は「ほめて育てる」などと言うが、そんなイメージとはかけ離れていて、むしろ日本の職人的な感じがする。しかし、会話の中で実はクラッシュがものすごくエビィの才能を大切に思っていることがわかる。プレースタイルからみると、エビィは天性の才能でプレーする一方、クラッシュは理論を土台にプレーしてきたのだろう。理論は学べるが、才能は学んで勝ち取ることはできない。エビィに対して、クラッシュよりもむしろアニーの方が具体的な投球フォームなどをアドバイスしてるが、一野球ファンであるアニーよりも、実際にボールを受けるクラッシュの方が、その才能を実感していただろう。そしてクラッシュはフォームどうこうといった細かいことより、自分の才能に気付かせ、それを大切にすることを教えようとしていたのではないかと思う。そのあたり、どんなスポーツでも基本とかフォームにこだわる日本の指導とは違うなと思ったり。

 クラッシュという名前も面白い。彼はエビィをメジャーリーガーに仕立てると、自分はお役ご免で解雇されてしまう。その過程でアニーと衝突するが、彼女の「野球とセックスは同じ」という考えを壊してしまった。別のチームに移って、そこでアニーしか知らないマイナーリーグのホームラン記録を密かに塗り替えると、野球を辞めてアニーの元へ戻ってくる。「僕に監督が務まると思うか」というクラッシュの言葉に、アニーは涙ぐんだように見えた。"No Baseball,No Life"。メジャーの栄光を遠く離れたところで野球に生き続ける男と女。うん、よかった。野球狂は、こうでなくっちゃ。

(2005.11.24)

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