小林昭人作
機動戦士広東麺ガンダム 第1話

目次に戻る



プロローグ C・E74年

 プラント最高評議会議長・ギルバート・デュランダルが提唱した「デスティニー・プラン」の導入実行が引き起こした、ザフトとクライン派・オーブ首長連合国の戦いは、デュランダルの戦死と宇宙要塞メサイアの陥落により、クライン派・オーブ連合軍の勝利に終わった。

 デスティニー・プランは中止されプラントの政治経済は強力なリーダーを失ったことで停止状態となってしまった。プラントは拠出国の一つであり、戦後は世界のリーダーとなったオーブ首長連合国の管理下に置かれ、その軍事力は解体され、高度なMS設計技術も失われた。

 やがて世界はオーブ首長連合国初代主席、カガリ・ユラ・アスハが頂点に立つ「宇宙統一連合」となり、世界は平和になったかに見えた。

 しかし、強大な一国の主導によりもたらされた平和は、いつしか各地で貧富の差を生み出し、世界各地でレジスタンスが起こるようになってしまった。統一連合を構成する各国は武力でレジスタンスを抑えようとしたが、レジスタンスの数は一向に減らず、カガリはクライン派の象徴であるラクス・クラインを総帥とする独立部隊「ワルキューレ」を設立。ワルキューレは投降したザフトの技術者が生み出すMS、MAで多くのレジスタンスを鎮圧するが、民衆の嘆きと苦しみは収まらず、新たなレジスタンスが増え続ける結果となった。

 そして統一から2年後、圧制と貧しさに苦しむ民衆に支持されたレジスタンスと、カガリ、ラクスら率いる統一連合・ワルキューレ混成軍の争いとなり、世界は再び、戦いと混迷の時代を迎えようとしていた。



第1話 「始まり」


<Aパート>

C.E.75 北京


 貧しさにあえぐ民衆。埃っぽい街並み。

 中華饅を手に歩く黒マントの中年男。男の捨てた紙屑が路地を虚しく舞う。

黒マントの男 「チャイニーズ・ハンバーガーか、、」

 街は、一変していた。かつては繁栄を謳歌したユーラシア連邦最大の大都も、あの日以降は世界から見捨てられ、貧しく、汚く、澱んでいる。統一政府の官僚に「C」の烙印を押された街。「1000の富と20人の民」、突きつけられたこの命題に対し、統一政府の官僚は単純で直截的な解決法を選んだ。

 その説明はもっともらしいが、うさんくさい。

 ラクス・クラインの笑顔が描かれている統一政府のポスターを見た男は思った。

 歩く男は貧相な街並みとは場違いの新しく、立派な建物の正門の前に来た。右手でサングラスを少し上げ、日本語で書かれた標札を読む。

 「国立宇宙統一連合軍学校」

 宇宙統一連合の中国にある軍学校である。名前を変えた植民地支配の象徴。こんな地域でも富める者と貧しき者はいる。宇宙統一連合の支配を両手を挙げて歓迎した旧ユーラシアの富裕層が争ってその子弟を入校させた軍の学校。「現地協力者を使って支配する。」古くから用いられてきた支配の方法だ。男は皮肉っぽい笑みを浮かべ、そのまま歩き去った。

 シン・アスカはこの街にいるはずだ。



C.E.75
オーブ首都オロファト
治安警察庁


 治安警察庁の長官であるゲルハルト・ライヒは統一連合の官僚である。策動する不穏分子や大西洋連合のスパイ、旧ロゴスのメンバーを摘発し、統一連合における人間の自由と人類の平和を守ることが彼の使命だが、これは元警察官僚であった彼にはおあつらえ向きの仕事と言えた。((C)ガンダムSEED・Revival

 統一政府の主席カガリがブルーコスモスの幹部でもあった彼を閣内に登用する際には反対もあった。しかし、フラガ大将の強力な推薦で謁見した、礼儀正しく意外と人格者風のライヒの風貌とアダルトな魅力に彼女はすっかり参ってしまい、いかにもなその贖罪を受け容れた。以後の彼はその情報網を生かし、内閣の一員としてほぼ彼女の期待通りの働きをしている。

 所用で巨大な治安警察庁ビルを訪れていた情報管理省の次官ダゴスタに言わせれば、これは正義の味方がゴルゴムやショッカーの怪人を再雇用するようなものだ。上手く使えばこれは有益だが、副作用も大きいはず。なお、これらは知っている人は知っている、立派な悪の組織である。

 いつまでも過去の因縁・怨念を根に持つことは清新な統一連合政府の趣旨にふさわしくない。彼はエレベータを降り、長官室のある最上階の赤いカーペットを踏みしめた。その向こうが統一政府の「怪人」ライヒの執務室だ。異論はあるが、誰にでも好かれる爽やかな表情でダゴスタは新しい仲間として彼を受け容れるべきだと考えた。

 が、そのダゴスタの決意は廊下に響き渡る、突然の奇声によって裏切られた。

声の主 「キェーッ!キエッ!キエッ!キエッ!」

 長官室に突然響き渡る嬌声、周囲の人間がまたかと肩をすくめる。青ざめたダゴスタは大慌てで長官室のドアを蹴破った。まさか、裏切り者に対するブルーコスモスの報復か!

ダゴスタ 「どうしました! ライヒ長官!」



C.E.75
オーブ首都オロファト
治安警察庁 長官室



ライヒ 「すまない、ロゴスに改造された時の傷がまたうずいてしまってね。」

ダゴスタ 「それは大変なことで。ミネルバに収監した強化人間にも似たような症状があったそうですね。確かステラとかいう女で、、」

ライヒ 「あれは不完全な改造人間にすぎん。」

 細かいことは気にしない方が良い。ダゴスタはライヒの言葉を無視すると、先に管理省から送られた意見書について長官の意見を質した。フラガのようにベルトを埋め込まれるよりはマシか、だいたいローエングリンの直撃を喰らってヘルメットまでもがれた人間が五体満足で生還してきたこと自体がおかしいのだ。何かあったと考えるのが普通だろう。

ライヒ 「私には賛成できんね。」

 "Eternal Plan"と書かれたバインダーを手渡したライヒは言った。

ライヒ 「だいたい安易なんじゃないのか? いくらラクス・クラインが千年に一人の逸材だとしても、所詮はアイドルの一人にすぎん。最初は清純派でも、後に不倫が発覚し、スキャンダルを暴かれ、整形手術をしたとか、どうでもいい結婚をした後にオロファト離婚するとかして世間の失笑を買うのが相場だ。そのうち賞味期限、いや、数年が過ぎ、もう過ぎたが、もっと若くピチピチしたライバルが出現して人気も落ち、最後は「もう脱ぐしかない!」になるのが美少女アイドルの宿命というものだ。ラクスとて例外ではない。そもそも先の大戦だって、既にミーア・キャンベルの胸に負けていたではないか。それを量産して各地にばらまく? 冗談も休み休み言いたまえ!」

 治安警察庁長官ゲルハルト・ライヒ、統一政府の一員でいるには、彼は大人でありすぎた。

ライヒ 「ハロをもっと大々的に売りだした方が、費用対効果は高い。」

 正論である。ライヒの抗議に、この計画を持ち込んだ次官ダゴスタは黙り込んだ。ミーアの名は統一後の世界ではタブーになっている。それを堂々と喋れるのは、ライヒが高官だからである。ダゴスタは情報管理省の調査の一環として、現在も地下で活動を続けているミーア派の情報を掴んでいる。

ライヒ 「ブルコスだって、そこまで狂ってはいない。」

 ライヒはキッパリと言った。今夜はまた若い娘の生き血が必要だな。彼は憤然としつつ、爪楊枝で出前のきつねそばを食べたときに付いた歯の汚れを落とした。あの親父、ツケが溜まっているとか言っていたが、ついでに脅かしてやろう。彼の趣味は深夜徘徊で、これは主席カガリも大目に見ているものである。

ダゴスタ 「ラクス様についてはともかく、キラ様の方はどうでしょう? 何といっても最高のコーディネーターです。計画を推進する価値はあるのでは?」

ライヒ 「考えてみる価値はあるだろうな。もう一度ファイルを渡したまえ。 ん? 何をビクついている? 別に取って喰おうってわけじゃない。私は人間だよ。」

 ダゴスタは恐る恐るファイルをライヒに差し出した。

ダゴスタ 「北京でまた反乱が起きたそうですね。」

ライヒ 「つまらん事件だ。近くにキラがいたのが連中の運の尽きだったな。」

 ライヒはそう言うと、葉巻を手に持ちつつ、ダゴスタの渡したファイルにじっと目を通した。エネルギー充電、いや、日光浴の時間だ。が、それは後回しで良いだろう。ゲルハルト・ライヒは改造人間である。ロゴスに改造された彼の肉体は一日5時間のソーラー充電を必要としている。

ライヒ 「大西洋連合では選挙が行われている、、この3Jとかいう候補者、人気を集めているようだな、、ジェームズ・ジェファソン・ジョンソン、、景気良すぎる名前だな、、どうせ偽名だろう、ロゴスの改造人間では無いだろうが、、名前も知らないしな、、いずれにせよ選挙期間中は連合の諜報機関の動きは無いと見て良い、、ロゴスは壊滅したが、まだ統一連合には敵が多すぎる、、」

ダゴスタ 「こんなはずじゃなかったんですがねえ、、」

ライヒ 「常に期待を裏切るのが女と現実、そしてブルコスとロゴスとディスティニー・プランというものだよ、ダゴスタ君。」

 ダゴスタの目の前でライヒは高級なオーブ産葉巻を吹かした。

ライヒ 「あれは私は賛成だった。少なくとも、今よりはマシだっただろう。」

 二人は壁に掛けられた肖像写真を見上げた。肖像のうちの一人は、今は北京にいる。



C.E.75 某月
中国、北京。

 どかーん! ちゅどどーん!

 反乱した民衆の鎮圧に圧倒的な力を見せつけるフリーダム。

キラ 「ふふん、スーパーコーディネーターの僕に逆らうなんて、やめてよね」

 ゴミのように蹂躙される北京の住民。走る子供、転がるぬいぐるみ。

 「あっ、私のクマさんが!」

 「危ない!」

 一閃するフリーダムのビーム、子供とはいえ容赦はない。

 シュウウウウ、、

 黒煙の中から姿を現す謎のモビルスーツ。

キラ 「シン・アスカ!」

 立ちはだかるシンの「カン・トンメン」ガンダム。ドスパラやパソコン工房で買い漁ったパーツから、サイ・アーガイルが組上げたレジスタンスの機体。互角のコーディネーターの出現に戸惑う統一連合軍の貴公子、キラ・ヤマト。

キラ 「生きてたの、マア、どちらでもいいけどね。」

シン 「喰らえ回転テーブルビーム!」

 フリーダムに炸裂する広東麺ガンダムの猛攻、吹き飛ぶフリーダム。

キラ 「寄せ集めで、エターナルフリーダムのペンキにキズを付けるとは!」

 驚くキラ (筆者・ケチな壊し方しやがって)。

シン 「お前だけは許さん!」

 種覚醒

キラ 「君が戦うというのなら、僕も!」

 種覚醒、スーパーコーディネーター同士の激戦。しかし、性能に劣る広東麺ガンダムが次第に押され始める。

 どかーん!

シン 「グワッ!」

キラ 「28話以降は主役を降ろされた君が!」

 ぐしゃっ! ばきっ! どがっ!

シン 「ぐえええっ! どわー!」

キラ 「僕に勝てるわけないじゃないか! ペンキ代払ってよね。」

 フリーダムの集中砲火を受け、崩れ落ちる広東麺ガンダム、対するフリーダムはワックスがけ直後の新車のように、ほとんど傷ついていない。やはり(脚本家の扱いに)差がありすぎるのか、、

シン 「デスティニーさえあれば(筆者・あっても同じだと思うがな)、このっ!」

 動かなくなった広東麺ガンダムのコンソールを叩くシン、悠然と近づくエターナルフリーダム。物陰からそれを不安げに見上げるシンに助けられたクマのぬいぐるみを持つ子供。

キラ 「死んでよね。」

 冷酷な笑みを浮かべるキラ・ヤマト、フリーダムの全砲門が咆哮し、広東ガンダムは業火に包まれる。

 危うし、シン・アスカ!

 シュウウウウ、、

キラ 「本気で戦ったら、シンがボクに勝てるはずないじゃないか。」

 広東ガンダムの残骸を確認しようとしたキラはその前に立ちはだかる謎の黒マントの男の姿に気づいた。男の背後に大破した広東ガンダムがある。

キラ 「あなたは?」

 2人の超人の戦いの間に、悠然と立ちつくす一人の男、果たしてこの男の正体は!

 「生きていたのか、陳孔明、、」

 クマ少女の近くで、戦いを見守っていた年輩の男が呟いた。


ヒーロー比較 陳孔明 対 スーパーコーディネーター、キラ・ヤマト
陳孔明(オリジナルキャラクター) スーパーコーディネーター キラ・ヤマト
カテゴリー ナチュラル コーディネーター
知能 知能指数1600、36カ国語を自由に操る、化学、物理学、生物学、医学に超一流の知識を持つ。また、機械、コンピュータの取り扱いに精通している。 英語、日本語に通じる。ロボット工学専攻で戦闘中のモビルスーツのOSを書き換えることも可能
外観 むさくるしい中年 爽やかな美少年
性格 どこにいてもかさばる 控えめで礼儀正しい、興奮するとスーパーであることの傲慢さを鼻に掛けるようになる。
身体能力 孔明チョップは30mmの鉄棒を切断 キラチョップは美少女カガリを平手打ちにする
孔明パンチはバズーカ砲並みの威力 キラパンチはサイ・アーガイルをぶっ飛ばす
孔明キックは30cmの鉄板をも蹴り破る キラキックはAAの壁を凹ませる
孔明イヤーは500m先のささやき声も聞き取る。 キライヤーは壁向こうの会話を聞き取ることができ、そのまま会話に参加できる
孔明アイは望遠、広視界、暗視の能力を有する。 キラアイは数キロ先で撃墜された親友の首が飛ぶところを見ることができる。
10分間の宇宙活動も可能 大気圏突入時のコクピットの高熱に耐える
跳躍力30m ジープに飛び乗ることは可
筋力は常人の30倍 少なくともサイよりは上
特殊能力 中国4千年の神龍油揚拳の使い手、大宇宙のエネルギーを必殺拳にして相手に叩きつけることができる SEEDを遺伝子に組み込み、発現時には常人離れした反射神経を発揮できる
(威力)惑星を破壊するエネルギー (実力)一人で戦局を変える力を持つ
神仏と会話することができる 多少のテレパシーを使うことができる
支持者 自分の作り出すキャラクターは(スペック上)絶対に原作を上回っていなければならないという偏執的二次創作作家 さわやかな笑顔と飾らない人柄、そして小悪魔的なムードで婦女子を中心に幅広い支持層を持つ。21世紀のアニメ界で最も成功したキャラクター。




<Bパート>

中国・北京


 半壊した広東ガンダムのコクピットで、額から血を流しつつ、シンは謎の男の姿を見た。黒髪に濃い髭のサングラスをした、体格の良い屈強そうな黒ジャンバーの中年。

シン 「あ、あいつは、、」

 ざわめく群衆。

若い男 「陳孔明?」

年輩の男 「知らないのか! ヤキン・ドゥーエ攻防戦でジン60機を素手で倒した男! 中国4千年の神龍油揚拳の使い手で、あのドムトルーパー三戦士ヒルダ、マーズ、ヘルベルトすら小指で下した男!」

クマ少女 「おじちゃん、、」

 群衆の方をチラリと見、微笑する孔明。それを見下ろすフリーダムのキラ・ヤマト。

キラ 「いずれにしても、敵だよね。」

 バルカンその他いろいろで攻撃するフリーダム。コクピットを脱出し、ついでに吹き飛ばされるシン。孔明は悠々とフリーダムの攻撃をかわす。直前に着地し、何やら怪しげな構えでキラを威嚇する孔明。

キラ 「この対艦刀シュベルトゲーベルの切れ味、受けて見ろ!」

 フリーダムの斬撃が炸裂し、巨大なビルを豆腐を切るようにバラバラに切り刻んだ。破片を避ける群衆。時代が違うから大八車の姿はさすがに見えない。圧倒的優勢の中、突然吹っ飛ばされるフリーダム。孔明の姿は土煙に覆われてキラからは見ることができない。

キラ 「な、、なんだ今の拳圧は! 姿を見せろ卑怯者めーッ!」

 ありえない攻撃を受け、動揺するキラ。

孔明 「フッ、ラクスの歌で人の心を紊乱し、汚い勝利を収める三下が、他人を卑怯者呼ばわりとは笑止千万、、」

シン 「こ、孔明さん、、」

 瓦礫の中から姿を現すシン。素手だけでガンダムを三枚下ろしにする男、サイから噂だけは聞いていた。

キラ 「お、おまえは一体誰なんだ、、」

 動揺するキラ、生まれて初めての恐怖を味わう。土煙から悠然と姿を現し、笑みを浮かべフリーダムを見上げる男。

孔明 「、、お前ごときに名乗るほど安っぽい名は持ち合わせていないが、倒された相手の名も知らずにあの世へ行くのもまた不憫、、、耳の穴をかっぽじってよく聞け、オレの名を! 陳孔明とは世を忍ぶ仮の姿、我が名はアーノルド・スタローン・クルーズネッガー(以下ASC)!」

年輩の男 「名前が長すぎるから省略しているんだ。」

クマ少女 「なるほど、おじちゃん頑張って!」

 猛攻を掛けるフリーダム、しかし、ASCの発する結界にことごとく跳ね返される。

ASC 「年貢の収め時だ、キラ・ヤマト! 天、地、空、海、烈、」

 突然ASCが跳躍し、渾身の拳をフリーダムに放つ!

キラ 「ぐわあああーっ!」

 パイロットの悲鳴と共に、光に包まれるASCとフリーダム、果たして、彼らの運命は!



中国・北京



 大爆発!

 ユラリ、、最初に姿を現したのは、やはりフリーダムだった。コクピットで哄笑するキラ。

キラ 「や、やめてよね、な、生身の人間がさ、、ボクとフリーダムに勝てるわけないじゃないか、、」

 ASCの姿は影も形もない。爆発で吹き飛んだのか、そもそもどうやって爆発を起こしたのかさえ不思議な人の方が多いと思うが。爆風を逃れ、瓦礫の陰に隠れていた群衆は絶望的な表情で、双眸を光らせ立ち上がるキラのフリーダムを見上げた。

老人 「もう、終わりじゃあ! 我らも、この街も!」

 宇宙統一連合、歌姫ラクスを頂点に、カガリ、キラ、アスラン、メサイア戦の神々が君臨する現世の楽園、逆らう者にはショッカーと同じく死あるのみである。

 そして、逆らう者が最近は多すぎた。

 どかーん! ぐわーん!

 ASCの死を確信し、狂ったように殺戮を始めるフリーダム、吹っ飛ばされる住民。

 どどーん!

クマ少女 「きゃあっ!」

 ASCを解説した男が腹に手を当てうずくまる。無抵抗の住民を容赦なく殺戮するフリーダム。コクピットではキラがいつもの平静さを取り戻していた。

キラ 「ゼロ・モーメント・ポイント及びCPGを再設定、疑似皮質の分子イオンポンプに制御モジュール直結、ニュートラルリンケージ・ネットワーク、再構築。メタ運動野パラメータ更新、フィードフォワード制御再起動、伝達関数。コリオリ偏差修正。運動ルーチン接続。システム、オンライン。ブートストラップ起動!、、、何っ!」

 完調を取り戻したフリーダムの眼前に、その男はいた。

 それは化外の存在。一言で言えば化け物。世界を変える力を持つ者。言葉にすれば何ということはない「常識離れした戦闘力を持つ人間」。地球外生物と考えた方が早い。たったそれだけの事だ。それだけでも普通ではないが。そう考えれば全て納得できる(かもしれない)。誰もがその存在を知ればキラのようになるはずだ。そして、砕け散ったはずの男は悠然とフリーダムに向かって歩み寄る。

 男の目の前には、1機のモビルスーツがいる。取るに足らない相手、「俺」の姿に怯え、逃げようと考えつつ、下らない「思い」だけで立ち塞がろうとする道端の小石。もはや勝てないと知りつつ「退く」ことを選択できない、生物界の掟を知らない無能な生命体。
((C)ガンダムSEED・Revival

 「俺」はそれを感じ、口端でほくそ笑む。復活したASCが拳を構え、そのオーラ力に威圧されたフリーダムのOSが凍り付く。動揺するスーパーコーディネーター、キラ・ヤマト。

 眼前にあるのは、スーパーを超える者。

キラ 「フリーダム! 動け! なぜ動かない!」



中国・北京


 ASCの拳にエネルギーが凝縮されていく。分子間力、ファンデルワールス力、共有結合、イオン結合、水素結合、なんだか分からない大宇宙のいろいろなエネルギーで大気がプラズマ化し、ASCの周囲の空間が発光し、火炎旋風が生じる。それは惑星をも砕くエネルギー。

 ASCの闘気に威圧され、OSがフリーズしたエターナルフリーダムは動くことすらできない。MS社OS特有のぶしつけなエラーメッセージの連続に苛立つキラ。旋風に巻き上げられた冷蔵庫の直撃を受け、スーパーを超える闘いを見守っていたシンが昏倒する。

シン 「ひげっ!」 (ドサッ!)

 倒れたシンを一瞥するASC、集約したエネルギー力の巨大さに余裕の笑みさえ浮かべている。

 さらばだ、キラ・ヤマト。

ASC 「見るか!星々の砕ける様を! 神龍油揚拳、最大の奥義!」

 危うし! キラ・ヤマト!

謎の声 「その勝負、待った!」

 拳を止めたASCとキラが見上げたビルの屋上には背丈ほどもある長剣を背負った男がいた。頬に青痣がある長身の男がASCの起こした火炎旋風でマントを翻している。フリーダムより実はこちらの被害の方が大きかったかもしれない。見覚えのある顔にフッと笑うASC。屋上には何人かの別の男たちもいる。

キラ 「誰だお前は!」

楊志 「我が名は梁山泊! 青面獣の楊志!」

 バサッ! 「青面獣の楊志」、梁山泊きっての剣の使い手がマントを振り払い、高らかに叫ぶ。

宋万 「同じく! 雲裏金剛、宋万!」

 楊志の傍らにいた巨漢が名乗りを上げる。

佐助 「同じく! 猿飛佐助!」

 日本忍者もいるらしい。

その他 「同じく! 何たらかんたら!」 (筆者・他にも15人ほどいるが紙面の都合で割愛する)

 勝負を中断され、ビルの上で5分以上も決めポーズを取り続ける男達にキラは怒った。

キラ 「あの世逝きにしてやる!」

 ASCにフリーズさせられたOSをリセットスイッチを押して再起動し、MA-M21KF高エネルギービームライフルを向けるキラ。その肩をもう1機の「ガンダム」が掴んだ。戦いを見守りつつ、援護もせずに背後に廻り込んでいたトゥルージャスティスだ。

アスラン 「やめろ、キラ!」

キラ 「アスラン!」

アスラン 「あれは梁山泊だ、素手で敵う相手じゃない!」

 アスランの良く分からない理屈に説得されるキラ、ライフルを下ろし、踵を返す。すでに梁山泊の面々が25階建てのビルから飛び降り、キラらの前に立ちはだかっている。

 ザシャアッ!

 世界三大レジスタンスの一つ、梁山泊。キラらに勝ち目は無い。

キラ 「決着は今度だ、シン・アスカ!」

 ギュイーン! ギュオーン!

 飛び去る2機、ASCの助けを借り、冷蔵庫の下から這い出たシンが去っていく光点を睨んでいる。周囲には梁山泊の面々がいる。一部の者は大破したシンの機体を調べている。傷ついた民衆もシンらの周囲に集まり始めている。

楊志 「ASC先生もご無事で。」

 青痣の男が礼儀正しく一礼する。かつてASCと剣を交えたことがある。頷くASC。

佐助 「あの広東麺ガンダム、修理すればまだ使えそうだ。」

 宋万ほかに担がれた広東ガンダムを一瞥するシン。

ASC 「来るか? シン?」

シン 「どこに行くんです?」

楊志 「水のほとりの要塞さ。」

 夕日に向かって歩き出すASC、長剣を担いだ楊志が続く。勝ち鬨を上げ、それを見送る群衆。

 ワーワーキャーキャーキエー(効果音)

クマ少女 「お兄ちゃん、、」

 群衆の歓呼の中、やがてシンは頷くと、男達の去った方向に向かって走っていった。

 シン・アスカの新たな戦いが、ここに始まる。


機動戦士広東麺ガンダム「第1話」完


目次に戻る