研究所の中は、様々な科学力が結集したような造りになっていて自然の要塞とは思えないほどであった。
研究所には、マヤ達が乗っていたワークスジン3機の他に、かつて地球連合が所有していたスカイグラスパー、ダガーLの姿があった。どうやら、梁山泊にある機体は、ワークスジン3機を含め、この5機だけのようだ。
「な、何よ、これ・・・」
「外の修練場とはえらい違いだ・・・」
「もしかして、スカイグラスパーやダガーLも、どこかから盗んできたものなのかな・・・」
「ここが、KONRON社です」
柴進は3人に言うと、ダガーLの修理をしていたメカニックに声をかけた。
「マッドさん。楊志殿が連れてきた3人の方々を連れてきました」
「おお、柴進様!そこにいるのが楊志様が連れてきた3人ですか!」
マッドと呼ばれる中年の男はマヤ達の姿を見た後、自分の自己紹介をした。
「俺の名前はマッド・エイブス。元ミネルバのメカニックだ。よろしくな」
マッドはマヤに右手を出した。マヤは自分の右手を出し、マッドの手を握った。
「ど、どうも・・・」
「いやあ、シンやレイの時もそうだったが、最近は若いパイロットが多いんだなあ。本当に時代を感じさせてくれるよ」
「じ、時代って・・・。まだ5年くらいしか経ってないと思うんですが・・・」
マヤはマッドに言った。
「いやいや、俺にとってこの半生は、本当に短い時間だった。思いを越せば、5年前、ミネルバのメカニックを、ヨウラン、ヴィーノという若僧と担当していた。ぼろぼろになった戦艦内部の修復作業で、俺は筋肉痛になったりして、いやあ、本当に激動の時代を駆け抜けたという感じだ」
「は、はあ・・・」
マヤ達はマッドの話を聴いていると、佐助がマッドにこう言った。
「ところで、マッドのダンナ。ダンナが今直しているダガーLのパイロットはどこいったんだい?」
「ああ、那托かい?あいつなら今、頭部の所を雑巾で磨いているぞ」
「そうかい。丁度いいや。マヤ。今からダガーLのパイロットを紹介するぜ」
佐助はマヤにこう言うと、
「おーい、那托!ワークスジンのパイロットが来たぞ!」
と叫んだ。すると、ダガーLの頭部から、目つきの悪い、17歳ぐらいの少年が飛び降りてきた。那托と言う名前の少年は、マヤ達に近づくと、
「おまえ達、名前はなんて言うんだ?」
と訊いてきた。
「わ、わたしはマヤ・テンムと言います」
「大江戸健太だ」
「カ、カン・トンメンです」
「そうか。お前達が楊志の連れてきたパイロットだな。背が小さいな」
「え、ええ。そうですが」
那托の言葉にマヤはあっさりと答えた。確かにマヤ、健太、カンはクラスの中でも、チビナンバー1を争うほどの小ささだ。今更チビだとかなんだとか言われても、3人はそんなに気にしないのである。マヤは那托の目を見て言った。
「でも、背が小さいのがなんだって言うんですか?」
那托はマヤの頭をぽんと触った。
「えっ?」
マヤは那托の行動に理解ができない。那托はそんなマヤの心中を無視して言った。
「背が小さい奴は、肉弾戦での戦いに有利だ。背が小さければ素早い動きで相手の攻撃をかわすことができる。楊春から聞いたぞ。宋万と杜遷の2人を倒したんだってな」
「え?は、はい。あの大きい2人組の人達の事ですよね」
「ああ。MSの戦いでも、小型のMSが有利に戦闘を進めることが出来る。あのワークスジンは訓練用の小型だからな。いいMSを持っているな」
「は、はい・・・」
「・・・3人とも、これからの戦い、頑張れよ」
那托はそういうと、またダガーLの頭部に飛んでいった。常人とは思えないほどの、ものすごい脚力である。
「すごい・・・。ジャンプしただけで、MSの頭部に飛んでいっちゃった・・・」
「ここの人達って、かなり変な人達ばっかりだよな」
「うんうん」
三人がそう会話していると、スカイグラスパーの方から、緑色の髪の女性がマヤ達に向かって、つかつかと早歩きでやってきた。女性は柴進に訊いた。
「柴進様!このオチビちゃん達が楊志が連れてきたっていうパイロットかい?」
「ええ。そうですよ」
柴進がそう答えると、緑の髪の女性はマヤ達の姿を上から下までじろじろと眺めた。
「ふ〜ん。あんた達が楊志が連れてきたパイロットかあ〜。私をうかうかしてられないね〜。下手してたら、活躍の場を奪われちまうよ。・・・っとそうだ!スカイグラスパーのメンテナンスが終わってなかったんだ。そんじゃ、オチビちゃん達!そして柴進様!また後でね〜♪」
女はマヤ達と柴進に言うと、スカイグラスパーの方へと戻っていった。マヤは緑色の髪の女に、なぜか苛立ちを覚えた。
自分たちをじろじろ眺めたくせに、挨拶のひとつもないのか!あの人は礼儀がなってない!
「な、なんなんですか!佐助さん!あの人は!!」
「そうですよ!俺達をじろじろ見てたくせに、挨拶のひとつもしないで行っちまいましたよ!!」
「あの人は一体誰なんですか?」
カンは佐助と柴進に訊いた。
「いやあ、あいつは元地球連合の兵士のレッテ・ラッテンていう奴でな。宇宙統一連合が発足した後に、あのスカイグラスパーを盗み出して、梁山泊のメンバーに入った女兵士さ」
「2度の戦争で、スカイグラスパーだけに乗り、250機の機体を潰したことから、『緑の怪鳥』という異名を持っているんです」
「スカイグラスパーだけに乗って!?すごいなあ・・・」
「でも、歴史の教科書にはあの人のことは載っていなかったよね?」
「そうそう。どうして載ってないのかな?」
マヤとカンは2人で話し合いながら疑問に思った。柴進は2人の言葉を聞くと、2人に向かって言った。
「それは、自分達に都合の悪いことは乗せたくないのではないでしょうか?」
「えっ!?」
「どういうことですか!?」
「自分達に都合の悪いものって・・・!」
3人は柴進の言葉を訊くと、どういうことかと彼に訊いた。
「・・・彼女、レッテ・ラッテンは5年前の戦争のオーブ戦線で、カガリ・ユラ・アスハの搭乗していた『ORB−01・アカツキ』と互角に闘ったとされているパイロットなのだ。当時セイラン家の統治していたオーブは、地球連合と同盟を結んでいた。だから、ザフト軍がオーブ侵攻をしに来た時、地球連合の勢力もオーブ軍に助太刀するという形で、少々配備されていたのです。レッテもその中の1人で、ザフトとオーブ・連合混成軍の戦いにアカツキが乱入してきた時、レッテは戦闘に邪魔されるのに腹を立て、スカイグラスパーでアカツキに戦いを挑んだ。彼女はアカツキに互角で闘っていたが、ディスティニーの参戦で、ついに決着はつかなかった、と、レッテ本人から聴いたことがあります。おそらく、彼女の名前が載っていないのは、アカツキにたてついたという、戦争ではほんの些細なことで、教科書の製作者は、彼女の過去の戦績などを書かなかったのではないかと思います」
柴進の言葉を訊いて、3人は驚愕した。
「そんな、そんなことで・・・嘘!信じられない!」
「だが、これが本当だったとすれば、俺達はこの世界の真実を分かっちゃいないと言う事になる・・・!」
「一体、なにが本当なんだ!!なんか、分けが分からなくなってきた・・・」
佐助と柴進は3人の姿を見て、こう言った。
「・・・3人とも。世界の本当の姿が見たいかい?」
「え?どういうことですか?」
「学校で教えられることや、教科書に載ってることだけが真実とは限らない。どうです?私達梁山泊のメンバーに入り、世界の真実を見てみませんか?」
マヤは佐助と柴進の言葉を聴くと、数秒たってから、
「・・・でも、レジスタンスのメンバーに入るのは、やっぱり嫌です」
「・・・・・・」
「レジスタンスって、政府に対して反乱を起こす人達の事ですよね。それで普通に暮らしている人達にも迷惑をかけて、結局、自分達で政治が出来ないくせに、自分達の主義主張を勝手に唱える・・・。そんな勝手な人達の仲間になりたくありません。あなたたちの頭領と呼ばれる人だって、どうせ・・・!!」
「ところがそうじゃないんだな」
佐助はマヤの言葉をさえぎるように言った。
「俺達の頭領は、そんな自分達のやったことを投げ出すような人じゃねえ」
「そうです。もし投げ出すようであれば、私達KONRON社は梁山泊に入りません」
「どういう・・・意味ですか?」
「まあ、百聞は一見にしかずだ。そろそろ頭領のいる頭領の部屋に行こうか」
「そうですね。ヨウラン、ヴィーノ。2人は那托とマッドさんと一緒にダガーLの修理をしてください」
柴進はヨウランとヴィーノに言うと、2人は、はい!と返事をして、ダガーLの方へ行った。
「さあて、行きましょうか。我らの頭領の所へ」
3人は佐助と柴進に連れられて、棟梁の部屋へ行った。
梁山泊司令室
司令室では、梁山泊頭領らしき男と、副頭領らしき男と、それぞれの軍団長5人と、参謀らしき青年が2人、そして、密偵の姿の男が丸い机に輪になって話し合っていた。部屋にはモニターがあり、そのモニターには、軍人らしき者達に力無き人々が苦しめられている映像が映ってあった。メガネをかけた参謀らしき青年が頭領達に言った。
「これが、密偵の白勝が撮って来た上海の映像です。上海の人々は、中国・宇宙統一連合軍総大将・高?の配下の軍人達の手により、すさんだ状況になっています。税金は取られるだけ取られ、税金が無ければ略奪され、婦女達は犯され、子供や老人は豪華な宮殿建設のために、鞭を打たれ無理矢理働かされる・・・。これ以上、人々が統一連合やワルキューレの輩達に苦しめられるを放って置けません」
メガネをかけた参謀の後に、見た目は16、7歳らしき青年が続けて言った。
「中国の上海だけではありません。世界中で宇宙統一連合やワルキューレの者達が、何の罪のない民を苦しめ、税金を搾り取り、その民の税で贅沢の限りを尽くしているのです。今こそ、梁山泊軍が動き出す時だと考えます。現に、山崎天狼斎と火消しの勘太郎の軍は、イタリアでワルキューレ・統一連合混成軍と依然、戦闘を継続していますし、ロゼ巡査長と楊?の軍は、スカンジナビア王国で怪しげな動きをしているワルキューレの軍を監視しています。他の軍も各国でゲリラ活動を続けております。それに、世界三大レジスタンスの『曹一族』や、『宇宙海賊・江東乃虎』も本格的に動き始めています。本部の我々が今、中国で動かずしてどうするのです!」
青年は頭領の顔に目を向けて言った。頭領らしき男は目を閉じて腕を組んで考えている。副頭領らしき男が参謀2人に言った。
「確かに、我々本部の者達も動かなければならない常態になってきているのは確かだ。しかし、本部の所には、楊志が盗んできたワークスジン3機を含めて、5機の機体しかない」
副頭領に続いて、長い髭を蓄えた男が言った。
「左様。我々の力を結集してなんとか高?の軍を倒せたとしても、後々のことも考えると、戦力が圧倒的に不利になる。ここはなんとかMSの戦力を増強させてからでないと、今本部を動かすのは、かなり難しくなりそうだ」
端正な顔立ちの男も口を開いた。
「KONRON社設立前の各企業のMS設計技術も、5年前にクライン派に全て没収されたからな。MSを盗み出すのも至難の業だ。今度、時遷に頼んで香港のMS製造所のMSを盗ませてみるとしよう」
青痣の男・楊志が端正な顔立ちの男に訊いた。
「パイロットの方はどうする?また軍学校の生徒を連れてくるか?」
「いや、KONRON社に頼んで、社内からパイロットを募集するように頼もう。いちいち誘拐しては、梁山泊の大義名分が立たなくなる」
「ヘン!MSなんざ無くたって、俺達の力があれば、統一連合もワルキューレもぶっ飛ばせるぜ!!」
毛むくじゃらの大男が吼えるように言った。楊志が毛むくじゃらの男をたしなめるように言った。
「張飛。関羽殿が言っただろう。後々のことを考えると、戦力が圧倒的に不利になる、と。山崎やロゼ巡査長の軍も、敵のMS製造所から盗んで戦力を増強させているんだ。インドにいる林冲と壊し屋陣八も、インドの反クライン・統一連合派に、一緒に手を組むように呼びかけているし、元帥も香港で四聖の人達と敵のMS製造所を乗っ取ろうとしているんだ。確かに俺達梁山泊軍のほとんどは、素手や得物でMSを破壊する事はたやすいが、その力だけじゃ駄目なのだ。MSの力も借りなければ、統一連合に勝つことは出来んぞ!」
楊志の言葉に、張飛と言う名の男は激怒した。
MSの力も借りなければだと!?
これではまるで素手で戦える自分達が役立たずと言ってるようなものと同じではないか!
張飛は楊志の胸ぐらを掴んだ。
「楊志!てめえ!素手で戦う俺達が、まるで役立たずだと言ってるようじゃねえか!ええ!?お前もあんな鉄くずの力に屈したか!?」
「屈してなどいない!ただ、我々の後の戦いに不利になるから、MSが必要だ!と、言っただけだ!!暴れることしか能の無いお前には分からんか!」
「何だとこの・・・!!」
張飛が楊志に殴りかかろうとしたその時、頭領らしき男が声を張り上げた。
「喧嘩はよさないか!翼徳!楊志!十二神将であるお前達がここでもめてどうする!!」
頭領の言葉に、張飛はたじろいだ。
「し、しかし、兄者!」
「今は呉用先生や太公望、そして、ここにいる皆の言うとおり、本部である我らが動かなくてはならない。が、そのためには後々の戦いのためにMSの戦力を増加しなくてはならないのも事実。
そのために楊志達は今日、北京の軍学校からMS3機とパイロット3人を連れてきたのだ。翼徳、そして楊志。お前達両方の考えも分かる。だから、仲間同士で揉める事はしないでくれ。我らが戦うべき敵は他にいるではないか」
頭領の言葉に、張飛と楊志は争うのをやめた。
「わ、悪かったよ、兄者・・・」
「・・・フン」
2人が席に座った時、司令室の入り口から、
「頭領!楊志のダンナが連れてきた3人のパイロットを連れてきました!」
と言う佐助の声が聞こえた。頭領は佐助に
「ああ、3人のパイロットの顔が是非みたい。入ってきてくれ!」
と言った。
佐助はマヤ達と一緒に司令室へ入った。
司令室は、丸い机に頭領を中心とした男達が座っている。その中に、右頬に大きな痣を持った楊志の姿があった。
頭領らしき男の顔は、とてもおおらかで、まさに平和を愛する者の顔に見えた。マヤは、こんな顔の人がレジスタンスのトップなのかと思った。マヤが頭の中で想像していたイメージのトップとは全然違っていた。マヤは佐助に訊いた。
「あ、あの、あのトップの人は、一体・・・?」
「ああ、紹介するよ。あのお方が、我ら梁山泊の頭領、『劉備玄徳』さ!」
「この人が、梁山泊の頭領・・・!?」
マヤは劉備の顔を見て、とてもレジスタンスのトップには見えないと思った。それは健太とカンも同じであった。
「レジスタンスをまとめるトップに見えねえ・・・」
「もっとごつい人かと思ってた・・・」
劉備は3人を見て、
「君たちの名前は、なんというのだ?」
と訊いた。マヤ達は、はっと気を取り直して自分の名前を言った。
「わ、わたしはマヤ・テンムと言います!」
「お、俺の名前は大江戸健太と言います!」
「カ、カ、カン・トンメンです!」
3人とも、レジスタンスのトップである劉備がいるから、緊張してしまっている。
「そうか、マヤに、健太、カンか・・・。とてもいい名前だ」
劉備は3人を誉めるように言った。
「私はこの梁山泊の頭領・劉備玄徳と申す」
劉備が自分の名前を言うと、他の者達も続けていった。
「わたくしは梁山泊の副頭領の、及時雨・宋江という者です」
「私は梁山泊の参謀役を努めている、智多星・呉用といいます。お見知りおきを」
「同じく、参謀役の太公望だ。よろしく頼むぞ」
「拙者は、梁山泊十二神将が1人、関羽雲長と申す。以後、よろしく頼む」
「俺様は梁山泊十二神将の1人、張飛翼徳だ!」
「梁山泊十二神将の花栄だ。人からは『小李広』と呼ばれている。よろしく頼むぞ」
「お、おいらは梁山泊・偵察隊の白日鼠・白勝といいます。そして、こっちの青痣の男のお方が・・・」
白勝が紹介しようとしたその時、マヤ達3人は、指を指しながら大きな声を上げた。
「あーーーーーーーーーーー!!あの時の青痣の男だ!!」
マヤ達の声に白勝は慌てふためいた。
「ちょ、ちょっと、指差しては駄目だろう!!そのお方は梁山泊十二神将の・・・」
「・・・青面獣・楊志だ」
楊志はそういうと、腕を組んで下を向いたまま目を閉じた。白勝はさらに慌てふためく。
「うわ、うわわ!どうしようどうしよう!!完全に楊志様を怒らせちゃったよ!!どうしようどうしようどうしよう!!」
「慌てるなよ、白勝。3人だってわざとやったわけじゃないんだしさ」
慌てて落ち着きのなくなる白勝に、佐助は言った。
「で、でも、楊志様は完全に怒っているよ!?どうするんだよ!?」
「楊志のダンナはその程度で怒るような人間じゃないさ。それに、人に指差されるようなことに、ダンナはもう慣れているぜ」
「・・・佐助の言うとおりだ、白勝。慌てる事はない。俺は人に何を言われようと決して動じない。そして、佐助。お前が最後だ」
楊志は目を閉じたまま、佐助に言った。
「そういや、そうだったな。まあ、マヤ達には軍学校のときに言ったと思うが、俺は楊志のダンナの配下の1人、かつ、梁山泊隠密部隊隊長。人呼んで『甲賀流の猿飛佐助』だ。よろしくな!」
「は、はい。よろしくお願いします」
3人は口を揃えて言った。
梁山泊のメンバーは、こんな個性がありすぎる人達でいっぱいなのかと思った。
「では、マヤ、健太、カン。そなたたちの方から、なんでも質問してくれ」
劉備は3人に言った。1つ目の質問を言ったのは、カンであった。
「えっと、質問なのですが、梁山泊のメンバーの人が言っている、『梁山泊十二神将』って一体何なんですか?」
カンの質問に答えたのは佐助であった。
「この質問には俺が答えよう。梁山泊十二神将というのは、この梁山泊の中で最も強いとされる、十二人の戦士達のことで、
梁山泊に十二の神の将あり、すなわち、
・聞仲元帥
・青面獣・楊志
・小李広・花栄
・山崎天狼斎
・一清道人・公孫勝
・楊?
・関羽雲長
・張飛翼徳
・壊し屋陣八
・火消しの勘太郎
・豹子頭・林冲
・ロゼ巡査長
この12人のメンバーで成り立っている。十二神将のほとんどは、剣や素手でMS、MAをぶっ壊す事ができて、統一連合やワルキューレからも恐れられているんだ」
「へえ・・・、すごいなあ」
「じゃあ、どうしてそんなに強い人達がいるのに、わざわざMSを生産したり、強奪したりするんですか?」
次の質問を言ってきたのは、健太であった。健太の質問に答えたのは、太公望であった。
「うむ。それについては、わしが答えよう。例え、十二神将がMSを生身で倒す事のできる強さを持っていても、敵である統一連合やワルキューレは、それに対抗すべく、十二神将と同じく、素手で闘う事のできる豪傑達を引き入れている。その豪傑達も、MSを操縦する事ができたりするものだから、さらに厄介になる。MSが大破する寸前にコックピットから脱出し、今度は生身で戦おうとする。そうなればたとえ十二神将といえども、苦戦は必至。MSと人間との両方と戦わねばならなくなるからな。だから、コックピットごと大破することができるMSが必要なのだ。それに、我々は後々の戦いのことも考えている故に、MSが必要であるからな」
「その後々の戦いって?」
「それは、宇宙だ」
「宇宙!?」
カンと健太は驚いた。
わざわざ宇宙に行くために、MSを盗んだり、パイロットを連れ去ったりしていたのか!!
「だけれど、宇宙に行くためには戦艦も必要ですよ?それに、宇宙に行って誰を倒そうとしてるんですか?」
健太は太公望に訊いた。
「戦艦はKONRON社が全力をかけて開発している。いつまでもここにいるわけにはいかんからな。そして、わし達が倒そうとしている者・・・。それは、プラント最高評議会議長兼ワルキューレ総帥・ラクス・クライン」
「ラ、ラクス・クラインだって!?」
3人は目を開いて驚愕した。
梁山泊がまさかラクスをターゲットにして活動していたなんて!!太公望はさらに話を続ける。
「そう、世界を自分の玩具のように弄び、人々を苦しめるクライン派の総首領。独善の『自由』と偽善の『正義』、そして、宇宙統一連合初代主席兼オーブ主張連合国国家主席・カガリ・ユラ・アスハを従え、自分達に逆らう者達を次々と殺し、己の楽園を築いていく、平和の歌姫とは名ばかりの、人類の歴史至上類に見ない、最低最悪の独裁者!過去の歴史に残る独裁者アドルフ・ヒトラーや、ジョージ・W・ブッシュ、金正日など比べ物にならん!
あの女がいる限り、人々は恐怖と闇に包まれた絶望の暗闇の中に閉じ込められたままだ。だからわし達は、奴に従う、キラ・ヤマトの『ストライクフリーダム・カスタマー』、アスラン・ザラの『インフィニットジャスティス・カスタマー』を倒すため、MSの欲しているのだ。生身の人間が空気のない宇宙で戦えるわけがないだろう?宇宙で戦えることができるのは、MSしかないのだ」
「だが、そのためにそなた達3人を連れ去った事に関しては、わし達も謝らなければなるまい。本当にすまなかった」
劉備は3人に向かって、頭を下げた。そして劉備は頭を上げると
「だが、今のこのラクスに支配されている世界を私はなんとしても救いたい!連れさらっておいて不謹慎であると思うが、どうか、この梁山泊に協力して頂きたい」
カンと健太は劉備のこの誠実な態度に、どうしようかという顔をした。しかし、マヤは劉備に最後の質問をした。
「ですが、どうしてあなた方は統一連合政府に対して反乱をするんですか!?あなたたちのやってる事も、結局、人々を苦しめているだけじゃないですか!!」
マヤの言葉に張飛は激怒した。
「なんだと!?兄貴が頭を下げて協力してもらいたいと頼んでいるのに、その態度はなんだ!!」
「だって、そうでしょう!!自分達の目的のためにMSを盗んで、そして戦力増加のために人さらいですか!?自分達が正義の味方と勘違いしてるんじゃないんですか!?」
「マヤ!少し落ち着け!!」
健太はマヤを諫めようとするが、
「健太君は黙ってて!!」
と、健太を振り切って、張飛に向かって、
「あなた達は悪い奴をやっつけるヒーローのつもりですか!?
そういうあなた達がよっぽどの悪者ですよ!!」
「てめえ!!ふざけやがって!!」
張飛は椅子から立ち上がると、マヤの胸ぐらを掴んだ。
「うわわわわ!!どうしようどうしよう!!えらいこっぴゃえらいこっぴゃ!!」
カンと白勝は一体どうしようかとおろおろしていた。
「年端もいかねえのガキのくせに、偉そうに説教たれやがって!!」
張飛はマヤの頬を強く叩こうとした。マヤは思い切り目を瞑った。しかし、叩こうとしたその手は、関羽の腕によって止められた。関羽は張飛に怒鳴った。
「翼徳!お前はなんてことをしようとしたんだ!!まだ子供である少女に向かって、平手打ちをしようなどとは!!」
「しかし、兄者!!こいつは俺たちを侮辱したんですぜ!!」
「・・・この娘はまだ、世界の真実を知らないのだ。我らを否定するのも無理はないだろう。それに、そんな子に対して、力で教えようとしたお前も悪いぞ」
「そ、それは・・・」
「フン。言葉で説明も出来ぬ堅物が・・・」
楊志は張飛に軽蔑するような視線で言った。張飛はその言葉を聞いてさらに激怒した。
「なんだと!楊志!!」
「やるか?」
楊志は剣を抜く体制を構えた。
「2人とも、もうやめろ!!」
劉備が二人を諫めた。
「兄貴・・」
「頭領・・」
「関羽の言うとおりだ。まだ世界の真実を知らない子に、力で教えようとするのは、余りにも酷ではないか。双方とも、椅子に座ってくれ」
楊志は黙って椅子に座り、張飛はマヤを放し、その場に座った。
マヤは安心したと言う解放感と張飛の圧倒的な威圧感で、涙を流した。
「うっ・・・ううっ・・・うわあああぁ・・・・」
健太とカンはマヤを見て、
「ああ、大丈夫だから大丈夫だから!マヤ、泣くなって!」
「ああ、一体どうすればいいんだあ!!」
と、困り果てた顔をした。それを見た花栄がマヤの側に立ち寄り、
「どれ、そんなに泣くな。君の言ってる事も、我々は十分に自覚している。しかし、だからと言って、何もせずにはいられんのだ」
「えっぐ、ひっく・・・、どう・・し・・・て?」
マヤは花栄に訊いた。
「そのことについては、頭領が説明をする。ちゃんと聴くんだぞ?」
「は、はい・・・」
マヤは花栄の言葉を聴いて泣き止んだ。劉備はため息をつくと、間を置いて口を開いた。
「さて、これから、この世界の真実について、長く語ろう・・・」
「そう、全ては5年前の第二次地球圏大戦が終わりを告げた時から始まった・・・。ディスティニー・プランを導入しようとした当時のプラント最高評議会議長、ギルバート・デュランダルを倒した4人の英雄。キラ・ヤマト、アスラン・ザラ、カガリ・ユラ・アスハ、そして、平和の歌姫・ラクス・クライン。4人は議長がいなくなった事で混乱していたプラントを、オーブの管理下に置く事によって混乱を沈めた。ザフト・地球連合の軍事技術はラクスを筆頭としたクライン派が没収した。そして、地球に残るブルーコスモスの残党を殲滅した4人は『宇宙統一連合』という組織を造りだし、人類史上初の恒久平和を実現させた。だが、その平和は一部の選ばれた人間にしか与えられなかった。平和なのは、オーブや、プラント最高評議会と親しい関係にある国だけであり、エイプリル・フール・クライシスや二度目の大戦で被害を受けた国などは依然として貧しい生活を送らなければならなかった。そうなれば当然、世界中で貧富の差が現れるのは当然だ。普通は貧しい国があれば、その貧しい国のために立ち上がるのが常識だが、統一連合は貧しい国に何もしなかった。いや、厳密には親近国に救援物資を送りすぎたため、その他の国に送る物資がなくなってしまったのだ。貧しい生活を送らなければならない人々は激しく怒った。
『戦争が終わったのに、俺達の暮らしは全然よくならねえ!!』
『統一連合の偉い方は何をやってるんだ!!』
『どれもこれも統一連合主席のカガリが、親近国にしか物資をよこさないからだ!!』
『もう我慢できねえ!打ちこわしだ!!』
人々は怒りに震える手に武器を持ち、ついに統一連合に反乱を起こした。その反乱の中で一番規模が大きかったのが、東アジアで起こった『黄巾の乱』だ」
「黄巾の乱って、あの『張角』が首領の・・・」
健太が劉備に訊いた。
「そうだ。当時民衆から慕われていた3人の道士、『天公将軍・張角』、『地公将軍・張宝』、『人公将軍・張梁』その3兄弟が民衆を率いて、統一連合に反乱を起こした。それが、『黄巾の乱』だ。
『怒るのだ!黄巾の子らよ!その怒りによって、宇宙統一連合の築き上げた仮初めの蒼天を打ち砕き、光あふれる黄巾の世を迎えるのだ!!』
この乱は貧しい地域の中で、特に酷かった東アジア全域に広がり、もはや統一連合の手では止められないほどに広がってしまった。そこでラクスとカガリは、ザフトにあった『フェイス』の称号を基にして、ラクスを総帥とする史上最強の独立軍『ワルキューレ』を設立した。キラとアスランという2人の将軍を筆頭にしたワルキューレは、圧倒的な力を黄巾軍に見せつけ、リーダーであった張角は捕縛され、張宝は戦死、張梁は残り少ない黄巾軍の残党と共に行方不明となり、黄巾の乱は幕を下ろした。だが、この黄巾の乱で、世界中の貧しい国々の人々が各地でレジスタンスやゲリラを起こすようになった。だが、統一連合軍とワルキューレはそのレジスタンスの人々を『平和の敵』とみなし、その武力でレジスタンスを鎮圧するようになった。ある者は国家の軍の大将軍や警察署長となり、治安維持という名目で人々を苦しめ、またある者は戦場で虐殺の限りを尽くし、人々を恐怖のどん底に叩きいれる。そして、カガリやラクス率いる政財界の者達はその有り余る財産で贅沢の限りを尽くし、政をないがしろにしている始末。このような事が許されていい訳がない!だから我々はこの梁山泊に集まり、人々の真の平和を取り戻すために戦っているのだ」
「で、でも、統一連合やワルキューレの中にだって・・・」
統一連合やワルキューレの中にも、貧しい人々のために頑張っている人たちだっているんだ、とマヤは劉備に言おうとした。だが、マヤの考えは劉備にお見通しであった。
「統一連合やワルキューレの中にも、貧しい人たちを助けるために頑張っている人達もいる・・・。そう、言いたいのだね?」
「えっ?ど、どうしてわたしの言おうとしたことを・・・?」
「君の考えている事は目を見てよく分かるよ。そう、統一連合やワルキューレの中にも貧しい人々のために考えて行動している者達も少なからずいることは私にも分かる。だが、その者達の頑張りも、上に立つ者達が腐っていたのでは、その頑張りも無に帰す。だから私は、この戦いが終わった後、自ら政治の世界に立ち、人々のために尽くそうと思っている。他の者達も道は違えど、志は1つ。だから、マヤ、健太、カン。しばらくの間、梁山泊に力を貸して頂けないだろうか?」
マヤ達は劉備の言葉を聴いて悩んだ。
確かに、劉備の言っている事を聴いていると、彼の言った事に間違いはないようだ。しかし、本当にそうなのか?もし本当の事だからといって梁山泊に力を貸せば、多くの人達と戦わなくてはならない。自分達はそのプレッシャーに耐え切れるのだろうか・・・。
佐助は悩んでいるマヤ達にこう言った。
「なに、頭領の言った事が嘘か本当かは自分達の目で見ればいい。ゆっくり考えていけばいいと思うぜ。君達のような若い人には、考える時間がたっぷりとあるんだ」
佐助の言葉を聴いて、健太とカンは、
「・・・分かりました。力を貸しましょう」
「・・・僕も、力を貸したいと思います」
と、梁山泊のメンバーに言った。
マヤはしばらく考えてから、
「・・・わたしも、しばらくここにいます。そして、劉備さん。あなたの言った事が真実なのか、自分の目と耳で見て聴いて、この世界の本当の姿を見たいと思います」
と言った。マヤの目には、涙はなかった。
「そうか・・・。ありがとう・・・」
劉備は3人に深く頭を下げて、3人に礼を言った。
中国・北京軍学校
学校のグラウンドには、ホイ・コーロー、ダンベール・タンベール、ジェシカ・エッセンスなどの、統一連合軍の兵士が集まっていた。兵士の中には、軍学校の生徒が数十名並んでいた。ホイが軍列の前に立ち、兵士達に激を入れた。
「いいか!我々の目的は、軍学校の生徒3人を誘拐した、梁山泊の者達をひっ捕らえ、そして、誘拐された3人の生徒を救出ことである!そのためには、例え仲間や兄弟が倒れても、迷わずに突き進め!!出発は明後日の明朝、皆、しっかり戦うのだ!!」
ホイが兵士達にこう激を飛ばしているところへ、
「かったりい演説はいいから、早く敵のところに行こうぜ?ホイさんよお?」
と、どこからともなく、紫色の軍服を着た、金髪の男が現れた。男はエメラルドグリーンの色をした三白眼で、ホイを睨みつけた。ホイは男に怒鳴った。
「なんだ!その無礼な態度は!!恥を知れ、恥を!!」
「ヘン!この俺を誰だと思ってやがる?ホイさんよお?」
ホイはその男の姿を見るや、目を見開いて驚いた。
「ま、まさかお前は!?」
「そう、さっき上海から統一連合の連絡を受けてやってきた、独立軍・ワルキューレ少佐、ドナテロ・フェルビラブド様だよ」
グラウンドにいた兵士達は驚いた。
まさか、ワルキューレがこんな所にやってくるなんて、信じられない!!
ドナテロはそのままジェシカに近づくと、いきなり自分の下へ抱き寄せた。
「おお、いい女がいるじゃねえか。やはり、女は同種族のコーディネイターより、ナチュラルの方がいいぜ!」
「い、いきなり何をするんです!!」
「なーに、この戦いに勝った暁にゃ、あんたを俺の愛人にしようかと思ってよ。ちょっと肌触りを確かめていただけさ」
「離して下さい!!」
ジェシカはドナテロから離れると、そのままダンベールの側へ隠れた。
「へっ、素直になりゃいいのによ」
ドナテロはそう言うと、ホイを差し置いて、兵士達に言った。
「おい!お前ら、よく聴けよ!明日はあのドム・トルーパー三戦士がやってくる!!この俺様にあの3人の戦士が来れば、俺達の勝ちは決まったようなもんだ!!明後日は梁山泊の連中を、粉微塵にしてぶっ殺してやろうぜ!!ははははははははは!!!!」
ダンベールとジェシカは、高らかに笑うドナテロを見て、ホイに訊いた。
「ホイさん。あのドナテロと言う男は何者なのですか?」
「そうです。あまりにも礼儀がなっていません!!」
「・・・あいつは、中国にいるワルキューレ部隊の1人。5年前の大戦で、ゲイツRに乗り、数々の地球連合の名将を潰して来たといわれている。奴の別名は『緑光の惨朴眼』」
「はーははははははははは!!!梁山泊のクズ共!!首を洗って待っていやがれ!!!はははははははははは!!!」
ドナテロは蒼紫色の空に、自分の笑い声を高らかに上げて笑っていた。