Mobilesuit Gundam Magnificent Theaters 2005.

An another tale of Zeta・・・INTERVIEW


(インタビュー 2019/3/26)




機動戦士Zガンダム ハヤト・コバヤシさん
※本作の記述とは関係ありません。



はじめに

ハヤト: 皆さんこんにちは、カラバのハヤト・コバヤシです。ATZのインタビュアーを務めています。

小林: 作者の小林昭人です。

※画像等は後で付けます。



1.言い訳を与えてしまった



小林: いずれにしても、ATZはしばらく公開停止にするけど、これを書いてしまって後悔していることは、福井とか出渕みたいな人間に言い訳を与えてしまったことだな。同じことはギャラクティカにも言えるが、これらの作品がなければ、UCとか2202はその作品の質そのもので評価されただろうし、逸脱の程度が甚だしいから、たぶんもっと早いうちに否定的評価になっただろう。数年に渡って反省もなく懲りもせず同じような作品が続々作られることもなかった。

ハヤト: もっともアナタよりもずっと以前から多元主義の考えがありましたから、それでも「見方は色々」で強弁してしまったかもしれませんがね。

小林: バンダイがガンダムで金儲けをしたいなら、正しい路線はSEEDとか00とかの作品だよ。使い潰せるくらいのスケールだし、本体の方は神棚に飾って取っておく。これらの作品のクリエイターにファーストや昔のヤマトが作れないのは明白なので。凡才でも作れる作品でお茶を濁して、とりあえず玩具やゲームの売り上げを確保すればいい。

ハヤト: バンダイという会社はある時期からプラモデルを売るためのアニメ作品を恒常的に必要とする会社になりましたね。そのニーズを満たすならそれなりの作品でと。ヤマトをリメイクしたり、ファーストをいじったりするのは市場そのものを潰してしまうからまずいと。

小林: 昔の話では、宇宙戦艦ヤマトはその当時のアニメ技術の最高峰だった。技術もスタッフもストーリーも一流どころを集めた特製品という位置づけで、少なくとも同時期放映のアニメからは一頭地を抜いていた。角川が幻魔大戦を出せばそれ以上の技術の完結編を出して対抗と金に糸目は付けなかった。「話がヤマト」と揶揄されても、ブランドとしては認知されていた。

ハヤト: 復活編から2202までのアニメ作品はその点違いますね。往時のヤマトと比べるとかなりチープだった。技術が1980年代水準か2010年代かの違いはありますが。辛うじて実写版がギリギリクリアしていますね。CGを多用したあのレベルの宇宙戦は邦画ではなかったはずです。制作費も20億円掛けてますし。ま、評価の方は微妙なんですがね。

 

小林: 受け入れるまでのハードルが高い作品ではあったな。顔を青く塗った俳優を出したくなかったのでガミラス星人をああいう設定(集合生命体)にしたが、似ている部分もあるが石津嵐の小説なんかよりよほど出来良く、あとこれはカオルさんの指摘だがコスチュームがチープすぎてキムタクや柳葉敏郎など出たい俳優がワイガヤする「宇宙戦艦ヤマト(ごっこ)」に見えないこともなかった。

 

ハヤト: ヤマトは東宝の制作だったので、東映みたいな特撮のノウハウがなかったんですよ。確かに左のキムタク服、東映が作れば右(ウルトラマンメビウス)みたいにビシッと縫製できたでしょうね。

小林: だったら東映に助力を求めればいい。こういう難点はあるが、少なくとも山崎貴は原作にきちんと向き合ったし、全体的な解釈は大きく逸脱はしとらんわな。伊武雅刀もちゃんと出るなどツボも心得ていた。ただ、いくつかの不幸な行き違いがあって、それがなければ良い作品だよ。

ハヤト: 実写でヤマトというのがまずイメージしにくいものでしたし、前年の復活編がアニメのレベルが低く残念な出来なこともありました。それと執拗なアンチが作品の評価を実力以上に貶めたことはありますね。木村拓哉は好演でしたが、あまりにも多くの映画、テレビに出過ぎていて、数あるキムタク映画の一つとされてしまったこともあります。それと作りからして最後にヤマトが特攻してしまうので、続編が作れない作りで、木村の持ち役にもなれなかったことがあります。水晶生命体のネタも二度は使えませんし。

小林: でもこれはヤマトだよ。その後の2199や2202で客が付いたことを見れば、これがブランドを壊す作品でなかったことは明らかだ。ガミラスがアレだからって、古代が30歳だって、森雪がパイロットで音楽が宮川泰じゃなくたって、掴むべき作品のキモはちゃんと理解して作っていたよ。復活編なんか、音楽や効果音を原作と同じに差し替えたって、全然ヤマトに見えないじゃないか。

ハヤト: 最低限のお約束はきちんと守っていたということですね。

小林: せめてこのくらいにしてくれれば、UCも2199も2202も私は非難しないよ。



2.「大人向け」=仮想戦記の影響

 

小林: 私はほとんどハマらなかったんだが、80~90年代の日本はバブルで上みたいな小説が結構流行っていた。

ハヤト: いわゆる仮想戦記ですね。同じ二次創作でも最近のはこれに影響された文体が多いとは聞いてますがね。

小林: 話は簡単なんだ。太平洋戦争で日本が負けたのはまずい指導者、まずい組織が原因で、兵隊や戦艦大和など兵器は優秀だったのだから、それらを上手に使えば戦争にも勝てたという仮説がモチーフで、以前のアニメ小説よりは設定も緻密で文体も子供向けのヌルさを払拭しているけれども、戦争に負けないということは戦前の天皇制国家も残るということで。戦争責任とか大戦への反省といった「惰弱な」価値観は含まないというのが斬新で。

ハヤト: まあ、陰謀論に通じるものがありますね、戦前を肯定するということは、180度違う現在の価値観は朝日新聞やマッカーサーに洗脳されて騙されたものだと。作品の性質上、戦後民主主義は罵倒の対象ですね。

小林: 誰も騙されたくはないから、そう言われれば「騙されない」ことを心掛ける。実はこれがカラクリでさ。またこの時代はこれに限らず、「君たちは騙されている」的な論説が多かった。「ゴーマニズム宣言」なんかは典型だし、現在でも「アナタは損をしている」は衒学者や怪しいセールスの常套句だ。



ハヤト: で、どういう理由かこの種小説の影響を受けた人がアニメ界や二次創作の世界で作品を書く傾向が顕著になってきたと。若い時代に影響されたんですかね。

小林: 「騙されないぞ」と思って本を読んでも、その本が偏っていたら偏った考えを身に付けてしまうわけで。仮想戦記の特徴は過剰な技術信仰、ユーモアの欠如、男女同権の否定、そして自分と相手という相対性、等質性の否定だと思っているけど、元々仮想という空中楼閣なのだから、独りよがりにはいくらでもなれる。

ハヤト: 2199に作中でのニュース映像が出てきましたが、「報道の中立性」という概念が全くありませんでしたね。23世紀の話なのに語りが日本ニュース、それで良いと思っているんでしょうか?

小林: 作った人間は23世紀の時代の市民とジャーナリズムという考察はしていないんだ。「過剰な技術信仰」だから、まず軍隊が中心にあって、それを基準にすべての価値観が廻っている。出渕裕ってそういう人なんだよね。彼は視聴者について考察しないで、表現手段であるアニメ技術を全ての上位に置いていた。荒巻義男の仮想戦記の世界だったら、それで太平洋戦争にも勝てるだろうよ。

ハヤト: 女性についての描写も苦手に見えましたが、やっぱり、仮想戦記の世界では女性は生きにくいのでしょうか。

小林: 出渕にとってはアニメ技術が金を生み出す元であるし、絵がないアニメはそもそも作品じゃないし、ストーリーなど目に見えないものは誰でも評論できるけれども、技巧は誰もにできるわけでもないから、結果を出すこれに関心が集中してしまい、仕事のできるできないもそこで判断してしまうことは出渕に限らずありがちだ。例えば工場で労働者が待遇改善や会社の経営に一家言があったとしても、実際に手を動かして物を作ったり溶接したりする人間の方が評価されるだろう。ある意味現実主義なんだ。

ハヤト: 制作者と視聴者の関係は工場の主任と工員とは違うと思いますよ。

小林: ヤマト2のレビューでも書いたけれども、実はその上の世代に原因がある。ヤマトやガンダムで潤ってしまった彼らは自分らが幸せなので、続く世代の幸せについては考えなかった。若年世代は彼らが築いた幸福の体系に奉仕する存在で、その彼らが夢やビジョンを持ち、市場を広げていくことには考えが及ばなかった。そういう場所では言われた通りにきっちり仕事する技能者が有用で、批評ばかりしている無能者には用はなかった。この構図は今は社会全体に拡がっているがな。

ハヤト: 仮想戦記の世界とはどう繋がるんですかね。

小林: こういう小説では主人公はたいてい大型戦艦や戦闘機に乗っていて、巨大組織の歯車として挺身してより大きな栄光に奉仕する存在だろう。無用な野心はなく、そういうのはたいてい悪役で、自分を犠牲にして黙々と職務をこなす姿がより年長で寛大な上長の目に留まり、階位を上げていってより大きな役割を担う。あるいは階位は上がらずにより困難なミッションに挑戦するというもので。何か良い時代のサラリーマン社会のようだが、そういうのが理想の組織とされたわけで。

ハヤト: すると何ですか、最近の二次創作作家や2199、2202の制作者は仮想戦記の描写を自分のサラリーマン人生と重ね合わせて自分の価値観として共感していると。そういう人が表現者となる機会が格段に増えていると。

小林: オチはこの種価値観が今では時代遅れということなのだがな。30年前に流行った文体や描写を今さら見せつけられるこちらは辟易しているがな。それと見て分かる通り、この世界観は基本的に現状肯定だ。それは日教組や共産党、朝日新聞や戦後民主主義は激しくヘイトするが、それらが棲む世界と自分らがいる世界は別だと思っている。戦前のリバイバルとは違う。だから、この価値観はユーモアとは極めて相性が悪い

ハヤト: 確かに、彼らの作品にはユーモア成分はあまりないように思いますね。

小林: ユーモアというのは過去の全体主義国では披露すること自体命がけというもので、なぜヒトラーやスターリンが恐れたかというと、ユーモアの笑いの源泉は反骨精神でしょ。その他大勢には巻かれないぞと自己規定して、大勢に向かって「王様は裸だ」とやるのが真骨頂で、現状批判が原点にあるから、基本的には現状肯定の仮想フリークと相性が良いわけがない。

ハヤト: あまり公平でもないような気がしますね。何かカンニングみたいな方法で常に相手に対して優位にあるという描写が多いような気もします。例えば2202、地球軍の戦艦はガトランティスよりずっと小さいのにはるかに強いでしょ。同じような武器なら同じような大きさに普通はなるものなのですよ。「寡を以て衆を撃つ」といえば聞こえは良いのですがね。

小林: 「男たちの大和」とか「永遠の0」なんかでもそうだったけど、あれらにおいて敵とは自分らの動向とは関係なく天災よろしく「襲来」してくるものなんだよね。理解することをハナから放棄している。いや、慎重に取捨選択した上なら良いが、そういうものだと思い込んでいるところに危うさがある。例えば、今テレビで中国の「一帯一路」批判をやっているけれども。



ハヤト: 中国の陰謀で構想に参加した国が借金漬けにされるといわゆる識者が甲高い声で叫んでいますね。ま、巨大橋を掛けたところで払えない国も多いですから。

小林: これだって物は考えようだ。中国は今日本以上のスピードで少子高齢化が進んでいる。社会保障の将来を案じた中国共産党がより多くの資源、より多くの債権を欲することは中国が社会主義であろうとなかろうと理の当然で。

ハヤト: 別に構想に参加した国を軍事的に制圧したいわけじゃありませんよね。

小林: 対象の国は日本や中国よりも人口構成が若く、日本以上の人口の国も多いわけだから、まだポテンシャルのあるこれらの国の青年を支援する代わりに、これから出る中国老人の面倒を見てもらうプランという解釈もできるわけで。そう見ればこと純政略的には、別に空母もステルスも月旅行もおぞける必要はないでしょ。巨大客船で大挙してやってくる中国人観光客のマナーに目くじら立てる必要もない。それで経済が拡大して老人債権に影響を与えないなら、巨大橋の借金なんか踏み倒して良い。国と国との間柄で強制執行などできはしない。

ハヤト: 尖閣諸島で戦闘というのも主権問題ですが、中国養老プランと考えれば対処のしようはある感じですね。こちらとしては日本養老の方を何とかしてほしいのですが。いずれにしろ、アナタの見立てではそんなに好戦的なものにはなりませんね。

小林: まだ金があるうちに掘らせてやればいいんだ。使用料くらいは取るべきだが、相手が何を欲しているかを理解すれば、F35空母以外にも政治のできることはまだある。5Gだって欲しいのは世界支配じゃなくて債権だろう。

ハヤト: 仮想な方々はすぐに「純軍事的に」ガトランティス艦隊や中国艦隊を圧倒する方法に話が行くので困っていますよ。

小林: 軍隊だけで物を考えるとさ、このように独りよがりに思考を限局するのが仮想主義者の特徴だが、昔、第一術科学校を訪れた時に案内人の退役自衛官が「戦争は勝たなければ意味がない」とやたら勝つことを強調していたが、それはアンタの考えることじゃないんだ。勝つことだけが目的になると、それこそ「何を犠牲にしても」となる。国内政策との均衡や予算や編成で歯止めを考えるのは政治家で、そもそも軍人や自衛官が勝敗について論じるべきではない。以前は聞かなかったこれを聞いた時、「自衛隊も変わったな」と思ったし、実戦ではむしろ不安だと感じたことは本当だ。古来、兵が勝敗を論ずる軍隊が勝った試しはないからな。

ハヤト: では、続きは次回。