Mobilesuit Gundam Magnificient Theaters
An another tale of Z ATZ資料集(81)




25.マシュマーの帰郷

 マシュマーのとは言っても、彼よりもむしろ第27話でカガリナの相手として登場したトムソン係官の話の方が長いのですが、この辺のエピソードはいろいろな時期に書かれた雑多なエピソードの寄せ集めで、これらはマシュマーの家系など含め参考までに。





〇〇九九年 地球 アルゼンチン

九年の議会選挙はバンカー政権の今後を占う試金石で、再選を狙う大統領も地方への遊説に余念がない。持論である小さな政府と財政均衡を訴えつつ、プライマリーバランスを維持するためには政府の権限をより縮小し、より大胆に規制緩和する必要があると言った大統領に聴衆の一人が白けた視線を向ける。
「規制緩和ったって、恩恵を受けるのはどうせ大企業だろ。」
 法人税減税の財源を確保するために福祉がカットされ、進学した高校も学費未納で退学になった労働者の一人が言った。
「強い精神と肉体を養うため、連邦市民たるもの、一度は軍に籍を置くべきであります。」
 中道派の惰弱な外交路線により、ジオン軍国主義にそそのかされたスペースノイド諸国家が宇宙でのさばっている。そう言った大統領に聴衆の一人が毒づく。
「今度は徴兵制かい。」
「連邦市民のあるべき姿は自主、自尊、自助であります。」
「これまでだって何してくれたっていうんだ。」
 そうだ、そうだ、聴衆の一角で不平を言う者どもに防弾チョッキに完全武装した制服姿の男たちが近づく。
「シッ、ティターンズだ。」
 不平を言っていた者たちは口をつぐみ、表情を殺して会場を警護するティターンズ隊員をやり過ごした。地球連邦は言論の自由が認められた社会で、これまでも彼らは町の酒場やネットで思い思いに政府批判を繰り返してきたが、一昨年にスパイ活動防止法が施行され、一部では逮捕者も出るようになっている。逮捕はされないまでも大統領支持の「ガーディアンズ」の嫌がらせを受け、ネットで発言を封殺された者なら星の数ほどいる。男たちは彼らを監視する隊員の様子を伺いつつ、足早に会場を後にした。






〇〇九八年末
地球 セネガル共和国 ダカール市


ロモン外務省の二等書記官、エリオット・S・トムソンはソロモン共和国の調査員として地球に降り立った。彼は半年前まで入国管理局の係官だったが、戦後にチュニジアからアガスタ共和国の移住枠でレーヴィンに渡り、そこから現在のソロモン共和国、当時の自由コロニー同盟に移住したという履歴が上司の目に留まり、彼は百人程度のやはり地球出身の職員と共に外務省に出向して地球に派遣されている。ダカールに上陸したトムソンはそこでハイスクールの同級生と連絡を取り、カフェで落ち合った。二〇年ぶりに再会したマリクとの会話は弾んでいる。
「でも、宇宙に出るには金が掛かるんだろ?」
「戦後はそうでもなかった。コロニー国家の移住枠があったからね。」
 戦争で荒廃したのは地球ばかりじゃない、トムソンはそう言い、現在は日雇い労働者として働いているかつての同級生に話をした。彼とマリクは同じ年にハイスクールを卒業したが、戦後の進路はずいぶん異なっている。ダマスカスの復興作業でルウム社の紹介で派遣されていたオルドリン出身の労働者に出会ったトムソンは彼からパシフィック共和国の移住制度の話を聞き、興味半分でそれに応募した。当時は宇宙に行きたがる酔狂な地球人はあまりいなかった。結局パシフィック共和国は彼が移住を申請した後に崩壊し、移住事務局の置かれていたレーヴィン市に成立したアガスタ共和国が特別枠を提供した。その間一年余りの間、彼もダカールのシシカバブの屋台で働いていた。
 一方、別の街にいたマリクはその後も工事現場や場末の工場を転々とし、一度は故郷のケルアンで雑貨商を営んだが


九〇年代の不況でそれも閉店し、現在は日雇い労働者としてダカール港で働いている。
「この国は一度失敗したらもうチャンスはなくてね。」
「そういうのを悪政というんだ。」
 そう言い、トムソンはオニール大学時代に聴講したある政治学者の言葉を紹介した。政治は公平でなければならない。国家に救済すべき貧乏人や抑制すべき金持ちがあるならば、政治はすでに病んでいる。法のすべての力が及ぼされるのは中産階級が最大多数である場合だけである。
「インテリだな。」
「あの後色々あってね。君の苦労には及ばない。」
 金持ちは法を掻い潜り、貧乏人は法をすり抜ける。準教授だったボニファチェリの言葉をトムソンは諳んじ、それから地球に降り立つまでの履歴を友人に話した。共和国は別に彼にスパイを依頼しているわけではない。外務省のプラム局長は彼らにありのままを見聞して報告せよと指図している。彼らを通じ、ソロモン共和国は地球連邦の情報収集を強化している。






〇〇九九年一月中旬
オルドリン市 首相官邸


務省のプラム局長からトムソンら地球出向の調査員たちの報告を受け取ったリーデルは熱心な様子でそれを読んでいる。
「故マハラジャ・カーンも地球連邦の政治が最大の関心事という話でしたが、、」
 書類から目を離す様子のない首相を見て、外務省のジム・プラムらと共に同席しているハウスが呟いた。彼の隣には調査を支援した地方自治省のフランク・スズキ課長がいる。報告書を読む首相に外務省のプラムが口を開いた。
「職務に忠実で政治的偏向の少ない調査員を選抜しています。まあ、我々もそうですが、官僚組織というものは意識的にしろ無意識的にしろ、自己弁護に走る傾向が少なからずありますからな。」
「地球出身者が多いな。」
 リーデルの言葉に調査員を選抜したプラムは胸を張った。
「連邦市民としての見方と共和国国民としての見方ができる彼らは我々にとって貴重な存在です。」
 先の行政改革で共和国が官僚の無謬性を捨象してキーセットを大量導入したことも効いているとプラムは言った。入力速度が従来のキーボードの三倍のこれにより、種々の報告書に加え、個々の官吏が立場を超えてそこに意見を書き加えることが可能になった。新たに規則を制定し、書き込みの内容については免責したことから、組織内部でも多様な意見の選択が可能になった。
「人間は完璧ではない。同じように官僚機構に完璧を求めることも幻想だ。我々は行政に完璧を求めない代わりに事前事後の救済措置の充実と、多様な意見の存在を認めている。」
「おかげでカガリナの存在も容易に掴み得た。」
 プラムの言葉にハウスがそう言い、彼女がヤクルート販売員として国防省に出入りしていた時に彼が彼女の入国管理記録にアクセスし、トムソンの所見に目を通したことが早期のスパイ発見に繋がったと説明した。人物観察眼に優れた入国管理官トムソンは手続を行いつつも、彼女の正体にほぼ気づいていた。
「トムソンはルウム時代なら、たぶん組織に埋もれてしまったでしょうね。末端に優れた見識の持ち主がいても、地球出身だとか入省年齢が遅いとか偏見がカキ殻のように付いてしまい、真実を見えなくしてしまう。」
「おいおい、それをやったら今頃は国防省は大スキャンダルだよ。」
 ハウスの言葉に作戦部長のマシュマーを筆頭に連邦軍の落伍者、元デラーズ・フリートなど人生に失敗する方法の見本のような国防省の面子の例を挙げ、キーセットの導入は彼の地方自治省が最初で、外務省や国防省はそれに追従しただけだとスズキが言った。ハウスの場合もカガリナは人畜無害だったが、彼女の様子を見てオーブルがより練達のスパイを国防省に送り込むことが考えられた。ハウスはウズミラに警告を送り、それを受けてオーブルが一年で彼女を帰国させたことからスキャンダルは事なきを得た。カーターが辞める必要はなかったのだ。
「あの政治家からは言いにくい政党助成金も、このシステムの力があってね。」
 野党の共産党はリーデル政権が検討している政党助成金制度は国民の納めた税金が支持しない政党にも強制的に廻されるため、思想信条の自由を侵し違憲だと主張していたが、システムの意見公示機能で地方自治省に勤務している共産党員が省内に党の事務所を持ち、職務中に専属で組合活動をしていたことが明らかになった。この場合は組合活動の多くが運動員の給与など省の経費に依存しているので、共産党の政治活動に税金が使われていないという主張
(つづく)




Click!