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An another tale of Z ATZ資料集(78)




24.レボリューション選挙事務所

 連合条約が結ばれ、第三部以降の地球圏は新たなステップを歩み始めます。連邦では議会選挙が始まり、中央アジア出身のバンカー大統領はジャミトフからの自立を目指し、様々な策謀を行います。内容に作者の私情が入りすぎているので、これをそのまま使うことはまず無いでしょう。





〇〇九九年一月初旬
地球近郊 
ソロモン艦隊 高速戦艦「ブルワーク」


ルン市での条約の批准から二日後、無重力下で自動通路の把手を掴み、ジャージを着込んだソロモン首相リーデルはタオルで汗を拭きながら、艦の後方にある司令官公室に入室した。部屋には派手なジャージを着込んだブリジット・アダムス国防大臣やエドガー財務大臣、フクダ官房長官の姿もある。軍艦には一部の例外を除いて人工重力の設備はなく、数日から数週間に及ぶ乗艦による体調不良と筋力の低下を防ぐため、彼も乗組員に混じって毎日三時間のトレーニングを行っている。
 ひときわ派手なジャージを着て、部屋の隅でツイスト運動をしているブリジット・アダムス国防大臣は最初、納税者の金で雇われている政治家が一日のかなりの時間をただの運動に費やすことは無駄だと主張していたが、オルドリンからサイド6に赴く途中で体調を崩して以降は考えを改めた。国防局長官時代の彼女がデルタ基地に赴いた際には人工重力リングのある通常の旅客船を用いており、重力設備のない軍艦での航海は経験がなかった。件のジャージは国防局時代からの彼女のライバルで同じ女性のマクニール国防調査室長が彼女の乗艦前に首相に渡しておいたものである。宇宙での経験が長いマクニールは虚栄家の国防大臣が最初不要と言っていたこの着衣をいずれ必要とすることを見通していた。
「あの年増女、フロレンティナズで買うんだったら私に相談すれば良かったものを。」
 サイケデリックな紋様に黒地に赤と緑のストライプの入ったジャージのデザインに文句を言いつつ、ブリジットは首相に運動着の代金は支払うと言った。彼の同僚であるフクダ官房長官は着慣れた古い緑色のジャージを着込んでいる。入閣前は下院国防委員会での経験が長かったフクダは戦闘艦に乗艦する機会が多く、こういう航海にはブリジットより慣れている。なお、フロレンティナズはオルドリンの繁華街ハロルド・サーカスに新しく開店したブティックで、評判の店には彼女も関心があったが、多忙で訪れる暇がなかった。
「さて、運動の時間は終わりだ、これから会議に入る。」
 ジャージ姿のリーデルがパンパンと手を叩き、ジムから戻った一行はテーブルの書類を手を取った。条約は批准されたが、政務に停滞はない。艦は地球に近づいている。





〇〇九九年一月一〇日
ソロモン艦隊 高速戦艦「ブルワーク」


ケシ・ライヒ大佐指揮の高速戦艦「ブルワーク」は地球を四分の三周し、太平洋上空から北アメリカ大陸に降下した。ソロモン艦隊の戦艦は旧同盟時代から有重力下、大気圏内の航行を意識していたが、ライヒも近年の任務はサイド2などの宇宙空間で、木星時代の経験はすっかり忘れていた。木星で彼が艦長を務めた「シェパード」に十倍する巨艦は大気との摩擦でビリビリと震えつつ、デフレクターを灼熱させ、大気圏突入のコースを取っている。やがて振動が収まり、彼の艦は大西洋上空の成層圏に到達した。
「真下にバミューダ島、現在高度二万三千メートル。」
「いわゆる魔の海域だ、スタビライザー展開、進路そのままでニューヨークに向かう。」
 冗談だ、と、ライヒは眼下の海域がかつて遭難船の墓場だったというエピソードをむっつりした顔の航海長に話した。一八世紀の帆船から飛行機まで、幾多の乗員を呑み込んだ海域はポツリと浮かぶバミューダ島を中心に穏やかな表情を見せている。
「サルガッソーとか、地磁気の異常とかいろいろ言われましたが、実の所、統計学上の事故率は他の海域と大きな違いはなかったそうですね。」
「宇宙戦艦まで呑み込みはしないさ。」
 この海域に棲む悪魔とやらがいたなら一度会ってみたいものだがね。ライヒはそう言い、靄が霞む水平線を見つめて不敵に微笑した。首相の座乗艦になぜ慣熟訓練中の自分の艦が選ばれたのか分からないが、現在の彼らの艦は地球連邦軍の制空圏内にある。センサー担当士官からバミューダ島から発進してきたセイバー戦闘機の編隊について報告を受け


たライヒ大佐は編隊長と連絡を取るように言い、連邦空軍の少佐にノーフォークまでの誘導を依頼した。






〇〇九九年一月一一日
地球 ニューヨーク市 地球連邦ビル


話でソロモン首相がノーフォークの連邦艦隊基地に到着したという報告を受けた連邦大統領バンカーは部屋の客人に目配せした。すでにジオン、ユニオン、フォルティナの各代表が国際会議の開催地であるジョージア州アトランタに移動しており、最後に到着したリーデルもシークレット・サービスの護衛の下、専用機で同地に移動する手筈である。
「ティターンズは連邦艦隊に組み入れざるを得ん、ついでにエウーゴもな。」
 執務室でコーヒーを啜る後見人に大統領は連邦共和党内の多数意見としてティターンズの特殊警察活動には批判が強いこと、また、予算が議会経費として計上されていることから議会の運営委員会が調査を始めたことなどを説明した。国政調査権の補助機関ということで創設されたティターンズだが、フロンティア防衛などの実態はむしろ正規軍のそれに近く、また調査における実力行使は議会の補助的権能という調査権の趣旨にそぐわないことが指摘されている。さらにカザフスタンでの選挙介入や反政府派に対するネットテロ、対立候補への誹謗中傷などの活動がマスメディアによって暴露され、市民の非難を浴びている。中国やサイド4でのG3麻薬密売など隊員の不祥事も後を絶たない。
「カザフスタンは私じゃない。」
 バンカーの指摘にジャミトフは苦虫を噛み潰したような顔をした。正規軍である地球連邦軍では手を替え品を替え連邦の権益を侵害してくるスペースノイド諸国家の工作活動に対処できないとして、ティターンズの管轄を連邦議会としたのはジャミトフの発案だが、思わぬ落とし穴もあった。ティターンズはエリート主義を標榜したことから隊員には有力者の子弟が少なくなく、また法制上も議会と近いことから、彼の目の届かない所で議員たちが独自の案件をティターンズに持ち込むようになっていたのである。またフロンティア駐留が長引いたことで、崩壊したクロスボーンの犯罪組織と水面下で繋がっているという指摘もある。相次ぐ不祥事にジャミトフも綱紀粛正に躍起になっている所である。
 カザフスタンの事件は先の議会選挙でやはり同地の有力者の子弟であったティターンズの大隊長の一人に落選が危ぶまれていたロシア出身の議員が近づいたことが原因である。議員の依頼によりカクリコン大佐率いるティターンズ陸戦隊が投票所に乗り込んで警備員一人を射殺し、投票箱をすり替えたことで現職の再選が決まったが、後の調査ではすり替えがなければ結果は異なっていた可能性があると言われている。
 この事件は落選した候補によりモスクワの連邦高等裁判所まで争われた。裁判では選挙で不正があった可能性は認めつつも、再選挙には多額の費用が掛かるという理由で控訴を棄却している。途中で事件を知ったジャミトフがさらなる介入として対立候補の殺害と爆破テロを計画していたカクリコンに作戦中止を命じなければ、改ざんはもっと大規模に行われていた可能性があった。危ない所であったとバンカーは言い、議会への批判が高まる中、ティターンズの連邦軍編入が現時点では最上の策だと後見人に説明した。
「抱き込み心中という感じだが、グラナダ市国の発議でブレックスを復隊させ、エウーゴも第九艦隊に再編したのだから、それで良しとすべきだ。」
 大統領命令によるこの措置により、ジャミトフはエウーゴは倒したものの、自ら創設した思うがままに動かせる戦力を失うことになった。三流政治家とバカにしていた男にティターンズの指揮権を奪われたことにジャミトフは臍を噛んだ。引退を勧める大統領に彼は顔を背けると、椅子を蹴って部屋を出て行った。その後姿にバンカーは肩をすくめた。
「やれやれ、老人はこれだから困る。」
 ウクライナに向かう専用機の用意が整ったという報告を受け、迎えに来たラーベルト警護官に大統領は軽くウィンクした。「連合」の提案は悪くない。リーデルが地球で国際会議を開き、地球連邦の共同体参加を勧めていることにはバンカーは賛成だったが、一つ気に入らないことがある。
「太陽系全土を包含する国家共同体を企図するなら、その盟主は地球連邦であるべきだ。」
 大統領の言葉に目を丸くした警護官の肩を叩くと、バンカーは快活に笑いながら執務室を後にした。


〇〇九九年一月初旬
地球 セネガル共和国 ダカール市


ルトーチカ・イルマはオルドリンから定期船に乗ってニューヨークに赴き、大西洋航路からセネガルの首都ダカールに到着した。連合条約の承認を巡って連邦議会は紛糾しているが、ここアフリカはそれ以前から連邦の中でも連邦にして連邦にあらず、連邦の暗部の貧困地域として知られてきた。ダカール市の失業率は三五%にも達する。街には職を求める失業者が溢れ、汚い身なりをした若者たちが徒党を組んで市内を徘徊している。
「連合との条約は連邦の一国であるセネガルの主権と尊厳を売り渡すものであります。」
(つづく)




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