Mobilesuit Gundam Magnificient Theaters
An another tale of Z ATZ資料集(72)



「大臣はドム[(バージョン8)一機の費用で二機のガザCを購入できると言っているがね、パイロットはどうする? 粗製乱造の機体で戦死したら工場で作るのか? それじゃまるでオーブル人民軍だ。そのくらいなら兵士に爆雷を括りつけて突撃させた方がよほど安上がりだ。」
「栄えある公国軍とは思えない戦い方だな。」
 先の戦争では我々は侵略者だったかもしれないが、野蛮人ではなく文明人であったはずだと審議官が呆れて言った。
「それが実戦部隊の多数意見だよ、陛下の所にはまだ届けられていないがね。」
 アルトリンゲンが憲兵隊から入手した宙陸諸部隊でのガザCの評判にウンボルトが絶句した。
「あれは決めたのは大臣だが、輸入許可など手配は輸入課長の私がやったんだ。」
 実は表にできない内容もある、と、アルトリンゲンはウンボルトに情報部が調査したゲルハルトがガザ一機ごとにアナハイムからリベートを受け取っているという調査書を見せた。まだ女帝に上奏していないが、証拠は掴んでいる。
「あの豚野郎、、」
 新型機を巡る汚職の存在に歯ぎしりする審議官の目の前で、彼はサイモンの請願書を手に取った。
「私に考えがある、とりあえず、これは私に預けてくれ。」
 そう言い、アルトリンゲンはウンボルトに礼を言った。ハマーンは並の専制君主よりも聡明だと彼は思っているが、彼女にだって間違いはある。






〇〇九八年八月
オルドリン市 チャタム地区 セロ邸


室で大学の予習を済ませたアルマは居間でテレビを見ているチェーンたちの所にやって来た。テレビにはジオンの繁華街エルグランド街が映っている。
「ジーク・ジオン! ジーク・ジオニーック!」
「ジオニック社解体反対の署名にご協力をお願いします!」
 ガルスJのコスプレを着た博士がメガホンを片手に往来する市民に呼び掛けている。
「おいこら! 街宣許可は取ったのか!」
 その時、コートを着た刑事風の男が博士に近づき、警察手帳を博士の目の前にかざした。
「許可が何だ! 私がジオニックだ!」
「連行しろ!」
「サイモン死すともジオニックは死せず!」
 そこで警官隊が乱入し、取り押さえられた博士たちが警察署に連行されていく光景が映し出された。
「ヴァリアーズ氏の証券取引委員会における審問ですが、新たな事実が明らかになったようです。」
 その時、画面が切り替わり、華やかなジオンの市街から広漠としたツェントルの平原が映し出される。
「殺風景な所ねえ、、」
 白湯を啜る夫人が月餅を片手にサイド2最大のコロニーの氷原を見る。続けて映された黒髪の男の近影にアルマが目を見張った。
「あの人だわ、、」
 解説者がこの平原に設定されたナショナルバンクの巨額の抵当と、旧所有者のJKディベロッパーとヴァリアーズとの関係を解説している。
「ヴァリアーズは元々小さな投資会社でした。それが急成長したのは年金運用のミスで巨額の損失を出したナショナルバンク、その役員ジンメル氏とヴァリアーズの個人的な繋がりがありました。実体価値を超える巨額の抵当を設定し、そのカラクリでヴァリアーズ社がバンクの資金を自在に運用していたのです。これが同社急成長の秘密です。JKディベロッパーは八年前にヴァリアーズ社の傘下に入っており、この会社は同社が吸収合併した最初の会社ですね。」
「それは法に触れませんか?」
 キャスターが解説者に尋ねた。
「資産の過大評価ということで有価証券報告書等虚偽記載罪、ナショナルバンクに対しては詐欺罪を構成する可能性がありますね。ジンメル氏は特別背任としてすでにニューヨーク地検に告発状が出されています。」
 そこで禿頭のジンメルの写真が映し出される。ヴァリアーズと結託したあこぎな取引で彼の運用部門は連邦銀行ではトップの運用益を誇っていた。
「消息筋によりますと、ヴァリアーズ事件の審理は有罪の方向で固まったようですが、次回以降の審理で、このあたりはどう取り扱われるのでしょうか。」
「今回の審理とは直接には関わりのない事柄ですので主には扱われないでしょうが、同社の体質を説明する例として、委員たちから質問される可能性はありますね。」
 解説者のボニファチェリが答えた。
「先日の審理ではルウム社との類似性を指摘する質問もありましたね。」


「ヴァリアーズ自身がルウム社で訓練を受けた人物です。雇用均等法に抵触する採用の仕方など、同社の体質には旧ルウム社の影響が大いにあると言うべきでしょう。」
 ボニファチェリの言葉にアルマはゴクリと息を飲んだ。ヴァリアーズについては、チャーリー・ブラウンで話したハウスも同じことを言っていた。






〇〇九八年八月
オルドリン市 ホテル「ザッハ」


ューゴー・ヴァリアーズは投宿したホテルでタイロンへの国際電話の受話器を取った。ヴァリアーズ社は昨年から拠点をオルドリンから租税回避地であるタイロンに移しているが、電話先は彼の会社ではない。ティターンズ基地の交換手に彼は礼を言った。
「そうか、分かった、ありがとう。」
 受話器を下ろした彼はロイヤルスイートのソファに腰を降ろし、リモコンでテレビを点けた。
「ジーク・ジオン! ジーク・ジオン! ジーク・ジオニーック!」
「おじさん、いいかげんにしなさいよ!」
 またあの博士か、シャアザクのコスプレを着た姿で警官隊に羽交い絞めにされているサイモン博士を彼は見た。密かに抱き込んだ軍務省の関係者から、彼はサイモンの請願書の内容を知っている。疲れを感じた彼は目頭を押さえるとしばらく目を瞑った。






〇〇九八年八月初旬
ズム・シチ市 第七二六ゲート


ュドー・アーシタは作業を監督する陸軍の担当者からチケットを受け取ると、レンタルしたプチ・モビルスーツで保守用のハッチからコロニーの外に躍り出た。遠心重力があるため、命綱をプチモビに装着しての作業である。しかし、作業機自体が遠心重力の影響を受けているため、空気抵抗もない宇宙では回転するコロニーで作業をしているという実感はほとんどない。実際は時速千キロ超で巨大コロニーの外壁は回転しているのだが、コロニーの大きさがあまりにも巨大なため、体感的に感じる遠心力は僅かで、実は内部と同じく命綱なしでも振り飛ばされる危険はほとんどない。
 遠心重力から解放され、無重力となった空間で、ジュドーはプチモビを上下に回転させるとトーチを取り出した。一年戦争後に大量に発生した戦災孤児のために政府が始めた救貧事業「公国奉仕団」、すでに孤児の多くが他の職を見つけ、第一世代は作業から離れているが、事業自体は存続している。父親が木星艦隊で戦死したジュドーにとっては貴重な収入源だ。
 手際の良い作業でジュドーは外板を焼き切ると、すでに代わりの外板を用意しているモンドの機体に合図した。彼とモンドは何十回もこの作業に従事しており、作業員の中ではベテランだ。
「こいつに付き合うのも今日で最後だ。」
 使い慣れたツィマッド社製、レンタルしたTPM−05の操縦桿を握ったジュドーはモンドに言った。これは古い機種で、基本設計は〇〇五〇年代に遡る。元はジオン・ダイクンが当時はベルテン製作所と呼ばれていたツィマッド社の原型となった会社に依頼して製作させたもので、このモデルを設計したチームが後のジオニック社の中心になった。当時としては先進的な設計だったが、さすがに四〇年後の現在では旧態化が否めない。
「ジュドーはアルカスルでキメコのKR−12を使ったんだろ、あれはどうだった?」
「全然違うね、これより馬力あるし、何より壊れない。」
 一年戦争が終わって以来、ジオンのロボット開発は時が止まったようだとジュドーは同僚に言った。他の国ではもっと進歩した機体が使われている。ジオン国民が国外に出るには厳しい要件があるが、彼の場合はタイロンのレイク派遣会社が一切の手続を整えた。レイク派遣会社はヴァリアーズ社の傘下である。いずれにしろ、同年輩の中では珍しい外国経験のあるジュドーは仲間たちから羨望の目で見られている。
(つづく)




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