Mobilesuit Gundam Magnificient Theaters
An another tale of Z ATZ資料集(71)




23.この名もなき人々

 ハマーン外遊中のカット場面を中心にエピソードを集めました。同時期のジオンの方々を中心とした(やや救いのない)エピソードの寄せ集めです。全7ページ。





〇〇九八年七月中旬
コロニー「コア2」 第六師団基地


陸したオレンジ色の「バウ」のコクピットからヘルメットを被った士官が駐機場に降り立つ。降機して基地のコンクリートを踏みしめると、士官はヘルメットを脱ぎ、金髪で童顔の素顔が露になる。陸軍の最新鋭機から降り立った皇弟殿下に待ち構えていた参謀のライツェルがツカツカと歩み寄る。
「グレミー殿下、迎撃は失敗です。」
「何っ!」
 小遊星1254の処理に失敗したと報告したライツェルにグレミーは動揺した。
「しかし、完全に破壊したはずだ。」
 破壊は失敗という報告にグレミーは抗議の色を浮かべた。確かに自分は「バウ」で首都に接近する遊星の残骸の一つ、直径一〇メートルの「1254a」を粉砕した。バルカン砲に加え、ビームライフルまで撃ち込み、質量九〇〇トンの遊星は確実に木っ端微塵になったはずだ。
「対空ミサイルは高価だから使うなとガラハウ師団長に特に念を押されたが、予算が厳しいらしい。」
「使わなくて正解です、そこまでは必要なかった。」
 参謀はそう言い、グレミーに遊星は確かに爆砕されたものの、破片がそのままコースを進み、直径一メートルほどの残骸がシェーネブルク湖の真下を直撃したと説明した。衝撃で堤防が決壊し、二〇〇戸ほどの民家が浸水した。参謀の報告にグレミーは顔を青くした。
「だったらどうすれば良かったと言うんだ!」
「完全に破壊する必要はなかったのです。遊星の一部をビームライフルで加熱して気化させればそれで良かった。」
 遊星といっても多くは雪と氷の塊で熱伝導率も低いため、それだけ行えば沸騰したガスの反動で遊星は進路を変えたという。事前に説明したはずだが、と、ライツェルはグレミーに言った。部外者は何でも破壊すれば良いと思っている。
「この場合、破壊した方がむしろ厄介です。」
「死傷者は出たのか。」
 グレミーが真顔をして言った。自分の不手際で公国臣民を傷つけたとあっては慚愧に堪えない。彼はそう言い、参謀に被害について尋ねた。
「そこまではないです、ズム・シチの外壁は厚いですから。」
 コロニーの外壁は丈夫で、一メートルくらいの遊星なら表面で跳ね返してしまう。そのため死傷者は出なかったが、防げた事態であったことには変わりない。
「市街地は第五師団とゴットン大佐の連隊が復旧作業を行っています。」
「ライツェル、外壁は公国奉仕団だ。」
 戦死者の遺児たちで構成される奉仕部隊につき、彼は遠い目をして言った。
「余の不手際は認めるが、公王陛下の孤児たちに仕事を与えることも必要だ。」
 そう言ったグレミーを参謀は真顔をして見た。もしかして、わざとやったのでは?
「後で第五師団とゴットン連隊を慰問する。マツナガとゴットンには、私が侘びを入れに行くと伝えておけ。」
「ははっ。」
 グレミーの言葉に参謀は最敬礼した。そこまで考えて遊星を破壊したのか、公弟殿下の御心の深さに彼は感じ入った。その様子を基地の展望区画からカメラを持った眼鏡の女性が見つめている。






コロニー「コア2」 第六師団基地


当に失敗したと思うけど、陸軍はヘマのフォローは一流よねえ、、」
 カメラを持ったアルティシア新聞社の記者、ローラ・ギャレットは皇弟殿下の慈悲心に最敬礼するライツェルを背に、ツカツカと歩くグレミーの様子をカメラに収めた。皇室コラムはアルティシア新聞の中では最重要の記事というわけではないが、根強い人気のあるコーナーである。最近はいろいろ


な意味で人気者の女帝陛下が木星に出かけているため、グレミーとかサハリンとか傍系の皇族を取り上げることが多くなっている。絵に描いたような賢夫人でマスコミ嫌いのサハリンはあまり面白くない、夫のアマダは面白いが、グレミーは少し面白い。ローラに言わせればハマーン以外の皇族は皇室の客寄せパンダでしかなく、新しい政策のPRとか、イベントの権威付けなどのために使い走りをさせられているにすぎない。グレミーもそんなモブ皇族の一人だが、皇弟殿下は最近はとみに活動的なようだ。ヨセミテ地区の水害でも被災者を慰問するなど、自邸に近いシュバルツバルトの森で炊き出しを行ったサハリン以上に人気取りと思える活動が目立つ。
「陸軍が皇弟を擁してクーデターという噂があるけど、まさかね。」
 そう思い、ローラはカメラを下ろした。






〇〇九八年七月末
ズム・シチ ハーフェン区 ジオン軍情報部

報部のオフィスにいた情報副部長のアルトリンゲン少将は官庁街であるジオン区からきたある人物と面会していた。軍務省のウンボルト審議官は外見上は軍の関係者だが、実際は軍と軍務省との折衝は上司のガイストが行っているので、彼とウンボルトの実務上の接点はほとんどない。ジオン大学の研修で情報副部長と机を並べた中年の文官は鞄からバインダーにまとめられた十数枚の便箋を取り出した。
「ズム宮殿に投書された請願文だがね、エミール、これを何とかして欲しいんだ。」
 便箋を手繰りつつ、ウンボルトが言った。
「何とかしろとはどういうことだ?」
 ジオニック社のロゴが刷り込まれた便箋にびっしりと書き込まれた細かい字を見たアルトリンゲンはウッと目を背けた。ウンボルトに促されて恐る恐る請願書を読むと、文中には手描きの図表などあり、請願者は悪筆だが懇切丁寧に説明しようと試みてはいるようだ。
「軍務大臣のゲルハルトがいるだろう、これはあっち向けの内容だ。」
 アルトリンゲンは請願書をウンボルトの上司に読ませるように言った。軍情報部は諜報機関で政治機関ではない。ジオニック社の解体は女帝がそれを決めた以上、決定の是非は軍には関係のないことだ。が、ウンボルトは首を振った。
「君に処理しろとは言っていない。これをシャアに届けて欲しいんだ。連絡は取れるのだろう?」
 シャアねえ、、サイモン博士の投書の内容が真摯なことは分かったが、ウンボルトの人選に少し問題がある。彼はこういう内容には興味を示さないだろう。そもそもシャアは官と癒着したジオニック社の体質には批判的だった。エウーゴが主力モビルスーツをジオニックではなくアナハイムから調達していることには理由がある。
「それは薮蛇だと思うぞ、エーリヒ、今のシャアは月で特殊工作に従事している。それに彼のことは工作でジオンを離れてからは内閣でも知らない者が多いし、その彼が何か進言しても、陛下が決定した内容に影響はほとんどないだろう。」
 ムダだ、と、情報副部長は請願書を机の上に置いた。
「サイモンの提案に賛成なら、エーリヒ、君が運動すれば良いじゃないか。」
 その言葉に審議官は首を振った。
「そんなことができる状況じゃないことは分かっているだろう、ゲルハルトに逆らったら私は明日にでもサイド2かどこかに飛ばされる。今の軍務省は彼のシンパで凝り固まっている。」
 改革派という触れ込みだが、実はとんでもない奴だと彼は上司を誹謗した。
「あいつは自分の利益しか考えてない。」
 審議官は顔を歪めた、結構イヤな目に遭っているらしい。
「ゲルハルトは陛下のお気に入りだからな。調達システムを改革して冗費をずいぶんカットした実績もある。彼の言う陸軍改革は陛下も認める方針のようだ、しかし、、」
 サイモンの言うことにも一理ある、と、アルトリンゲンは手繰った請願書の一文を指差した。「経営資源の統合」という内容で、単一のNフレームを基本にした多機種開発を提案している。Nフレームとはサイモンが設計したザクVを指している。陸軍機だが、サイモンによれば設計にはかなりの柔軟性があるらしい。こういう内容は自分やゲルハルトは理解できなくても、女帝なら理解できるかもしれない。
「何と言っても彼女は経験者だ。プチモビも操縦できない大臣に比べれば、こういう内容は理解している。」
 いくら価格が安くて数が揃えられても、性能的に劣る機体は必ず敵に負けるのだから、軍事というのは単純に効率の論理で割り切れるものではないはずだ、と、アルトリンゲンは審議官に自説も述べた。ゲルハルトがアナハイムから宙陸統合モビルスーツとして大々的に喧伝して購入したガザCは部隊の評判が悪く、確かに廉価でそこそこの性能はあるものの、これがソロモンのガリバルディとかユニオンのバーザム、連邦のネモに対抗できる機体だとは少なくともまともな軍事関係者は誰も思っていない。
(つづく)




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