Mobilesuit Gundam Magnificient Theaters
An another tale of Z ATZ資料集(61)




22.インケイパブル・タックス編

 第三十九話から四十五話のアリスタ革命(四十、四十一話除く)はATZの中でも異色の話ですが、分量を減らすことに苦労した話でもあります。ATZには一話三〇分のルールがあり、載せてしまうとこれを守れないために多くのエピソードを割愛しています。前後編の分量はおよそ三万字、一話半の内容ですが、その割には話が進みません。根気のない人には向かない話。全9ページ。





〇〇九八年七月上旬
アガスタ派遣艦隊 駆逐艦「ハンター」


ム・ユアン中佐は元軽巡洋艦「シェパード」の副長で対艦戦闘のエキスパートである。祖先は朝鮮王朝の両班の出身であり、シェパードの退役後に中佐に昇進し、自分の艦「ハンター」を与えられ、第七戦隊の一員としてアガスタに派遣されている。が、最近の彼は実はあることで悩んでいる。
「前方に不審船、距離八,〇〇〇。」
 暗礁の多いサイド2の暗礁宙域で彼の艦は不審な小型船を発見した。船型を照合するとクロスボーン製のザウエルV型、木星に多く出没していたX型ほど速くはないが、宙域を出没する海賊御用達の船舶だ。識別コードを点けていない船に対して、彼はマイクを取った。
「前方の不審船、停船せよ。こちらはソロモン共和国軍、駆逐艦「ハンター」、停戦しない場合は攻撃する。」
 乗員に臨検の準備を命じ、キムは操舵手に不審船との距離を詰めるように命じた。木星でもこの宙域でも珍しくはないが、不審船は速度を上げ、ジャマーを放出して逃げようとする。多少は腕に自信があるようだ。が、逃げられはしない。エイジャックスと同型のエンジンを積む「ハンター」は共和国最速の軍艦で、六,二〇〇トンの小型の船体に戦艦並みのエンジンを積んでいるのだから、その加速力は推して知るべしだ。キムの艦はたちどころに距離を詰め、暗礁を逃げる不審船の後背に迫っている。キムは砲術長に威嚇射撃の用意を命じた。
「牽制射撃、距離五〇〇。」
 岩塊を避けつつ、最新駆逐艦の主砲、ユニコン・プラント社製の「Qシステム」がオンラインになる。キムは一番砲塔を起動させ、バルカン・モードでの射撃を命じた。この程度の船にディアス同型の一六〇mmレールキャノンは勿体なさすぎる。クワッド(Q)・ファイアの一つである六〇mmバルカン砲が起動し、船の前方一〇〇メートルに照準を合わせた。前方の船が小岩塊を避けて急転舵したとき、彼は射撃を命じた。
「撃て(ファイア)!」
 キムは射撃を命じたが、前方の一番砲塔には変化はない。不審船は相変わらず前方を全速力で逃げている。しばらくして、ポン、と、砲塔から煙が上がった。
「故障、、のようですね。」
 顔を曇らせた砲術長が艦長席で拳を握り締めている艦長に言った。その間に彼らの艦はさらなる暗礁に突入し、キムは追跡を断念した。いくら高性能のハンター級でも岩礁の中を全速で突っ走って無事でいられるわけがない。彼は不審船の位置を近辺の駆逐艦に打電すると、艦を反転させて暗礁の外に出た。
「こんちくしょうめ。」
 海賊を取り逃がしたキムは艦長席の肘掛けを叩いた。これが初めてというわけではなく、実はアガスタ赴任以降二回目である。彼の駆逐艦は攻撃力を追求したためQシステム以外の火器の装備がなく、威嚇射撃も複雑精妙なこの装置を使って行わなければならない。
「敵艦を破壊する装備ばかりじゃダメなんだ。牽制射撃用の小型の砲が欲しい。」
 小型艇なら宙域ごと爆砕する680o宇宙ミサイル「スピアフィッシュ」、真正面から向かい合えばアッシマーも含めいかなるモビルスーツ、宙雷艇もオートマチックで粉砕するQシステムなど、相手を確実に撃墜ないし破壊するような決定的武器しか持たない駆逐艦の装備にキムは毒づいた。ハンター級は最強の駆逐艦だが、最強であることが万能であるとは限らない。しばらくしてインターホンを受けた砲術長が砲塔故障


の原因を報告した。
「技術班から修理結果が上がりました。やはりバッテリーで過電流でモーターが焼けたんです。バルカン砲の主軸を制動するブレーキの電圧が低かったのが原因のようです。ブレーキがロックされたままモーターが回転し、それでモーターが焼き付いてしまった。」
 報告を受けたキムは再び顔を曇らせた。予想していない内容ではなかったからだ。
「とにかく、Qシステムはバッテリーがなければ動きません。これが我が国にしてはお粗末な品質で、、たぶん使い方も悪かったのでしょう。」
 弾薬をケチるあまり、消費電力の多いバルカン砲を多用するキムの停船方法について砲術長が苦言を言った。今回の事件以前、キムは二隻の不審船をバルカン砲で停船させている。全て一番砲塔だった。が、砲術長によれば二番、三番砲も疑わしいという。
「バッテリーはオルドリンから交換していませんからね。使う前に電圧を一個づつチェックしなけりゃいけません。」
「実戦でそんなことができるか。」
 キムはそう言うと砲術長に一番砲塔のバッテリーの交換を命じた。このシステムの欠陥は艦隊ではまだ顕在化していないが、帰港後の艦長たちの会話では新型防空システムの使い勝手の悪さに不満が噴出している。以前の4インチ砲の方が楽だった。あまり当たらないが、準備に時間がかからず、手動照準で撃つのも楽だったからだ。
「どうしましょう、パトロールを続けますか。」
 任務を中断して寄港した方が良いのではないかという副長に彼は首を振った。アガスタ派遣艦隊の艦は少なく、ここで自分の艦が抜ければパトロールに大きな穴が空く。次は二番砲塔もスタンバイしておくと彼は言い、乗員にパトロールの続行を命じた。






〇〇九八年七月
シャリア港 戦闘巡洋艦エイジャックス

港したキム中佐からの報告にマーロウはまたか、と、いった顔をした。新装備のQシステムについては同様の不満が艦隊の各艦から噴出しており、彼は牽制射撃には大戦以来の実績のある四インチ砲を使うように指示しているが、そもそもキムの艦は火力重視のハンター級で、最初からこの兵器が積まれていない。
「貴官が取り逃がした「チッピィ・ストラップ」号、ザウエルV型でそういう名前の船だ、は、我が艦隊の「ヘイボン」が捕えた。君の推察の通り麻薬密輸船だったようだ。結果オーライだがキム、君の言うシステムの問題も無視はできんな。本国に改善要求を送っているがまだ返事はない。」
 第七戦隊の別の駆逐艦の名前を聞いたキムは顔を背けた。ヘイボンはハンターと同じH級の駆逐艦だが、初期に建造された「ヘクター」と呼ばれるタイプで、所定の性能が出なかったために四隻で建造を打ち切られたタイプだ。戦闘力も機動力もキムの艦とは比較にならないほど低い。が、開発したプラント社が四インチ砲を取り付けており、この砲のおかげで拿捕数もキムの駆逐艦を上回っている。戦艦ライオンや巡洋艦グレイハウンドとは異なり、H級と呼ばれているソロモン共和国の駆逐艦開発は混乱の歴史だった。
「砲の故障が多いという理由で、君の艦だけパトロールから外すわけにはいかない。」
 マーロウの隣にいた第七戦隊長のライヒ大佐が言った。
「大佐は威嚇射撃にポインターの主砲を使うんですか!」
「時と場合による。」
 難詰されたライヒの艦「ポインター」もQシステムを搭載しており、彼の艦もこの防空火器以外は主砲の三二〇o砲しかない。この砲はかつてのレイキャビクの主砲で、小型船なら一撃で粉みじんにする威力がある。
「ま、ポインターにはガリバルディがあるからな、威嚇射撃はそちらでやってもらっている。」
「駆逐艦には搭載していません!」
 呑気なライヒの態度にキムが声を荒げた。キム中佐の「コリアン戦隊」は気性の激しい艦長が多いことで定評があり、特
(つづく)




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