Mobilesuit Gundam Magnificient Theaters
An another tale of Z ATZ資料集(57)




20.戦後のアムロ・レイ&エウーゴ兵器実験

 元は百科事典の記述ですが、資料集の方が読みやすいのでこちらに移転しました。こうしてみると、ガンダムの続編、宇宙世紀というのはZ以降は富野さんのせいでかなりおかしいものになっていますね。本作の方がずっとまともです。




〇〇九八年
サイド2 アガスタ共和国


ムロ・レイ少将は随員と共にソロモン艦隊が駐留するコロニー「シャリア」を視察していた。この視察の日程自体はかなり前から決まっていたもので、アガスタ軍の招待を受けた歓迎会や一年戦争時代の彼の戦いについての講演、軍事施設の視察などの内容は大戦以来、地球連邦軍の客寄せパンダとしてこの種活動に付き合わされてきた彼に取ってはありきたりのものである。講演に付随して、製造元のノースウェスト社の依頼による地球連邦製の輸出用軽モビルスーツ「ジムV」のアガスタ軍への売り込みもある。



「アムロ・レイは一年戦争後はシャイアン基地に軟禁されていたとか、ニュータイプ研究所で被験者になっていたとか、ガンダムを設計していたとか、いろいろ噂されていたようだが、どれも違うな。実はノーフォークの士官学校に通っていた。連邦軍もまさか中卒(ジュニア)の未成年者を軍の広報塔に使うわけにもいかなかったからね。二〇歳までは酒も女もおあずけだ。」
 随行するアガスタ軍の士官に向かって、アムロは言った。
「チベットのラサには当時の閣下がモビルスーツで麻薬組織を撃滅したという噂もあります。ディジェ神と呼ばれて今も現地で崇められているとか。」
「ラサなんか行ったこともない。」
 士官の言葉にアムロは呵々大笑した。
「しかし、貴国は惜しいことをした。選りに選って制式機にユニオンの機体を採用するとはね。バーザムはGMVに比べれば数段劣る機体だ。一年戦争の英雄も予算の壁に負けたようだな。」
「閣下のデモフライトには大統領も感銘を受けたようですが、おっしゃる通り、少々価格が高うございました。」
 アムロが推奨しているGMVは、ハイザックやバーザムなど有力機がひしめく輸出市場向けに連邦のノースウェスト社が開発した軽モビルスーツで、一年戦争時代の名機「GM」の設計を手本にノース社が大幅なリファインを施した輸出専用機である。最新の電子デバイスを装備し、第三.五世代の思考誘導制御アルゴリズムと自己学習型コンピュータ、推力比三倍のエンジンによる運動性能は、アムロ曰く「最強の格闘戦用モビルスーツ」と言わしめている機体である。しかし価格も「最強」であったため、ノース社もアムロも売り込みに苦戦していた。



「あれは貴国で買ってくれなければ他に買う国がないんだ。」
 アムロはそう言い、市の中央広場に足を運んだ。交易国家であるアガスタには太陽系諸国家のあらゆる品物が集まっている。アムロは露店で店を出しているシシカバブの屋台を見た。ジオン産のうまいビールもあるし、アルカスルの金銀細工もある。飾り窓の女も有名だ。視察後のせっかくの休暇、異郷の地で少し羽根を伸ばそう。






〇〇九八年
月 アナハイム試験場


ワトロ・バジーナ大尉はCSIジェット社から納品された新しい機体のコクピットに納まった。全長二〇メートルを超える機体の割にはタイトなコクピットだが、この機体は推進装置の全長が機体のおよそ半分を占めており、大量のプロペラントのタンクがあることから、操縦室にしわ寄せが行くことは避けられなかった。手馴れた動作でコクピットの機器を立ち上げ、パイロットスーツにハーネスを装着して測定装置のスイッチを入れる。
「む、この感じ。」


 二段式のブースト装置を搭載したエンジンに点火した途端、クワトロは強大なGで座席に叩きつけられた。
 「むぐおおおおおーっ!」
 座席の形状が悪いのか、急加速する機体にクワトロの頭がバックレストに押し付けられる。上を向いた姿のまま、彼は「ギャブラン」で月の引力を振り切った。一〇キロ上空まで急上昇し、機首を下げて操縦性をテストする。



「シャアには悪いが、ありゃ欠陥機(レモン)だな。」
 監視カメラでテストの様子を観察していたハーヴェイ・ロボット社社長、ハーヴェイ・ダンが機体の様子に嘆息した。エウーゴがなけなしの金をはたいて新型機をテストするというので、ハーヴェイもボランティアで測定担当を務めているが、これまでモビルファイターから正真正銘のゲテモノまで、いろいろ乗せてテストしてみたが、どうもこれという機体がないようだ。
「いっそアッシマーを買ったらどうでしょう? タッキード社には濡れ手に粟ですが。」
「売ってくれるとは思えんし、何より買えるとも思えんな。それにアッシマーは重爆型の特殊機だ、エウーゴには向いていない。自警団のプライドもあるしな。」



 アナハイム社の委託でハイザックの製造販売を行い、月に本拠を置くハーヴェイ・ロボット社の社長兼設計者ハーヴェイ・ダンはジオンの関係者ではなく、サウスカロライナ出身の一介の技術者である。彼の実家は農業機械販売を手がけており、かなりの成功を収めていたが、そのせいかハーヴェイも幼少の頃から機械に関心があった。その後に従軍してジオンの「ザク」の技術に触れ、除隊後の〇〇八二年に月で興したのがハーヴェイ・ロボット社である。最初期はシャアが株主として出資した。



「まだ終わらんよ!」
「シャア、そろそろ中断した方が身のためだぞ。」
 制度上、連邦警備隊の下部組織であるエウーゴはティターンズのように独自の開発組織を持つことはできず、そのエンジニアリングはハーヴェイのような民間の技術者が支えている。「マラサイ」はそうした彼の研究の成果として生み出され、当時としては小型の割に攻撃力が大きく、小型艦や旧式艦の多いエウーゴに取ってはうってつけの機体であった。
「が、初飛行が〇〇九一年ではいくらなんでも非力は隠せん。最新の工学技術を用い、稀に見る効率的な設計をしたと自負しているが、余分な贅肉がない分、改良で性能を向上させられる余地も乏しい。」
 ハーヴェイが言った。入手したザクの図面を参考にしつつ、彼が独力で作り上げたマラサイについては、彼はその長所も短所も知り尽くしている。



「最初のマラサイ二一型から三二型、五二型とバージョンアップしてきたが、現在の六三型が限界だな。しかし、ノースウェストの機体(GMV)は高すぎてエウーゴには買えないが、私以上にひどい設計をするエンジニアがいたとはね。まったく、宇宙は広い。」
「ハ、、ハーヴェイッ、、ガガッ、、ガガ、、」
「クワトロ大尉、まずいんじゃないですか?」
 計測機器を見つめていた測定担当がハーヴェイに「ギャブラン」のエンジンの数値の異常を教えた。
「いかん、エンジンが暴走している! シャア、脱出しろ!」
 直後、彼らの上空で閃光が瞬き、ズームアップすると煙を吐くギャブランの姿が見えた。ハーヴェイの警告にも関わらず、クワトロは脱出せず、エンジンが爆発した機体を実験場に着陸させようとしている。
「消防車を出動させろ!救急隊の用意!」
 あれは贅肉の削りすぎだ。ハーヴェイはそう言い、救護班長にクワトロ大尉の確保を命じた。管制塔のマイクを取り、燃えるコクピットで操縦桿を握るシャアに着陸の指示をする。CSIジェットはチベットのベンチャー企業で、この会社の機体にはハーヴェイも問題を指摘していたが、アッシマーに焦るエウーゴ本部は試験を強要していた。
「これまでも危ない機体はずいぶんあったが、これは極めつけだ。」
 結局、クワトロは基地近くで機体を放棄して脱出し、大破した機体はハーヴェイらの手によって事故解析班に廻された。クワトロはさすがに熟達したパイロットらしく、軽い火傷程度で収容されたが、並のパイロットだったら死んでいただろう。爆発後、素早くエンジンのバルブを閉鎖し、記録装置を立ち上げたクワトロの措置にハーヴェイは感心した。少なくとも爆発するまでの飛行エンベロープは教科書に載せて良いほどの完璧さだ。
「あれこそ真のパイロットだ。」
「しかし、次の実験はどうします? パイレーツ社の「ガブスレイ」がありますが。」
(つづく)




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