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An another tale of Z ATZ資料集(48)




18.ソロモン沿岸警備隊&ハマーンの夢魔

 帰国するハマーンを護衛することを決めたソロモン沿岸警備隊のキャサリン・マクニール、太陽系外周艦隊を急行させる彼女とは裏腹に、襲撃者に襲われ続けていたハマーンは悪夢に苛まれます。かなり前に書いてあり、描写も詰められ、本編挿入一歩手前の話でしたが、結局見送った経緯があります。全7ページ。





〇〇九八年九月二〇日
オルドリン市
ソロモン沿岸警備隊司令本部


陽系外周艦隊の戦いは続いている。シーハウンドが残った海賊艦八隻のうち六隻を拿捕し、残り二隻となった時、ガンマ基地からの緊急連絡で国籍不明の艦隊を確認したという報告を受けた司令部は動揺している。
「なぜ今まで探知できなかったんだ!」
「センサー担当士官の目はガラス玉か、術科学校から出直してこい!」
 資料やデータをひっくり返して確認した艦隊の情報を洗い直している司令室の電話で、マクニールが国防省のライブラリアンを呼び出している。
「エドガー、緊急事態なの、レダ星域会戦の資料を司令本部にダウンロードして、コードはデルタ1254、キャサリン・マクニール、家族サービス? そんなのいいから急いで! 私の兵士が危機に晒されているの!」
 五年前の宇宙海戦の資料は現在は国立公文書館に収められており、国防省にも司令本部にもない。一〇分後、データの受信を確認したマクニールは戦艦ゴルゴダートの資料を画面に出した。ライブラリアンは共和国では弁護士や会計士並みのステータスのある職業である。この国ではプロフェッショナルは土日休みやオフよりも勤務の方が優先する。医者や当番弁護士が当日にゴルフをしていたら仕事にならないではないか。マクニールらのバックアップをするため、パークは即応態勢で国防省に詰めているはずだ。彼女は第一艦隊司令部への電話番号もプッシュした。電話の後、彼女はオペレータが入力した資料を投影したテーブル上のパネルにキーセットで必要な情報を入力した。恐ろしいほどのスピードで艦隊の集結位置、補給に要すべき時間、待受けのポイント、彼らが取るべき戦術が表示されていく。
「外周艦隊を結集させる。工作艦スカパ・フローを経由してシーハウンド、エイストラ、バルデュフォス、リッチモンドをポイントOR3256に移動。トリプラ以下の艦隊は3258、ペンテレシアは3256に移動後、ブレストン艦隊に編入。」
 外周艦隊のほぼ全艦である。アルファ基地から急行中の三隻は距離があるためシーハウンド艦隊の後衛に布陣させるとマクニールは言った。
「第一次防衛線が突破された場合は八〇〇万キロ後退して第二線で敵を阻止する。敵戦艦をラ・コスタに近づけてはならない。」
「かなり厳しいぞ、キャサリン。」
 グワダンとの砲戦で第二砲塔が全壊したデバステータの写真を手に取りつつ、フッドがこのタイプの戦艦の装甲はシーハウンドの主砲では貫けないと説明した。太陽系外周艦隊の護衛戦艦は軽装備の海賊船やフリゲート艦を相手にすることを前提としており、通常の戦艦との砲撃戦は想定されておらず、徹甲弾も搭載されていない。
「自分は戦艦ヒベリオンでのヤゾフの戦術を知っている。」
 フッドは大戦時に彼が乗艦していたヤゾフの戦艦の戦いを指摘した。ソロモンの戦いで戦艦グワジンを葬ったユーリ・ヤゾフ大佐の戦艦ヒベリオンはア・バオア・クーではチベ級五隻の集中攻撃を受けた。主砲以外の火器は大破し、炎上する戦艦でフッドは退艦を覚悟したが、司令塔のヤゾフは泰然としていたという。傷ついた戦艦を葬るため、巡洋艦がJミサイルの必中距離である三,五〇〇メートルまで接近した時、ヤゾフは反撃に転じた。
「あっという間にチベが三隻も撃沈されたんだ。手負いとはいえ、戦艦の装甲は侮れない。」
 重巡洋艦の猛攻は艦の上部構造は破壊したものの、戦艦の司令塔と重要部分であるバイタル・パート、そして最も厚い装甲を持つ主砲塔は無傷だった。艦が炎上して煙に覆われ、状態が掴みにくかったこともジオン指揮官の油断に繋がった。戦艦の装甲は偉大で、シーハウンドも同じ轍を踏む可能性があるとフッドは説明した。
「でも、四八〇o宇宙ミサイル、ケルトフィッシュは搭載されている。」


 パッチ2型戦艦の主砲弾の三倍の炸薬量を誇り、敵艦の船体に近接して爆発するこの兵器なら、当たり所によっては戦艦の竜骨をへし折り、艦を撃沈することができると彼女は言った。そもそもこのミサイルは対グワジン戦艦用にオルドリン警備隊司令時代のマクニールが肝煎りで開発した兵器である。
「ケルトフィッシュね、エドワード・マーロウが言っていなかったか、使いにくい上に当たらないと。」
「ユーザーニーズを考慮する必要はあったわね。」
 このミサイルの実戦での唯一の使用例はレダ星域会戦で、艦隊でも理論派(数学おたく)として知られるジェームズ・クリストファー提督が射界を緻密に計算し、それも据え物斬りのような静止した輸送船相手に用いたのが命中例のほとんど唯一である。旗艦アリーガルへの攻撃は彼も通常ミサイルを用いた。実戦部隊には評判の悪いこのミサイルはシーハウンドには一六発が搭載されている。
「装填装置があるから三二発まで積めるが、至近弾でも海賊船を葬ってしまう兵器は警備任務でも要らないと半分しか積まなかった。整備はしているが、配備以来使ったことはないんじゃないのか。」
 海賊戦艦に唯一通用するミサイルをフッドがこき下ろし、マクニールが膨れ面をする。
「あれは私が開発したミサイルなのよ。」
「デラーズ戦争の初陣が無様だったからな。」



 フッドは当時三〇代のキャサリン・マクニール大佐、オルドリン警備隊司令官の督励で、朽ちたサラミス艦からニコイチ(二隻を一隻)、サンコイチ(三隻を一隻)ででっち上げられた初期のタイプ85護衛艦、怪しげなその一号艦「アライアンス」が、デラーズ退治に出撃した途端に搭載していたケルトフィッシュが製造不良の誤電流で爆発し、艦が真っ二つになって爆沈したため、乗艦していた彼女も命からがら脱出した話をした。負傷した彼女は病院に運ばれ、以降の艦隊指揮はガーフィールドが執った。初期の艦にはいろいろと構造上の問題があった。
「第五艦隊の連中には同盟艦はすぐに真っ二つに折れるか自爆すると笑われ、、」
 君のせいだとフッドはマクニールを皮肉った。ようやく国産艦を建造し、恥を注ぐのに一五年も掛かった。
「ソロモンの英雄、同盟の夏姫もいろいろあったのよ。」
 テーブルに手を置き、彼女は集結命令を受けた外周艦隊の諸艦を確認した。続けてパークから送られた関連情報では、レダで損傷した戦艦を修理する場合に必要な資材、戦艦の主砲身や弾薬が火星以遠に搬入された形跡もないようだ。木星非武装化宣言以降、そういったものの外惑星への搬出は厳しくなっている。しかしヤゾフの例もある。手負いとはいえ、油断はできない。
「ブレストンならやってくれるわ。」
 マクニールはそう言い、会敵まで時間があるのでと言い、シーハウンド乗員の連絡先リストを端末に出した。任期を繰り延べて任務に従事する乗員たちの家族に連絡をしなくてはならない。ラ・コスタの件がなければ同艦の乗員は七日にフォボスから帰省するはずだった。彼女は受話器を取り、シーハウンド砲術士のセシル・マコーレー一等兵曹の自宅の番号をプッシュした。
「もしもしマコーレーさん、沿岸警備隊のキャサリン・マクニールです、、」
 職務の合間に乗員家族に電話をする司令官にフッドはウンウンと頷いた。
「キャシー、私も手伝おうか。」
「そうね、エイストラをお願い。あの艦も期間延長で急行している。」
 これは約束なのだ。夫を軍務に差し出す代わりに家族が支払う代償に対する軍の約束、兵士、特に艦隊の下士官は彼ら上級士官や政治家のポーンではない。一人一人に家族があり、各々の人生がある。
 彼らが軍に入隊したのは成り行きだったかもしれないが、軍は一人一人の人生の時間を無駄にはしない。一人ひとりの可能性を信じ、チャンスを与え、最大限に活かす。それが我々の軍隊だ。フッドは受話器を取った。
「あー、もしもし、外周艦隊司令のアナスコシア・フッドです。ダック二等兵曹のご自宅はこちらですか、、」





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