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An another tale of Z ATZ資料集(45)




17.ジオン革命のその後

 過激な内容ですが、人権のないジオン国の話でもありますし、これを読んで作者がこういうやり方を支持しているとは思わないでください。第三部(すでに宇宙戦争から政治ドラマ、会社ドラマ、ホームドラマに刑事物までやってはいますが)が、作者にとって非常に柔軟性の高い話のできる場所という一例としてご覧ください。





〇〇九八年九月
ズム・シチ 公王宮殿


業家から提出されたジオンの諸官庁の調査レポに玉座のグレミーとフリッツら軍政担当者は眉間に皺を寄せている。ヴァリアーズが提出した報告書は諸官庁の効率が極めて悪く、多くは公務員の傭人組織になっていることを示している。
「年功制から職階制に改める必要があります。彼らの多くは内部で研修訓練を受けていますが、コストそれ自体が冗費で、スキルも十分ではありません。」
 ジオンの公務員の半分は不要な人間で、残りの半分もほぼ無能とヴァリアーズはこき下ろした。
「職階制を導入するしないに関わらず、無能で怠慢、資質劣悪であるので、半数以上を馘首する必要があると思います。」
 財政の負担も減るし、何より政権の人気取りにもなる。経済が窮迫する中、身分を保障された公務員制度への風当たりが強いことを企業家は一同に説明した。
「メリット・システムによる優越は一〇年もあれば十分です。聖域とされてきた司法、大学の自治にも大鉈を振るうべきでしょう。」
 諸官庁も、現在は課長以上の登用は試験ではなく面接と論文でしかなく、要するに慣れ合いで、メリットを標榜する正当性がない。企業家は運輸省のある高級官僚の例を説明した。政治的発言をし、改革派と目されたこの審議官はオフィスを取り上げられ、退官するまで一六六回も出張させられたという。出張先はアナンケやスタンパといった近郊のほか、火星や木星、アステロイドといった遠距離まで含んでいる。
「火星までの運賃が往復八千ジオニクル、カレンツィオまでが二万ジオニクル、それが一六六回、我が国(ソロモン)でそんな差配をしたら上司は懲戒解雇され、大臣は辞職に追い込まれます。リーデル首相とて危ない。経営者として訓練のない彼ら高級官僚が管理職として無能であること、すでに明らかです。」
 この審議官の退官工作に要した費用は安くても五〇万ジオニクルという数字を告げられたグレミーは唇を噛み、玉座の床をダンと踏んだ。その仕草に企業家が恭しく一礼する。
「陛下、良薬口に苦し、内容にはご不快なものが多々あると思いますが。」
 報告の内容に機嫌を損ねたのではないかという企業家にグレミーは首を振った。
「いや、ヒューゴー、良く報告してくれた。余は盲(めしい)だったようだ。」
「すでに措置を取っております、摂政殿下。」
 フリッツ(弟)が立ち上がって報告し、すでに軍と第三者を加えた独自の調査を進めていること、悪質なものには懲戒解雇の上、預金を差し押さえ、家宅を強制収用するなどの措置を取っていることを伝えた。
「戒厳下で憲法が停止しておりますので、国家公務員法の分限処分の規定は無視してよろしいかと。」
 対象者が多すぎるので、できれば銃殺許可も頂きたいのですがというフリッツに、ベール将軍が異を唱えた。
「そこまでは必要ありません。悪質な者を取り調べて銃殺すれば十分です。」
 ベールの言葉にグレミーはウンウンと頷いた。
「ヒューゴー、これからも余に協力してくれるな。」
「御意のままに。」
 ヴァリアーズはそう言い、報告の残りを続けた。
「あと、貴国では法規命令と行政規則は分けられておりますが、後者についても責任権限を明確にし、公表を原則にした方がよろしいかと思います。」
 行政にはある程度の裁量性は必要だが、ジオンの場合は行き過ぎていると企業家は説明した。
「裁量が必要という理由で、すでに出された規則まで公にしないのは中世の刑法と同じで、前時代的かつ時代遅れです。」






〇〇九八年一一月
サイド3 カールスバーグ市


ュバルツバルトの黒い森でグレミーとジオン陸軍はあえなく敗れ去ったが、彼らが起こした「革命」の影響はむしろ敗れた後にあった。延べ三〇〇万人が集った公王宮殿前広場の大集会、そして摂政名で出された数多くの開明的な施策はその過激さも相まってジオンの国民を目覚めさせ、動乱終結後もなお改革の機運は衰えるどころかむしろ高まっている。その嚆矢は宮殿でゴットンとブロッホらが降伏してから一週間後、コルプの乱で女帝が一時避難したサイド3の辺境コロニー、カールスバーグで始まった。
「完全に公平な選考によるものであります。」
 カールスバーグ市長、クルト・クーリヒは以前から革新派の市長として知られていたが、その市長が女帝によるグレミーの独占禁止法とは別に制定された「寡占排除法」の追認を受け、市の競争入札からジオン製の乗用車、作業用モビルスーツを排除した決定はジオン社会を震撼させた。官公庁の競争入札は一般競争入札の形式を取るとはいっても、その実は国内企業の独占市場でバウアー社やジオニック社など有力企業やZMコンクリートなどゼネコンの指定席だった。クーリヒはこれを排し、外国企業を入札に加えたことで、公用車はプラントの子会社グレン社の「チェアマン」、作業用モビルスーツはDCキメコ社のKR−15が採用された。クーリヒによれば、排除法の趣旨を受け、同地にインフラを持つ既存の自動車メーカー、MS工場には現地化まで販売協力義務があるので、外国製品を採用する際に問題になる販売店やサービス工場などインフラコストの問題はなく、選定は入札価格と維持コストの総合的判断によると言明した。
 このクーリヒの反抗に際しては彼女も無言で応じた。ちょうど代替時期の来ていた宮内庁専用リムジン「ガズ1000」の後継車の入札も同時期に行われたが、採用された車種はバウアー社の車ではなくデルタ社の「エクセルシオL」であった。女帝がクーリヒの行状を追認したことにより、ジオンの政財界には激震が走っている。
「君は非国民だ。」
 そう言って市長会に出席したクーリヒに喰って掛かった銀行連合のノルトハイムに革新派の市長は不敵な笑みを浮かべた。市債を放出するぞとの脅しには市長は元々あまり起債していなかったと言い、顔を真っ赤にした銀行連合の総裁にこう応じた。
「非国民はあなた方の方でしょう。自由競争とか何とか言って我が国から資本を引き揚げ、街を荒廃させ、車や家電製品には外国製の部品を詰め込んで高値で売りつけている。」
 そんな物なら直接買い付けた方が安上がりだからそうしたまでだ、クーリヒはそううそぶき、彼と共同する他の革新派市長と共に寡占排除を徹底的に行うと明言した。
「コストが高いから自国の労働者は採用しない、しかし、市場だけは寡占の特権を享受する、そんな理屈は通らない。」
 そう言い、クーリヒは市の生活局に市内中の店舗の小売価格を精査させ、内外価格差の公表に踏み切っていると銀行連合の会長に言い渡した。価格差が一〇%を超えるものについては商品名とメーカーを公表し、外国製であろうとなかろうとより廉価な商品を優先的に供給して当該商品を市場から排除する。すでにカールスバーグ市には寡占監査の一部局が作られており、雇用を創出する新興企業に支持を与える傍ら、寡占の上にあぐらを掻いてきた既存企業を次々と取り締まっている。新しく監察局の局長に就任したスヴェトラーナ・コワルスカヤ女史について彼は紹介した。コワルスカヤはオルドリン市労働局で課長職を務めていた女性である。ほか、十数名の労働経済政策に長けた専門家を市はソロモン共和国から職員として採用している。
「市債については、摂政閣下の勅令で起債権限が認められましたので、サイド4のユニオン銀行が引き受けることになっています。もちろん地方自治法のこの規定も追認されましたし、こちらの方があなた方より条件が良いので。」
 外国銀行じゃないか、クーリヒを難詰した銀行連合のノルトハイムは彼を取り囲む市長たちの視線に気づいた。不当な利益を貪ったツケは倍返しで払ってもらう。革新市長連合の会長に就任したクーリヒにはすでに十数名の市長たちが賛同している。
(つづく)




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