Mobilesuit Gundam Magnificient Theaters
An another tale of Z ATZ資料集(37)




16.ある舞台の裏側

 元ハマーンの婚約者、マチアス・フリッツは実は主役マシュマー以上の美丈夫で頭の切れる男ですが、その双子の兄ギュンターの潜伏生活。弟の起こした「革命」で彼は少し困ったことになっています。この辺り、改訂前でも不十分な記述で改訂後は膨らませようと思ったのですが、結局、全てカットすることになりました。字数は約2万字(8ページ)、実は本編一話分以上の分量があり、細かい所を調整すればこれだけで十分に一話に出来た内容です。





〇〇九八年一一月 早朝
アストライア区 大蔵大臣邸


邸に戻った大蔵大臣は肖像画が取り去られた壁の一角をじっと見つめている。屋敷の管理人で幼少時代から彼に仕えている執事が慌てふためいた様子で彼の不在中のマチアスによる「処分」について話している。
「是が非でも処分しろというマチアス様の厳命でして、、」
 亡妻を描いた絵画は裁断され回収業者の手で焼却炉に送られたという執事の言葉に彼は黙然と空白になった壁を見上げた。
「しかし、何か飾らないと間が抜けて見えることも確かだ。」
「ザフィア様?」
 新しい絵を飾ると言った大臣の後ろで、執事が入室してきた女性に声を掛けた。ブラウンの髪にうずら色の瞳、やや青ざめた白い肌に細ずやかで繊細な容貌、まさに生き写しだと執事はその女性に驚嘆している。近づいた女性の肩をギュンターはそっと抱いた。
「ジェシー・コヴァク、大蔵省の秘書でクーデターの間、この私を匿ってくれた女性だ。」
 ギュンターの言葉によると、ジェシーはヴァリアーズ派遣会社の派遣社員で、省のアウトソーシングの際に大臣付として採用された秘書の女性だという。亡妻を愛惜している彼がザフィアに酷似した秘書と恋に落ちるまでには時間は掛からなかった。
「今度入籍する、新しい絵のモデルは決まりだな。」
「はあ、そうですか、ギュンター様、、」
 実は女帝にも、気心の知れたこの執事にも話していない内容がある。クーデター後に侯爵夫人アイナの夫、皇宮警察のシロー・アマダが密かに彼に味方し、潜伏期間の間、彼は大蔵省に勤めるジェシーや省内のシンパを通じてクーデター派の動静を探り続けた。大胆なことに入院中のブロッホとも接触し、彼は陸軍の智将と改革志向について一致していることを確認している。陸軍による迅速な金融街、官庁街の掌握を可能にした仮取締役のリストにしても、その実は彼があらかじめ目を付けていた人物のリストを整理してブロッホに提供したものだ。
「が、過去は終わった、これからは未来の話だ。」
 新妻の肩を抱きつつ、上機嫌に絵師に描かせる肖像画の構図などを話していたギュンターは憮然とした顔つきで彼らを見ている老執事の顔を見た。
「本当に、似ておられますな。」
「パウル、それは禁句だ。」
 亡妻とジェシーは別人であるし、類似性をあまりに強調することは彼女の人格を侮辱するものだと彼は執事を諭した。
「それはまあ、そうだと思いますが、、」
「行こう、ジェシー、他に見せたいものがある。」
 新妻の手を取り、彼は快活に笑いながら屋敷の奥に入って行った。
 話はそれから三ヶ月遡る。






〇〇九八年七月一日
公王宮殿 首相執務室


────三ヶ月前

ーデター計画?」
 アスター・ダイクン首相は情報部長アルトリンゲン中将の言葉に首を傾げた。隣にはゲルハルト軍務大臣、ギュンター・フォン・フリッツ大蔵大臣もいる。ゲルハルトは元内務省の属僚で、クーデター後にハマーンに登用された閣僚の一人である。事件以降、カーン朝では閣僚と武官の兼任を禁ずるという法律が施行されている。それまで宙軍大臣と陸軍大臣はそれぞれ軍人が任命されていた。軍務省は宙軍省と陸軍省を統合した新しい役所で、ゲルハルトはその初代大臣に任命されている。
「信じがたい話ですね。コルプの乱以降、コルプの関係者やコルプを支持した名望家層の中心人物は処刑され、残った者も内務省の監察下にあるはず。」
 ゲルハルトが言った。
「弟のアルファ機関も、アルトリンゲン中将が壊滅させたはず、我々に多少の不満を持つ者がいることは知っているが、クーデターを起こしうるほどの者はいないはず。」
 大蔵大臣のギュンターが言った。彼の弟、マチアス・フォン・フリッツは女帝殺害計画を実行に移した人物である。その兄をハマーンは大蔵大臣に起用している。
「どちらの処置も徹底を欠いた、そういうことではないかな。故マハラジャ首相なら、あのような事件が起きれば処刑は数万人に達したはず。しかし、今回の処罰は一〇六人にとどまった。しかも、死刑はたったの六人。我々は甘かったということだろう。で、クーデターの中心人物は?」
 ダイクンがアルトリンゲンに尋ねた。アルトリンゲンは先に入手した正常化同盟のアジトから押収された資料を見せた。
「これは計画書の一部のようですが、「光臨者」という人物が中心になるそうです。ただ、見ての通り、文章は仮定形で、まだ具体的な中心人物が定まっていないように思われます。ここにある、正常化同盟の「大タイタン」が、ジオン陸軍のベール将軍であることはコルプの乱で押収された資料から、ほぼ明らかになっていますが、女帝陛下は処罰を拒否しています。クーデターに参加した形跡が無いことが理由のようです。」
「あの方は疑いだけで処罰をなさるような方ではない。現に大蔵大臣は真っ先に処刑されてしかるべき人物が推挙されている。」
 ダイクンが大蔵大臣の方を見て言った。その言葉にギュンターが少し照れた笑いをする。
「要するに時流に遅れた老人の世迷い言ということでしょうな。そんなことよりゲルハルト君、君の艦隊計画の方はもう少し縮小してくれないかな、部下からの突き上げが多くて困るよ。宇宙艦隊は予算を食い過ぎるとね。私が見るところ、システムに問題があるように見えるが、良かったら私が面倒を見ようか?」
 軍務大臣に軽口を叩いたテロリストであるマチアスの兄、ギュンター・フォン・フリッツは経営学の天才で、ジオン大学経済学部を首席で卒業した、『計算尺を片手に生まれてきた男』である。国防省の改革などお手のものに違いない。
「フリッツ大臣の申されることは私にも分かります。確かに艦隊は浪費が行き過ぎている。ただ、女帝陛下に申し上げたところ、少し待てということでして。」
 ゲルハルトとギュンターは同じテクノクラートでウマが合う。クーデターでかなりの数の閣僚が殺されたが、残ったメンバーもなかなか優秀だ、と、話が弾んでいる二人のやり取りを見ていたダイクンは思った。自分は首相の器ではないかもしれないが、賢明な女帝と有能な閣僚が自分をサポートしてくれている。
「とにかく、不穏な事柄は陛下が帰朝する前にしかるべく措置したい。アルトリンゲン君はこの件につき調査を続行し、適時報告してもらいたい。では、退出してよろしい。」
(つづく)




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