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An another tale of Z ATZ資料集(30)




12.偵察!ビシェッツ小隊

 第四部の話ですが、ジュピトリスを補給基地に改造した連邦艦隊に対し、マシュマーはビシェッツ小隊に偵察を命じます。





〇一〇一年七月三〇日
ラブレーヌ宙域 第01宇宙基地


ロモン共和国軍のキム・ユアン中佐はマクルア地峡周辺のパトロールから帰投した後、司令部のマシュマーに呼び出された。マシュマーの隣には参謀チーフのエズラ・ヴォーグ少将がいる。祖先を朝鮮王国の両班に持つキムは元巡洋艦シェパードの副長で、果断で攻撃性に富んだ生粋の駆逐艦乗りである。そのキムに戦隊を率いてサイド2に赴き、アガスタ、アリスタ両国の防衛に当たれというマシュマーの命令に彼は少し変な顔をした。
「月上空で改装中の連邦の輸送艦、ジュピトリスの偵察かと思いましたが。」
「それはユニオンとディアス隊が対処している。」
 マシュマーが素っ気なく言った。
「何ゆえ本官なのでありますか。」
「命令に説明はない。」
 そう言いつつ、溜息をついたマシュマーはリーガルパッドを取り出した。彼のいつものクセで、例外などと言いながら、元作戦部長はいつも説明はちゃんとしてくれる。キムは変わらないなと久しぶりに見る木星時代の上官の顔を見た。マシュマーは紙片にサイド2宙域の略図を書き込んでキムに突き出した。
「これがアガスタ、こちらがアリスタだ。見ての通り飛び地でレーヴィンとビリニュス間はかなりの距離がある。」
 手持ちの戦力が少ないため、両国を同時に守るには快速力が必要だ。確かにキムの指揮するハンター級は共和国一、あるいは太陽系一の快速艦だ。
「君のハンターとサンダーボルト以下三隻をこの任務に就ける。到着後はスパイク提督の指揮下に入ってくれ。」
 官邸からの要請だと彼はキムに言った。杞憂だと思うがフロンティアに反乱勢力が現れ、近接する両国の安全が脅かされる可能性があるという。
「モビルスーツが要ります。」
「パーヴェル・スミスのガリバルディ一個小隊を付ける。直ちに進発したまえ。」
「ハッ!」
 キムは上官に敬礼して作戦室を後にした。






〇一〇一年七月三〇日
月近郊 モビルスーツ「リック・ディアス」
ビシェツツ大尉機


イド6から出発したビシェッツのリック・ディアスとその小隊は月の衛星軌道上を遊弋する全長二千メートルの巨大輸送船の姿を捉えた。輸送船の近くには戦艦カザンなど連邦艦隊の戦艦の姿も見える。一〇万トン級の戦艦カザンもジュピトリスの前ではまるで豆粒だ。
「インディア、エベレストの姿が見えませんね。」
 併走するレフチェンコ機が隊長に全艦の姿が見えないことを指摘した。
「娑婆が少ないんじゃないかな。」
 ビシェッツが言うにはジュピトリスは確かに巨船だが、連邦艦隊の乗員は一艦隊平均一〇万名と多く、全員を収容しきれないのではないか。また、ドックはあるがこれも全艦を収容できる大きさではないはずだ。
「スペースコロニーとはやっぱスケールが違うからな。」
「でも、自走できます。」



 僚機のバベッジが指摘する。確かに船尾には戦艦カザンより大きいエンジンが付いている。見たところ、一基のエンジンでも大きさは戦艦カザンの四〜五倍はありそうだ。それが四


基もある。
「ああ、こいつは木星から来た。サイド6までならひとっ飛びだろうな。」
 彼らは強行偵察隊である。おそらく全軍初装備のキャリパー60を全機が有しているが、これは連邦軍に包囲されたらこの新兵器を使って切り抜けろという意味だ。キャリパー60は従来のクレイ・ライフルの二倍の射程と初速度を持つ共和国軍の秘密兵器で、これはガイア戦争でも封印されてきた。シミュレーションされたサイコG相手の演習でも、キャリパー60を装備したディアスはこの悪魔のような機体を容易く撃墜した。ラスト・スタンド作戦では全てのディアスにこの武器の使用が許可されている。
「が、使わずに済ませたい。この武器は取って置きだからな。」
「隊長に賛成。」
 さて、左舷は撮影を済ませた、次は右舷を見たい。今のところ、彼らは連邦軍には気づかれていない。ビシェッツはスラスターを軽く噴かして方向転換した。これで二回目で、彼はサイド間の実戦飛行に慣れてきていたが、部下たちはそうは行かない。パトロール中の連邦のジェガンをやり過ごすと、彼らは巨大船の右舷に廻り込んだ。
「こんな任務なら楽勝だ。」
 ディアスの機上でビシェッツはカメラを廻した。輸送船の改装された箇所が次々とファインダーに収められて行く。ステルス機能をONにしてあるせいもあるが、対空砲の射程内であるにも関わらず、迎撃の気配はない。奴ら、眠ってでもいるのか。
 撮影を終えたビシェッツはコープの旗艦「カザン」のすぐ脇を飛びすぎた。他のディアスも撮影を終え、彼の周囲に集まっている。
「任務終了、帰還する。」
 ビシェッツはステルス・モードを切り、ディアスのスロットルを上げた。






〇一〇一年七月三〇日 深夜
ラブレーヌ宙域 第01宇宙基地


の分だと遅くても一週間後、順調に行けば三日で動けますね。」
 映像を分析した連合参謀班のガース中佐が言った。彼はアナンケ出身の技術中佐で、艦船工学のエキスパートである。映像ではジュピトリスはすでにエンジンの整備を完了し、燃料も十分搭載されていることが分かっている。
「レダの戦いと比べて新装備、施設の整備はあるのか。」
 腕組みをしたマシュマーが言った。彼は八年前にこの船を含む第九艦隊と戦っている。デネブ級戦艦を入渠できるようドックが拡張され、彼が壊した以前の施設もほぼ完全に修理されているようだ。
「まさに動く軍事基地だ。」
 ハマーンが言った。
「しかし、良く気づかれずに撮影できたな。」
 映像の中にはかなり接近して撮影されたものもある。おかげで八年前にマクガイアが侵入した同船の排気口には蜂の巣状の装甲板が被せられ、同様の侵入ができないことが分かったが、旗艦カザンも含む連邦の一個艦隊が周囲を囲繞しているというのに、意外だ。
「奴らは気づいていたさ。」
 マシュマーが言った。彼は元連邦軍のパイロットでもある。
「気づいていて、わざと見逃したんだ。」


〇一〇一年七月三〇日 深夜
連邦第二艦隊旗艦 戦艦「カザン」


距離撮影で撮影されたリック・ディアスの映像を司令官コープと幕僚らが喰い入るように見ている。カザンの砲術長アブドル・サウド中佐が憤懣やるかたないといった顔でビシェッツの機体の遠距離映像を指差す。
「本艦の主砲なら届いたはずです!」
 デネブ級には近接攻撃用の榴散弾のほか、対空MIRV弾の装備があり、通常の主砲射程とほぼ同じのこれならディアスの一小隊など吹き飛ばせたと砲術長は豪語した。が、コープが首を振る。
(つづく)




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