Mobilesuit Gundam Magnificient Theaters
An another tale of Z ATZ資料集(24)




10.合体戦艦エイジャックス編

 四十九話のマーロウ対ガディの戦いは尺の都合で大半カットしたのですが、実はかなり書いていました。本編で収録した部分は割愛します。





〇〇九八年九月一日 一〇時三〇分
戦闘巡洋艦「エイジャックス」


いの艦の一斉射は各々敵艦を外した。サイド2の暗礁宙域を迂回し、双方の戦艦は変針しつつ、高速度で互いの攻撃位置を伺っている。エイジャックスの操縦席ではバーナード大尉が血相を変えて艦の操縦桿を握っている。
 右端の艦長席ではマーロウが窓外と戦術パネルを睨みながら、敵艦と漂流物の双方に目を配っている。アレキサンドリアとの相対速度はマッハ三。艦体と同大の岩塊が密集する中、凄まじい速度で両艦が擦れ違う。
 四年前に木星から帰国したマーロウが提出した機動戦闘巡洋艦(モビルバトルクルーザー)コンセプト、敵陣の側面を迂回しての側面攻撃は陸上の会戦では比較的多用されているものの、艦隊戦では成功例がほとんどない。艦隊の場合、艦隊速度は両軍ともほぼ等速であり、迂回を仕掛けた艦が攻撃位置に着く頃には敵艦隊は針路を変更し、その艦に対して新たな砲火の壁を構築するからだ。成功した場合はこれは敵にとっては砲と防御力が不十分な方向から攻撃することになり、比較的少数の兵力で大きな戦果を挙げることが期待できるが、実戦ではそれを狙って失敗する例がほとんど全てである。
 およそ一〇世紀の昔、一九一六年のユトランド沖海戦でも、ビーティー提督は旗艦ライオン以下の巡洋戦艦隊で同様の戦法を試みたが、ドイツ艦隊の反撃でインビンシブル以下、麾下の戦艦の多くを失って頓挫している。高速艦を揃えたといっても通常戦艦の一.三倍程度の速度、そして開けたドッガーバンクの海ではこの運動を行うのには不十分であった。そして彼が作戦本部に提出した案では、エイジャックスはこの迂回運動を行うために作られた戦艦である。成功したならば、およそ九〇〇年後に彼はビーティー提督やネルソン提督が成し得なかった戦術に成功したことになる。
「しかし、やはり簡単(イージー)ではないな。」
 通常戦艦の二倍の加速能力を与えられた戦艦でマーロウはティターンズ艦隊の側背に廻り込み、一時その艦列を主砲の射程圏に捉えたが、一隻の巡洋艦が彼の意図を挫いた。バルセロナ級重巡洋艦アレキサンドリア、エイジャックスと同じコンセプトで戦後作られたこの巡洋艦は主砲を連射しつつ、理想的な射撃位置に着こうとするエイジャックスを妨害している。猛追するガディの巡洋艦を見て、彼は減速を中止し、全艦にフェイズUへの移行を命令した。超高速機動戦闘、惑星間航行速度による戦艦同士のドッグファイティングで、むしろ迂回戦術よりも彼が得意とする戦闘法である。超マッハのスピードで両艦は激しく変針し、ビームとミサイルを浴びせ合う。
「ビーティー戦術には一つの穴があった。彼の戦闘巡洋艦コンセプトは机上では正論だったが、一つの可能性を見逃していた。それは敵が同じ巡洋戦艦でこれを迎撃したらという可能性だ。」
 騎兵(キャルバリー)に対するには騎兵、航空機(エアクラフト)に対するには航空機、巡洋戦艦(バトルクルーザー)には巡洋戦艦、ユトランドで提督の意図を挫いたのもドイツの巡洋戦艦だった。この戦史は古すぎて、マーロウは議会では説明しなかった。
「結局、高速艦同士の撃ち合いになります。これは迂回より難しい。」
 単に速いだけでなく、高速時の艦の運動性能、戦闘機能それ自体が問われる。なかなか着弾しないレールキャノンの弾速の遅さにロー砲術長が歯ぎしりする。
「敵の方が爆風より速い。」
 至近弾では致命傷にならないと砲術長が制御盤を操作しつつ不平を言った。
「アレキサンドリア、小遊星B10567の背後に移動!」
「惑星ごと吹き飛ばせ!」


 マーロウの命令で四八〇o砲弾八発が立て続けに連射され、直径数百メートルの遊星が粉々に破壊される。
「遊星からミサイル!」
 爆風でセンサーが撹乱された隙を突いてアレキサンドリアから二発のミサイルが飛来する。
「迎撃!」
「間に合わん、避けろ!」
 バーナードが操縦桿を大きく切り、二発の大型ミサイルが艦の側方を梳くように通過する。艦の後方で近接信管が作動した二発が爆発する。
「あれはアーガマが吹っ飛ばされたミサイルだな。」
「爆風は来ない、爆風より本艦の方が速い。」
 航海長のプレスコットがそう言い、センサー圏外に逃れたアレキサンドリアの予想位置を解析する。艦の後方で広がっていく爆風が小さな遊星や岩片を潮のように押し流していく。マーロウは操舵手に速度を落とさず艦を予想位置に進出させるように命じた。
「攻撃力(オフェンス)とは何か。」
「は?」
「それは速度と火力の積だ。」
「ジョミニ戦術ですな。」
 一見平静そうに見えるマーロウにプレスコットが答える。木星から帰国後のマーロウは超高速戦闘の有利性を作戦部で力説していた。艦隊戦の相対速度をこれまでの零速度から大幅に上げ、秒速数キロ〜数十キロで行えば、会敵はずっと容易になるし、戦闘の決着も迅速になる。彼が提案した全自動化の高速戦闘艦の提案はさすがに却下されたが、これはミノフスキー粒子下の地球圏と当時のセンサー性能ではこのような戦い方は自殺戦法に等しく、操艦できる操縦士も艦長もいないという理由であった。
 艦が会敵位置に近づくと先廻りしていたアレキサンドリアからの砲弾が付近の小遊星に飛来し、遊星が木っ端微塵に破壊される。速度が高いせいか重巡洋艦の砲弾も普段の数倍の威力を持っているようだ。マーロウは反撃を命じ、再び転針した巡洋艦の周囲で火球が炸裂する。ガディが乱射したミサイルをエイジャックスがデフレクターを全開にして払い落とす。艦が閃光に包まれ、一瞬、巨艦の艦影は見えなくなる。不意に艦の直近に一キロ大の巨大な遊星が迫った。
「取舵(ポート)!」
 遊星を回避し、横転したエイジャックスの正面に、彼らは逃走するアレキサンドリアの艦尾を捉えた。
「主砲斉射(サルボ)!」
 マーロウが発砲を命じ、六条の光の矢が重巡洋艦に迫る。






〇〇九八年九月一日 一〇時三五分
 「アッシマー」 マウアー機


由戦闘の命令が下され、マウアーは前方の要塞空母に突撃した。機体を降下させ、艦隊を砲撃する要塞空母を目前に捉える。ソロモン艦隊の防空システムはQシステムと呼ばれ、エウーゴやティターンズが装備するそれとは全く構造が違うものだ。まず射撃の精度の良さに彼女は驚いた。砲身が浮動式で艦の動きから独立しており、完全なロボット射撃なので直接射撃でも散布界が驚くほど狭い。被弾した僚機を見た彼女は機体を捻った。上昇し、彼女を追う複数のディアスに後尾ミサイルを発射する。彼女は再反転すると護衛艦の一隻に向かって降下した。そのまま攻撃するように見せ掛け、ロボット砲座とディアスを欺罔すると急角度で方向を変え、ブーストを点火して戦艦から飛び去った。
「きゃあっ!」
 急角度の運動でコンソールから吹き飛ばされ、座席に叩きつけられたシトレが悲鳴を上げる。直後、彼女らがいたはずの空間にエネルギービームと砲弾がダース単位で叩きこまれるのが見えた。血も凍るとはこのことだ。
「生き残りたかったら我慢なさい!」
 彼女はシトレを怒鳴りつけ、やはり砲火を打ち上げる別の巡洋艦「ポインター」に機を翻した。ライヒ大佐の巡洋艦は八基のQシステムを全開し、メガ粒子ビームやバルカン砲の束
(つづく)




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