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An another tale of Z ATZ説話集(181)




50.エイジャックス帰港

 アガスタ派兵の中途で帰港した戦艦エイジャックスとカラバに売却された戦艦トーメンター。第37話付近の挿話。




〇〇九八年七月 戦闘巡洋艦「エイジャックス」

「3、2、1、タッチダウン!」
 艦の後方から侵入し、巨大な戦闘巡洋艦の飛行甲板に着艦した機体はエンジンを全開にすると再び上昇した。
「ゴー、ミリタリーパワー!」
 エマ・シーン少佐はスロットルを押し上げると急角度で「ディアス」を戦闘巡洋艦の艦橋の直上に上昇させた。先の戦いで乗機を失った彼女は戦いの後にソロモン共和国に派遣されている。対アッシマー用の機体としてエウーゴが「リック・ディアス」の導入を決め、五機がキーゼ社からエウーゴに引き渡されることになっている。エマの機体はその第一号機だ。キーゼ社のシミュレーターで訓練を受けたエマは訓練終了後はエイジャックスで慣熟訓練を続けている。戦闘巡洋艦「エイジャックス」は彼女の母艦ラーディッシュと同じ航空戦艦であり、引渡直後から実戦が予想される機体についてソロモン側が示した配慮の一つである。
 キーゼ社のシミュレータから実機に搭乗したエマはまず機体の軽さに驚いた。エマの機体の全備重量は一〇〇トンを超えるが、エンジン出力に余裕があり、アフターバーンを使わなくてもマラサイ以上の機動が可能だ。
「スペックは落とされているけれども、サイド2ならこれで十分。」
 当初、リック・ディアスは艦隊標準型がエウーゴに引き渡されるはずであったが、交渉中にヒューゴー・ヴァリアーズがオルドリン市長選に立候補するという噂があり、MCVの番組で軍事技術の漏洩を争点の一つにしたことから、エウーゴ向けは電子機器やエンジンなどスペックダウンが施されている。彼の言によれば、大枚を掛けて開発した技術をみすみすエウーゴに流出させるのは国賊的という話であり、エイジャックス飛行隊長ゲアリ中佐に言わせれば、エマの機体は「演習ディアス」程度の性能である。
「それを必要とする者に最良の機体を提供するという、我が社のポリシーからすればスペックダウンは認めがたいが。」
 エイジャックスの艦橋で腕組みをしてエマ機を見守っているのはキーゼ博士である。エウーゴ程度はガリバルディで十分だと博士は言ったが、エウーゴはすでにクワトロによって確立された「ディアス」の名声を欲していた。サイド2諸国への売り込みを期待するキーゼ社の親会社、プラント社経営陣の意向もあり、キーゼは渋々エウーゴ向け「ディアスE」の計画を松下博士に委ねている。
「ところでこの艦はいつアガスタに戻るのかね。」
 傍らにいる艦長のブッダに博士は言った。
「艦艇部長の指示による補修が済んだ後ですね。知っての通り、共和国では彼女の目に叶わない艦は港を出ることができません。ドゴス・ギアとの戦いで二千箇所程度の改修点が発覚したこともあります。あと二週間は必要ではないでしょうか。」


〇〇九八年五月
サイド2 コロニー「タイロン」 ティターンズ基地


────二ヶ月前

 着陸したマウアー大尉のアッシマーから降り立った男は基地で出迎えた司令官に答礼を返した。すでに基地には二〇機のアッシマーが駐機しており、ヴァリアーズ社の仲介でタッキード社から供給された機体には整備兵が取り付き、技術者が新しくパイロットに任命されたティターンズ士官に機体の説明をしている。
「アッシマー一機で巡洋艦一隻に匹敵する。それが二〇機だ。エウーゴ艦隊を宇宙から消し去るには十分な戦力だ。」
「それも会長のご尽力の賜物ですな。」
 慇懃に世辞を言ったジャマイカンに頷くと、オルドリン市から到着したヴァリアーズは司令官に作戦会議を指示した。グラナダ支社からの情報でオーブルが大規模な輸送船団をエウーゴ艦隊の護衛で進発させるという。




「我々はこれを叩く。」
「アッシマーの能力なら可能でしょう。すでにジェリド少佐が進発しています。」
 ヴァリアーズはフッと笑い、司令官と共に基地の建物に歩いて行った。その後をジェリド少佐らティターンズのパイロットが続いていく。






〇〇九八年五月
サイド2 コロニー「バクー」
エウーゴ基地


「レコア中尉から話は聞いている。私も何とかしなければと思っていた。」
 ブレックス准将が呼び出したエマに新型モビルスーツの仕様書を渡した。隣にはヘンケン大佐がいる。
「リック・ディアスEだ。エウーゴには積める艦が三隻しかないが、それでも貴重な迎撃戦力だ。本部は二〇機の購入を決定しているが、一号機が完成したという連絡が入った。早速ソロモンに行ってもらいたい。」
 ヘンケンの説明を聞きつつ、エマは昨月艦隊に配備されたばかりのカラバ艦隊の旗艦「ロンバルディア」の艦影を見た。グラナダ市国がスポンサーについたことにより、エウーゴの拡大強化は進んでいる。
「ティターンズにもタッキード社が後援に付き、戦いは激化している。今後の我々の戦いは貴官と「ディアスE」の活躍に期待するところ大である。」
 ブレックスがそう言い、エマは立ち上がって敬礼すると、その日の午後、オルドリン行きの船に乗り込んだ。






〇〇九八年五月
ソロモン共和国 アルファ基地


 アガスタから帰投した戦艦エイジャックスが基地に入港してくる。彼らがアガスタに派遣されたのは二月末だが、その艦に大きな戦いがいくつもあり、予定を前倒ししての帰国だ。エイジャックスと入れ替わりに出航する戦艦「アルティメット」が第一〇戦隊を率いて出港準備を整えている。ライオン級が国外に派遣されるのは初めてのはずだ。エイジャックスと第七戦隊は予定では二ヶ月の改修と整備の後、再びアガスタに出航する。
「最初はハプニングもありましたが、シャリア港の整備はかなり進めました。ライオン級を入渠させても大丈夫だと思います。ただ、母艦機能がないのが苦しいところですね。」
 エイジャックスに同乗し、シャリアからアルファ基地に到着したカーター少将が言った。
「新型のヘインズ級の対潜護衛艦がある。ドゴス・ギアも撤退したことから大規模な空母戦の機会もない。基地飛行隊で十分だと本部が判断したのだろう。」
(つづく)




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