Mobilesuit Gundam Magnificient Theaters
An another tale of Z ATZ説話集(175)




48.小戦闘いろいろ

 作品の中でカットしたり、書いてはみたものの採用しなかった戦闘シーンの断片です。





〇〇九八年六月
コロニー「アルカスル」 ロブコフ高地近くの森林


(作者メモ)
 作品のティターンズはジェリドなどはRX−178やアッシマーなど高性能な機体を与えられていますが、多くの隊員は第二部から実はハイザックが主力です。49話でエマに降伏するベンリコは優秀なパイロットですが、彼より適性のある者が多くいたせいかハイザックに乗っています。ティターンズ二期生はベンリコ、エイブラハム、エリアルド、シトレのほかムーン姉妹がいますが、シトレとエイブラハムはアッシマーの操縦資格があり、本作でハイザック専門はベンリコとエイドリアン(一期生)の二人です。


 そのドワッジが放った対地バズーカを身を屈みこんでかわし、トマホークを取り出したハイザックはオーブルのモビルスーツの懐に潜り込んだ。訓練されたパイロットの俊敏な動きにオーブルのパイロットは為す術もなく倒されていく。
「二機目!」
 ティターンズ、ロブコフ降下部隊の一員、ベンリコ中尉は二期生のパイロットで、戦いの激化により戦闘科から特殊航空科のパイロットに転属した。ティターンズは充実した訓練プログラムを誇っており、本来は艦船要員の彼でもモビルスーツ操縦には十二分な訓練を受けている。総攻撃まで弾薬を節約したいベンリコは専らヒートホークでドワッジと戦っている。彼の後方にはキッチマン大尉の兵員輸送車がある。ティターンズの他のパイロットも降下地点で奮戦しているようだ。
「退けっ! 退くんだ!」
 ベンリコらの予想外の強さに数では優っているドワッジ隊の隊長機が後退を指示する。
「そうはさせるか!」
 中尉はショルダーアタックで隊長機に体当りすると、ホバーで浮き上がった機体は停止することができず、そのまま高さ千メートルの渓谷を落下して爆発した。コロニーでは遠心重力は地球上の重力と同じように作用する。ドワッジとの交戦で降下部隊は二機のハイザックを失ったが、迎撃に出たドワッジは二二機中一六機が撃破されている。
「そろそろ夜だな。」
 ホバーの土煙を上げ、逃げ去っていくドワッジの後ろ姿を見た中尉は呟いた。オーブル軍は夜戦は戦わない。危険な食人植物が夜間は活動するからで、退却の信号弾を受けたベンリコらも後退して構築した仮設陣地に戻った。アッシマーの一機が撃ち落とされてパイロットが降下部隊に合流しており、陣地に到着した中尉はハイザックを陣地を取り囲む円陣状に配置して周囲を警戒した。






〇〇九八年八月 ロブコフ高地
「リック・ディアス」 エマ機


(作者メモ)
 ベンリコたちと同じロブコフ高地での地上戦ですが、マウアーのアッシマーを損傷させたエマの述懐。


 今は月にいるクワトロ大尉の機体のコクピットで、エマ・シーン少佐は離脱していくアッシマーとスモレンスク市になだれ込むオーブル軍を見た。戦いはついに決着し、正統政府の第三軍を打ち破ったオーブル第六軍はアルカスルを完全制圧しつつある。なお、六軍、三軍という呼称は旧ガイアの地上部隊の呼称である。
「とはいうものの、さすがね。」
 彼女とアポリーの活躍で襲来してきたアッシマーはほとんど撃退したが、残骸を晒している正統政府軍やオーブル軍と異なり、ティターンズの諸兵はほとんど痕跡を残さない。戦死者の遺体は収容し、さっきのように重度の損傷の機体も仲間が回収して飛び去っていく。エリート戦闘部隊の士気と練度の高さに彼女は改めて感嘆するものを感じた。元ティターンズの彼女は彼らのことは良く知っていたが、ガイアでの戦いを経て、戦闘集団としてますます磨きが掛かっているように感じられた。


「間違った側にいるけれども、惜しい。」
 陣地から後退命令があり、エマは機体をクルリと反転させた。クレイ・ライフルは装備していたが、味方を助けている敵をこれで射落とす気にはなれなかった。ディアスのレール弾頭なら損傷した機体に組み付いて釣り上げた機体、たぶんジェリドのアッシマーは撃墜できたと思うのだが、六月に撃墜された意趣返しは別の機会でやるべきだろう。






〇〇九七年一一月二六日
シュバルツバルト自然公園外苑
モビルスーツ「リゲルグ」 エックハルト少佐機


(作者メモ)
 所変わってジオンのクーデター、ハマーン対グレミーの最後の決戦で側背攻撃を掛けようとしたリゲルグ隊の顛末。ドム[は結局出さなかったのでデザインもしませんでしたが、出すとすればこの場所でした。

 リューリックの命令を受けてベール軍の左翼に廻り込んだマルティン・エックハルト少佐の「リゲルグ」は部下のドムWを率いてシュバルツバルト自然公園の外縁を疾駆していた。両足のホバークラフトを全開し、身を屈めて緑地帯を駆け抜ける彼の側方を公園の樹木や湖沼が流れていく。リゲルグはソロモンのリック・ディアスと同じエリート戦闘部隊用の機体で、プロトタイプをハマーンやシャアが使い、量産型は戦艦グワンバンでも二個小隊しか配備されていない。随行するドムWはやや古いが旧リック・ドムの改良型でバズーカ砲を装備している。少佐は右側方にキラリと見えるアイナ・サハリン邸の屋根を一瞥した。近くは公室御料地だ。
「整然とした陣形にも弱点はある。整いすぎていて周囲の警戒が薄くなることだ。」
 陸軍部隊は良く訓練されているが、エックハルトの見るところベールの行軍展開は型通りに過ぎ、この陣形では不意の側背からの攻撃には対処できないはずだ。疾駆しつつ、行動を秘匿して敵軍の側面に廻り込んだ少佐は思った。元々兵力に劣るため、少数の部隊で敵軍を撹乱することはリューリック軍の作戦方針である。このあたりは第五師団の守備領域のはずだ。
「ぐわっ!」
 その時、不意にキラリと光る閃光があり、味方のドムWの一機が被弾して擱坐する。周囲から飛来する砲弾の向こうに、彼は陸軍のザクの機影を見た。
「待ち伏せか!」
 森林からの敵の攻撃に彼はライフルを構えた。リゲルグ用のライフルは三点バーストの連射機能があり、その点で通常のビームライフルより優れている。出力も大きく、彼は木陰を掠め去るザクの一機に照準した。
「チッ、サハリン邸か!」
 侯爵夫人の私邸が照準に入り、彼はザクを狙う引き金を緩めた。自然公園を戦場に繰り広げられるこの戦いには暗黙のルールがある。公園に併設されているサハリンほかの華族邸、公王の別荘である御用邸には被害を与えないことがそれで、陸軍がこの場所を一見無防備にしていたのは理由のないことではなかったのだ。ザクの銃撃を受け、彼はリゲルグのスラスターを全開にして地上から飛び上がった。
「もらった!」
「!!」
 そこにミラーの反射光を背に六枚羽根のドム[の編隊が彼に襲いかかった。彼のライフルを難なくかわし、高機動型のドムはライフルを連射してリゲルグを射すくめる。一弾が肩に命中し、もう一弾が膝のジョイントを打ち砕いた。
 ガン!
「ここまでか!」
 崩れ落ち、仰向けになったリゲルグで少佐は機のエンジンを切った。すでにライフルを突きつけているドム[のパイロットが彼に降伏を促している。随行した他の機体も撃破されるか降伏させされ、搭乗員が後ろ手に手を廻して機体から降機している。


シュバルツバルト自然公園
第五師団司令部


 芝生に広げられたテーブルで師団長のマツナガがサイモン博士の説明を受けている。繞回運動を試みた宇宙艦隊の部隊はボック中佐の遊撃隊が阻止したようだ。ジオニック社で試験されていた新型ドムをベールは遊撃隊として用いている。主力艦隊そのもの速度が速い艦隊戦では繞回運動はあまり現実的ではないが、陸戦ではモビルスーツや航空機を中心に多用され、マツナガも別に知らないわけではなかった。高機動力のドム[を中心に、複雑に立地された華族邸や御用邸を盾に一定の縦深陣を敷き、迂回を試みる敵小部隊をこの場所に誘い出す計略はマツナガの発案である。
(つづく)




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