Mobilesuit Gundam Magnificient Theaters
An another tale of Z ATZ資料集(171)




45.レクリエーション

 戦いの合間の一時です。彼らにもこういう時間があっても良いでしょう。





〇〇九八年七月
コロニー「タイロン」 周辺宙域


ェリド・メサ少佐はノーマルスーツを着た姿で彼らが製作した光子ヨットに乗り込んでいる。タイロンでの任務は対ゲリラ戦などストレスが溜まるものが多く、一部の隊員が余暇の時間に自発的に始めた計画に彼も加えてもらった形だ。ヨットの設計はマウアーが行い、彼は二期生のベンリコ中尉と共に宇宙帆の組み付けを行った。カクリコンら陸戦隊員は材料の削り出しと塗装を担当している。
「こうして見ると、やっぱ違うな。」
 ノーマルスーツのインターコムで彼は操縦索を引き、ヨットを操船しているマウアーに呼び掛けた。製作にはおよそ一ヶ月を要したが、実のところ、彼も宇宙帆船についてはほとんど知らない。全く動力の気配なしに、音もなく進む宇宙船は彼も初めて乗るものだ。巨大なコロニーとまたたきもせずに広がる広大な宇宙、そして輝く太陽にそこに浮かぶ青い惑星、操縦席では毎回見ているが、ノーマルスーツのスクリーン越しに直に眺めた経験は余りない。
 音もなくスルスルと進む帆船の船上で、ジェリドはこういうことなら船室も作ってワインを一杯やりたいなと思った。すでにカクリコンらが基地の工作室で与圧された船室の組み立てに入っている。ハイザックの掌に収まるほどの小さな船だが、最初に人類が宇宙に出た時の宇宙船はもっと小さかった。






コロニー「タイロン」 ティターンズ基地

れは何だ、外宇宙の様子が見える基地の廊下でヴァリアーズがジャマイカンに窓外を行く宇宙帆船を指差した。帆にはティターンズのマークが描かれている。資本家に促された中佐が窓外の船をしげしげと眺めた。
「ああ、隊員のレクリエーションですな、やっと完成したか。」
「貴官は知っていたのかね。」
 感嘆する中佐に資本家が憎々しげに訊いた、ロクに戦ってもいないのにレクリエーションとは図々しい、制作費に費用は支出しているのかと彼は中佐に尋ねた。
「冗費をスポンサーした覚えはない。」
「基地の工作室を貸しはしましたが、自腹ですな。仰る通り、リストにない福利厚生に金は出せません。」
 ジャマイカンはそう言ったが、ふと資本家が隣にいないことに気づいた。見ると背後で立ち止まり、トレードマークの黒いコートに手を突っ込んだヴァリアーズが帆船を眺めている。






〇〇九八年八月
サイド2 コロニー「ガイアW」


ドワード・マーロウ中将は「ディアス」の操縦桿を握りつつ、接近するコロニーに機位を合わせた。モビルスーツの操縦など二二六戦闘部隊以来だが、その二二六戦隊でもオルレアンの戦いで敗戦して部下を死なせた彼は


早い時期に艦艇に転向し、以降はモビルスーツによる戦闘はマシュマーなど彼より戦闘技量に優れた士官たちに任せていた。サンドバーストで二年間の搭乗訓練を受けていたが、実を言うと、今でも操縦はあまり得意ではない。最初、彼はガリバルディβを使おうとしたが、会談の申し出を受けた時に相談したゲアリの言葉では、ガリバルディとディアスの操縦系はほとんど同じで、装甲とパワーのある分、ディアスの方がそれ向きだろうという話だった。機上のコンソールから朽ちたコロニーのゲートを遠隔操作で開くと、彼は機体を内部に進出させた。やはり最新鋭機、GMとは違う。



「グリーン・ワン、こちらアイアス、クリア。」
 先行するゲアリとアイルトン大尉が異常なしを報告する。「グリーン・ワン」は二二六戦隊時代の彼のコール・サインだ。与圧区画を抜けると、マーロウの機体は随行するビシェッツ中尉と共にコロニーの内部に飛び出た。大気はシャリアより少し澱んでおり、所々が錆びたコロニーの内板がくすんだ光景を現出している。人が住むには適していない。サイド2には数多ある、廃棄されたコロニーの一つだ。
「ゲートを確保します。司令はギャップに進出してください。」
「了解した。」
 操縦桿を引き、スラスターを軽く吹かすと、マーロウはコロニーの空を飛翔した。古い「スモール」タイプのコロニーの空は狭く、彼はすぐに赤錆びたコロニーの中にある緑地帯を見つけた。機体を起こし、着陸姿勢に入る。
「ほう、、」
 待ち合わせ場所に敷設した天幕から着陸するディアスを見たガディ・キンゼー大佐は感心した声を上げた。



「意外とうまいじゃないか。」
 続けてディアス二機も着陸し、武装したゲアリ中佐とアイルトン大尉がワイヤーで地上に降り立つ。エイジャックス海兵隊のヘンドリックス少佐の装甲突撃艇も到着し、ガディが指定した緑地帯はたちどころに百名近くのソロモン兵で囲まれた。それを見ていきり立つハミル中尉を片手を挙げて制止すると、ガディは脚立から立ち上がり、勢揃いした兵士たちの中央にいる将官の記章を付けた黒いノーマルスーツの士官に歩み寄った。
「タイロンでは誘われても来ないと思ったので、このコロニーにしたが薮蛇だったかな。」
 ガディはそう言い、ヘルメットを脱いだ士官に手を差し伸べると、マーロウを天幕の中央にあるテーブルに誘った。
「タイロンなら酒場もホステスもいるのだけどね。」
 テーブルにはティーセットが用意されており、ティーウォーマーを被せたポットにサワークリームとスコーンが用意されている。ちょっとしたピクニックといった趣きだ。マーロウはヘルメットをアイルトン大尉に預けると、ゲアリと共にテーブルに着いた。彼らに茶を淹れるガディの後ろの茂みにマーロウは声を掛けた。
「貴官らも出てきたらどうだ。」
 藪の中から出てきたカクリコン少佐とキッチマンに彼は席に着くように促した。それから藪の中から陸戦隊員数十名が現れ、ヘンドリックス少佐がホルスターに手を遣る。マーロウは彼にも席に着くように言い、テーブルにサイド2におけるソロモン共和国軍とティターンズの主だった面々が集まった。
「言うまでもないことだが、これは秘密会談だ。」
 ジャマイカンには知らせてない、カップを片手にしたガディがそう言い、茶を一口啜った。
「飲みたまえ、毒など入ってない。」
 平然とした顔でマーロウが紅茶を啜ると、ガディは大皿に盛られたスコーンを取った。
「任務を通じ、君らとぶつかる機会が多くなっている。不毛な戦いを避けるため、そろそろ、お互いに腹を打ち割って話す時期が来ていると思うのだ。」
 そう言い、ガディはスコーンを一口囓った。

(作者メモ)
 マーロウとガディの秘密会談は第四十九話「合体戦艦エイジャックス」の冒頭にその存在が示唆されていますが、作中に記述はありません。ある意味ライバル、第一部のタイタンの戦い以来戦いを続けていた両艦長ですが、実は通じる部分があるという感じです。第四十七話でもガディの襲撃艦隊をマーロウが見逃すなど複雑なガイア宙域で互いの存在を意識しつつ、駆け引きしている両人の様子が描かれています。


(おわり)




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