Mobilesuit Gundam Magnificient Theaters
An another tale of Z ATZ資料集(167)




44.フォン・ブラウンの建設

 ガイアでの戦いが終わり、連合条約の下、スペースノイド諸国家は新しい道を歩み始めます。連合の本部である政治都市フォン・ブラウンの建設はオーブルが請け負っていますが、あのカガリナの姿もあります。





〇〇九九年一月 ボストーク市


Вставай, проклятьем заклеймённый,
Голодный, угнетённый люд!

起て飢えたる者よ 今ぞ日は近し

Наш разум кратер раскалённый,
Потоки лавы мир зальют.

醒めよ我が同胞(はらから) 暁(あかつき)は来ぬ

式行事では最後になる旧オーブル国歌の斉唱が行われ、拍手と共に軍楽隊の指揮者が参集している聴衆に一礼した。オーブル結成同盟は便宜上、アルカスルを領有する国家としての体裁を保っていたが、その実は旧パシフィック共和国の反政府勢力であり、その実情は昨年に正統政府の首都オムスクが陥落し、旧パシフィックの流れを汲む政府が倒壊するまで続いた。
 つまり、サイド2ではパシフィック共和国は実態はともかく建前上は〇〇九八年一二月まで存続していたのであり、九九年になってようやく、その終焉がパシフィックを継承したとされるガイア・オーブル人民共和国によって宣言された。続けて演奏される新国歌に式典に参列していたアガスタ共和国大統領、イザベル・バトレーユは隣席のアリスタ共和国首相イクセルに声を掛けた。
「パシフィックの歌は歌わないのね。」
「あれはカリンカだ、印刷される前に国もつぶれたしな。」
 寄りによってこの歌か、悪い冗談だろうとイクセルは言い、歌詞カードを手に取った。アガスタ、アリスタの両国は新人民共和国の同盟国として四月に連合条約に加盟する手筈になっている。アリスタ首相は近くの席で居心地悪そうにしているソロモン首相リーデルの方向を見た。ジオン公国はシャアを名代に派遣している。頼んでいなかったが建国の功労者ということらしい。
「我が国も危ない所であった。」
「オーブル式国民投票は私たちも警戒していたわ。」
 入国管理局を強化し、ソロモンに艦隊派遣を要請したので助かったとイクセルはバトレーユに言った。併合されたカジムやベルーシに比べれば規模も大きな両国がオーブル式大量移住と住民票の大量書き換えで併合させられる可能性はなかったが、その場合は武力による恫喝というものがある。ジオンのハマーン女王をおだて、時には脅迫して使い倒し、正統政府以外の周辺の弱小国を併合してウズミラが拡大したオーブルの版図は実に新共和国の四〇%に達する。
「国民投票も眉唾だし、投票方法も信用できない。」
 とんでもない奴だとイクセルは雛壇に立つウズミラを顎でしゃくったが、バトレーユもオーブルの新主席には警戒の視線を送っている。そして、新国歌が会場で演奏された。


Гаия - священная наша держава,
ガイア 聖なる我等が国
Гаия - любимая наша страна.
ガイア 愛する我等が国

 オーブル軍の礼服を着て、小銃を片手に会場を警護して


いたカガリナ中尉は初めて聞くメロディに少し驚いた顔をした。満を持して公表された新国歌が旧ガイアの国歌と同一だとは聞いていたが、この歌が歌われていた時代には彼女はまだ生まれておらず、警官時代の父親についても知る縁もなかった。カガリナは終戦の一年後にボストーク市警の巡査ウズミラとその妻マリーナとの間に生まれた娘である。マリーナは彼女が生まれて三年後に産褥で死亡している。父親によれば入院したのが党病院でなければ助かったという話だ。「建物と手術台がボロなら医者は上等」という諺は、彼女がウズミラから直接聞いたものである。その際に息子も流産したので、母親似の娘を父親は溺愛していた。荘厳な国歌のメロディを聞き、父親の時代とはこういう時代だったのかと彼女は感慨にとらわれた。

Могучая воля, великая слава
固き意志 偉大な栄光や
Твоё достоянье на все времена
永久に汝が富ならん


 エゼルハートのことは忘れよう、と、カガリナは思った。自分は偉大な国の一員であり、より崇高な目的のためにこの場所にいる。悪からず思っていただけに、彼の気持ちに応えられないのは悔しいが、彼女の祖国はこの国である。






〇〇九九年一月 戦艦ウォースパイト

路の戦艦で軍艦旗降納の儀式を見守っていたリーデルは戦艦の司令塔で儀式を取り仕切っていた艦長のバニス大佐に声を掛けた。ソロモン国歌は難解な歌詞で定評があり、また内容も宗教色が強いため、国歌といっても実際に歌える国民は少ないと言われているが、君は歌えるのかと首相は地球連邦軍出身の艦長に尋ねた。
「難しいですね、歌詞カードなしではちょっと。」
「私もダメだな、国歌斉唱の時は口パクだ。」
 リーデルによるとこの歌はラグランジュⅡに駐屯した最初期の地球防衛隊員の間で歌われていた歌で、隊員にアイスランド出身者が多かったことから、以後なんとなしにルウムの歌として定着したものだという。

 Ó, guð, vors lands, ó, lands vors guð,
  おお、我らの神よ、おお、我らの神よ、
 Vjer lofum þitt heilaga, heilaga nafn.
  我らは汝の聖なる、聖なる御名を崇め奉る。

「我が国の歌はメロディは良いんじゃないかと思います。」
 バニスはそう言い、何百年も親しまれているのだからオーブルみたいに今さら変える必要もないのではないかと首相に言った。これにはリーデルも同意見である。
「オーブルの歌には、『大陸から太陽の果てに』という歌詞がある。」
 イクセルの受け売りだが、ウズミラには膨張欲と征服欲がある、と、リーデルは艦長に言った。
「自分にはジオン国歌の方が自意識過剰に聞こえましたが。」
 バニスの言葉にリーデルは苦笑した。たかが歌だが、歌にもその地域の気質が良く現れている。共和国歌は国民の八〇%が歌えないと言われているように、わけのわからない所が良い。
「歌でああしろ、かくあるべきなんて説教されたらたまったもんじゃない。」
(つづく)




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