Mobilesuit Gundam Magnificient Theaters
An another tale of Z ATZ資料集(162)




43.オーブルファイター編

 第三部で登場したオーブルのコロニー内専用戦闘機オーブルファイター、ガイア統一の切り札としてのその活躍を描きます。





〇〇九八年九月一三日 夜
テレシコワ市 共産党本部近くの路上


めなさい!」
 中央委員の襟首を掴み、ナイフを振り上げたザビーネの背後から女の声がした。振り向くとカーキー色のオーブル人民服を着たベラ・ロナが拳銃を彼に向けて構えている。
「その人を放して!」
 震える腕で銃口を彼に向けているかつての恋人を彼は一瞥した。
「拳銃は、安全装置を外さなければ撃てない。」
 覆面の男の言葉に彼女は動揺した。
「えっ?」
「ブリャーヒン閣下!」
 バキッ!
 彼らに走り寄る警官たちの姿を認めたザビーネは襟首を掴んでいたウズミラを殴り倒すと、警官に煙玉を投げつけた。
「てえいっ!」
 バシュウッ!
 周囲に煙が立ち込め、煙が晴れた時、賊の姿はすでに消えていた。頭から血を流して倒れている中央委員に駆け寄ったベラがウズミラの頭を胸で掻き抱く。
「救急車を呼んで!」
 夜中の椿事に驚いた党本部の職員らが彼女の周囲に集まってくる。
「何だあれは。」
「まるで忍者だ。」
 倒された三人の護衛と手裏剣を投げつけられて負傷した警察官を見て人々がどよめく。
(ザビーネ・シャル、間違いない。)
 聞き覚えのある声に、救急隊員に付き添ってウズミラを担架に載せていたベラはビルの屋上を見上げた。






〇〇九八年七月一四日
コロニー「アルカスル」 ロブコフ高地


────二ヶ月前

て(ファゴイ)!」
 〇〇九八年七月一四日、ロブコフ高地に布陣していたオーブル第六軍はスモレンスク市を中心にオーブル軍と睨み合っていた正統政府三軍と戦闘を開始した。正統政府軍をアルカスルから叩き出し、首都オムスクまで一挙に侵攻する「大躍進」作戦の開始であり、旧ガイア建国以来の歴史を持つサイド2の二大部隊、第六軍と第三軍は互いに一進一退の攻防を繰り広げている。
「こちらブラボー1、機は爆撃コースに入った、掩護頼む。」
 マウアー・ファラオ大尉のアッシマーは二機の僚機を率い、高地を驀進するオーブル戦車軍団への爆撃コースに入った。対空砲火を撃ち掛けるオーブルのデナンゾンを機銃掃射で薙ぎ払い、二ダースのクラスター爆弾を投下、背面してもう一ダースを敵陣に叩きこむ、紅蓮の炎が上がり、オーブル軍の戦車隊が炎に包まれる。しかし、その背後から別の戦


車隊が炎上する味方戦車の横を通過して突進してくる。マウアーは身軽になった機体を上昇させるとインメルマン・ターンを行い、突進する戦車隊に鷹のように降下した。降下しながら変形し、ビームライフルを取り出して着地しながら敵の戦車を次々と狙撃していく。そこにアポリー中尉の「クワトロ・サーカス」の赤い機体が到着し、マシンガンを撃ち掛けられた機体は弾丸は跳ね返しつつ、バズーカ弾が着弾する前に再び変形して離脱した。
「やはりアッシマーか、あれがあるから正統政府は手強い。」
 戦場近くの高台で双眼鏡を構えて戦場を凝視していたバンベトフ将軍はエウーゴから来た女性に言った。
「でも、腕利きのパイロットは少ないようね。」
 双眼鏡を構えたエウーゴの参謀、レコア中尉が言った。見たところアッシマーも積極的に空中戦を挑んでいるのは二〜三機で、残りはトリッキーな動きはなく、おずおずと平凡な対地攻撃に終始している。
「こちらはイワン少佐の戦闘機隊を用意している。元タイタニア空軍の精鋭だ。」
 将軍はブレックスがアルカスルでの空中戦向けに戦闘機を派遣したことをレコアに教えた。見ると豆粒のような機体が三機、急速力で戦場に接近してきている。超音速で接近する機体からパパパッと閃光が上がり、アッシマーの一機が火を吹いて墜落する。
「やったぞ!」
 バンベドフが嬌声を上げ、被弾した機体は地表に激突して爆発した。
「そろそろ一六時ですわ。」
 腕時計を見たレコアは戦闘終了の時間が近づいたことを将軍に指摘した。敵の抵抗は激しかったが、それでもオーブル軍は一日で五〇〇メートル前進し、陣地を僅かに広げた。






〇〇九八年七月一四日 夕刻 スモレンスク基地

隊を率いて基地に着陸すると、マウアーはその日の戦果を申告した。オーブル側に比肩する機体のないアッシマーはその重装甲、重火力でオーブル軍のドワッジやデナンゾンを寄せ付けないが、敵は戦闘機を投入してきている。ビームライフルを搭載したセイバーフィッシュ戦闘機により、味方機一機が撃墜されたことを彼女はジャマイカンに報告した。彼の隣にはヴァリアーズがいる。
「撃墜されたというのは愉快でないな。」
 性能では遥かに勝っているはずだ。資本家はそう言ったが、マウアーはこと大気圏内の戦闘ではセイバー戦闘機は侮れない機体であると説明した。この古い連邦軍の戦闘機は空中ではアッシマーより速く、運動性でも優っている。加えて最新型のFB型はビームライフルを積んでいる。元々大気圏用の機体のため、コロニー内での使用にはそれでも困難を伴うが、熟練したパイロットが乗ればモビルアーマーの撃墜も可能だろう。
「加えて、我が方のパイロットは大気圏内訓練を十分に積んでいません。」
 強化されたセイバー戦闘機に対抗できるのは自分とヤザン少佐、それと民間航空の経験のあるラムサス中尉くらいだろうと彼女は資本家に言った。もっとも三人のうちラムサスは旅客機の出身で戦闘機を操縦した経験はなく、大気圏内戦闘は並よりは上という程度にとどまる。
「エウーゴにはいるのかね。」
 ジャマイカンの質問に彼女は少し表情を硬くした。いるにはいる、エウーゴに合流した旧タイタニア空軍のパイロットで、その数はティターンズの三人より多いはずだ。宇宙戦闘隊での戦闘統制官だったイワン一尉の顔を彼女は思い出した。
 マウアーは知らないと答えると、エウーゴは腕に覚えのある傭兵でも雇ったのかもしれないと答えた。その言葉に資本家が少し顔を曇らせる。予想もしなかった伏兵にジャマイカンがハンと息を吐く。
「考えてはおくがね、いずれにせよティターンズの本職は宇宙戦だ、戦う場所もない空中戦なんかに早々人員も機体も割けん。当面は貴官とヤザン少佐で対応してもらおう。必要な装備があったら何でも申告してくれたまえ。」
(つづく)




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