Mobilesuit Gundam Magnificient Theaters
An another tale of Z ATZ資料集(159)




42.共和国軍演習

 第三部は太陽系連合条約の締結でひとまず幕となりますが、それから第四部までは三年の間があります。ジオン内戦やアルカスルでの戦いを終えた彼らのその後の話。





〇〇九九年三月
地球上空
リージェント社 シャトル船「バイパー」


球上空に達したシャトル船のエアロックで男はエンジニアの最終チェックを受け、装備を整えた。耐熱繊維で作られた分厚い宇宙服に重いバックパック、シャトル船の航行している宇宙空間はほぼ無重力だが、重力下ではおよそ100キロを超える装備は渡されるとズッシリと手応えがある。
「もう少し軽いと便利なんだがな。」
 宇宙服を着込んだマシュマーは大きなバックパックを背負うと丈夫に作られたコネクタを一つ一つ接続した。
「冷媒が抜けるので対流圏までには軽くなります。」
 彼が取り付けたコネクタを確認したエンジニアが言った。
「そうであることを祈るよ。」
 通例、軌道速度で大気圏に突入した宇宙塵は一〇メートル大のものまでは大気摩擦でほぼ燃え尽き、地表に損害を与える可能性があるのは大きさ一〇〇メートル以上とされる。一〇メートル四方の遊星の重さはおよそ六千トンのため、一〇〇メートルの岩石質の物体だとおよそ六〇〇万トンになる。
 つまり、軽巡シェパードが地球に墜落しても中途で分解して被害はなく、戦艦も多くは五万トンから一〇万トンのため、これが墜落しても地球は大丈夫となる。同じ大きさの遊星と比べれば、これらの物体は中空で空洞が多く、かなり軽いのだ。大戦では地球近郊で多数の戦艦が撃破されたが、それによる被害を聞かない理由だ。六〇〇万トンという数字からジュピトリスという文字が頭に浮かんだが、あれは木星にあるはずだ。確かにあの宇宙ステーションは二千万トンある。
「ダイブ地点に到着、提督はエアロックで準備してください。」
 シャトル船の操縦室からエンジニアに押されてエアロックに歩む彼に連絡が行く。すでに二重に防御されたバイザーを下ろした彼は完全に防音された状態だ。同じ宇宙服でもパイロットスーツと異なり、キーゼ社の宙間防護服は指先までパンパンに与圧された状態だ。一度着こむと手足はほとんど動かない。彼はノーマルスーツを着込んだエンジニアに支えられながらシャトルのエアロックに入り込んだ。
「3、2、1、ダイブ!」
 機長の操作でエアロックが開き、防護服を着込んだマシュマーはそのまま地球に飛び込んだ。すでに宇宙船は突入コースに進入しており、機体を離れたダイバーが突入角度を維持していることを確認すると機首を上げて大気圏外へのコースを取っていった。
 マシュマーの周囲で閃光が瞬き始め、彼は防護服を着込んだ姿で大気圏に突入した。






〇〇九九年三月
サイド2 コロニー「アルカスル」


マ・シーン大佐は新鋭機の操縦桿を握り、オーブル領内のアルカスル上空を疾駆している。エウーゴがサイド2での戦訓を元に開発した新鋭機「ゼータ」はクワトロが試験飛行を行


い、従来機のマラサイに代わってエウーゴに続々配備される予定の新型である。アルカスルの戦いで航空性能の重要性を認識したエウーゴは大気圏内格闘戦の性能を重視しており、ゼータも新型の可変システムを搭載している。宇宙空間では通常のモビルスーツ、大気圏内では戦闘機に変形でき、加えてマラサイと同程度のスペースで艦載も可能なゼータは年頭の組織再編で第九艦隊に再編されたエウーゴの切り札である。
「新型のモニタシステムにはまだ改善の余地があるわね。」
 オーブルファイターとの空中戦では四勝一敗、スペックは比較にもならないが、エマのアグレッサー部隊はバブルキャノピーのこの戦闘機相手に一敗地に塗れている。彼女の見る所、全天球モニタ装置は完全ではなく、センサーから取り込んだ情報を視覚化する際の絵作りはまだまだ直接目視に劣るようだ。ガイアの戦いでオーブルファイターがモビルスーツ相手に善戦したのはこの視覚情報の直感性もあると彼女は思った。
「バンディット、距離二〇〇〇、方位二六〇。」
 コロニーの境界面下、空力性能を活用するファイターの運動性を活用できる高度に五機のオーブルファイターを視認したエマは僚機とともに急降下した。従来の機体では落下速度が付きすぎ、誤って地表に激突しかねないが、ファイターと同じくエアブレーキを装備したゼータなら高速度で進入しうる。境界面のバフェティングを抜け、ファイターの背後で機首を引き起こしたエマは慌てて回避する戦闘機の一機を照準に捉えた。






〇〇九九年四月
ソロモン共和国 オルドリン市 首相官邸


員のキャリアは三〇年を超えていたが、「彼」に会うのは初めてである。オルドリン市の一介の弁護士から共和国首相にまで登り詰めたこの人物に彼は個人的な興味もあった。
「議員閣下、こちらです。」
 緊張した面持ちのまだ若い研修生が応接室にいた彼を東翼に案内する。薄金髪の女性の容貌に彼は見覚えがあったが、長いキャリアで彼は諸国の要人、高級軍人の子女の顔写真は全て頭に入っている。公邸の薄暗い廊下を歩きつつ、ジャミトフは案内する女性に声を掛けた。
「この建物はまだ建て直さないのかね。」
 ソロモン共和国の首相公邸はルウム時代から使われている旧市長邸で、同盟時代は「公邸(パレス)」と呼ばれていた。共和国になって多少増改築が進み、実態により近い「官邸(レジデンス)」に名前が変わったとはいえ、列国中最も貧弱な公舎であることに変わりはない。かつて訪れたテレシコワのオーブル共産党本部もこれよりはマシであった。古く、汚く、狭く、居心地が悪い。ジャミトフの質問に案内の女性はニッコリと微笑んだ。
「そういう話は聞きませんわ。」
「ジオンの君が共和国の中枢部に勤務しているとは不思議だな。」
 アルマの出自を指摘し、ジャミトフは首相居住区への廊下を歩いた。議員が自分の名を知っていることに研修生が驚いた顔をする。
「不思議なことではない。我々の世界はごく狭い。」
 戦前はジオンやムーアの高官とも頻繁に交流していたとジャミトフは言い、彼女の父親のドリス提督のことはあまり知らないが、母親のコンスタンツェとその一族については子供の頃から良く知っているとジャミトフは孫ほどの歳の研修生に言った。
「お爺上は金曜会(フライデー)の会員でもあった。」
「光栄ですわ。」
 研修生の言葉に廊下を歩く議員はフッと笑った。金曜会の会員は若年の少壮官僚が少なくなかったことから、時には彼が会員間の縁談を取り持つこともあった。戦後は規模を縮小したとはいえ、諸国にまたがるネットワークはまだ生きており、知己はソロモンにもジオンにもいると彼は研修生に言った。
「トワニング一族の子女とあらば、良縁はあまたあるだろう。」
 結婚を示唆する議員の言葉にアルマは頬を赤らめた。まだ大学の三年生で、指導教官のボニファチェリの指示で三月
(つづく)




Click!