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An another tale of Z ATZ資料集(15)




7.ウズミラの野望

 第五十二話は第三部のクライマックスで、入れられなかった話は多々あります。これはラストではすでに戻っており儀仗兵として行進するカガリナの少し前の話。あと、続くエピソードには珍しいソロモン国歌もあります。





コロニー「アルカスル」 ボストーク市 統領公邸


 ガイア 聖なる我等が国
 Гаия - священная наша держава,
 ガイア 愛する我等が国
 Гаия - любимая наша страна.
 固き意志 偉大な栄光や
 Могучая воля, великая слава -
 永久に汝が富ならん
 Твоё достоянье на все времена!



ロモンから帰国したカガリナ・ヤペトフスカヤ・ブリャーヒナ少尉は帰着した宇宙港から迎えに来た公用車に乗ってボストーク市の統領公邸に赴いた。恭しくお辞儀をしたカディス中将に案内され、主席室に入室した彼女はそこでオレンジ髪の秘書を従えたオーブル主席(ガラヴィッチ)と対面した。
「統領(プレジデント)は名乗らないんですね。」
 正統政府を下し、カジム、ベルーシの両共和国を併合し、アリスタ、アガスタ両国と友好条約を結んだオーブルはサイド2の五五%を実効支配する地域大国である。新しい人民共和国にはやはり旧ガイア以来の最高指導者の呼称がふさわしいのではないかと言った娘にウズミラは首を振った。
「まだ四五%残っている。」
 統領を名乗るにはガイア全土を併呑しなくてはならない。昨年の一一月に風邪をこじらせた主席トワイニングはついに病に倒れ、熾烈な権力闘争の後に彼が新主席の座を手にした。ライバルのウナトは連邦に亡命し、正統政府との戦争もシャイローの戦いで決着がついた。しかし、それで終わりではないという。
「積もる話は山とある。が、その前に渡しておくものがある。カガリナ・ヤペトフスカヤ・ブリャーヒナ中尉。」
 ウズミラはそう言い、秘書が恭しく取り出した中尉の階級章を彼女に見せた。
「オルドリンでの任務、ご苦労だった。」
 自ら階級章を娘の襟に付け、ウズミラは大きな手でカガリナの金髪を撫でた。
「いや、まあ、それほどでも、、」
 あれで諜報活動と言えるのだろうか、二年の任期の中途で召喚される直前には、彼女はカーターの勧めで共和国の公職養成コースに潜り込んでいたが、ソロモンの社会や制度については一通り経験したものの、諜報活動については貢献といえる貢献はほとんどしていないと告白した。が、父親は顔をほころばせている。
「お前も人の親になれば分かる。」
 元々諜報員としての任務は期待していなかったとウズミラは彼女に言った。娘の成長を喜ぶ父親の表情に彼女はつい照れた顔をした。次は外務省に武官として勤務させるという父親に、彼女はつくづくこの人はハマーン女王の故事に倣っているんだなと思った。頭を掻く娘に、ウズミラは秘書に指図してホログラムで宙図を投影させ、その一点を指差した。
「次はここだ、ここを我が国に併合する。」
 嬉々としてフロンティアを指差した父親にカガリナは背後からゾッとするような視線を感じた。ウズミラの秘書ベラ・ロナが氷のような視線で彼女を睨んでいる。







サイド2 アリスタ共和国
ビリニュス宇宙港



 Ó, guð, vors lands, ó, lands vors guð,
 (おお、我らの神よ、おお、我らの神よ、)
 Vjer lofum þitt heilaga, heilaga nafn.
 (我らは汝の聖なる、聖なる御名を崇め奉る。)



マーンがサイド2に親征しているちょうどその時、ソロモン共和国もアリスタ、アガスタ両国に艦隊を派遣している。リーデルが派遣を命じたガーフィールド提督の第一艦隊はスパイク、プリマコフの両提督と連携し、正統政府を下した勢いで両国を伺っているオーブルを牽制し、睨みを利かせている。


 Úr sólkerfum himnanna knýta þjer kranz
 (汝に天界より花の祝福を)
 Þínir herskarar, tímanna safn.
 (汝の兵(つわもの)、永久に汝に仕えん。)



 緊迫する状況の中、リーデルが再度アリスタを訪問したのはジオンの介入で急速に進んだガイア情勢を観察するためである。ビリニュス港に接岸した彼の戦艦ソブリンは共和国国歌で迎えられ、ヨハン首相とローザのイクセル夫妻がタラップを降りる彼を出迎えた。なお、ソロモン共和国国歌は諸国の中でもケルト語で書かれた歌いにくい歌詞に定評がある。ソロモンでもあまり演奏されることのない国歌にイクセルの妻ローザがコメントする。
「難解な曲ですわね、私も練習しましたわ。」
「自分は口だけ動かしています、イクセル夫人。」
 リーデルはそう言い、共和国国歌は数世紀前にサイド5に移住した初期の開拓者(ソロモンの賢人たち)の歌だと説明した。スペースコロニーができる以前の話で、現在のサイド5の宙域であるL5には国際宇宙機関の宇宙ステーション「ソロモンの星」が置かれていた。
「ソロモンの星に滞在していた当時の先駆者にアイスランド出身者が多かったので、そこでそれとなしに歌われていた歌のようです。その後大西洋連邦ができてコロニーが建造され、宇宙居住者が飛躍的に増えたのですが。」
 賢人たちから引き継いだ共和国国歌は歌詞が宗教的すぎるため何度も廃止が検討されたが、旧同盟の時代もしぶとく生き残り、現在はソロモン共和国の国歌になっている。連邦公用語から分離した同盟公用語を定めたナブスターの言語改革でもこの歌は生き残った。なお、宗教教育の禁止の趣旨からソロモン国歌は学校では教えられていない。
「そういうわけで、我が国でも歌えない国民が八割以上います。」
「それは知りませんでした。」
 イクセルは笑いながら迎えのリムジンに乗り込んだ。彼によれば先月はオルドリンで会談したが、再度の訪問では言いたいことがあるという。ここ数ヶ月の間、スパイク提督のアリスタ艦隊とオーブル艦隊は国境線で互いに睨み合っている。
「ウズミラは危険な男です、リーデル首相。」
 リムジンの車内でイクセルは先にオーブルに併合されたカジム共和国の話をし、彼に同国の覇権主義的傾向を警告した。
「現地の人民主義運動家と結託し、カジムに乗り込んだ第六軍の兵士を有権者に数え上げて住民をでっち上げ、住民投票で無理矢理オーブルに帰属させたのです。」
「やはりそういうことでしたか、、」
 イクセルの言葉にリーデルは先にボストークで会談したウズミラの言葉を思い出した。カジム、ベルーシを併合したやり方は性急に過ぎるのではないかと論難した彼に新主席は笑いながら答えた。
(つづく)




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