Mobilesuit Gundam Magnificient Theaters
An another tale of Z ATZ資料集(146)




40.ヴァリアーズ調教教室

 金もうけのためのティターンズ支援がリーデルの逆鱗に触れ、ガイアやソロモンで苦しい立場に追い込まれたソロモンの企業家ヴァリアーズ、マハラジャの独裁が続いていたため投資市場が未成熟なジオンに目を付け、外遊中のハマーンにビデオレターを送り付けて女帝を教育し始めます。






〇〇九八年六月中旬
マグダレナ夫人専用船「ラ・コスタ」


の会議室のパネルに二つのコロニーが互いに衝突し、重なり合っている映像が映っている。サイド2のコロニー「マコロス」の映像で、映像を送ってきた協力者の言によるとすでに百年近くもこのままだという。
「まだ人が住んでいるというのが驚きだ。」
「二千人ほどですが、住民がいるという話です。ですがコロニーの接触で一日二回、マグニチュード3程度の地震があるそうです。そういう理由から農業が主のようですね。」
 映像を見たクレアが言った。次いで別のコロニーの映像が映し出される。見たところ、ミラーが太陽とは反対側の方向に向いているようだ。
「コロニー「ウゴス」の映像ですが、六〇年前の遊星との衝突で軌道が狂い、このように太陽とは反転方向に傾いでしまいました。二〇日に一回の割合で再び太陽方向に向きますが、ご想像できる通り、コロニーは極寒の世界です。ラージ級の大型コロニーですが、五千人ほどが今も住んでいます。」
 さらにコロニー「シュトラ」の映像が映し出される。サイドの外縁にあるこのコロニーはラグランジュ点を外れつつあり、百年以内に地球に落下するという。
「このような問題のあるコロニーがサイド2には大小合わせて一六二基存在します。うち二二基は三〇〜五〇年以内に地球への落下が予測されており、早急に対策が必要です。ですが、現在のサイド2にこのような大規模事業を行いうる国はありません。」
「予算の問題だな。」
 ハマーンが言った。
「現在のサイド2諸国二〇国の全ての経済力を合わせても旧ガイアの三〇分の一に足りません。早急により強力な政府を打ち立て、問題に対処しうる統一国家を築くことはこの地域のみならず、ジオン公国に取っての利益でもあります。」
 映像はそこで切れたが、その内容に一同は考え込んだ。ヴァリアーズ氏から送られてきた映像は衝撃的な内容だった。送信場所からかなり距離があるため、映像は双方向ではないが、ジオンに進出したソロモンの企業家は定期的に「ラ・コスタ」に報告を送って来ている。
「有能な男だ。」
 ハマーンが言った。彼女はヴァリアーズを高く評価している。陸軍やジオニック社のリストラに思い切った手段を取ることを決めたのもこのソロモンの企業家の進言によるとことが大きい。
「ギュンター・フォン・フリッツと同等か、それ以上に切れるかもしれぬ。」
 ジオンに居残ったハマーン政権の大蔵大臣ギュンターは有能な男だが、コルプの乱の影の首謀者が彼の弟だったこともあり、最近は彼女とは疎遠になっている。何かと不穏なフリッツ(兄)を牽制するため、ヴァリアーズを参事官に任命する案を彼女は検討している。
「暗に我が国にガイア情勢に介入せよと言っているように見える。」
 ギュネイが言った。
「しかし、ギュネイ、同じ問題は連邦もソロモンも把握しているはずだ。ガイア復興に出遅れれば、我が国はそれだけこれらの国に対して不利になる。」
 帰国後のガイア遠征は避けられまい。ハマーンは内心そう思ったが、ブレーンたちの意見は割れている。ガイアの低廉な労働力と、それによってもたらされる利益についてペリーが一同に力説している。ガイアをジオン経済圏に取り込めば関連する諸国と併せ、一〇〇兆ジオニクルの経済圏が実現する。ペリーの言にジュグノーが鼻白んだ。なお、現在のジオンの国民総生産は四〇兆ジオニクルである。これは戦後からほとんど変化がない。
「ガイアについては、すでにあの男は目を付けているのではないかな。ヴァリアーズはサイド2の会社に投資している。統


一は確かにガイアと我が国のためであるが、それ以上にあの男のためでもある。そこは割り引いて考えた方が良いと思うが。」
 ジュグノーが考え込むハマーンの顔をチラリと見て言った。






〇〇九八年六月末
小惑星カイメデ付近


イメデを離れた船内で資料を作っているジュグノーに部屋を訪れたギュネイが文句を言っている。彼らはカイメデで視聴したヴァリアーズからのビデオレターを話題にしている。ビデオはジオニック社の乱脈経理を指弾していた。なお、部屋にはペリーの姿もある。
 手回しの良い企業家は株式を保有しているIGマテリアルに手を廻し、タンタル鉱石の独占供給契約に多大の貢献をしたため、すでに数通のビデオレターもあり、企業家に対する彼らの心証は悪くない。
「それにしてもジオニック、正確な会計を計上していないとはとんでもない会社だ。」
 ギュネイが呆れて言う。それに対しジュグノーが答える。
「ジオニック基準なんだ、正規の会計法をベースにしているが、つい最近まで勘定項目の細目については記載義務がなかった。全部資本金で計上されているはずだ。確か売上原価も記載がなかったはずだ。」
「なんだそのジオニック基準というのは、会計までもが特別扱いなのか、ハンス。」
 ジオニック社の設立に関与したジュグノーはギュネイの非難に冷汗を掻きつつ、自分の見る所ではジオニック社の致命的な経営判断はマハラジャ時代のそれが原因になった可能性が大きいと言った。シェアの独占を狙い、ノイマンを買収などして規模を拡大したが、負債が嵩んだ割に収益は思ったほどには上がらなかったようだ。
「遅まきながらと工場を閉鎖したり資産を売却して糊口を凌いだが、予算削減で軍からの受注は減少するし、品質問題でリコールもあった。気づいた時にはすでに手遅れだった。」
 その言葉をペリーが補足する。
「企業の場合は致命的な判断をしてから破綻の結果が出るまで数年の余裕があります。ジオニック社は収益に対する経費の高さが話題になっていましたが、、」
 ペリーが言った。公認会計士と共謀したジオニック社では、巨額の特別損失がほぼ毎年計上されていたが、その事実はひた隠しにされていた。最近ヴァリアーズ社がこの一件を取り上げ、閉鎖的なジオン取引市場を非難するキャンペーンを打っている。
「どうも貴国の経営者は拙劣な経営判断を特別損失に計上して責任逃れをする傾向があるようだ」
 ビデオレターのヴァリアーズの言葉を思い出し、一同は溜息を付いた。カイメデを離れた船は木星に向かっている。






〇〇九八年七月中旬
ズム・シチ市 ジオン大蔵省


ァリアーズの部下のグッドウィル氏がフリッツ大蔵大臣に規制事業の自由化の効用を説明している。彼は同社のジオン担当役員で、女帝やフリッツに取り入ってかなりの国営事業の民営化に成功している。最近ではズム宙運の解体再編成に辣腕を発揮した。これは宇宙艦隊の老兵士の再就職先ともいうべき会社だったが、彼とヴァリアーズが経営に参加して従業員をリストラし、旧弊を一掃してからの業績は好転している。
(つづく)




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