Mobilesuit Gundam Magnificient Theaters
An another tale of Z ATZ資料集(142)




39.政党助成金

 日本では評判の悪い制度ですが、ソロモン共和国では積極的に取り入れられています。





〇〇九八年九月一四日
ソロモン艦隊 練習艦「ホープ」


父様(パーパ)!」
 練習艦の食堂のテレビでウズミラ暗殺未遂のテレビを見たカガリナはガタッとテーブルの椅子から立ち上がった。気まずさに慌てて口笛を吹き、キョロキョロと周囲を見廻す。食堂にはハンバーグをナイフで切っているアルマ・ドリスの姿があり、不審な視線で彼女を見つめている。何か言いたそうなアルマに彼女は両手を振った。
「あ、あ、何でもなくてさ、パパベリンがちょっととかさ、、」
「パパベリンは鎮痛剤よね。それが何か?」
 ジロリと彼女を見る金髪の女性にカガリナは顔を青くした。目の前で顔色が赤白青と変わっていくのが分かったとは、後にこのことを話したアルマの話である。
「ウズミラ・ブリャーヒン、確かオーブルの政治家よね。」
「政治家じゃない、中央委員だ。」
 テレビに走り寄る警官隊に煙玉を投げて逃げる覆面の男の姿が映っている。彼女らは国防事務官研修の最中である。
「何で私たちが船に乗せられるのか分からないけど、これがプログラムなのよね。」
「一般市民ですら有事には乗艦するんだから、国防省勤務の我々が乗れないんじゃ話にならないという考えじゃないか?」
 オーブルは徴兵制だったと彼女は艦長の記章を付けた女性に言った。もっともアルマは本物のホープ号の艦長ではなく、船には艦隊の士官、下士官も乗艦している。彼女らの指導者はデラノ・ダンカン上等兵曹、ガニメデ出身の軍歴の長いベテランで、作戦本部から任命された彼がこの艦の真の支配者である。
「この艦は昔に比べると扱いやすいんだ、難しい操艦以外は君らに任せても大丈夫だろう。」
 タイプ97駆逐艦の計画には自分もマシュマー提督の諮問を受けたと食堂に昼食を摂りに来たダンカンが彼女らに声を掛けた。
「昔のタイプ85と言ったらそれはもうデタラメで、、」
「行こう、アルマ、当直の時間だ。」
 プイと横を向き、カガリナがアルマを連れて食堂を出ていく、ダンカンの話はいつも同じで、タイプ85駆逐艦の話は何度聞かされたか知れない。なお、彼が乗っていた護衛艦ホープは今は新鋭艦の艦名になっている。
「タケシの艦を思い出すのよね。」
 小さなエレベータで艦橋に行き、当直と交代して操舵輪を握ったカガリナに艦長席に座ったアルマが声を掛けた。遠い目をして宇宙を眺める彼女にカガリナは声を掛けた。
「そのタケシってさ、良く口に出るけど、どんな人なんだ?」
「私をこの国に連れてきてくれた人よ。」
 この船よりもずっとみすぼらしい船で、ずっと複雑そうな機械が並んでいた。アルマはそう言い、彼女のジオン脱出作戦を話した。
「反乱軍の大きな軍艦が追ってきたの。」
 シェパードと重巡アレスとの戦いを彼女はカガリナに話した。若いのにハードな経験をしているようだ。
「その時、私はピンと来たの、この人こそ私の白馬の王子様なんだって。」
 軍事オタクの次は歯が溶けるような恋愛話か、労働局での研鑽の甲斐あって、事務官コースに潜り込めた時には「やった」と思ったカガリナだが、同級生に難があったようだ。
(しかし父上、大丈夫なんだろうか。)
 テレシコワでは党の話はほとんどしなかった。彼女が知る父親というのはオーブルには珍しい国際派で元は警察官だったというが、努力して出世した人物という印象が強かった。彼女の母親はとっくの昔に産褥で亡くなっている。その後再婚もしなかったので一〇年近い間、父子は親一人子一人でオーブルの首都で暮らしてきた。
(軽傷だという話だから、まあ、大丈夫だとは思うが。)
 それにしてもあの忍者のような男、いったい何者だ?






〇〇九八年七月初旬
オルドリン市 ミュラー銀行オルドリン支店


────二ヶ月前

党助成金(セーバー・システム)の入金に銀行の窓口を訪れていたカガリナは待合室のテレビでアリスタからの報道を見た。難敵だったクロスボーンは崩壊したが、アリスタでは政治の混乱が続いている。
「それじゃアンナさん、現在議会政党として登録されている政党は一四ですが、IDを書き込み、党名にチェックマークを入れてください。記入した内容の秘密が外部に漏れることはありません。」
 二〇〇フェデリンという彼女に取っては結構な大金を支払う必要があったが、難民コースから公職コースに転向するにはこの手続が必要である。公職コースの修業年数は一年から二年で、成績上位者には省庁の採用枠が与えられる。彼女は「ソロモン共産党」の欄にチェックを入れた。
「入金したお金は手数料を控除の上、年四回、直近の選挙の際の投票率を乗じて今ご記入された政党に配分されます。残金は各党の頭数に応じて均等に配分します。支持政党の変更は次の国政選挙の一ヶ月前まで可能です。」
「なぜ得票率を基準にしないんだ?」
 カガリナはパンフレットを読んで疑問に思っていた内容を行員に尋ねた。
「実際に投票した政党、つまり得票率を基準に配分しますと、ある時点での民意が助成金の配分額に直接影響することになります。つまりデマゴーグに多額の資金が交付されるという結果になりかねない。」
 行員の説明に、なるほど、と、カガリナは頷いた。投票率が低ければ弱小政党に頭数で資金が流れるという仕組みも巧妙だ。行員によると、この助成制度があるため、共和国では企業献金は禁止されているという。
「団体献金制度を認めますと、一部の人間、具体的には大企業の役員や資産家の意向に政治が左右されますからね。過去にはそうゆう時代もありました。また、この制度は政治活動に怠慢だと他党に資金を取られますから、投票率の向上にも寄与しています。各党は投票所への勧誘と自党の政策のPRに必死です。」
「事務処理経費を控除した金額を配分すると言うが、これは何%なんだ?」
 彼女の質問に行員はニンマリと笑った。
「物品税の七.三五%より高いということはありません。」
 この仕事を受けるにしても競争入札があるのですよ、と、行員は助成証明書を彼女に渡した。これでようやくコースを受けることができる。カガリナは行員にお辞儀をして証明書を受け取った。






〇〇九八年七月
レミュール街 ソロモン共産党本部


由の国といっても内実は結構いろいろあるなあ、共産党本部で新聞を整理しつつオーブル義勇軍第二工作隊員、カガリナ・ヤペトフスカヤ・ブリャーヒナ少尉は思った。週に一度の定時報告を書く必要があり、彼女は今週の情報を整理している。この所の新聞は共和国の労働経済法の域外適用、つまり「経営懈怠税(インケイパブル・タックス)」の話題で持ちきりだ。
「政党助成金を払ってきた。コース変更にこれが要るんだってさ。」
(つづく)




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